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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第二章:ユウの契約
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ギルド内事情

副題は受け付け恋模様

「がんばってるみてーだな」


 受付に向かうラインを見ながら呟く。あいつもまだ15歳だってのに妹と二人で暮らしてかないといけないんだから大変だよな。結局あいつに冒険者の技術なんかは伝えられてないし、ニックたちと一緒に教えるか? でもユウって言ったか、あいつが教えてくれるみたいだし大丈夫なのか? しっかしどういう関係なんだ、今まであったこともないしな。でも悪い奴にも見えねーし、とりあえず保留だな。


 にしてもラインもどうしてスレイちゃんのところに行かないのかねえ。明らかにスレイちゃんはラインのことが好きだろ、おっさんでも分かるのにな。基本無駄を嫌うやつだから列に並んで待つのが嫌なんだろうけど、でもなあ。


「ざけんな!!」


 あ?ラインの声だな、どうしたんだ?


「おい、ノイン、何があった?」


 近くにいた冒険者仲間に話しかけてみる、ノインは耳がいいし何があったか聞いてたかもしれないしな。


「どうやらスイールの奴がラインが採集してきた薬草に文句をつけたらしい」

「はあ? なんでだ?」

「待て、…どうやらラインがこれまで持ってきたモノはあまり状態が良くなかったらしい。それが急に良くなったからおかしいということのようだ」

「なんでだよ…」


 確かに俺達が教えていない以上ラインが薬草のとり方を知らなかったことは事実かもしれないが、良くなったことに文句つけられるのはおかしいだろ。大体新人がいろいろ知らないのはおかしいことじゃないんだからギルド側はそれを教えるもんだろ。


「ちょっと行ってくるわ」

「ああ、私も一緒に、っ!?」


 何だよこの殺気!? あのユウって奴からか!? この感じ高位ランクのそれだぞ、なにもんだアイツ?


「あの男…」

「すげえ殺気だ、まさかスイールの奴殺されたりしねえだろうな」

「さすがにギルド内でそんなことをするのは自殺行為だと思うが」


 しかし、やりかねないような気もするんだよな。…おいおい。


「おい、あれって…」

「ストライクボア、か?」

「あれってもう少し小さくなかったか?」

「しかしこの辺りには他にボア系はいないぞ、あの男が倒したものか?」

「つか、何でこんなとこで出すんだよ」


 普通あの大きさだと裏の解体所場まで持っていくだろ。


「スイールがここに出せと言ったんだ。もっともあの男は大きさについて説明してなかったが」

「わざとだな。スイールに対する嫌がらせってことか」

「だろうな、あれを運ぶのは骨が折れるぞ。スイールがここに出すことを認めてしまった以上、自分達で運ばないといけないだろうな」

「アイテムボックス使えばいいだろ」

「一介のギルド職員はそんな物は持っていないだろう。私達なら持っているがスイールにわざわざ手を貸す冒険者がいるかどうか」


 スイールは普段の勤務態度から冒険者の間ではかなり嫌われているからな、俺もアイツに手を貸す気になんかならないし。でも邪魔だよな。


「…これは何事ですか?」


 ザインか、どうやら外に出ていたみたいだな。そりゃこの状況はすぐには理解できないか。


「ソルさん、ノインさん、一体何があったのですか?」

「スイールがラインの仕事に文句をつけたら、ラインの連れがあれを出して出て行った」

「…どういうことです?」


 さすがに簡単に話しすぎたのでノインと一緒に詳しい話をする。最初は困惑していたザインだったが話を聞くにつれ眉間のしわが深くなっていく。


「ストライクボアに関してはこちらの落ち度ですね。スイールが確認をしなかったとはいえ、許可してしまった以上こちらで対処せざるを得ません」

「スイールについてはどうするんだ?」

「もともと彼から聞いていたラインの話にはどうにもきな臭いところがありました。その辺りを調べた上で適切な処分を下すことになるでしょう」

「きな臭い? ラインの話ってどういうことだ?」


 なんでスイールがラインのことをザインに話したりするんだ?


「スイールからはラインは何度言っても言われたことをやらずに、不良品の薬草を納入してくる問題児だと聞かされていました」

「あ?」

「ラインはそのような子ではないぞ」


 ラインは人のアドバイスを素直に聞いて実践できる度量を持ってる、いくら仲がよくなからおうとギルド職員からの忠告を聞かないわけが無い。


「ええ、カーラやスレイから聞いた彼の印象ではそのようなタイプには思えなかったので保留にしていたんです」


 ん?


「何でカーラちゃんが出てくるんだ?」

「カーラがラインに好意を抱いているからだ」

「え?!」


 マジで?!


