初討伐
副題は彼女との関係は?
なんだかんだともう2時間程経っただろうか、俺の体の不調も取れたしそろそろ討伐依頼をやりに行っても良いよな?
「ユウ、そろそろいいんじゃないか?」
「体調は?」
「問題ねえ」
「…ふむ、大丈夫そうだな。だったら始めるとしようかね」
「ああ」
「カケウサギについて、体長40シムル前後、体色は茶色でやや好戦的。正面から対峙した場合基本的には逃げずにこちらへの戦闘体勢に入る。生息地としては森の浅いところ、か」
「そいつは?」
いつの間にやら、ユウは手に分厚めの本を持っていた。変なのはその本のページが勝手に捲れていってる事か。
「魔物や野生動物のことを記した図鑑だよ。あとコイツは人口魔具の一つでな、魔力を与えることで自分が望む情報が載ったページを示すんだよ」
「そんなもんもあるんだな。でもそれを使っているのに俺はお前から魔力を感じないぞ?」
「魔力、いや内魔力ってのはその存在を他者から隠すことも出来るんだよ。当人の技量やそれを見ているやつの技量しだいでばれたりばれなかったりだけどな」
「つまり今お前は内魔力を隠して使ってるのか」
「そうだな、魔法を多用する奴は技量の差はあっても普段から隠して使うことが多い。わざわざ魔法を使ってますよと公言してもさして利が無いからな、例外としてはさっきみたいに人に魔法を教える時ぐらいか」
「あのマネキン使ったときは普通に分かったぞ?」
「あの時は結構気を抜いてたからな、あんまり真面目に隠蔽してなかった。だけどあれども新米魔法使いぐらいなら騙せるんだがな、お前の察知能力は結構高くてな。ついでに言うと朝の精霊魔法もそこそこ隠蔽してたんだがな、それも気付かれた。存外お前は対魔法使い戦では優位に立てるかもな」
「そうだったのか…」
さっぱり意識してなかった、妙なところで俺の妙な才能が判明したな。
「ま、発動だけ分かっても仕方ないがな」
「対応できなきゃ意味がないってことか」
「そうだな」
…あ。
「そういや人工魔具ってのは必ず魔力を与えないと動かないのか?」
「? 何でそんなことを?」
「いや、家に置いてあるあの冷蔵庫はどうやって動いてんのかなって」
「ああ、あれか。あれは空気中の魔力と内蔵された魔石の魔力を併用して動いているんだ。保冷性能とかを犠牲にした分消費魔力はそこまで多くないからな、たぶん一年くらいは問題なく動く。それ以上は魔石を入れ替えないと無理だ」
「あ、魔石か。魔石ってどうやって手に入れるんだ?」
「冒険者として魔物討伐をすれば手に入るけど、それだと加工されてなくて素人には使えないからな。ま、素直にギルドで売っているからそれを買え」
「価格はどれくらいだ?」
「D級の魔石で100イルくらいだったかな」
「ふーん」
高いのか安いのかよくわからんな、入用になったときにスレイとかに聞いてみるか。
「そろそろ本題に戻るぞ。カケウサギの討伐についてだが、とりあえず最初の一匹は俺が見つけてお前が退治、その後俺がお前に解体のやり方を見せる。二匹目は俺が見つけ方を教えつつ探し出す、お前が退治して俺がやり方を指示しつつお前が解体をする。三匹目は全部お前がやれ、時間が余っていて結果がよろしくなければ追加な」
「わかった、…しかし本当にすぐ実践なんだな」
「面倒だからな、長々と教えるのは」
「はあ」
こりゃあ最初っから気張ってやらないときついな。
「とりあえずついて来い」
「おう」
森の中、ユウの後をついていく。その足取りにはぜんぜん迷いが無いように見える、俺にはまだ良く分からないがユウにはしっかりとカケウサギの痕跡が見えてるってことか。そんな調子で10分ほど歩いたところでユウが足を止めた。
「居たのか?」
「ああ、ここから5ムルほど先のところに居る。見えるか? あれだ」
「…あれか?」
確かに視線の先にはカケウサギらしき生き物が居る、あれを倒せばいいのか。
「そうだ、近づけば相手はこっちに気がついて襲ってくるだろうからな、上手くやれよ」
「わかった」
剣を抜き、カケウサギに向かって歩いていく。2ムルほど進んだところで相手もこちらに気がついたらしい、こちらに向かって走り出してきた。これはこっちも走ったら剣が当てられないだろうな、攻撃を避けて背中を狙ってみるか。近づいてくる、もう少し、もう少し、…ここだ! カケウサギの突進を横に軽く飛んで避ける、かわせた! 次は剣を背中に!
