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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
32/112

三つの質問

副題はかつてのフラグ


コース料理とか詳しくないんで適当です、順番も適当だし内容もぼかしてます。


「ここです」

「水の憩い場、か。悪くは無い佇まいだねえ」


 古くからの馴染みでもあるこの店ならば多少のことには対応できるでしょう、来るのは久しぶりですが大丈夫ですよね?


「それでは入りましょう」


 店に入ってすぐに入り口に控えていた従業員が私達を止めに入る、当然でしょうね。


「…お客様、失礼ながらこの店には相応しき装いというものが定められておりますのでそのような…」

「キッサル支配人に伝えて頂戴、カーラ・フェム・ネッペンが食事をしたいと」

「…少々お待ちください」

「…へえ、なかなか部下の教育が行き届いているな。ろくな動揺を見せなかった」

「当然でしょう、ここはそういう私達のようなものが使うことを想定された店ですから」

「だろうな、この雰囲気は上流階級の人間が使う店特有のものだ。さりげなく置かれているこの調度品もかなりのものだな、自らをひけらかすのではなくこの空間の美しさを際立たせる、実にいい」

「ええ、そうですね」


 ふむ、あの時にはさらけ出していたふざけた空気はまったく感じられませんね。それに店やその調度品に対する観察も正しい、ただの冒険者ではないということですか。彼が高位クラスで貴族と関わったことがあってこの手のことに詳しくなったのか、もともとの生まれが良いのか、どっちでしょう? …どちらかといえば後者でしょうか? どうにも付け焼刃な感じはしません、とはいえ確証を持つには至りませんね。


「お待たせしました、カーラ様」

「久しぶりですね、キッサル支配人」


 相変わらずまるで名門貴族家の執事と見間違えるほどの完璧な所作ですね、さすがは貴族御用達の店を経営しているだけのことはあるといったところでしょうか。


「それでカーラ様、お食事との事ですがお召し物はいかがします?」

「申し訳ないのだけれど準備してくれるかしら?」

「わかりました、お連れの方も必要とされますか?」

「いや、私は自前の物がある、着替える場所だけ用意してもらえればいい」


 …話し方、態度、そしてこの場に合う服を持っているという事実、やはり上流階級の、いえ、貴族の生まれでしょうか?


「かしこまりました、それではご案内いたします」

「頼みます」



 着替えを済ませた私が改めて席に案内されたとき、すでにユウさんは席に着かれていました。この雰囲気は生まれながらの貴族の持つものですね、…やはり?


「ほう、流石はと言ったところだな」

「そちらも今までとはまるで違いますね」


 身につけている服はおそらく最上級のものですか、なかなかですね。……どうにも分からなくなってきましたね、このようなものを持ち歩けるほどの地位を持った家の生まれでありながらこのような場所で冒険者として生きているものでしょうか? 一体この方は何者なのでしょうか?


「失礼いたします、ご注文はいかがなされますか?」

「私はコース料理を。内容はそちらに任せる、君はどうする?」

「私もお任せします」

「かしこまりました、お飲み物はいかがなさいます?」

「赤ワインをいただこうか」

「私は水で結構です」

「かしこまりました、しばしお待ちください」



「…俺の前では酒を飲む気にはなれないかい?」

「それもありますが私はさほどお酒には強くないんです」

「正直だな、くっかか」


 人がいなくなると急に軽くなりましたね、はてさてどちらが素なのかわかりません。どちらも演技をしているとも思えませんが。



「お待たせいたしました、お飲み物と前菜をお持ちしました」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「こちらに本日のコースの内容をしたためてあります、何か不都合があればお知らせください」

「わかった」

「それではお食事をお楽しみください」

「…それではとりあえず乾杯といこうか」

「そうですね、では」


『乾杯』


 グラスを合わせず、その場で少し掲げるのみで互いにグラスを傾ける。一時の静寂のあとユウさんが口を開く。


「さて、それでは食べようか。それと」

「何でしょうか」

「料理につき一つ、どちらかが質問をして相手が答えるというのはどうかな? 食事をしながらの会話には目を瞑って」


 …私が聞きたいのは少なくとも二つ、今日の料理は前菜、スープ、魚料理、口直し、肉料理、デザートの6つ、おそらく半分はこちらに割り振ってくれるでしょうから問題は無いでしょうか。