「気付いていなかったのか?これだから男は…」

「でもカーラちゃんってラインと接点ないだろ?」

「だがカーラの方はラインを知っているようだった、あの感じは恋する乙女といった風だったな」

「はー…」


 シュタットのギルドの受付の二枚看板の両方から好意を向けられているとか、こんなことが知れたらラインの奴フルボッコだな。でも本人鈍いし、妹のこと優先だろうし惚れる相手としては厳しいんじゃねえかな。


「まあ、その辺りはいいとして、まずはこれを何とかしないといけませんね」


 ぼやきつつザインはストライクボアを観察しだす。俺も近寄ってみてみるか。…マジででかい。周りで見学している奴らも口々にしゃべってるな。


「これ死因は何だ?」

「頭部に拳大の穴が空いてるな、これか?」

「そこだけ考えると殴って殺したということでしょうか?」

「いやー、誰が出来んだよそんなこと。少なくとも俺は無理だぞ」

「仮にもBクラスの前衛職だろお前」

「剣ならともかく無手でこいつ殺すとか無理だわ、そもそもこれってストライクボアなのか? 4ムルとかでかすぎだろ」

「上位種かもしれませんね」


 上位種?ここ最近聞かなかった単語だな。


「ストライクボアの上位種なんていたんだ」

「ええ、解体の際に調べておきます。さて、と。スイール?」


 そいつをアイテムボックスに収納しつつ、ザインがスイールに話しかける。いつも通りの口調だが付き合いの長い人間からするとだいぶ怒っているが分かるな。


「何です?」

「何故このようになったのですか?」


 分かってるくせにわざわざ聞くとか、スイールが言い訳する前提でわざと聞いてるな。


「あのラインがこちらの指示に従わず、連れの男にこのようなことをさせたのです。サブマスター、ラインの処分を検討して」

「そうですか、ではあなたはとりあえず謹慎していなさい」

「は?」

「あなたの処分が正式に下るまで自宅謹慎を命じます、あなたのお父上がどのような立場にあろうとも曲げるつもりはありません」

「サブギルドマスター風情が何を」

「いいから失せなさい」

「ちっ!」


 舌打ちをしてスイールの奴が奥に引っ込む。仮にもシュタットのギルドのNo2であるザインに対してたいした態度をとるもんだな、しかし父親の立場ってなんだ?


「ザイン、奴の父親は地位の高い人間なのか?」


 ノインも同じことを思ったみたいだな。


「…まあいいでしょう。彼はカサーラ家の長子です、お父上の意向でギルドで働いてもらっているのですが、これでは…ね」


 スイールってこのシュタットを収める貴族であるカサーラ家の長男だったのか、あんなのが将来ここを収めるかもしれないとか想像したくねえな。…あれ?


「何でそんな奴がラインを貶めようとするんだよ」

「さあ? スレイかカーラのどちらかが好きなんじゃないですか?」

「え? 何でそれでラインに嫌がらせすんだよ?」

「ラインが問題児ということになれば二人が愛想を尽かすとでも思ったのではないか?」

「こっす…」


 器の小さい男だなー、やることも稚拙だしカスだな。


「まったくだな、そんな適当な手段を取ったところですぐばれる。ずいぶんと頭の足りない男だ」

「まったくですね、はっきり言って彼はさっさとクビにして控えの子に経験を積ませたいと思っていたので助かりました。彼のお父上のことが無ければそもそも雇いもしないような人材でしたし」

「能力はともかくとして勤務態度が最悪だったからな」


 俺たち冒険者に対してずいぶん見下した態度をとってきたのは自分が貴族っていう特権階級の人間だからなのかね。


「あの…」


 ん? この声は。


「カーラ?どうしましたか?」


 カーラちゃんか、一体どうしたんだ?


「申し訳ないのですが昼休憩をとっても良いでしょうか?」

「そんなもの好きに…、いえ、許可します。少し長くなってもかまいません、ついでにスレイも連れて行きなさい。それとこれを」

「ありがとうございます!!」


 カーラちゃんは駆け足でスレイちゃんのところへ行ってそのまま二人で奥へ入っていった。受付空くけどいいのか?


「ザイン、受付いなくなったけどいいのか?」

「かまいません、控えの子を出しますから。多少荒っぽいですが経験を積ませます」

「でも二人いっぺんに抜けさせるのは負担がでかくないか?」

「片方だけでは不公平でしょう」


 あん?


「ギルドとしてはラインに軽い事情説明と謝罪をする必要がある、後で連れの男と一緒に来るだろうからその時でもいいが早いに越したことは無い。カーラはそう判断してラインのところに行こうとしたんだ。ただ、どうせならもう一人の恋する乙女にもチャンスをやろうと思ったんだろう?」

「そんなところです」

「??」

「本当に鈍いな、お前は」

「…あー、そういうことね。でもカーラちゃんって事情を詳しくは知らないんじゃ?」

「さっきからこちらの話を聞いていたようですから、それに軽く事情を纏めた紙を渡しておきましたから大丈夫でしょう」

「仕事早いな」


 いつの間にやってたんだ。


「もともと報告用に纏めていたものですよ。さて、ノインさん、ソルさん、解体を手伝ってくれませんか?報酬は出しますから」

「いいけどよ、何でだ?」

「あのサイズだと今いる人たちだけだと時間がかかりそうなんですよ。私は上位種か否かを調べるのも平行して行うつもりなので解体にはあまり参加できませんし」

「ふむ、私はかまわないぞ」

「俺もいいぜ」

「ありがとうございます。私は受付の子を呼んできますので先に裏に行っておいてくれますか」

『わかった』


 にしても今頃ラインの奴は何してんだろうな?



上位種:魔物の中で強化された個体のこと。生まれながらの変異種か成長時に何らかの要因で強化されて発生する。一般の個体と比べて体が大きい、使えない魔法を使う、特殊な能力を持つ等の違いを持つ。上位種となると本来のものより少なくとも一つは危険度が上がり、討伐時に特別報酬が出る。



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