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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
31/112

お誘い

副題はお嬢さんの秘密


「ふう、そろそろ上がらせてもらいます」

「お疲れ様です、カーラさん。」


 今日もいつものように仕事を終わらせ、他の子達に任せてから帰り支度を始める。もうここで勤めだして2年ほどになりますがまだまだ慣れたとは言えませんね。一口に冒険者と言っても色々なタイプがいますから対応も変わってしまいます。働いている実感は有りますがなかなか大変な職場ですね、本当に。


「あ、カーラさん。今終わったところ?」

「スレイさん、そちらはもう帰るところですか?」


 同僚のスレイさんはちょうど帰るところだったようですね、私よりは先に仕事を終わらせていましたか。それにしても彼女もすごい人ですよね、いくらご両親がここで働いてるとはいえ、15歳になる前からここで働かせてもらえるというのは。別に親の七光りでもなくに実力で今の仕事を認められていますし。


「そうだカーラさん、ちょっと言っておかないといけないことがあるんだけど」

「何ですか?」

「明日ラインと買い物に行くことになったの」

「ラインさんと?」


 明日の午前中スレイさんはお休みを取っていたからそこで行くでしょうか、それにしても?


「どうしてわざわざ私に断りを?」

「えっと、その、あなたもラインのことが好きでしょう?」

「ええ、いまさらですね」


 すでに互いの恋心は知っていますから。


「それで、デートだと誤解されるのもって思って」

「あれ、デートじゃないんですか?」


 てっきりそうだと思ったのですけれど。


「違うわよ、アイツの装備を買いに行くの」

「装備ですか、でしたらラインさんのことですしユウさんかソルさんたちを頼ると思ったのですが」

「そのユウさんから言われたそうよ、ギルドの職員だったら詳しいだろうって。大方こっちを突っつきに来たのよ」

「やっぱりあの人にはばれているということですか」


 そんなに分かりやすかったでしょうか、出来ればラインさんの方にばれてほしいのですけど。


「でしょうね、どうにもこっちのことを面白がっていた節があったから。それで私が受けることになっちゃったから、一応ごめんなさい」

「あ、気にしなくていいですよ。もともと私のほうにラインさんが話を持ってくることは無かったでしょうし」


 さして親しくも無いギルド職員よりは気心知れた幼馴染を頼りますよね。


「うーん、カーラさん、貴方まだラインに言わないつもりなの? 私としては出来る限りフェアにしたいのだけど」

「言うつもりは特にありませんよ、あれはあくまで私の思い出であって私とラインさんのではありませんから」


 ラインさんが覚えていないのも無理からぬことですからね、あくまで私が勝手にラインさんを思っているだけですから。


「はあ、そのスタンスを貫かれるとどうにもこちらも動きづらいわね」

「すいません、別にこちらを気にしないでいいのですが」

「そうもいかないわよ、友達の想いを知っておきながらこっちだけが攻めるってのはどうにも嫌なのよ」

「…失礼ですが攻めていますか?」

「…言わないで。私もどうやればいいのか困ってるんだから」


 ラインさんはかなり鈍いですからね、どう動けばいいのかよく分からなくなりますよね。それに幼馴染というのは近いようでなかなか距離が難しい関係とも聞きます、そう考えると幼馴染は恋仲になりにくいのでしょうか?


「もう、私はいいのよ。カーラさんはいいの? 何もせずに私にラインをとられても?」

「スレイさんのことも好きですからね、友達の恋を妬むほど狭量では無いですよ」

「だから!」

「スレイさん」

「何!」

「もともと叶わぬ恋なのですよ、これは」


 そういって笑う、そう、いくら想おうとも私の未来に彼は出てこないと分かっていますから。


「…私は認めないわよ」

「スレイさん?」

「貴方に、諦めさせたりなんかしないんだから!」

「え、ちょっと、スレイさん?!」


 そういってスレイさんは飛び出してしまった、どうにも冷静ではありませんでしたが大丈夫でしょうか? しかしあれほどまでに私のことを気にかけてくれるとは、優しい人ですね、本当に。私に塩を送る必要なんて無いでしょうに。


