認定と魔力
副題はフラグらしきもの
「さーて、食い終わったようだな」
「ああ」
今度は会話に集中して手を止めるようなまねはしてないぜ。
「よし、じゃあ少し休憩したら次は戦い方を教えるからな」
「戦い方ってどんなんだ?」
「とりあえず今日は剣を使った真っ当な戦い方だ」
「明日は真っ当じゃないのか?」
「小技なんかも教えるつもりだからな、生き残るために持てる手札は多いほうがいい」
「そうだな、俺は今死ぬ訳にはいかないからな」
「妹ちゃんのためにな」
「ああ」
ロールが独り立ちできるまでは俺の手であいつを守ってやらなきゃな。
「(ここでお穣ちゃんたちの名前を出してたらなー)」
「ん? 何か言ったか?」
「いーや。さて、休憩ついでにもう少し雑談でもするか」
「そうすっか」
「じゃ、妹ちゃんのことなんだがよ」
ロールの?
「ロールがどうかしたのか?」
「妹ちゃんって病気だったりするか?」
「…いや?何でそう思ったんだ?」
「んー、別に確証があって言ってるんじゃないけどな、何かあの子から嫌な感じを覚えてな」
「嫌な感じって…」
不安を煽る言い回しだな、あいつが病気とか想像したくないんだが。
「いや、たぶん大丈夫だろう。もしそうだとしても俺が居れば何とかなるし」
「えっと、どういうことだ?」
自己完結しないで俺にも教えてほしいんだが。
「言い出した俺が言うのもなんだが、少年君は気にしなくていい。何かあれば俺がここに滞在する間は対処してやる」
「不安を煽っておいて自分を頼れってのは詐欺の手口じゃないのか?」
「なら俺から離れるか?」
嗤いながらユウが問いかけてくる。分かってて聞いてるな、俺の腹はもうとっくに決まってんだよ。
「いや、俺はユウを信じるぜ。ここまで来たら悪魔の囁きだろうが何だろうが乗ってやる」
「ほう」
「お前が俺を騙そうとしてたとしてもその上で俺は前に進む、俺はお前の力で強くなる。そしてお前を乗り越えてやる」
たとえどれだけ高い壁でも、俺達を嵌めようってんなら俺はそれをよじ登ってみせる!
そんな決意をこめた俺の言葉を聞いたユウは一瞬無表情になったかと思うと軽く笑い、次第に大声を上げて笑い出す。
「くっかか、はは、はははははは!! いいねいいね、その啖呵! これは予想以上のものを俺は見つけたようだな! ああ、認めてやるよ少年君、俺はお前が気に入った」
「ユ、ユウ?」
何だどうした? 急におかしくなったか? いや、おかしいのはもとからか。だとしても何でスイッチが入った?
「いやはやあいつらと離れちまったときは面倒なことになったと思ったが、なかなかどうしてこんなに面白い奴を見つけちまうなんてな。やっぱり世界は面白いよな」
「お、おう?」
本当にどうした? 本格的に壊れたか?
「くっかか、さーて休憩はこれで十分だろ、午後の訓練を始めるぞライン」
「あ、ああ。……ああ? おい、今名前で呼んだか?」
聞き間違いか? 確かにラインって言ったように聞こえたが。
「くっかか、俺はお前を名前で呼ぶことにしたからよ、それで頼むぜ」
「あん? どういった心境の変化だよ」
サブギルドマスターとの時を除けば、今まで頑なに少年君としか呼ばなかったくせに。
「俺は気に入った奴ぐらいしか日常的に名前で呼ばないんだよ」
「…つまり俺は気に入られたってことか」
喜んでいい、のか? どうなんだろうか?
「そういうこった、こうなったら本格的にお前を強くしてやるよ、特典として予定してなかったことも教えてやるさ」
「特典?」
「明日以降のお楽しみだ。とりあえず今日は剣だ、お前さんに合った戦い方をとりあえず紹介してやる」
「俺に合った?」
「ああ、まず防御に関してだが、前衛職ってのは基本的に受け止めるか避けるかのどっちかだ」
「そうだな」
「で、ラインの場合は体格や装備を考えると回避一択だ」
「だろうな」
「次に攻撃だ。正直現状ではラインが剣を振ったところで与えられるダメージは高が知れてる」
「まあ…そうかもな」
「だから基本的に剣に速さを載せて斬れ」
「えっと?」
どういうこった?
