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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第五章:勇者の召喚
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車上の会話

副題は、黒剣と双剣

「…のう、主様よ」


 ノックス北部、そこにある森に向かって走る一台の車があった。その運転をしているソフィアが助手席のユウに声をかける。


「んー?」


 周囲の調査警戒のため外に視線を向けているユウであったが、ソフィアの声に警戒を怠らないまま意識の半分ほどをソフィアの方へと向ける。


「ライカのことなのじゃが」

「んむ、何が聞きたい?」

「性格と、主様との付き合い……まあ、今はそんなところで良いか」

「なるほどねえ」


 ソフィアの問いにユウは顔を動かし彼女の顔を一度見る、その後再び外に視線をやりながら彼は口を開く。


「性格に関しちゃあんな感じだな、表面上は冷静でおとなしい奴なんだが唐突にぶっ飛ぶ。まあ変なことをしなけりゃアイツから喧嘩を売ってくることはないだろうよ。あ、ギルドのでのことは別な? アイツは俺についてのことなら特にぶっ飛ぶからな」

「で、あろうな」

「それと付き合いだったか、アイツとはええっと…14年前に会ったことになるのか。親を亡くしてさまよっていたアイツを拾って適当に世話をして、それで…9年前か、契約をした。その後は数年一緒に旅をして一人旅も出来そうなぐらいになったから放り出した、何事も経験だからな」

「何ともコメントに困る経歴だのう。…つまり、ライカにとって主殿は恩人ということになるのか?」

「そんなところだろうな」

「暴走もそれゆえか」

「ああ、アイツは俺への恩もあって、自分で言うことでもないが、俺に心酔しているからな。前に聞いたことがあるが、ライカにとってこの世界は俺とライカとそれ以外しかないんだと。ま、だから一度放り出して世界を見に行かせたんだがな。ここ数年の一人旅でそれがどう変わったものやら」

「ふむう…」

「どうにも変わっていないっぽいのが何ともなあ。俺に絶対服従なのは別に問題じゃねえが、あちこちに無駄に噛み付くのはちっとばかし面倒だ」

「絶対服従とは、また大したものじゃのう」

「自分で言うことじゃあねえが、それだけアイツは俺に惚れこんでいるからな。俺が命令すればなんだってやるだろうな、それこそどんなことであってもだ」

「だがその気はないのであろう?」

「当たり前だっての、アイツは俺だけのものだからな。どんな形であれ他のやつとは繋がりを持たせんさ、これがな」

「なるほど、のう…」

「ま、上手く付き合ってやってくれや。結局のところお前もアイツも俺のモノってことは変わらんのだから」


 顔こそは見えないがおそらく笑顔を浮かべているのであろうユウに、ソフィアはため息をついた後同じく笑みを浮かべる。


「…やれやれ、そう言われてはどうしようもないな。…しかし、そんなことを言われるとは思っていなかったのう」

「くっかか、俺は勝手なのさ」

(惚れた弱みだな、まったく)


 笑い声を上げる己が主に素直に負けを認め苦笑するソフィア、しかしその顔はすぐにキリと引き締まる。


「主殿」

「分かっているさ、よっと」


 そう言ってユウは飛び上がって車のボンネットの上に立ち、その視線の先の獲物を狩るために構える。


「運転、頼むぞ」

「ああ、任された」


 よりいっそうスピードを増したその車は、その先にいる走る冒険者たちとそれを追う二体の黒水晶の元へと走った。




 対してその反対方向から同じく北部の森へと向かう一台の車両があった。そのユウの所有する予備車に乗っているのは運転手であるライカと、助手席で同じく警戒をしているナルであった。あまり軽口を叩き合うようなタイプではない二人であるのでどちらも口を開かず任務に集中していたのだが、常にしては珍しくライカが口を開いた。


「ナル様、警戒中申し訳ありませんが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「ん? 何かな?」


 珍しい、そう思いながら対応するナルに対し、ライカは淡々と声を出す。


「ソフィアのことです」

「ああ、それは気になるよね。実は少し前に別行動をとることになってね、その時にユウが契約したらしい。だから出会った時とかの事は詳しく知らないんだ、ごめんね」

「いえ、お気になさらず」

「性格とかに関しては、ユウに似ているかな。彼と一緒で酔狂で派手好き、だからかなり馬が合っているようだよ」

「そうですか」


 そうライカは無表情のままナルの言葉を受け取る。それがいつもの彼女の反応であるので別段不思議ではないが、ナルは彼女の顔を横目で見ながら口を開いた。


「…気になるかい?」

「はい、仮にもご主人様にお仕えする仲間なのですから当然です」

「まあ、だろうね」


 気にならないわけだない、そう思うナルにライカは視線を向ける。


「なに?」

「驚きました」

「え?」

「ナル様がそういうことをお聞きになるとは、少々意外でしたもので」


 対人関係のそれにはあまり踏み込むことのない彼がわずかとはいえ言及したことに、表情には出していないがライカは驚いていた。自分が行動をともにしていた時の彼であれば伝えて終わりだっただろう、だから今の彼の反応は少しばかり意外であったのだ。


「ああ……ちょっと、僕も考えることがあってね」

「そうでしたか、良き選択を選ばれることを願わせていただきます」

「ありがとう」


 良き変化でありますよう。そう思うライカであったが、その視線の先にあるものを見咎めたことによって思考を切り替えることとなる。


「…ナル様」

「分かっているよ、ユウたちも見える」

「どう致しますか?」

「…あちらに合わせる、運転は任せるよ」

「畏まりました」


 黒水晶たちのさらに先に見える友人と同じように、ナルは車のボンネットに立ち構える。




 二台の車は、ある一点に向かって走っている。


「来いよ、黒剣!」


 片方に乗る男は黒い大剣を呼び出し、横一文字に構えて待つ。


「来い、双剣」


 もう片方に乗る男は黒と白の双剣を呼び出し、剣先を下に向けたまま立っている。



 ぐんぐんと迫る二台の車、その距離が徐々に縮まっていく。




 そして、


『!』


 その瞬間、二人は飛び出した。




「うおりゃあ!」


 その巨大なる剣は、見事その黒き体を剛断する。



「ふっ!」


 その美しき双剣は、見事その黒き体を両断する。




 ドドン!! と二体の巨体が地面に倒れ伏す音を聞いてようやく冒険者達は後ろを振り向く。そこには先ほどまで自分達を追って来ていた二体の化け物が事切れていて、代わりに二人の男が立っていた。


「大丈夫かい、君たち?」


 その両の手に剣を携えた男と、


「俺らが来たからにはもう安心ってね」


 その肩に大剣を担いでいる男。


「…ああ、恥ずかしい。ユウに悪乗りするじゃなかった」

「おいおい、こういうのが格好いいんじゃないか」

「僕は君ほど派手好きじゃないんだよ、まったく」

「くっかか、そいつは残念だっと」


 なにやら楽しげに漫才を始めた二人の姿に、冒険者達は思考も回らぬままに深く安堵を覚えるのであった。


 ではまた。

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