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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第一章:ケイの出会い
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冒険者たちの会話

副題は超会話回


この章は次で終わります。



 ケイが入っていった村長宅。その外ではシェル、ガンド、リンド、シール、その他冒険者達が集まっていた。


「…なにやってるの、あなた達」

「し、支部長?! こ、これはその」

「ケイとノエルが良い仲になってないか聞き耳を立ててる」

「リンドー!? 何で言っちゃうんだよ?!」

「で、だ。支部長、あんたの魔術で中の様子とか探れたりしないか?」

「え?」

「だってネルの魔術じゃ中の音は聞けても様子を見ることは出来ねえんだもんよ」

「仕方ないじゃない、私は光系統の魔術は扱えないんだから」

「いや、そんなことに付き合うわけ無いじゃない」

「でもあんたも興味はあるだろ?」

「…ま、まあ興味が無くもないけど」

「それにこっちにはシェルもいる、父親公認だぜ」

「そもそも何故シェルさんまで」

「素直にノエルがケイ殿のことをどう思っているかが気になった」


(ノエルがケイ殿に惚れるとそれはそれでややこしいからな)


「はあ、まったく皆してもう」

「で、どうする?」

「……こ、今回だけよ」


 シールは村長宅に向かって魔法陣を展開するとそこに壁の向こう側の光景が見える。ケイはこちらに背を向けておりその表情はわからないが、ノエルは下を向いておりその顔は沈んでいる。


「ノエルさんはどうしたの?」

「それが二人ともさっきからずっと黙ったまんまなんだよな」

「んー? 何でかしら」

「さあな」


 しばしの静寂の後ノエルの悲痛な声が響く。


「ノエル、お前はそんなことを…」

「…父さん、この村見捨てようぜ」

「そうしたくなってきたわい…」

「ひっでえ話だぜおい」

「あんな子を追い詰めるだなんて、本当にふざけてるわね」

「呪いだっけか、んなもんあるわけねえじゃねえか」



 そして。


「お、ケイがくさい台詞を言ってる」

「落ち込んだところを全力で引っ張り上げたな」

「やる奴がやると映えるな」

「あれで何人の女性を落としたのかしら」

「ケイ殿はその辺りわきまえているから不用意にそんなことはしないと思うが、しかし複雑な気分だ」

「でも躊躇無く手を握ったり頭なでたりしてるね」

「女慣れしてんのかね、ってあれ?」

「映像が消えたのう」

「支部長なにしてんの?」

「いえ、私は何も…」


 急に魔法陣の映像が途絶える。それを受けみな支部長の方を見るが当人も困惑している。そんなこんなしていると魔法陣の中心に文字が浮かぶ。


[遺言は残しているか?]


「は?」

「えっと、これって」

「もしかして」

「ばれてた?」


 その言葉に応じたがごとく、魔法陣を中心として無数の光の玉が現れる。魔術師でなくともわかる、やばいと。


『に、逃げろー!!』


 雲の子を散らしながら逃げる冒険者たち。光球はそれぞれ目があるかのごとく彼らを追いかける。その追いかけっこは小一時間ほど続くのであった。


「ぜえ、ぜえ、ぜえ」

「ひっ、ひっ」

「後衛職の連中はだらしねえな」

「じ、じぶんだってへたりこんでるじゃない」

「無駄に高度な魔術だったわね」

「私の魔法陣の制御を奪うとか」

「術者不在での目標決定に自動追尾って」

「しかもこっちが走れるぎりぎりのスピードで追いかけて来るとか」

「少なくともこんなことに使うもんじゃないだろ」

「さすがSS」

「何処に感心してんだよ…」

「冷静に考えれば私達だって家の外にあれだけ人がいれば気配に気付くわね」

「まあ、俺らじゃあんな会話してたらまず無理だろ」

「本当に隙が無い男ね」

「当然だろう」

『!?』


 疲労を溜め座り込む冒険者たち、その後方から氷のような声が聞こえた。その声に一斉に振り向くとそこには腕を組み、冒険者たちを睥睨しているケイと顔を赤らめケイの背に隠れるノエルの姿があった。勇気を振り絞りリンドは口を開く。