「簡単に言うと走りながら斬れ、いちいち足を止めて斬るな」
「…それだけか?」
それだけなら簡単そうなんだが。
「そうでもないのさ、走りながら狙った場所を斬るってのは意外と難しいものさね。よしんば当たったとしてもそれが致命傷となるかは怪しいもんさ」
「なる…ほど?」
「やってみるか」
そう言うや否やユウはアイテムボックスからマネキンを取り出す。そのマネキンの腹の横一直線にユウはペンか何かで赤い線を書いていく。
「…これでいいか、ラインこの線に合わせて斬ってみろ。両手持ちでな」
「ああ」
言われたとおりに赤い線に沿って剣を振る、結構硬くて10シムルも行かずに剣が止まった。
「硬いな」
「ま、そんなもんさ」
俺がマネキンから剣を抜いた後、ユウがマネキンに触ると俺がマネキンに付けた傷が消えていく。…ん?
「これも人工魔具か?」
「ああ、軍なんかで使われている新兵の鍛錬用の的だ。魔力を注ぐことで自身に付けられた傷を修復できる」
「じゃあ、今マネキンに向かったのがユウの魔力って奴か」
「…魔力を感じ取れたのか? どういう風に?」
「? 今ユウの手からマネキンに流れた奴じゃないのか?」
さっきユウの手からなんかがマネキンに流れたように感じたんだけど、何かおかしいのか?
「……じゃあ、俺の魔力の流れがどうなっているか指で指してくれ」
そう言われたのでユウの体を注視する。えっと、胸から右肩に行って、次に右手の人差し指まで流れて、胸まで戻って左足に行って、それで左腕に行った後身体の外に消えたな。
「くっかか、完璧だな、おい」
「えっと、これがどうしたんだ?」
「ライン、おまえはこれまでに魔法を見たことがあるか?」
「いや? 一度も無いけど」
「じゃあ、魔法使いから何か教えてもらったことは?」
「特に何も無いぜ、ソルのおっさんの冒険者仲間にノインさんって魔法使いはいるけど、ノインさんから特に魔法について教えてもらったことは無いな」
世間話とか今までの依頼内容とかは話したことがあるけどよ。
「だったら親族に魔法使いはいたか?」
「死んだ母さんが魔法使いだったって聞いたけど…」
「だったら遺伝か? どうやらお前は先天的に魔力を感じ取れるみてーだな」
「それってすごいのか?」
「魔法使いになる際の一番の強敵は魔力を感じること、って言われている位だぞ。ぶっちゃけ何の訓練も無しに魔力を感じ取れるとかかなりすごい」
「へー」
…あれ、それって。
「だったら俺も魔法使いになれるのか?」
「そこだけ切り取ればな、ラインは自分の中の魔力を感じ取れるか?」
「…いや」
ユウに対して感じたような奴は俺からは感じ取れねえな。
「だろうな」
「これは俺の中には魔力が無いってことか?」
「あほか、魔力の無い人間なんていないっての。単純に魔力って言っても三つあるんだよ」
「三つ?」
「ああ、もっともおんなじ物だけどな。まず生命力って奴があってな、これが人間に限らず全ての生物を動かすもとみたいなもんだ。これを加工したものが原魔力って呼ばれるのさ。この加工自体は勝手に行われているんだが、この原魔力を魔法を使うために変化させた物を内魔力と言うんだ。さっきまで俺たちが言ってた魔力はこの内魔力のことさ、ついでに三つ目ってのは外魔力と呼ばれる大気中や地中なんかに含まれる体の外に漂う魔力のことな」
「つまり俺の中にその内魔力って奴が感じ取れないのは俺がそれを作ってないからか」
「よく出来ました」
別に気のない拍手をされてもうれしくないんだが。むしろイラつくぞ、おい。
「だからラインが魔法を使おうと思ったら原魔力を内魔力に変換する過程を覚えないといけないのさ」
「それが難しいってことか?」
「んー、魔力を感じ取れたことを考えればそんなに手間取らんと思う。それに裏技使うつもりだし」
「裏技って?」
「明日のお楽しみだな」
怖いなあ、信用はしているけど、
「ごめんミスった」
とか普通に言いそうな奴だからな、しかも笑顔つきで。
「さってと魔法談義は明日だ明日、今日は剣だぞ」
「そうだな」
少しずつ確実に習得しながら進んでいくのが大事だよな、うん。
きりがいいところまでいくと長すぎる気がするのでちょっと強引にカット。




