駆逐
未だに彼のスマホには元カノとのツーショット画像がたくさん残っていることを私は知っている。そして未だに彼の口から元カノの故郷の方言がこぼれ出ることを私は知っている。未だにカラオケでは元カノの18番を歌わされ、未だに元カノがよく通ったバーに連れて行かれる。
つまり未だに彼は元カノのことを忘れられずにいる。
太陽は12時間前に姿を隠し、再び光を見せるのは2時間後。
私は横にいる彼の寝顔を黙って見つめていた。ただただ無防備な顔。こいつ分娩室で母親からさっき産まれたんじゃないか?
安定した暗闇が静かに、ただある。遠くから届く微かな街灯の光がカーテンのない窓から室内を物色していた。潔癖性というには詰めが甘いしゴミ屋敷というには神経質な部屋のありさまである。
さぁ、これからやらなければならないことがある。
彼の頭の中から元カノを払拭しなければならないのだ。
出来るか? と私は自問する。
出来る。即答だ。
私はこれから自らの真摯なる人間性をもって彼の肉体と頭脳を占領していくことになる。
人類の歴史が始まって以来夜ごとの出来事。毎朝の恒例。
さあ、日が昇る。一日の始まりだ。
準備は出来ている。
そうして彼は寝ぼけた表情で目を覚ます。
私は昨日と全く変わらない口調でこう言った。
「おはよう」と。