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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第一章:ケイの出会い
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今までとこれから

副題はまた会いましょう

 夜、シェルとノエルの家にて、二人は明日の出発に向けてさほど多くは無い荷物をまとめていた。


「うーん、どれくらいまでなら持って行っても大丈夫なのかな?」

「どうせならまとめてケイ殿の頼んでアイテムボックスに入れてもらったらどうだ」

「え? それはどうかと思うんだけど」

「ケイ殿なら快諾しそうだがな…む?」


 ノックの音、普通ならこんな時間に訪問者などまず居ない。誰が来たのかといぶかしみながらシェルは戸を開ける。


「誰だ? っと、失礼しました」

「いや、夜分遅く失礼する」

「ケイさん? どうしたんですか?」

「君に渡すものがあってな、どうせ何を持って行くのか迷っているのだろう」


 そういってケイが差し出したのは白い色のブレスレット、それが何なのか検討がつかずに二人は内心首をかしげる。


「未登録アイテムボックスだ。ノエル、君にやろう」

「え、えー!?」

「ケイ殿!? よろしいのですか!?」

「かまわん、私がノエルの荷物を保存するのも面倒だ。それに男の私には預けづらい荷物もあるだろう。だったら最初からノエル専用のアイテムボックスを持たせた方がよい」

「しかし登録型のマジックボックスなど相当高価な代物で」

「もともと同行者が増えた場合に備えて持っていた一般生活用の下級上位のものだ、今が使い時だろう」


 ちなみに登録型は汎用型と異なり所有者が一度決定すれば所有者以外はそれを使えなくなるので、汎用型より盗難されにくくより高価な代物となっている。それと一般生活用の中級下位のアイテムボックスだと宿の一室ぐらいの容量はあるだろう。


「えっと、でも」

「そんな施しを受けるのは忍びないと思っているのならこれは貸しにしておく」

「貸し、ですか」

「ああ、どちらにせよ君には冒険者登録してもらおうと思っていた。だったら修練ついでに金を稼いでいつか返してくれれば良い。たったの80万イルだ、数年あれば確実に払えるだろう。ああ、利子は取らんから安心しろ」


 参考までに旅行者向けの一般的な宿に一泊するのに500イルほどかかる。また、平均的なCランク冒険者で年に30万イルほど稼ぐことを考えてくればその価値がわかるだろう。


「80万…、い、いえ私は貴方についていくと決めたんです。だったらこういった感覚にも慣れるべきですね。」

「そうしておけ、私はいろいろと非常識だからな」

「ここ数日で嫌というほどわかってますよ…」

「登録の際は腕にはめてもう片方の手で触りながら所有権を念じればそいつが温かくなる。そうなれば君以外がそれを使うことは出来ないようになる」

「わかりました」

「ケイ殿、娘のため配慮感謝します」

「同行者には気を使うさ。こちらこそ娘を連れて行ってしまってすまんな」

「いえ、ケイ殿の傍ならノエルがそちら方面で危機に陥ることは無いでしょうし、この子をよろしくお願いします」

「そちら方面?」

「君は自分の容姿を気にしたほうが良いぞ」

「??」


 自分の容姿がかなり魅力的なことにピンと来ていないノエル。故郷でも人付き合いはそこまで多くなく、キエル村に来てからは村人から疎まれていたので自分が美人であるということを意識できなかったようだ。このまま独りで大都市に放り込めば対人経験値が足りていないことも合わせてろくな事にならないことは目に見えているだろう。


「…シェル殿」

「…娘は環境の都合上そちら方面のことは疎いもので」

「やれやれ、私はこれで失礼するよ」

「あ、また明日です」

「ああ、また明日」


 用を済ませたケイはリンドの家に去っていく。その後、とりあえずノエルは私物をアイテムボックスに片っ端から入れ始めることとし、シェルは処分する荷物と持っていく荷物も地道に分ける作業に戻る。先に住んだノエルは一足先に眠り、シェルも少し後にそれに続き眠る。こうして二人のこの村での最後の夜は終わりを告げた。



