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第21話 両手に女勇者 (2)

 じぃっと、アスカは目の前の人物を見つめた。

 にこにこと笑いながら、美味しそうにシチューを口に運んでいる。


 何故か苛立つ自分の気持ちに説明が付かないまま、アスカは苦々しく口を開いた。


「なんで、リスティ隊長がいるんですか」


 その言葉に、褐色の少女はアスカを見やる。


「お前たちには迷惑かけたからな。特にユートには無理をさせてしまったし、看病しようと思って」


 そう言うと、リスティは悠斗の方へにこっと笑った。悠斗も、どう返せばいいのかと苦笑する。

 ぴきりと、アスカのこめかみに青筋が走った。


「ひ、必要ないですっ! ユート、結構ぴんぴんしてますしっ! なんなら私が看病しますっ!」


 がたりと立ち上がったアスカに、サシャを含めた全員がアスカを見上げる。拳を握りしめたアスカは、その視線に気づくと恥ずかしそうに座り直した。


「だ、だいたい。姫様の護衛はいいんですか? 近衛隊長が、こんなところで油売って」

「ああ、その点は大丈夫だ。別に、常に姫様の隣に居るわけではない。今日は非番だよ。姫様には今、副隊長が付いている」


 もぐもぐと匙を口にくわえながら、リスティが説明する。何となく意外な気がして、悠斗はリスティに話しかけた。


「へぇ、そうなんですか。僕はてっきり、いっつも隊長がくっついているものだとばかり」


 悠斗はリスティの王女に対する想いを知っている。そんなリスティのことだから、常に姫様の部屋の前にばかり居るものだと思っていた。


「……ははは。その、これには訳があってな」


 悠斗の質問に、リスティが言いにくそうにそっぽを見る。アスカも、頭の上に疑問符を浮かべてリスティを見つめた。


「最初、近衛隊長に就任したときに、その。……くっつきすぎて」


 たらぁと汗を流すリスティに、悠斗はああなるほどと目を細める。呆れたような悠斗とアスカの視線に、リスティは言い訳がましく口を動かした。


「い、いやしかしだな。あたしの任務には『姫様』の護衛と、そう書いてあったんだ。姫様自らの任命状にだぞ? それに、ちゃんと『いつ如何なる時も貴女をお守りします』と誓いもたてた。あたしは自分の責務を果たそうとしただけだ」


 まくし立てるリスティに、悠斗の笑顔が崩れる。何となくリスティの株が崩壊していくようでいたたまれない。いやまぁ、あんなとこを見たときからそういう意味での株は急落しているのだが。


「……具体的には、何したんです?」


 じっと、悠斗とアスカがリスティの顔を覗き込む。サシャも、ちらちらとリスティの方を見やった。


「そ、そんな変なことはしてないっ! 姫様の行くところに常に付いて行ってただけだっ!」

「ですから、具体的には?」


 悠斗の緩めぬ追求に、うぐっとリスティが言葉を詰まらせる。さらに深い視線の追撃に、リスティはついに観念したように口を開いた。


「お、お風呂とか。……寝床? とか」

「それだけじゃないでしょう」


 悠斗の声に、リスティがびくりと震える。まるで罪人を見るような三人の眼差しに、リスティはぷるぷると震えた。


「と、トイレも……」


 漏れた言葉に、悠斗は細いため息を吐く。アスカとサシャが、うわぁとした瞳でリスティを見やった。

 何してるんですかと、悠斗はがみがみとリスティを叱りつける。


「変態ですか貴女はっ!!」

「へ、へへへ変態じゃないっ!! ちゅ、忠義と言えっ!!」


 もはや涙目なリスティは、ぎゃあぎゃあと悠斗に食ってかかった。恋に不器用すぎる勇者様は、どうやらとんでもなく気持ちのセーブが苦手らしい。


「えと。……それで、姫様の護衛を外されたってことですか?」


 騒ぐ二人に向かって、アスカがおずおずと手を挙げる。それに、リスティが悲しそうな顔で振り向いた。

 しょんぼりと、それはもう切なげに肩を落とす。


「そうなのだ。何故かある日、姫様がご乱心なされてな。あたしを日常の護衛の任務から外した。……それ以来、あたしは公的な式典や遠出の際の任務しか任されていない」


 ううっと、リスティの目に涙が滲む。今でも王女の怒号はリスティの心の傷だ。


 そんなリスティを見て、アスカはよよよと横を向いた。こちらも、うっすらと涙が漂っている。


「どうしました、アスカ様」

「聞かないでユート。憧れてた勇者様の現実を知った、今の私の心を汲んでちょうだい」


 泣いている二人を見ながら、悠斗とサシャは笑い合うしかない。





 ーー ーー ーー





「ふぅ。しかし、疲れた」


 悠斗は部屋のベッドに大の字で横になった。リスティを玄関で見送ってから数時間が経つが、何もしていないはずなのに気疲れが半端ではない。


「アスカ様、何か機嫌悪いよなぁ」


 ふむと、悠斗は最近のアスカの言動を思い出す。今日もそうだが、アスカのリスティに対する態度がぎこちない。


 上司でもあるし、殺し合いをした仲だ。すぐに元に戻ることは出来ないかもしれない。そう思い、悠斗は小さく息を吐いた。


 どちらも、悠斗にとっては大切な女性だ。仲良くして欲しいものである。


「……ユート、いる?」


 そんなとき、こんこんと部屋の扉がノックされた。窓を見ると、煌々と輝く月。こんな深夜に何だろうと、悠斗はむくりと起きあがる。


「なんですか、アスカ様」


 ノックの主は、聞き慣れた声。間を置いても返事のない声に、悠斗はベッドから立ち上がると扉まで歩き出した。別に入ってきてもいいのにと、悠斗は首を傾げる。


「話が、あるの」


 ちょうど悠斗がドアノブに手をかけたとき、扉一枚の向こうから、アスカの声が聞こえた。

 普段とは違う声色に、悠斗は顔を扉に向ける。



 ぎぃと、扉がゆっくりと開いた。


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