表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第一章:ケイの出会い
11/112

彼女の力と彼の怒り

副題はフラグ強化

 リンドが踵落としを決めていた頃、村の奥のほうに目を向けた村人の一人が悲鳴を上げる。村長とノエル、それに解体場にいた二人は気付いたがそれはあの変異体であった。


「な、何であいつがここに?!」

「村の塀を越えて来おったか?!! ええい、皆逃げるんじゃあ!!」


 村人達は今まで見たことが無い存在に恐怖し逃げ出す、ただ数名がその恐怖に飲まれ足がすくんでしまう。そのことに気付いたノエルは彼らの前に立つ。


「ノエル?!」

「村長は皆を避難させて下さい、ここは私が戦います」


 自身の固有魔法を使い向かってくる変異体に向かって壁を展開する。変異体はそのまま不可視の壁に激突し何が起きたかと困惑する。目の前に何かがあることに気づいたそれは咆哮を上げつつ腕を振り下ろす。しかし火球やその豪腕を受けても障壁は壊れる様子を見せない。


(このままだと壁が壊れなくてもあっちが回り込んでくる、だったら…!)


 ノエルは障壁を魔物の四方に展開する。そのことに気づいたのか魔物は己の周りをやたらめったにたたき続ける、その障壁は変わらず壊れるようではないが、それを生み出したノエルは妙な疲労感を感じていた。


(え、なんでこんなに…、もう持たないの?)


 ノエルは未だに気付いていないが、彼女の魔法が生み出す障壁は使い捨てではなく魔力ある限り存在し続けられるタイプである。障壁が壊れないのは正確にはその硬さではなくそれが攻撃を受けるたびに張り直され続けているからだ。そのため障壁に攻撃を当てられ続けると彼女の魔力がどんどん減っていく。彼女の固有魔法は相手を閉じ込めるという点では最も向いているとも最も向いていないとも言える。彼女もそのことには気付いていなくても、誰かが来るまで持ちこたえることは無理なんだろうということに薄々と感じだす。


(これ以上はきつい…! やるしか、ないの?)


 ノエルはあの時以来使っていなかった障壁を使った攻撃をすることを決意する。四方の障壁を中心部に向かって進めていく、腕がべきべきと折れる音、魔物の怒りのこもった咆哮が彼女の耳に飛び込んでくる、それと後ろから恐怖の声も。


「ひっ!」

「あ、あんなことができるなんて」

「やっぱりあいつは呪い子なんだよ!」


「え…?」


 後ろを振り向くとそこには逃げる足を止めた村人達が自分に恐怖と敵意のこもった眼を向けている。その目を見たノエルの体が固まる。


(助けているのに、あなたたちを助けるために使っているのに、あなた達は私を認めてくれないの?わたしはのろいごなの?だれにもすかれないの?)


「ノエル!! 後ろじゃー!!!!」

「あっ…」


 村人たちの視線に心を鈍らせた彼女は障壁を展開するのを止めてしまっていた。障壁から逃れた魔物は両腕から血を流し、それが壊れているにもかかわらず残った大きな口をあけつつ自らをこんな姿にした人間に向けて駆ける。リンドの声で振り向いたノエルはとっさに障壁を張る余裕は無い。時間が少しずつ遅くなっているのを感じるが、彼女の体は時間から取り残されたかごとく動かない。


「お父さん、ケイ、さ」







「一刀二閃、十文字斬」 


 魔物体に十字の線が走る、魔物が崩れていく向こうには、




「待たせたな、よくやったノエル」

「…ケイさん…?」


 いつも無表情で尊大で常識はずれの力を持つ男が、初めて見せるクールな笑顔を浮かべていた。



「ノエル!! 無事か?!」

「あ、うん」


 ノエルの元に走ってきたガンドがノエルの腕をつかみ問う。彼女に怪我が無いことを確認したガンドは彼女を抱きしめ泣き出す。


「おお…、よかった。本当に良かった…」

「村長…。ごめんなさい、心配かけて」

「いいんじゃよ、おぬしが無事であればの」

「ノエル! 村長!」

「父さん、無事か!?」


 村の入り口からシェル、リンド、シールの三人が走ってくる。ガンドに抱きしめられたノエルの姿を見て目を白黒させるが近くにある魔物の死体を見て納得し、ケイの姿を見て疑問を持つ。


「ケイ殿!? これは一体何が?」

「シェル殿か、こちらに紛れ込んだ魔物をノエルが受け持っていたようだ。最後は危なかったが何とか間に合った」

「ノエルが?!」

「ケイ、あなたどうやって私達より先に?」

「私は飛行魔術が使えるからな」


 ケイはあの場所で休息を取った後、回復した魔力で飛行魔術を行使し全速力で村まで戻ってきたのだ。使う人間を限定する魔術ではあるが使うものが使えばかなり高速で移動することが出来る。そのためケイは先行した帰還部隊に追い着くことが出来たのだ。