「わかりました」


 ……相変わらずこの店の食事はすばらしいですね、味もそしてその見た目も。


「ほう、意外だな」

「何がですか?」

「正直な話ここまでのレベルだとは思っていなかった、王都でも通じる味だな」

「この店は昔からネッペン、カサーラ両家をもてなしてきましたから」

「ふーん、それはそれとしてお嬢さん、最初は君に譲ろう」

「では遠慮なく、貴方はどうして私の家名を知っていたのですか?」

「俺は2年前にネッペン家の依頼を受けたことがある」

「うちの?」


 2年前私にはこの人とあった覚えは無い、私がこちらに来てからということでしょうか。


「ああ、その際にネッペン家のミドルネーム、現当主と直系の第一継承者のみが受け継いできたそれがフェムであることを知った」

「それだけで私がネッペン家の人間だと? フェムという家名を持つ者がいてもおかしくは無いと考えなかったのですか? それに女である私が各家に伝わる名を継いでいると?」

「無論それだけじゃないさ、2年前の依頼のとき俺は君には会わなかったが家族を描いた肖像画は見ていたからね。フェムの名を聞いたときにそのあたりのことを思い出したのさ」

「たいした記憶力ですね」

「買いかぶられても困るけれどね、俺が思い出せたのはあくまで偶然だよ。君のお父上がしきりに奥方とご令嬢の事を誇っていたからね、妙に記憶に残っていたらしい。それに女であるからと言って当主になれないとは思わなかったからね」

「基本的にトルキアの貴族は男系当主ですよ」

「そうだったかね、俺はグリエル帝国出身だからどうにもこちらの常識とはずれるんだよな」

「グリエルの出身でしたか、あちらは女系当主もいらっしゃるのですか」


 グリエル帝国とは、ますます分からなくなってきましたね。はっきり言って国力自体はともかく成長速度はトルキア王国では勝てないでしょう、それゆえにあちらの方が国としては豊かであるのにどうしてこちらにいるのでしょうか? 冒険者をやるにしてもあちらでやるほうが都合はいいと思うのですが、何かあちらに居られない事情でもある? 生まれと今の行動が合っていないのもそのあたりに何かあるのでしょうか。


「グリエルは基本的に実力主義だからね、男女問わずに有能な人間を頭に据えるさ」

「なるほど、そういうものなのですね」

「失礼いたします」


 会話の切れ目を狙って給仕が話しかけてきた、すでに前菜も食べ終わっていましたから皿を下げに来たようですね。


「皿を下げてもよろしいでしょうか?」

「ああ、それとすぐに次を持ってきてくれてかまわない」

「かしこまりました」


 彼がお皿を下げてしばし、次はスープを持ってきてまた下がる。…ふむ、細かい所作も良く躾けられていますね、さすがです。


「さて、他には君は何を聞きたい?」

「…貴方が私の名を知っていた理由は納得しました、でしたら次は何故それを使ってまで私と話をしたいのか、を聞かせてもらいます」

「君とラインの関係を聞きたかったからだ」

「私とラインさんの?」

「ああ、ラインの話を聞く限りアイツと君に接点は無い。なのに君はアイツを想っている、それが何故なのかが気になったのさ」

「…単純な話ですよ、私が昔ラインさんに助けられたことがあるというだけです。

もっともラインさんは私のことを覚えていないようですがね」


 そう、あのときに得た想いのままこれまで歩いてきました。…今考えるとそれは間違っていたのでしょうかねえ。


「ラインが助けた、ねえ。色々と内容は気になるがそれは俺のターンに聞こうか」


 そう言って会話を打ち切る、その後新たに料理が運ばれてきて再び質問の時となる。


「次は貴方がお聞きください」

「では、ラインが君を助けたという話を詳しく教えてもらいたいね」

「…このことをきちんと誰かに話すのは初めてかもしれませんね」


 思い出す、5年前のあの時の事を。


「5年前私はお父様と共にこの大都市シュタットを治めるカサーラ男爵家を訪れました。位こそ我がネッペン家のほうが高いですが古くから両家は親交もあったので家族ぐるみでの付き合いも多かったのです。私にとってはあまり好ましいものではなかったのですがね」

「あの下種のことかな?」

「ええ、彼と私は歳が近いこともあり婚約者候補としても育ってきたのですが、彼の性格は昔からあのような感じで私には合わなかったのです。それでも父の面子と言うものもありますから適当に付き合っては来たのですが…」

