直打魔法
副題は忘れられつつある魔法。
「オーライ、それじゃ始めるぞ。今から俺が教えるのは直打魔法だ、はっきり言って実践で使うような奴はいない」
「あん?」
実践で使わないようなものを教えるのか?
「とりあえず直打魔法について説明すると、コイツは魔法という名が付いちゃいるが魔法と呼ぶには稚拙な代物だ」
「どういうこった?」
「本来魔法とは内魔力を変換して使う物だってことは言ったな? 直打魔法はその名の通り内魔力その物を相手にぶつける魔法だ。魔法ってのは基本的に魔力で持って世界の法則を無視する技術だから、魔力そのもので攻撃する直打魔法は魔法とは言うかは怪しいんだよな」
「魔力その物って、魔力って実体化するのか?」
「ああ、実体化させることはそんなに難しくない。人にもよると思うが基本的には色々と技術のいる魔術を使うよりもはるかに簡単だ」
「だったら何で実践で使う奴がいないんだ?」
「ぶつける内魔力で魔法の一発でも放ったほうが効率がいいからだ」
「…それでも魔法が使えない奴は覚えておいても損は無いんじゃないか?」
どうせ余らせておくなら少しでも活用できるようにしたほうがいいと思うけど。
「そうだ、だからこそ俺は今からこれを教えるわけだしな。こいつが使われていないもう一つの理由はあんまり知られていないからだ」
「知られてない?」
「直打魔法はかつて内魔力の変換練習として魔法を教える際にあらかじめ教えていたそうなんだけどな、内魔力の変換そのものはともかく、実体化させることは他に生かされるものじゃなかったからな。その結果わざわざ教えないようになっていってその習慣が廃れた結果、直打魔法自体が忘れられたんだよ。今知っているとしたらそれなりに年のいった魔法使いか俺みたいな物好きかってぐらいだ」
「それで広まってないと」
「ああ、知っている奴も自分が魔術を教える際にわざわざ古い教え方なんかしないからな。大体魔法を使うようになったらまず使わないから、そもそも意識しないと思い出さないだろうな」
「なるほど」
「だが俺はあえてこれを教える、格闘戦をしながら魔法を使うのは難しいからな。直打魔法なら発動に必要なプロセスが少ない分使いやすいってことだ。何せ内魔力を変換して外に出すだけだからな」
聞くだけだと簡単なんだが、そうは問屋がおろさねえだろうな。もっともやってみないとわからねえが。
「それで俺はどうすりゃいいんだ?」
「まずは俺が手本を見せよう」
そういいつつユウが地面に目をやる、釣られて俺もそこを見ているといきなり地面が10シムルほど抉れた。これが直打魔法ってやつか。
「これが直打魔法だ。ぶっちゃけこれ一発でさっきの陣魔術2発分くらい魔力を消費している」
「本当に効率がよくないんだな」
「だから使うときはあくまで補助だ、相手の動きを止めたりするときに使え。お前の武器は剣であると意識しろ」
「ああ」
「それじゃ使い方を教えるんだが、ラインちょっとこっち来い」
「? 何だ?」
「昨日言った裏技を使う。今から俺がお前の原魔力を内魔力に変換して直打魔法を放つ、その感覚を覚えろ」
「人の魔力を使って魔法を放てるのか?」
「それなり以上の魔力制御術を知っていれば出来ないわけでもない、相手がそれを受け入れてないと難しい上に普通より時間もかかるからこういう教習目的でもないと使わないがな」
「ふーん、まあこっちはいいぜ」
「じゃ、いくぜ」
ユウが俺の体に触れる。
「今からお前の原魔力に干渉する、お前の中の原魔力の存在を感じ取れよ」
「………コイツか」
俺の心臓辺りにある魔力ではない何かの感覚、コイツが俺の原魔力って奴か。こんなものが今まで俺の中にあったなんてな。
「わかったみてーだな、いったん干渉をやめるがそのまま感じ取れるか?」
「…大丈夫だ」
先ほどみたいに主張はしていないがそれでも感じ取れる、俺の中の原魔力を。
「よし、今からが本番だ。内魔力の変換から直打魔法の発射までを通して行う、わかりやすくゆっくりやってやるから気を抜くなよ」
「ああ」
「いくぞ」
…俺の中にユウに感じた魔力の感覚がある、これが俺の内魔力か。その内魔力が…腕のほうに移動して…なんか感じが変わった、実体化の前段階か? 少ししてそれが俺の腕から放たれ木に当たる、表面を少し削ったぐらいか。
「こんな感じだ、どうだ?」
「内魔力とそれが移動する感覚、実体化する感覚はあった」
「それを感じ取ったなら十分だ、連続で5発ほど放つ、上手くものにしろよ」
「ああ、頼む」
その宣言通り5回、同じように俺を使ってユウは直打魔法を放った。…うーん、なんとなくは掴めてきたんだが、どうかな。
「出来そうか? 変換前と後の状態を意識して、そうなるようにイメージしろ」
「……」
俺の中で感じた魔力の変化、そうなるようにイメージする。集中、集中、集中…!!
「ユウ!」
「そうだ、それが内魔力への変換。さあ、まだ終わってねえぞ」
「ああ!」
イメージする、意識する、集中する。内魔力が手のひらへと向かうように、辿り着くように。内魔力が実体化するように、それが放たれるように。……行け!!
「…くっかか、やったなライン」
俺の前にあった木が少し揺れた、ユウが放ったそれよりもだいぶ弱いけれど。
「…ユウ、これが俺の魔法か」
「ああ、まだまだ威力は弱く効率も悪い。だが、間違いなくお前が得た新たな力だ」
「…やった、やったぞ、ユウ!!」
俺は魔法を使えるようになったんだ!
「くっかか、だがまだまだだ。もっと磨き上げろ、伸び代を埋めろ、極めろ。それがお前が今やることだ」
「ああ、わかってるさ。…やるぞ」
そのまま直打魔法を放ち続ける、今までと同じように、今までよりも明確に、今までよりも強烈に、イメージしつつ放ち続ける。もっとだ、もっと、もっと、コイツの限界はまだ先のはずだ。
「おーい」
もう少し、もう少しで何かが分かりそうなんだ。
「そろそろやめた方がいいぞー」
これを、こう、いや、こうか? …そうか、これで! 良し! これな…。
「…あ、やっぱりな」
………。
それなり以上の技術があれば他人の魔力で魔法が撃てるとかユウは言ってますが、まず無理です。Aクラス以上の魔法特化の人間なら出来るかもといったところ、やっぱりコイツも大層おかしい。
ちょっと今までの文章の中で用語を少しいじってみた。さして全体には影響しないからこっそりと変更。




