ノックス到着
副題は、面白いこと?
そんな前方を走っている二台のバイクについて走る自動車、これまた言うまでもなくユウの所有する魔道四輪車なのであるが、前を二台に譲っていることから分かるとおりいつもよりも運転がおとなしい。持ち主であるユウは適当にスピードを出すほうであるし、最近ハンドルを握ることが多いソフィアにいたっては常に爆走運転状態だ。であるのに、今はおとなしいということは…。
「よっと、いい感じにコツがつかめてきましたね」
「のう、ザインよ。そろそろ妾に交代してみんか?」
「貴方の運転は荒っぽいから嫌です、このまま私が運転します」
とまあ、こういうわけである。念のため全員運転が出来た方が良いということで今はザインが運転手の練習をしているのである。その運転は初めてということもあってか素直でおとなしい、…まあある意味ではソフィアの運転も素直だと言えるのだろうが。どうでもいいが、ソフィアは初運転時から爆走であったということを付け加えておこう。
「むう…。主殿、妾に交代させてくれんか?」
「…あ? 交代?」
「そうじゃ」
「…駄目、今お前に運転させる理由が無い」
「残念じゃ」
「…」
今のソフィアとの会話で分かるかもしれないが、今朝からユウの反応が実に悪い。朝から左手を閉じたり開いたり、時折甲をじっと見ながらずっと何かを考え込んでいる。
「…主殿、今日はどうしたのだ?」
「ん…、ちょっとな」
いい加減ちゃんとした反応が欲しい、そう思ったソフィアがそれを指摘するがどうにも歯切れが悪い。何か懸念事項でもあるのだろうか、などと思ってしまうがユウの表情は何故か気色に満ちている。どう見ても何かを危惧しているような男の顔ではない。
「?」
つまるところ、ユウが何を考えているのかがソフィアにはさっぱり分からなかった。だがソフィアの問いで外に目を向ける気になったのか、彼は顔を上げてニヤリと笑う。
「いや、ちょっとじゃないか。かなり面白いことになるかもしんねえな」
「何じゃ、その面白いことというのは?」
「行けば分かるさ、ノックスにな」
「はあ、そういうことならこのまま向かえば良さそうですね」
と、一応気にはなっていたので聞き耳を立てていたザインはそう言って少しばかり車の速度を上げ、前を走る二台を追いかけるのであった。
そして一時間弱程経ったころであろうか、ようやく目的地である大都市ノックスの外壁が視界に入って来た。そのまま少しばかり進んだところで一行はバイク、車を停車させアイテムボックスに収納する。そうするのは勿論このまま車で乗り付けて目立つのを避ける為である、…まあ、それなりの人数である一行が馬車の類もなく歩いてくるというのも多少は目立ってしまうが。それはともかくとして、ナル達一行はノックスまでの残り道を歩いて向かうのであった。
少しばかり歩いたところで一行はノックスの門前まで辿り着く、ちょうど時間が良かったのか大都市にしてはその門の前で待っている人数は少ない。その短い列に行儀良く並んで十数分、そこまで待つこともなくナルたちの番がまわってきた。門番は彼らが纏めて一組であるとは思っていなかったのか少しばかり眉を動かすが、さして問題は無いと常の業務を成そうと口を開く。
「これはまた大人数だな、すまないが一人ずつ身分証明を」
「いや、その必要は無い」
門番の言葉を遮りケイが代表して自身のギルドカードを見せる、何事かと思って彼のギルドカードを注視する門番であったがそのカードの意味することを理解して目を見開いた。
「これは…!」
「問題ないな?」
「…はい、何の問題もありません。どうぞ、お通りください」
「感謝する、行くぞ」
問題などあろう筈も無い、何故ならそれだけの力を彼らは持っているのだから。こうして、彼らは新たな街、東部にある大都市、ノックスの中へと足を踏み入れるのであった。
さすがは大都市のひとつというべきか、王都ほどではないがティーラウスなどと比べるとノックス内部ははるかに活気に溢れている。その人ごみとそこらにある異国情緒のある建物に視線が向くが、ナルがポンと手を叩いて皆の注目を集めて口を開く。
「とりあえず、ギルドにでも向かう?」
「そうだな、いずれ門番から連絡がいくだろうと考えれば先んじて顔を見せておいた方がいいだろう」
「じゃあそうするかね、全員で行くか?」
「たまにはそれでいいだろう、急ぎ宿を探さねばならないというわけでもない」
「だな」
「それじゃあ、皆行こうか」
少しばかり歩いて一行はノックスのギルド前まで来る、特にイベントも起きず平穏に辿り着いた一行は早速ギルドの中に入る。
「私達は話を通してくる、君達はこの辺で待っていてくれ」
「はい」
さて、どうやって暇を潰そうか。そんなことを残っているメンバーが思っているとギルドの戸が開く音がした、思わず残りメンバー全員そろってそちらに目を向けてみればそこには一人の女性が立っていた。銀髪、いやむしろ白髪であろうか、その白い髪に黒い瞳を持った女性。まるでメイドのような、一見冒険者にはとても見えない格好をした彼女は、その顔に分かりやすく喜びの感情を露にしていたが、ふとその表情を無にして、入ってすぐのところに立っていた一行に視線を向ける。
「…」
「何でしょうか?」
妙な格好だが確かな実力があると悟ったザインは前に出て彼女に声をかけてみるが、彼女はザインの言葉に反応せずそのすぐ横にいたソフィアを見て口を開く。
「貴方は…」
「…どうかしたのかの?」
何者だ、表面には見せず警戒するソフィアに対し彼女は目を閉じ、ふぅと息を吐いた後。
「……試させていただきましょう!」
「!!」
驚くべき速度でソフィアへと襲い掛かった。
はい、またもや短いですがきりがいいっぽいので今回はここまでです。ではまた。