 ……スレイさんには悪いですが、私にはもう諦める以外の選択肢は無いのです、これは私の意思とは関係のないことなのですから。こうなると分かっていれば、すでに彼を想う人がいると分かっていれば、彼女がこれほどまでに優しい人だと分かっていれば、私はここに来なかったのに。…いえ、すでに過去は変えられないのです、私はこのままこの思いを秘め続けるだけです。


 改めてそう思いつつ私もまたギルドの裏口から外に出る。このままいつものように、先ほどまでの会話はあえて忘れて、私の家に帰るとしましょう。…ああ、夕食の準備をしていなかったですね、どうしましょうか? 食材はあったでしょうか?


「おい、カーラ」

 ! この声は。


「…貴方は自宅謹慎のはずでは?」


 スイール、私にとってはそれなりの付き合いを強いられている知人であり、ラインさんを害そうとした敵でもある、そんな彼が何故かここに居た。


「はん、たかだか一介のサブギルドマスター如きの命令など聞いていられるか」


 この人は…、仮にもこの大都市シュタットのギルドのNo.2を何だと思っているのでしょうか? いくらこの大都市を治めるカサーラ家の長子とはいえ、家も継いでいない若輩者が立ち向かえるような方では無いというのに。


「それはギルドの決定に逆らうということですね? このことは報告させていただきます」

「待て」


 先ほど出たばかりのギルド内へと踵を返す、はずだったですがスイールに手を掴まれてしまいました。すぐに振りほどきましたがスイールはそれを意に介していないようですね。


「何のつもりですか?」

「はん、そう邪険にするなよ。せっかく婚約者様が会いに来てやったんだぞ?」

「まだその戯言を口にしますか…、あなたと私が婚姻を結ぶことなど出来るわけが無いと未だに理解できないのですか?」

「はん、俺たちの家は昔から付き合いがありかつても幾度か行われていたことだ。それをまた俺たちの代でやろうというだけだろうが」

「分かっていないようですね、少なくとも私の代ではあなたの家に嫁ぐことなど無いのですよ。5年前の事件によってね」


 そう、5年前のあの事件。あの事件で私はラインさんに会い、そしてその笑顔に心奪われたのです。


「はん、それがどうした? ならば貴様が自主的に俺の下に来ればいいだけだ」

「…何を言っているのです? そのような」

「スレイ・アインテル、平民であるがその容姿は一級品だな」

「彼女に何をするつもりですか?」

「はん、あの女を俺の妻とする」

「?!」


 この男、そういうことですか! ふざけた真似を!


「あの女の両親はここで働いていたな、だったらその職を盾にすれば容易く達せられるな」

「スイール!!」

「はん、やはりな、あの女を俺のものとすれば貴様は俺の元に来ざるを得まい? いや、貴様が俺の妻となるのであればあの女は見逃していてやってもいい」

「くっ!」


 この男、ここまでの下種に成り下がっていましたか! どうしましょう、どうすればいい?! こいつにそこまでのことを行える力は無いはず、いやしかし、もし出来るというのであれば? もし御当主様までその考えに同調するようなことがあれば終わる、あの方はコイツに対しては甘い、乱心しかねないか? ええい、どうすれば?


「さあ、どうする?」

「…」

「だんまりか、早く結論を出さなければあのお」

「随分と」

『!?』


 私達の後ろから声が聞こえた、この声は…?


「不愉快な手を思いつく男だな、貴様は」

「貴方は…」


 そこに立っていたのはユウさんだった。ただ、あの食事の場で見せていた軽薄さは鳴りを潜め、あの受付での時のような怖い気配と冷たい目を持って壁にもたれて立っていた。


「何だ貴様は?」

「俺のことを覚えていないのか?」

「貴様のようなものの顔など知らん」

「やれやれ、器だけでなく脳の容量まで小さいらしいな」

「何だと…! 貴様、俺を誰だか知っての物言いか!」

「知るかよ、俺が知っていることといったらテメエがただの下種だってことだけだ」

「貴様!」


 ! スイールは魔法を放つつもりですか!? まずい!!