「せいや! ……どうだ?」
カケウサギに動く様子は無い、これはやったのか?
「はい、初討伐おめでとさん」
パチパチと気の無い拍手をしながらユウが言う、その言い方は気に入らないけど今は気にしない。ユウが俺の仕留めたカケウサギの血抜きを行うのを見つつ今の戦闘について問いかける。
「これでいいのか?」
「初戦ならこんなものだな、ただ今度から首元とかを狙ったほうがいいぞ」
「首か、結構難しそうだな」
動く相手の首元を狙うのは簡単じゃないだろうな。
「基本的にはよっぽど一撃の重さに自信が無い限りは急所狙いでいいさ、血抜きなんかもやりやすいし」
「なるほど」
「それと、この戦法でいくかどうかはおいといても、相手の攻撃を避ける際にカウンターで当てたほうがいいだろうな」
「カウンターか」
今回の奴はカウンターでは無いだろうな、もし避けるときに同時に剣を振っていればそうなっていたな。
「ああ、速く斬れといったがそれは何も自分の速さだけで成す必要は無いだろう? 相手の勢いを利用すれば勝手に相手が剣に身を切り裂かせるからな。自分から動いてかく乱するも、相手の攻撃を待ってカウンターを決めるのも、状況を見てお前の好きにすればいいさ」
「ふーむ、どうしようかな。だったら次はこっちから打って出るか」
「そうだな、それがいいかもな。さてと、それじゃこいつを俺が解体してみせるから見ておけよ」
「ああ」
ユウがカケウサギの解体を行うのを、時々疑問を口に出しつつ見続ける。なるほど、こうやっていけばいいんだな、結構大変そうだ。
「色々覚えることが多いな」
「そうでも無いさ、この手の奴だったら血抜きして皮剥いで肉を適当にばらせばいい。内臓なんかは薬として加工できるものなんかもあるから微妙だが、基本的には解体時にでるごみと一緒に埋めてしまえ。あとは討伐確認部位を忘れないようにな、コイツの場合は尾だぞ」
「皮を剥ぐのが難しそうなんだけど」
「あくまで知っておけばいいってくらいだからな、プロに任せたほうが仕上がりはいい。ただし低級の討伐対象については多少適当でも買い取ってくれるから覚えておくに越したことは無いってことさ」
「だったら基本的には討伐確認部位を覚えておけばいいのか?」
「そうだな、俺達が討伐対象の解体を行うのはあくまで討伐確認部位を取るついでだ、魔物の魔石がいい例だな。討伐確認部位が分からない、もしくは手持ちの道具じゃ取れないって時に解体してもらうのが一般的かねえ。初心者冒険者の場合はこの辺りが出来なくてギルドに持ってくことになるんだよね、それで解体料が依頼料から引かれて手元に残るのは、ってなるのさ。低級の間は解体料と買取金額に差があんまりでないか解体のほうが高くつくことになる」
「コイツの場合はどうなんだ?」
「ちょっと待て、調べる。…毛皮、肉共に買い取り可だな、これだと解体料とでトントンか? ふーむ」
「だったら俺が解体してギルドに売れば利益が出るってことか」
「まあな、ついでに言うと肉は食用でもあるから自分で食えもするな」
「いらね」
「だよな」
まだあのデカブツの肉が普通にあるわ、わざわざ低級の肉を持ちかえらねえよ。
「どういったのは解体に持ってっても利益が出るんだ?」
「D以上なら安定して利益が出るな、魔物なら魔石があるからE以上でも安定するけどよ。あと肉が美味かったり内臓なんかが何かの素材になったりする奴はギルドに任せたほうがいい、自分でやるのは低級の奴か討伐確認部位以外価値の無い奴だな」
