精霊魔法と初討伐依頼
副題は微妙な信用度。
本文が長くても短くてもタイトルを考えるのが難しいな。
むう、まだ筋肉痛が残ってるな。地味にじわじわと痛い。
「お兄ちゃん、ユウさんが来たよ」
「ライン、来たぞい」
「あ、来たか」
「…あれ? ユウさんお兄ちゃんのこと名前で呼ぶことにしたんですか?」
「ん? ああ、昨日そうすることにしたんだよ妹ちゃん」
「私は妹ちゃんのままなんですね…」
「うん、ごめんね?」
「いえ、別に気にしてはいませんけど」
「それよりユウ、さっさと行こうぜ」
「筋肉痛でか?」
相変わらず見透かしてくるな、こいつは。
「うるせー、動くには問題ねえよ」
「んー、変な感覚が残るのはやっぱりこっちとしても困るな【火の精霊よ、こいつを癒してくれよ】」
「…あ? うん?」
ユウの周りに魔力を感じたかと思ったら、それがこっちに来て身体が少し温かくなった。そしたら急に俺の身体にあった鈍い痺れが消えた、一体何をしたんだ? 魔法か?
「何したんだ、ユウ?」
「精霊魔法でお前さんの不調を治した、今日は感覚が重要な日だからな」
「精霊魔法、これがか…」
初めてだな、魔法って奴に触れたのは。
「そう、これが精霊魔法。精霊に魔力を渡しながら語りかけることで精霊の力を借りる魔法だよ」
「へー」
「さっき火の精霊って言ってましたけど、火で身体が治るんですか?」
「ああ、そりゃ気になるわな。前提として精霊魔法は火、水、風、地、光、闇の六つの属性があるんだけどよ、基本的にどの属性の精霊でも生き物を癒すことは出来るのさ」
「え、そうなんですか」
「そうそう、それでわざわざ火の精霊を使った理由は向き不向きの問題でね。火の精霊は他の精霊と比べると体内の治療に向いているんだよ」
「体内の治療ってのは?」
「内蔵の損傷とか病気とかだな、ついでに言うと水もこれに当たるな。後は風と地が外傷、光と闇は得手不得手無しって感じだ。もっともあくまでそういうのに向いている傾向が有るってだけでどれを使っても基本変わらんけどな」
「へー」
「それしか言ってないね、お兄ちゃん」
だって他に言うことねえんだもん。
「まあ、強いて言えば火は身体強化系にも適正があるからな。筋肉の回復だけでなく強化も目論んでってことだ、本当にちこっとだがな」
「へー」
「もういいよ、お兄ちゃん」
そうもそっけないとお兄ちゃんは悲しいぞ、なんてな。
「兄妹の心温まる団欒はもう終わりでいいな? そろそろギルドに行くぞ」
「ああ、今日は討伐依頼を受けるってことでいいんだよな?」
「そうだ、予定としては午前中に色々教えて、午後に実践という形にしたいからな」
「昨日の今日どころか午前の午後とか思いっきりぶっつけだな」
「ちんたら訓練というのは性に合わん、やるのも教えるのもな」
「まあ俺もさっさと強くなりたいからそれでかまわねえけどよ」
「あんまり無茶しすぎないでね?」
「ああ」
「ユウさんもあんまり無茶させないようにしてくださいね?」
「あー、うん、故意にはやらない、よ?」
「……がんばってね、お兄ちゃん」
「…ああ」
不安だ、すごく…。
「さーて、行くかね」
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
毒にも薬にもならないような雑談を交わしつつ歩き、ギルドへと辿り着く。それなりに多い冒険者たちの間をすり抜けて依頼書の張ってある掲示板の前に辿り着いた。さて、Fカテゴリの依頼は、っと。
「Fカテゴリの依頼はこれだけか、…討伐依頼はカケウサギね。それを三匹以上か」
「カケウサギってどんな奴だ?」
「体当たりしてくるウサギ」
「わかった」
それだけ分かってりゃ十分ってことだろ、この言い方は。
「それで、今回はカケウサギでいいのか?」
「うーん、出来れば今日はもう少し動きの鈍い奴がよかったんだが…いいか。こいつで行こう」
「おし、じゃあ持っていくか」
掲示板に張られたカケウサギ討伐の依頼書を剥がして受付へと持って行く。えっと、空いてる受付はー。
「ライン、あのお嬢さんが担当している受付は少し早く順番が回ってきそうに見えるけど」
「ん? だったらカーラさんの所にすっか」
「おう、行って来い。俺は外で待ってるから」
カーラさんが担当する受付の列に並ぶ、これまでは人気の無かったスイールの所にばっか行ってたから何だかじれったいな。もっとも、俺を嵌めようとした奴だからなアイツは。いまさら行かないけどな、そんな奴のとこに。
「あら、ラインさん」
そんなことを考えながら足を進めているといつの間にか俺の番になっていたようだ。カーラさんの言葉に意識がそちらに向く。
「カーラさん、この依頼を受けたいんだけど」
「はい、これはFカテゴリの討伐依頼ですね。では依頼受諾の処理を行うのでギルドカードを貸してもらえますか?」
「はい」
「確かに、…処理完了しました。以降この依頼を破棄する場合は違約金が発生することになりますのでご注意ください」
「それぐらい知ってるって」
「それでもです。スイールがどの程度ラインさんに対して冒険者としての一般常識を教えていたかが分かりませんから」
「心配性だな、カーラさんは。今はユウがいるから大丈夫だよ」
「…あの方はどうにもそちら関係では信用しづらい気がするのですが」
「……ごめん、俺のほうが間違ってたわ」
確かにアイツがこういった一般常識的なことについて親切に教えてくれるかは怪しいな。何かの拍子でない限り自発的には教えてくれないだろうし。
「…それではラインさん、依頼成功をお祈りしています」
「ああ、がんばってくるよ」
俺を送り出したカーラさんの笑顔に少し活力をもらった気がした。そんなことを感じながらギルドの外に出るとユウがギルド前の出店で串焼きを買っていた。まだ朝方だってのによく買う気になるよな。
「よう、ユウ。こっちは終わったぜ」
「ん? おお、来たか。失礼、これは美味しくいただくよ」
「はい、ありがとうございました~」
どうやらユウは串焼きを大量に買ったらしい、出店をやっているお姉さんがとてもいい笑顔をしていた。袋の大きさを見る限り結構買ったみたいだけど、そんなに食べ切れるのか?
「なあ、ユウ」
「何さね」
「お前どんだけ買ったんだ?」
「42本」
「…馬鹿じゃないのか?」
ここの串は一本でも結構量多いぞ、それをどんだけ買ってんだよ。
「もう少し買いたかったんだがな~、今出せる分はこれだけだって言われて諦めた」
「まだ朝方だぞ、朝飯食ってきたんだろ?」
「お前、俺がアイテムボックス持ちだってこと忘れてんだろ」
「あ」
そういやコイツそんな便利なもん持ってるんだった。マジで便利だな、アイテムボックス。
「俺は美味そうなもんを見つけたら大体こんな感じで大量買いしてアイテムボックスに突っ込んどくんだよ。お、美味いなこれ」
「結局食ってんじゃねえか…」
「42って中途半端だろ、そういうの気持ち悪くないか?」
「まあ、それは分かるな」
「だろう? お前も一本食うか?」
「遠慮しとくよ…」
さすがに今それを一本食うのはキツイ。
「そっか、まあいいや。とりあえず街の外の森へと行くぞ」
「ああ、そうだな」
この依頼が終わるまではライン視点で固定、こんなにラインが出張ることになるとは予想外。