「ユウさん!!」


 この男は精霊魔法師としては並程度ですが、だからといって当たって無事で済むものではありません。今すぐ止めないと!


「下がってな、お嬢さん」

「【火の精霊よ、コイツを焼き尽くせ!】」


 くっ! スイールがユウさんに向かって火球が放ってしまった、これでは…?! どういうことです?!


「?! 何だ!? 貴様何をした?!」


 ユウさんに当たる直前で火球が霧散した? 一体何が起こったのです?


「無駄だ無駄、俺を精霊魔法で傷つけようなんて16年遅いよ」

「何?」


 16年? どういう意味なのでしょうか? いえ、それはともかく。


「スイール! あなたは何をやっているのですか!! 犯罪者でも無い相手に向かって攻撃を行うなどと!!!」

「はん、この俺を愚弄した者など罪人同然だろう?」

「あなたは…!」

「貴様、どのような手品を使ったかは知らんが次は無いぞ!【風の精れ】」

「おせえよ」


 バチン! という空間を引き裂くような音と白い閃光。私が認識できたのはそれだけ、気がついた時にはスイールが地に伏していた。そのスイールに向かって歩き出しているユウさんに私は呆然としながら問いかけていました。


「…何が? 貴方の仕業ですか?」

「…チッ、生きていたか。その方がまあいいんだが、死んでもどうにかするつもりだったんだけどな」

「一体何をしたのですか? 今のは?」

「俺の固有魔法だと言っておこうか、それはともかく大丈夫だったかなお嬢さん?」

「え、ええ。私は問題ありませんが…、スイールは?」

「気絶しているだけだ、面倒だからここに捨てておくか。お嬢さん、一つ頼みがあるのだが」

「スイールの事はお任せください、必ず貴方にとって不利になるようなことはしないと約束します」

「いや、それはどうでもいいんだ」

「え?」


 スイールについてでは無いと? だったら何が目的なのでしょうか?


「お嬢さん、俺の食事に付き合ってはいただけないかな?」


 …どういうことでしょうか? この方は軟派な雰囲気を見せていますがこのようなタイミングで私を誘うほど場を読めないということは無いと思うのですが…。


「…貴方にはこの男から助けていただいた恩がありますが、それだけで誘いに乗るほど私は軽くありませんよ」

「くっかか、だろうな。君がそういう女性で無いことは見て取れるさ。もっともこちらとしても少し気になることがあるのでね、札を切らせてもらうよ」

「札? 何のことです?」


 何か私を強制する手段を持っているということでしょうか? しかし一体どのような…。


「君と二人で話したいことがある、良い店を知らないかな、カーラ・フェム・ネッペン伯爵令嬢?」

「?! な、ぜ、それを?」


 どうして流れの冒険者であるはずのこの方が私のことを知っているの? この町でそれを知っているのはカサーラ家とシュタットのギルドの上位陣を除けば古くからの馴染みの店の者のみ、何処でそれを知ったというのですか? …いえ、この場は…。


「…店は私が指名します、かまいませんね?」

「出来れば静かで落ち着けるところがいいねえ、金は俺が出すから店のランクが高くても問題ないよ?」

「わかりました、私の知る限り最高級の店にしましょう」

「ドレスコードとかはあったりするのかい?」

「ありますがそこは私にとっても馴染みの店です、服ぐらい貸してもらえます」

「だったら問題ないかねえ、案内を頼むよ」

「では着いて来てください」


 とりあえずこの方の中身は分かりませんが今は乗っておくしかありませんね、こちらとしても気にはなりますから。あの店でなら最悪私が危機に陥ったとしてもお父様に話を届けることは可能でしょう、何か起きたときに対応が後手に回らないようにするためにも、話を先延ばしにせずここで勝負に出ましょうか。



どうすっかなー、カーラ視点をこの後一つ二つやったとしてスレイ視点のお買い物を挟むか、すっ飛ばして前半を終わらせるライン視点をやるか。いい加減にしないとこの章の主役がラインになってしまうなあ、書き溜めに投稿が追いついてしまうし、本当にどうしようか。


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