「その辺りも覚えなきゃいけないのか」
「依頼を受ける際に受付の職員に聞けば何処が買い取り可能部位かは教えてくれるさ、他にもギルド内の資料室ならそれらの情報があるからそこを利用してもいい」
「なるほど」
そんなことを話していると解体が終わったらしい。解体の後始末をしているユウに聞かれた。
「ライン、お前何か持ち帰り用の袋なんかは持って来たか?」
「あ、そうだな、そういったのがいるか」
まったく思い至らなかったな、反省だ。
「ま、新人のうちはそうやって覚えていくもんさ。とりあえず今回はこの袋に入れておくぞ、これはお前が持っておけ」
「わかった、他に何か準備しておいたほうがいい物ってあるか?」
「俺も着ているが外套の類はあったほうがいいな、お前の鎧はそこそこ目立つぞ。出来るだけ動きを阻害しないような奴をな」
「あー、そうだな」
「あとはリュックもかな、獲物を入れておく袋を持ち運べるようにしておいた方がいい。戦闘時にはすぐに降ろせるようにしなきゃならんけど、手に袋持ったまま歩き回るのもうっとうしいから」
「ふーむ、つまりは外套と採取した奴なんかを入れる袋数種、それとリュックか?」
「当面はそんなもんだろ、ナイフは持ってたよな?」
「ああ」
「だったらいいかな、稼ぎが増えてきたら薬だったり明かりだったり食料だったりを買い足しておけ」
「わかった」
近いうちに買いにいくか。
「よく考えればお前はまだギルドからの詫び金を受け取ってないよな?」
「…そんなんあったな」
正直忘れてたな、色々とありすぎて。
「それ貰ったら買いに行けばいい、たぶん今日明日にはくれるさ」
「うーん、そうするか。何か使いづらいけど」
やっぱり素直に使いづらいんだよな、どうにも降って沸いたって感じがあるから。
「気にすんな、それよりお前に提案がある」
「?」
「お嬢さんかお穣ちゃんを誘って買いに行け」
「何でここでカーラさんとスレイが出てくるんだ?」
繋がりが分からん。
「ギルド職員ならそういったものを売っている店の情報を持っているだろうと思ってな」
「んー、だったらソルのおっさんたちでもいいんじゃないか?」
「(やれやれ、その調子ではいい男には成れんな)」
「は?」
今何つった? 聞き取れなかった。
「とりあえず誘え、そうすることがお前にとっていいはずだから」
「根拠は?」
「俺を信じろ!」
ニヤって感じの笑顔を浮かべつつ親指を立てられてもなあ、根拠になって無いぞ。
「…いや、いいけどよ。うーん、スレイかな。カーラさんとはそこまで親しく無いし」
「? お嬢さんとは付き合いは無いのか?」
「ああ、俺が冒険者登録をしたときに担当はしてくれたけど、それくらいじゃないか? あ、いや、ギルドの外でなら少し話したことはあるけど」
そんなもんだよな? 確か。
「(んー? あの感じはどう考えてもだったがな、あちらに聞いてみる方が早いか)」
「なんて?」
「いんや、それより次行くぞ、もうとっくに作業は終わってるし」
「あ? ああ、そうだな」
何か変に話し込んじゃったな、さっさと二匹目行かないと時間がなくなるな。
動物の解体方とか適当ですよ、実際どのくらいの時間がかかるんだろ? 血抜きとか結構かかりそうなもんやけどね。