「あー、ケイ?」

「最初に死ぬのは貴様か」

「勘弁してください。覗いてすいませんでした」

「私だけか?」

「ノエルもごめんなさい」

「リンドさん、お父さん、……有罪」

「よし、斬るか」

「待ってくれ二人とも、男親として娘の恋路が気になるは当然だろう!」

「家から出てきたときに誘ったら結構ノリノリだったじゃねえか」

「リンド貴様――!!」

「まったく、支部長まで何をやっているんだ」

「だって気になるじゃない」

「開き直るな愚か者。いい年した大人が子供のようなことをしおって」

「だって気になったんじゃもん」

「ガント殿は本当に自分の年を考えろ」

「まさか村長までいるとは思って無かったよ」

「そういえば村長さんも走ったの?」

「いや、おぬしらと違って飛んでこなかったから横で見てたんじゃ」

「さすがに一般人にはやらんよ、当たり所が悪ければ気絶ぐらいはするぞ」

「んなもん撃つなよ」

「なら覗くな」

「なあ、あんた何時気がついたんだ?」

「風属性の魔術が使われた辺りからだ」

「最初っからじゃねえか」

「人が集まっているだけならまだしも、あんなところで魔術を使えば聞き耳を立てていることぐらい予想がつく」

「で、私が追い討ちをかけたと」

「そうだ、あんなに堂々としてよくばれんと思ったな、私相手に」

「ごもっともだぜ、…ん? あんた気付いてほっといたのか?」

「ノエルの表情を見れば悩んでいることなどすぐわかる。ノエルが心の内を吐露すればお前達は彼女の味方になるだろう?」

「まんまと利用されたってことか」

「ケイさんも気付いていたなら教えてくださいよー」

「言えば君は溜めこんだだろうが」

「むー」

「それでノエル、これからどうするんだ?」

「リンドさんと村長には悪いですけどここを出て行くよ」

「それでいいさ」

「やっと決心してくれたか」

「はい、ここにいても私は進めませんから」

「よし、ならばどこに行こうか」

「ふむ、ノエル。私と共に来るつもりはないか?」

『え?』

「プロポーズか、ぐはっ!!」


 ケイの蹴りが的確にリンドの意識を刈り取る。


「リンド殿、貴殿は少しおとなしくしていたまえ」

「本当にね…」

「落ち着きの無いおっさんだな」

「それでケイ殿? 理由はなんですかのう」

「彼女の固有魔法だ。ノエルは自分の力を完全には把握していない、ならばそれを使いこなすにはそれを分析できる者が必要だ。そして私はそういった考察を得意としている。それにもう暫くは私が居た方が彼女も道を決めやすいだろう。戦い方を教えるにしてもシェル殿では魔法関係は教えられまい?」

「確かにそうですな、しかし良いのですか?貴方の旅の邪魔になるやも知れませんが」

「高々未熟者が一人傍らに居るだけで私の道が揺らぐわけがあるまい」

「本当にすごい自信ですね…、お父さん?」

「お前が良いならお世話になりなさい」

「どうする、ノエル? 私と来るか否か」

「……よろしくお願いします」

「わかった、シェル殿はどうする?」

「当面はリンドたちに同行しようかと思っております。ノエルは貴方に任せればよいでしょうし」

「そうか。ならばノエル、私達は明日の朝に発つ。今日は存分に別れを惜しめ」

「はい」


 その日の夜、冒険者一行は村の外の簡易休憩場で村長の計らいで振舞われた食事や酒を飲み食いしながら今日の出来事を振り返っていた。その話題として最初に上がってきたのはハザード級についてだった。


