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ラクセイリアの一人と二人  作者: 轟 響
第五章:勇者の召喚
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黒水晶

副題は、かつての戦場


 そして思ったほど待つこともなく先ほどの彼女とともに一人の男性が走ってくる。途中で多少の事情は聞いたのか彼はケイ達を見て頭を下げる。


「アンタが?」

「ああ、私がこのノックスのギルドマスターだ。ケイ殿、ユウ殿、ナル殿。うちの者が迷惑をかけて申し訳ない」

「謝罪は後だ、今は手早く問題を解決しなければならない」

「一体何が起こっているのだ? 彼女の言い分では良く分からんのだ」

「やつら、あの黒水晶どもがこの近くにいる可能性が出てきたのさ、これがな」

「!? それは本当か!?」


 ユウの説明にギルドマスターは目を見開き驚愕する、それほどまでに黒水晶という存在は恐ろしいということであろう。


「彼らがそれらしきものと相対したようです、残念なことにすでに被害も出ているようです」

「……ケイ殿、ユウ殿、ナル殿。緊急依頼を受けてもらいたい」

「承知している、我らの全力をもって奴らを殲滅してみせよう」

「すまない」


 苦悶の表情を浮かべながら搾り出すように言われた言葉にケイは自信溢れる顔で受け止める、そのことにギルドマスターは安堵のため息をつく。


 正式に受けることとなったことを確認したナルは報告してきた青年たちに視線を向ける。


「君、奴を見たのは何処だい?」

「北の森だ、その中に奴らは居た」

「北の森か、他で目撃証言などは上がっているか?」

「少なくとも俺は聞いていない、おい」

「あ…、ええと、おそらくなかったかと」


 ギルドマスターの問いに受付の女性は首を横に振る、それを見ていた報告してきた青年の一人が自信なさげに口を開く、


「えっとだな、奴は森を抜けたら急にこっちを追ってこなくなったぞ? だから逃げられたんだが、もしかしたら」

「森を出ない、もしくは出られないという可能性がある、か」

「だとしたら、他には居ない?」

「どうして出ねえのかってのも気にはなるがな、どうする?」


 ユウの問いにケイは僅かばかり考え込んだ後、ナルとユウの目を見ながら告げる。


「…我が友、ナル。お前達は街の周囲も含めて偵察をしてこい、もし誰かが襲われでもしていたら救助しろ。状況が判明ないし状況が動き次第魔具で連絡を」


 そのケイの指示に疑問をはさみもせず二人は頷く。


「分かった、じゃあ僕は南部から東部をまわって北に向かうよ」

「だったら俺は西部をまわっていくか。ソフィア、お前は俺と一緒に、ライカはナルと一緒にサポートをしろ」

「承知したぞ」

「畏まりました」

「それとザインはここに残ってダチ公のサポートな、元シュタットのサブマスターの能力を存分に発揮しろ」

「分かりました」


 シュタットのサブマスターという言葉にギルドマスターの眉が動く、そして気絶している自分のギルドのサブマスターを見た後ザインに手を伸ばす。


「ではうちの馬鹿の代わりに働いてもらうか、期待しているぜ」

「はい、頑張らせてもらいます」


 その手を握りながらザインも深く頷く、戦いではナル達に一歩も二歩も劣るがそれならそれで自分の得意分野で戦うのが自分の役目だと分かっているのであろう。


「では行って来い、上手くやれよ」

「うん、行って来るよ」

「土産に期待しとけ」



 ユウたちを見送った後ケイはギルドマスターに向かって口を開く。


「ギルドマスター、今動かせる冒険者のうちC以上は何人ほどだ?」

「Cが19、Bが21、Aが8ここに所属していたはずだ」

「…足りんな」


 現状の戦力を聞いたケイはそう判断する、その程度では自分達がいても押しつぶされる可能性があるということか。


「いくら大都市でもこの程度が普通だ、…耐え切れないと思うか?」

「あちらの規模が分からん以上なんとも言えん、万が一零の戦場クラスであればどうしようもないだろうな」

「…そうでないことを祈るしかないか」

「あの」


 ケイとギルドマスターの会話を黙って聞いていたミチがおずおずと手を上げながら口を開く。


「何だ?」

「零の戦場って、なんです?」


 彼女の疑問の声に周りにいた冒険者を含めたその場全員の視線が向けられる、その視線は驚きであったり呆れであったりだ。


「アンタ、そんなことも知らないのか?」

「彼女は田舎の出身でな、世情には疎いんだ。ノエルも知らんか?」

「あ、はい。私は名前くらいしか」

「そうだったか」


 でも、と言葉が漏れる。誰かと思えばそれは報告に来た青年の一人の声であった。


「そもそも何で今零の戦場が出てくんだ? あれって確か何処かの国が魔物によって滅ぼされたって話だろう? それがどうして」

「君達が見た化け物、通称黒水晶こそがかの零の戦場においてギエルという国を滅ぼし、そして数多の命を奪った怪物だからだ」

「なっ!?」

「俺たちは、そんなものと…」


 自分達が遭遇した怪物の正体に青年達は驚愕の声をあげる、それは周りで聞いていた若い冒険者達も同じであり、初めの青年たちの報告に反応した冒険者達はみな眉をひそめるか苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「黒水晶については緘口令がしかれているからな、お前らが知らないのも無理はねえ。あれを知っているのはギルドのごく一部と実際にあの戦場に立った者達ぐらいだろう」

「どんな戦場だったんですか」

「…そうだな、我が友たちから連絡が来るまでの間に少しばかり説明しておくとしよう。ギルドマスター、貴方はその間に可能な限り冒険者を」

「ああ、ギルド総動員で集める」

「…さて、何処から話そうか」


 そう前置きして、ケイは話し始めた。




 かつてペルアと呼ばれた国があった、首都と四つのみある大都市を中心とした小国だ。さして特徴のある国ではなかったがまあそれなりに他国とも付き合っていけた国だったな。


 ただ、その国に不運が訪れた。突然何の前兆もなく首都に数多の怪物、黒水晶が現れたのだ。奴らは数ある魔物たちのいずれかと同じ姿を持ち、オリジナルと遜色ない戦闘力で王都を殲滅せしめた。首都を失い、他を纏められるだけ力のある大都市ものなかったペルアはそのまま壊滅した。


 そして残ったのが黒水晶たち、破壊のみを目的とした無数の怪物だった。そのまま放っておけばラクセイリアにどれ程の被害が出るかは分からない、だから私達冒険者に緊急依頼が下された。


 戦いは焦土となった王都を中心として行われた、その異常なまでの数と戦力に多数の犠牲者を出しつつも高位クラスの活躍もあって黒水晶は全滅させることが出来た。結果として一国が消滅し多数の犠牲者を出したその戦いは零の戦場と呼ばれるようになったんだ。


 これが、零の戦場と呼ばれた戦いの大まかな説明だ。


 ではまた。

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