 翌日、ノエルはガンドと最後の別れの挨拶をしていた。ガンドはこの村を他のものに任せ、いくつかの思い出の品を持ってヌルの友人を頼ることとしたらしい。もともとリンドが冒険者となったときから後継者問題について口うるさく言われており、この機会にそいつに任せることとしたようだ。さすがに長年この村を治めてきた彼も今回のことで腹に据えかねるものがあったということだ。ノエルとリンドの別れの挨拶を見つつケイは傍らのシェルに話しかける。


「さて、ノエルは居ない。言っておきたいことがあるだろう?」

「…ケイ殿、ノエルについてですが貴方はあの娘にどのような感情を持っていますか?」

「好意は持っているが恋愛感情は今は無いよ。だが彼女は良い娘だよ、今は無理でもいずれ独りで明日へと歩み続けることが出来るほどの強さを得るだろう。私好みの強さをな」

「それは…」

「ふっ、安心しろ。私と彼女がどのような結論を出そうとも私は彼女を守り抜くさ。私の名に、いや我が家名に誓って」

「でしたら私としては何も言う事はありません、ノエルを頼みます」

「当然だ」

「不幸にしたら殴りに行きます」

「やってみろ、色々な意味でな」


 別れの挨拶を済ませたノエル、出発の準備を済ませたシールがケイ達の元へとやってくる。


「お待たせしました」

「ケイさん、私達の出発準備は出来ましたがご一緒しますか?スペースは問題ありませんが」

「そのことだが、私とノエルはこれで行かせてもらう」


 そう言いつつケイはアイテムボックスからひとつの物体を取り出す。それは2~3ムルほどの細長いフォルムをした、両端に二個の車輪がついた金属の塊であった。


「うお!?」

「なんじゃ!?」

「あれ、これって…」

「久々に見ますな」

「珍しいものを持っているわね」


 その異様な物体にリンドとノエルは驚きを覚え、ノエルとシェルは故郷を思い出し、シールは珍しいものを見たとそれぞれの反応を返す。


「グリエル皇国にて作られた魔道二輪車、通称バイクだ。馬よりも速く道を駆けるぞ」

「そんなものまで持っていたんですね」

「本当に何でもありね」

「それが私だよ、さてノエル。私の後ろに乗ってくれ、そこまでスピードを出すつもりは無いが危険だからしっかりと掴まれよ」

「あ、はい。えっと、失礼します」


 そういってノエルはバイクに跨りケイの腰に手を回す。そのしっかりとした体に内心ドキドキしながら。


「とりあえずヌルまでは慣れる為にもゆっくり行くぞ、その後ツーリアまで行って依頼報酬を受け取りと君の冒険者登録を済ませる」

「わかりました」

「それではシェル殿、ガンド殿、世話になった。縁あらばまた会おう」

「今までありがとう。行ってきます」

「息災でな」

「がんばるんじゃぞ」


 それを最後にケイはバイクを起動させ走り出す。ノエルは初めてのバイクに興奮しつつこれからについてを思う。


(これから私はケイさんと一緒に旅をする、冒険者になって戦い方と守り方を習って生きていく。不安も有るけど恐れない、だって)


「ケイさんが居ればなにが起きてもへっちゃらですよね?」

「無論だ、我らの前に立ち塞がる壁は全て斬り伏せるのみ、だ」

「はい!」


 ケイとノエルは走っていく、友に会いに、明日に進むために、二人は共に進み続ける、自分の世界を広げるために。


アイテムボックス:付加魔法によって特殊な魔法を付与された魔具。基本的には高価なもので高位ランクの冒険者か資産のある商売人や貴族でもないと所有していない。その形は決まっていないが一般的にはペンダントかブレスレット型をしている。なお、ケイが所有している物はブレスレットタイプだったりする。



第一章はこれで終了。次は二人目のチートが主役、序章のように一人称視点で行くつもり。主人公?三章まで待ってください。

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