三つの理由
副題はハッピーエンドを望みます
「…さて、次はどちらが聞こうか? 料理が口直しのシャーベットである以上短いものがいいね。いや、先ほどは君のターンだったのに君の事を話させてしまったから君の番かな?」
「うーん」
でしたら何を聞きましょうか? …そうですね。
「でしたら何故貴方はラインさんにこだわっているのですか?」
「俺はアイツを友人と認めたからね、俺は有象無象にはかまわないけど友人の幸せのためだったら色々と手を尽くすさ」
「では私の話に話を聞くこともラインさんの幸せにつながると?」
「君はラインに害をなすような人ではなさそうだったけどね、不可思議な部分を見極めておきたかったのさ」
「…そうですか」
それだけなのでしょうか? どうにもこの方の言葉は分かりませんね。嘘をついている様子も無いが本当のことを言っているという確信も持てない、保留せざるを得ませんね。
それで応答も終わり、次の料理が運ばれてきました。
「じゃ、次は俺が貰おうかな」
「はい」
さて、何を聞いてくるつもりなのでしょうか?
「なんで君はラインに先ほど話した事件のことを言わないんだ?」
「何故伝えないのか、ですか」
「ああ、君はラインを想っていながら積極的な行動に出ない。ラインにはあくまでギルドの職員としか思わせていない、恋する乙女としては少々妙な動きだ。恋を愛に昇華させるつもりは無いのか?」
「ええ、私はラインさんにこの想いを伝える気はありません」
「どうしてだ? 君がわざわざこの町に来た理由はラインでは無いのか?」
「そうです、私はもう一度ラインさんに会いたかった、だから私はお父様たちに無理を言ってこのシュタットのギルドで働けるようにしてもらいました。しかし私には想いを伝えられない理由が三つありました」
「…」
「一つ目はスラートご夫妻が亡くなっていたことです。ラインさんに亡くなったご両親も関わっているあの事件について話すのは気が引けますから」
「…」
「二つ目はスレイさんの存在です。私がギルドで働きだしてから初めて出来た仲の良い友人で、彼女もまたラインさんに思いを寄せています。そんな彼女を傷つけたくなかった」
「…」
「三つ目は私が伯爵家の娘であるからです。貴族の娘は他家との重要な交渉材料になります、私は自らの想いを優先するわけにはいきません」
「…だから君はアイツに想いを伝えないと?」
「そうです」
私はそうすべきであると決めたのです、ネッペン伯爵家の一人娘であるカーラ・フェム・ネッペンとして。
「下らん」
「…やはりそう思われますか」
「ああ、……俺はな」
「?」
「誰もが感動と賞賛を送る一流のバッドエンドには興味が無い、俺はそんなものよりも、ご都合主義的で内容が無かろうともハッピーエンドが大好きだ」
「それが?」
「君が悲恋の姫君になるのは気にいらんと言うことさ」
「貴方の意に関係なく、これは決まっていることなのです」
そう、私の意すら関係ないのです。
「そうか? 先ほどの三つの理由、一つ目についてはそんなことでラインが揺らぐような男だと思うか?」
「それは…」
「二つ目はお嬢ちゃんから逃げているだけだ」
「逃げている、私が?」
「ああ、ラインに近しい立場であり幼馴染でもあるお嬢さんにはかなわないから、お穣ちゃんを傷つけないためと言って勝ち目の無い戦いには乗らない様にしようとしている」
「そんなことは」
「三つ目だが、家を理由に戦いから逃げるような者が家を繁栄させられるとは思えないな。勝負をしないことと負けないことは別物だよ」
……。
「…だったら、どうすればいいと言うのですか? 貴方は」
「一つ目と二つ目は君の強さしだい、そして三つ目はラインの強さしだいで解決できるさ」
「ラインさんの強さ?」
前者は分かりますが後者はどういう意味でしょうか、ラインさんの強さとは?