「飛行魔術も、じゃないの?」

「実は私はたいていの魔術が使える」

「でしょうね、まったく。そういえばあなたハザード級は?」

「空中で焼き尽くした。魔石は取れなかったが仕方あるまい」

「あのタイプのハザード級の魔石はそれ単体で軽度の魔力溜りが発生してしまうからどっちにしろ壊してしまうからね、かまわないでしょう。討伐証明は私がやるし」

「そういやさっきの青いなんかはあんたの仕業か?」

「神級魔法のことか」

「神級って…、さすがSSだな。あ、自己紹介してないな。俺はBランクのリンドだ」

「SSのケイだ」

「おう、よろしく」

「ケイ殿、娘を助けていただいたようで感謝いたします」

「いや、私の判断ミスを挽回したに過ぎん。ハザード級がいる可能性を考えておきながら対応が後手に回ってしまった。最初から私一人で森に向かってその他全員をここの防衛に回せばよかった」

「その判断を最終的に下したのは私です。それにその可能性を示唆されても私は同じ決断をしたでしょう。そもそもここに変異体が来たのは私達のミスです。リンド村長、ノエルさん、申し訳ありません」

「いや、あなた方は我等のために戦ってくれたのです。そこに文句など」

「おい、あんたら何をやっていたんだ!?」


 リンドとシールの会話に一人の男性が割って入る。


「ギュール、一体何を」

「あんたらがきちんと仕事をしないから俺達は死にかけたんだろう?! それを謝って済ませる気かよ?! ふざけんじゃ」

「黙れ」


 ケイの口から重く凍えるような声が響く。男はその発言にカチンときたのかケイのほうに向き直るがその鋭い視線と殺気に飲まれ顔を青ざめる。


「命をかけてその使命を達成した戦士たちを貴様ごときが詰ることなど許さん。そもそも貴様がこれでどんな被害を被った? 貴様は自分達を小娘に守らせておいてそれを裏切っただけではないか。死に掛けた? ふざけるな、それを貴様が言う資格は無い。むしろ貴様らは殺しかけたのだ。呪いなどというもので一人の娘をな。むしろ呪われているのは貴様らのほうではないのか。貴様らの心は身を挺して人を守る者すら信じれないという呪いにかかっているようだな、あやふやな言い伝えよりも目の前の現実を見れない貴様らには遠からず滅びを迎えるだろうな」


 ケイの体から広がる濃厚な殺気、もはや男はケイの言葉など聞こえていないだろう。ケイもまたそれを理解しつつ意味も無く言葉を吐き出す、珍しく理性ではなく感情に思考を任せて。


「そこまでよ、ケイさん」

「…シール殿か、わかっているさ。はっきり言って今回はこちら側の失態だ。こんなもの自分のことを棚にあげた自分にとって都合のよい言葉だ。だがな」







「友人の心を踏みにじったものを許せるほど、私は人をやめてはいない!!」


 珍しく、ケイは今ここにいない彼の友人ですらめったに見れないほど感情をあらわにした。





 

疲れ果てたノエルを村長の家の中に運び込んだ後、村の入り口近く冒険者達が休息場としているこの場所で、ケイとシェルもまた用意された飲み物片手に一息ついていた。


「ケイ殿落ち着かれましたか?」

「ああ、シェル殿。まったく私もまだ未熟か」

「いえ、ケイ殿が怒ってくれて助かりました。…あれはわざとですね?」

「…気付いていたか。別に怒りを覚えていたのは本心だがな、わざと感情に身を任せた。私があの場をうやむやにしなければ貴公はあの阿呆を殺していただろう?」

「ええ、娘のあの姿を見ればどれだけがんばったのか、どれだけ傷ついたかなど察せぬ私も気付きます。あの子をあれほど傷つけておいてのうのうと吠える奴を見たときに剣に手をかけておりました。あそこでケイ殿がああしてくれなければ私は」

「それよりも貴公にはやることがあるぞ」

「?」

「娘を褒めてやれ」

「…はは、そうですね、そうします」

「ああ、待て。これを持っていけ」

「っと、これは魔力回復剤?」

「どうやらノエルは魔力切れ寸前のようだ、飲ませてやれ」

「では遠慮なく頂いていきます。後でケイ殿もノエルを褒めてやってください」

「ああ、そうしよう」


 シェルが去った後入れ替わりでリンドがやってくる。


「リンド殿か、どうした?」

「俺からもあんたに礼を言っておこうと思ってな」

「ノエルのことか」

「ああ、あの子が父さんにとって孫みたいなものであるのなら俺にとっても娘みたいなもんだからな。あの子を助けてくれてありがとう」

「友人のために体を張るのは当然だろう」

「友人か、うれしいね。あの子にはここに来てから友達なんていないだろうから。これからもあの子の友人であってくれるか?」

「無論だ。しかし彼女はこれからどうするだろうな」

「父さんに聞いた限りだとやっぱ村の皆があの子を受け入れることは無いだろうし、さすがに居を移してくれると思うよ。むしろこっちからの勧誘がヤバイ」

「消耗が激しいとはいえ一人であれを押さえ込んだからな、冒険者としてはほしい人材か。不躾な真似をする輩はおらんよな?」

「ああ、あんたの仲間だって伝えておいたからな。さすがにSSの仲間にちょっかいをかけるほどの馬鹿はいないさ。それにあんたは俺らのためにも啖呵を切ってくれたからな、あんたに迷惑はかけないさ」