「しっかしあのでかいのがハザード級だったとはなー」

「どんなんだったんだ?」

「10ムルぐらいある六本腕の猿系だった」

「魔法もかなりの威力だったわ」

「そいつは恐ろしいな」

「あいつどっから来たんだろうな」

「どっかの魔力溜りなり何なりからじゃねえか?」

「それが何処だって話でしょ」

「つっても魔力溜りなんて今回みたいなことが無いと見つからんし」

「誰かが偶然見つけてそれがギルドに伝わるまではどうしようもないだろう」

「一回いた以上、またハザード級が居る可能性もあんのか」

「まあ、ハザード級と戦うなんてもう勘弁だけどな」

「ろくに戦ってないのにあのざまだからな」

「ぶっちゃけ最低でもAクラスがそれなり以上の数居ないと無理だろ」

「そういやケイは一体どうやってあいつを倒したんだろうな」

「彼は神級魔法を使うって言ってたよね」

「あー、あの青い奴か」

「昼にも言っていたけどなにそれ?」

「こっちに変異体が来る少し前に森の上空に青い何かが昇ったんだよ」

「それが神級魔法?」

「じゃねーかな」

「神級魔法ってどんなのがあるの?」

「さあ?」

「お前魔術師だろ」

「あの手の上位魔術はそれなりに秘匿されているからお金か地位がないと知ることができないんだよ」

「へー、支部長は使えないんすか?」

「無茶言わないでよ…、神級が使えれば私はSクラスになってるわよ。そもそも私は陣魔術特化だから」

「陣魔術にはその手のは無いんですか?」

「魔術系統には下級、中級、上級は設定されているけど神級が有るのは詠唱魔術だけで陣魔術には無いのよ。陣魔術は詠唱魔術と違って広域殲滅には向いて無いから」

「あ、そうなんだ」

「ええ、陣魔術で威力を上げようと思ったら陣を構成する魔術言語を増やすのが一番早いんだけどね、そうするには魔法陣のその物を大きくして書き込める文字を増やす必要があるの。ただ陣が大きくなり言語が増えると発動するまでそれを維持するのが大変になるのよ。だから威力を上げづらいの。今の陣魔術は可能な限り効率的に言語を配置できるように研究が重ねられてきたけどそれでもやっぱり詠唱魔法ほどではないわ」

「だったら詠唱魔法の方が強いのか?」

「一概にもそうとは言えないけどね」

「どういうことだ?」

「詠唱魔法のメリットは詠唱省略を行うことで発動速度を上げたり不意打ちが出来たりとか支部長が言ってた通り高火力が使いやすいところなんだけどね、デメリットとしては使う魔術を完全にものにしてないと威力が落ちたりそもそも発動しなかったりするんだよ」

「意味わからん」

「つまり、その魔術、例えば炎の矢だったらその術式を覚えておいて、それが目の前に出来てそれが敵に向かって飛んでいくのを正確にイメージした上で、上手く言葉に魔力を載せないといけないんだよ」

「言葉に魔力を載せる?」

「そう、魔力を載せることで詠唱魔術は世界に認められて世界の法則を限定的に書き換えられるんだよ、ちなみにこのときに神に言葉を届けて発動させるのが祈祷魔法だよ。この魔力を載せるのが難しいんだよね」

「術式ってのは?」

「魔術を使うときに言ってるあれだね、あれをきちんと覚えてないと魔術は使えないんだ。人によっては既存のそれをいじった方が効率がよくなったりするね、もっとも術式を理解してないと基本的には失敗するけど」

「ふーん、じゃあ何で無詠唱で発動するんだ?」

「発動できる人に聞いてほしいんだけどそれ。一般的には言葉を介さずに魔力とイメージのみで直接世界に認めさせてるとか言われてるね。自分が最も得意とする属性の魔術を使い続ければ詠唱省略は出来るようになるし、下級ぐらいなら無詠唱も結構簡単にできるとか言われているね。まあ詠唱省略ぐらいならともかく無詠唱だと威力がだいぶ落ちるらしいけど、何でケイは完全無詠唱であの威力なんだろ?あ、完全無詠唱ってのはノーモーションで無詠唱魔術を使うことでね、普通魔術を使うときは手を向けたりしてイメージしやすくするんだ。で、それをしないと威力が落ちやすいんだよ」

「ケイに聞いてみるか」

「簡単だぞとか言いつつ誰も出来ない、とかなりそうね」

「そうだね、話を戻して陣魔術について話すよ。デメリットとしては広域殲滅には向かないこと、後は必ず魔法陣を展開しないといけないから相手に気付かれてしまうこと、正確に陣を書かないといけないことかな。メリットとしては詠唱魔法と比べると威力に対する魔力が少ないことと陣が正確なら誰でも使えることだよ」

「誰でも?」

「そう、ちょっと待ってね」


 そういって魔術師の男は地面に魔法陣を刻む。半径3シムルほどの小さいものだ。


「ちょっとこの上に手を置いてみて」

「おう、おう?!」


 魔法陣のふちから置かれた手に向かって土の縄が伸び、網となって男の手を包む。とはいえ男が手を上げると簡単に崩れてしまったが。


「あれ? 何で発動したんだ?」

「こういう風に陣魔術自体はそれが何かを知らなくても使えるんだよ、今回のは陣の中に何かが置かれたときに地中の魔力を使ってそれを包むって物だけど、この陣を正確に覚えていれば君でもこれを使えるんだよ」