「高位クラスの冒険者という者はその力と影響力から貴族家に勧誘されることもある、金や地位、そして貴族そのものとかで、な」
「!? それはつまり…」
「そう、ラインがそのランクを上げ続ければいつかは伯爵家とも釣り合いが取れるようになる。そうだな、ランクAにでもなれば伯爵家の人間と婚姻を結ぶことは難しく無いだろう」
「だとしても! 仮にも私は伯爵家の一人娘です、私以外に跡継ぎがいない以上私の夫が伯爵家を継ぐことになるのですよ!? いくら強かろうとも一介の冒険者では誰も認めませんよ!」
…少々興奮してしまいました。しかしいくらなんでも無茶です、確かに高位クラスの冒険者はその社会的影響力などもあって貴族家から勧誘されることは珍しくもなく、その中には貴族の人間と婚姻を結んだものもいるでしょう。だとしてもさすがに伯爵家の後を継ぐなど…。
「無理だと思うか? 今までに成功した冒険者はその功績から国に新たなる貴族家として認められた者もいる、だったら既存の家を継ぐことは難しくない」
「だとしてもさすがに」
「断言しよう」
「?」
「ライン・スラートは高位クラスに至れる器であると、この俺が保障しよう」
「口先だけでは何とでも言えます」
「臆病者にはそれすら言えないがな」
「…それは」
「少なくとも家の問題については問題ないさ。お父上に聞いてみるといい、二年前にそちらから依頼を受けたユウという男が保障する冒険者は自身の婚姻相手足るか、と」
「何故そこまでの自信が」
「お父上に聞いてみればいいさ、おそらく俺が親しくしている冒険者と言えば認めると思うがねえ」
「…いいでしょう、お父様に話を通してみましょう」
ここまで言ってきたのです、たまには私も博打というものをしてみるとしましょう。…私とて諦めずに済むのならその方が良いに決まっています。
「それにだ」
「何ですか?」
「高位クラスの冒険者ともなれば一夫多妻も認められるぞ」
「…それは」
「あの下種と同じやり口だと忌避するかね?」
「いえ、つまり貴方はラインさんとスレイさんと私の三人で幸せになれと言いたいのでしょう? 貴方の言うハッピーエンドですか」
「そんなところだね、抵抗があるかい?」
「貴族の人間としてそれ自体には抵抗はありません、私もスレイさんとなら争わずに済めると思います。しかしそれはスレイさんに対する冒涜です、それはスレイさんを私の下に収めることになります」
「ふーん、やっぱり自分ではお嬢ちゃんに勝てないって自覚があるんだな」
「話をすり替えないでください、それとこれとは別の問題です」
「そうかもね、あくまでこれは俺が提示する一例だ。結局は君たち次第だよ、少なくとも諦める気はなくなったんじゃないか?」
……。
「少々癪ですがそのようです、明日私は彼に全てを話してみることにします」
「そうか、だったらお嬢ちゃんに伝えておいてくれないか。今回のこの話を」
「何故です?」
「君が一方的に終わらせて良い話かはわからないんじゃ無いと思ってね」
「…覚えていたら話すとします」
「そうか、これではこの料理のターンも終了しよう」
「ええ」
いよいよデザートですか、これが最後の質疑となりますね。
「さて、どうする?」
「私は4つも質問してしまいましたからね、最後の質問は貴方に譲ります」
「そうか? 正直聞きたいことは聞いてしまったから特に無いんだけどな…。君にはもう無いのかい?」
「…無いことも無いですが…」
デザートを食べる間に聞けるほど短くはありませんね、…そうだ。
「では貴方のギルドランク、などはどうでしょう?」
「…ほら」
そういって彼はギルドカードを指に挟みこちらに見せる、えっと…え!?
「それは!?」
「くっかか、これでいいかい?」
「……なるほど、それが貴方の言っていた言葉を保障するということですか」
確かにこれならお父様も納得すると断言できるはずです、まさかこの方が…。
「さて、これで食事は終わりだ。俺はこのまま支払いを終えて帰るつもりだがどうする? 君が良いなら家まで送るが?」
「いえ、私はここの者に頼みます。今晩はご馳走になってしまいましたね、ありがとうございます」
「かまわないよ、こっちにも十分利があった。もっともこういった格式ばった店はあんまり好みじゃないからね、次はもうちょっと気軽なほうがいいな、量も物足りないしな」
「ふふ、では次は貴方が店を選んでくれますか?」
「そうだな、次はラインたちも一緒にな」
「ええ、そうしましょうか」
「では失礼するよ」
「また会いましょう」
私の言葉に背を向けたまま手で応えながらユウさんは去っていきました、…ふ
う。
「カーラ様、何か御用はありますでしょうか?」
相変わらず良いタイミングで現れますね。
「キッサル支配人、お父様に手紙を届けてほしいのですが」
「かしこまりました、お手紙はこちらでお書きになりますか?」
「そうさせてもらいます」
「かしこまりました、それはお着替えなされている間に用意しておきましょう。それではこちらに」
「わかりました」
まずはお父様への連絡と確認、それと…明日、ラインさんに話してみることとしましょう。…なんとも現金なことですね、目の前に可能性がぶら下げられたらすぐにそれに食いついて。……ふっ、どうやら私も信じたいようですね、あの方の言ったハッピーエンドという奴を。浅ましくとも足掻くとしましょうか、私の想い人と一番の友人のために。
予定とは違うけどこれで二章前半は終わりにしましょうかね。こんなに長引くつもりはなかったんだけどな、なんもかんもラインが勝手に動きまくったのが悪い。この時点で一章の分量超えてないか? 何でこうなったかね。
あといつの間にか本文が十万字超えてたね、書き溜めもほとんど無くなったし早いこと書きまくらんとなー。
それと今の時点で読んだ感じがどうかとか知りたいので良ければ感想ください、このまま進んでいいか意外と不安。