「勝手に人の名を使うな。まあそれで良かったからかまわんが」

「すまないな。それとノエルがあんたに会いたがっている、向かってやってくれ」

「今は親子団欒のときではないか?」

「父親より惚れた男だろ?」

「まだそこまでは行っていないと思うが」

「時間の問題だからむしろ加速させようかと」

「おせっかいだな、まったく。まあいい、行って来よう」

「おう、幸せにしてやってくれ」

「色んな意味で今貴殿が言う台詞ではない」


 ケイが村長の家の中に入ると椅子に腰掛けたノエルとシェルがいた。ケイが入ってきたことに気付くとシェルは立ち上がる。


「ケイ殿どうぞ、私の話は済みましたから」

「かまわん、このままでいい」

「いえ、どちらにしろ私はリンドのところに行くつもりでしたから。では後をお願いします」


 そのままシェルはケイの横を過ぎるとき彼にだけ聞こえるように囁く。


「(ノエルを支えてあげてください)」

「…それは貴公の仕事だろうに」


 苦笑するような感じで呟きつつ、ノエルの対面の椅子に座る。


「ケイさん」

「ノエル、よくやったな。君は私が来るまで耐え抜いた。君の力は守る力だ、私が保証しよう」

「…あ、ありがとうございます」


 静寂。ノエルは今の思いを言葉に載せて良いかわからずに沈黙し、ケイは語らずあえてノエルの言葉を待つ。どちらもが何も語らずに時が過ぎる。どれほどの時が経ったであろうか、ノエルがその口を開く。


「…ケイさん、私にはあれが守る力には思えない、信じることが出来ないんです」


 ケイの登場で輝いたノエルの顔が再び沈む。先ほどから考え続けていた自身の力の本質、実の父親にすら話せずかつてケイにのみ投げかけた力への恐怖、今の彼女はあの時出さなかった結論を出してしまいそうになっていた。


「……」

「私は必死で守ったのに、皆は認めてくれなかった。皆私を呪い子だと言って私を怖がっていました。私だってあんなことはしたくなかった、あんなことでしか私はあれに勝てなかった。だから、だからそうしたのに…! 好きであんな倒し方するわけない、なのに!」

「落ち着け」

「私の力は人を」

「落ち着け」


 テーブルの上で硬く握り締められたノエルの手、それにケイの右手がそっとかぶさる。


「ケイさん?」

「認めよう」

「え?」

「私が認めよう、ノエル。君は正しいことをした。君は皆を守った。君は優しい心を持っている。君は過去を乗り越える力を持っている。君は決断を出来る強さを持っている。君は決して呪われてなどいない。君が自分を信じられないなら、この私を信じろ。私は決して間違ったことなど言わない。君が私を信じる限り、私は君に私が間違っていないことを証明し続けよう」

「ケイさん…」

「だからこそノエル、私の友人を、私が認めたノエルを信じろ」

「…はい、…はい!」


 ノエルの顔に笑みが戻る。彼女の頬を涙が伝う。あえてその涙を拭わずにケイは左手でノエルの頭をなでる。限られた人にしか見せない優しい笑みを浮かべる。今このときだけはいつものケイとしてでなく、目の前の友人が前を向けるように素直に心をさらそう。そう思いつつ、無粋者達に向けて呟く。


「…私相手に覗きとは良い度胸をしているものだ」

「何か言いました?」

「いや、こういった役回りは私の専門ではない、とな」

「そう言って実は何人も女性を泣かせたりしているんじゃないですか?」

「それは我が友のほうだな」

「我が友?」

「ああ、私にとって無二の親友でな。あいつは…」


 何か外が騒がしい気もするが、ノエルは気にせずにケイとの会話を楽しんでいた。


固有魔法:人それぞれが生まれながらにして使える魔法。一度発現すれば誰に習わずとも使えるようになる。発現の場はそれぞれで日常のふとした瞬間に発現する事も有れば命の危機に発現することもある。その内容も十人十色でほとんどがたいしたことが無いもので、攻撃に使えるものは珍しい。


冒険者の名乗り:冒険者達は冒険者として活動する際は基本的に家名を名乗らない。理由は冒険者の資格は貴賎問わず誰しもが持っているという考えの下に有るり、貴族も家名を失ってしまったものも変わらずに同じ命を持つ人として扱うことになっているから。なので貴族のボンボンが冒険者となって家名を振りかざしたりすると高位クラスによって教育されることも有る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