「だからこんな風に地面に書いて魔力をこめておくことで反応型の罠として使ったり、事前に紙とかに描いておいて魔力を通せば即発動とか出来るの」

「戦闘中は魔力で空中に陣を書いて使うけどね、のんきに地面に書く暇無いし。そのときも描いているというより覚えている陣を直接複写して即時発動するもんだけど」

「結局覚えてないといけないのか」

「そりゃそうだよ。でも規則性を覚えていれば改造は簡単に出来るから結構簡単に手札が増えるんだよね。あと詠唱魔術と違って属性適性が無くて使えない属性の魔術も使えるんだよ」

「詠唱魔術師は人を選んで狭く深く、陣魔術師は人を選ばず広く浅くといった感じかしら」

「そういうものなのね」

「なあ、さっき魔法陣を維持するのがムズイって言ってたけどさっきみたいに何かに描いときゃいいんじゃね」

「出来はするんだけどね、消費魔力量が跳ね上がるのよ」

「普通に魔力で描くときは効率いいんだけどね、何かに描いて使うと発動に必要な魔力が増えるんだよ。さっきの陣もあれぐらいだからすぐ発動したけど、あれを書き換えて殺傷能力を持たせたとして、地中から引き出せる魔力なんて高が知れているから発動条件が満たされてから発動するまでに時間がかかるよ」

「だから神級クラスの魔法陣を何かに描いて使うとなると私が何人いるかわからないわね」

「上手くいかねえもんだな」

「あ、そういえば支部長。“魅了技巧”ってなんですか」

「あれ、聞こえてたの?私の二つ名よ」

「そういやAクラス以上から二つ名をつけられるんだったか」

「Aクラスだと全員ではないけどね、S以上じゃないと」

「どうしてその二つ名になったんですか?」

「多重陣魔術を使えるからよ」

「昼間の奴ですか?」

「そう、複数の陣を重ねて使うことで互いに干渉させて全体の威力を上げたり違う魔術にしたりするの。複数の魔法陣の維持と相乗効果が発揮できる魔法陣の構築、これらの技量を認められて私はAクラスになったのよ。上級詠唱魔術よりは威力が有るけど、さすがに神級には威力も範囲も足りないわ」

「あ、じゃあ“疾風両断”てのは?」

「ケイのやつね。高機動格闘戦を得意とし敵を一刀両断することと比較的風の魔術を多用することからつけられたそうよ」

「すっげえ切れ味だったからな」

「俺らには無理だわ」

「さすが常識外クラス」

「そーいやその当人はあのお嬢ちゃんのことをどう思ってんのかね」

「わかんないよね、いっつも無表情だし」

「ノエルちゃんには好かれているみたいだったね」

「その辺どうなのリンド?」

「会話した感じノエルからの好意には自覚が有るみたいだし、憎からずは思ってるんだろうな。もっともあいつがノエルにそういった感情を持ってんのかはわかんね」

「微妙ねー、でもノエルにはあの優良物件を落としてほしいわね」

「ずいぶん肩入れすんじゃん、ネル」

「あんたの娘みたいなもんなら私にとっても娘みたいなもんでしょ」

「…そうだな、その通りだわ」

「惚気んなよー」

「独り身にはつらいわー」

「よっしゃ、こいつらの馴れ初めを根掘り葉掘り聞きまくろうぜー」

『え?』

「よーし、酒の肴は決まったな」

「さあ、キリキリ話しちゃいなさい」

「ちょ?!」

「何で?!」

『問答無用!』


 こうして冒険者の夜は更けていく、酒を飲み馬鹿騒ぎをしながら。それは生きて帰れた安堵からかこの日常もいつか失われるかもしれないという不安を紛らわせるためか、今は何も考えずに酒を酌み交わす。それだけは酒場の酔っ払いと大差なく、とても命を削る冒険者には見えなかった。



 といっても寝る際に見張りを立てる分、腐っても冒険者だったようだが。


魔法:魔法の内、学問として体系化したものを魔術とし、詠唱魔術と陣魔術の二つが存在する。これと固有魔法や精霊魔法のような体系化されていない、魔力を使う力をひっくるめて魔法としている。魔法を使える者は魔法使いと呼ばれるが、魔術を使えるものを特に魔術師と呼ぶ。



予定に無かった魔術談義、本当は次の章でやるつもりだったのになんかキャラが喋り出した。

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