「いくらなんでもあれは駄目だと思うけどなー、どういう教育されたんだか」

「カサーラの当主様には他に男児は居ませんから、彼のことを甘やかしてきたそうなのです。それであのような…」

「身勝手な性格になったと」

「ええ、そんな彼と共に居るのが嫌になった私はお父様と当主様に頼んで街に遊びに行きました。当主様が用意した護衛を連れて街に出た私はそこで誘拐されてしまったのです」

「誘拐? 護衛が居たのにか?」

「ええ、護衛は賊にやられてしまったので」

「そいつは何と言うか…」


 ずいぶんと呆れられたようですね、当然ですか。仮にも上位の家の娘を護れない護衛をつけたなどと聞かされては。


「それで私は賊に捕らえられて荷馬車か何かでアジトに運ばれているところだったのでしょうか、そこをとある二人に助けられたのです」

「誰だったんだ?」

「スラート夫妻、ラインさんのご両親ですよ」

「…へえ」

「お二人はもともとその当時に出されていた不審者集団の調査依頼を受けていたそうで、それで私が捕らえられていた不審な馬車に目を付けられたのです。それで賊たちと戦闘に入ったんです、事態は膠着し賊は私を人質にしてあの方たちの動きを封じようとしました」

「ふん、賊の定番だな」

「それで私は人質として賊の一人にナイフを首元に突きつけられたんですが、そこで助けが入りました」

「…ライン?」

「そうです、ラインさんが何処からか賊に飛び蹴りを当てまして、それで私は人質から解放されたのです」


 今でも覚えています、私を助けてくれたラインさんが私にかけてくれた「大丈夫か?」という言葉を。


「…よく状況が分からんな」

「あくまで私がラインさんたちの会話を聞いた限りでのことなのですが、ラインさんはご両親の冒険者としてのお仕事に興味を持っていたらしくてお二人の後を着けていたそうなんです。それをご両親は気付きつつ放置なさっていたそうなのですが、戦闘が始まった後ラインさんはご両親の力になろうとして近くの建物の二階から機を測っていたそうです。それで人質の私の姿を確認してご両親の手助けをするために無茶をしたそうです」

「よーやるわ、アイツも」

「ともかく私はお三方に助けられましたから何か謝礼をしたいと申し出たのですが断られました、私を助けたのは依頼に含まれていないから謝礼も受け取れないと。納得できなかった私は食い下がろうとしたのですがラインさんに言われましたよ、


「状況はよくわからないけど、無理やりついてきた俺には謝礼を受け取る権利は無いんじゃないか? 何にしても皆無事で済んだんだからそれでいいだろ」


と、私を落ち着けるためか笑顔でね」


「それに惚れた、と。単純だな」

「まったくですね、自分の事ながら単純すぎると後から思いましたよ。それでも彼の笑顔は何と言うか、当時の私の中に無い笑顔でした。家族に向ける温かい笑顔でも、知人の娘に向ける機嫌取りの笑顔とも違う、私を安心させてくれる未だに表現の思い付かない笑顔でした」


 あの笑顔は今でも忘れない、あれこそが今の私を形成した原動力でもあります。


「くっかか、いいね、常道だがそれがいい。俺好みの物語だ、そのあとは?」

「結局、その笑顔に心奪われ思考が止まっていた私はろくな礼も出来ず、回復し合流した護衛と一緒にカサーラ家に戻りました。それで起こった事をお父様たちに伝えてお三方に直接礼をしようと思ったのですが、お父様の意向ですぐに家に戻ることになってしまったのです。私の身の安全を確保したかったのでしょうね、その後3年にわたって私がこの町に来ることは許可されませんでしたから」

「そりゃあ伯爵家の娘をむざむざと誘拐されて、通りすがりの冒険者に最悪の事態から救ってもらう護衛を付ける家に大事な娘を置いておくことはしたく無いだろうな。…そうか、あの時言っていた婚約者になることが無いというのはそれか。逆ならばともかく男爵家が借りを作ってしまった伯爵家から娘を娶ることは無理だろうな」

「ええ、そのおかげで私がスイールと結ばれることがなくなったことは私にとって幸いでしたよ」


 貴族の娘として私情よりも家を優先する覚悟が出来ているとはいえ、出来ればあのような男を夫として迎えるのは勘弁願いたいところでしたからね。


「…少しこの料理のターンが長すぎたな、次に行こうじゃないか」

「そうですね、少し喋り過ぎたようです」


 思いのほか話しすぎましたね、とうに皿の上には何も残されていません。新たな料理が運ばれるまでまたしばし会話を止め、そのときを待ちます。


次かその次でカーラ視点を終わらせてこの章前半を終わらせようかな、スレイのデートは省こう。それと前話でライン視点を入れるとか言ったけど違う人の視点にします。さっさと後編に行かないとこの章の主役が誰か分からない上に三章にいけないから主人公を出せない。しかし書き溜めがなあ。



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