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第13話 褐色勇者は姫様の夢を見る (3)

「き、着たぞっ。これでいいんだなっ?」


 薄暗い部屋の中、リスティが恥ずかしそうに身をよじった。


「だめですよ。手で隠さずに見せてください」


 きゅっと身体を小さくしているリスティに、悠斗が笑顔で告げる。

 かぁとリスティの褐色の頬が、悠斗にも分かるくらいに熱を帯びた。


「……さ、最低だな。お前は」


 ぐっと、リスティが腕を身体の横に下ろす。心なしか、胸を前に突き出した。


 褐色の肌に、白い布地が映えている。


 リスティの胸の先端は二つの三角形で覆われていて、ふるふると震える下半身は一つの白い逆三角で隠れていた。


(なんだこの装備は。……は、恥ずかしすぎる)


 流石のリスティも、羞恥で肌を震わす。悠斗の視線が、普段では触れられない部分の肌を撫でた。


「マイクロビキニって言うんですよ。胸の無い人でも似合うらしいんで。よかったですね、リスティ隊長」

「なッ!!?」


 悠斗の言葉に、リスティの目がカッと見開く。怒りか恥ずかしさか、リスティは言葉を詰まらせた。


「ば、ばば馬鹿ものっ。む、胸なんてものはな、小さい方が戦闘のとき邪魔にならなくていいんだよっ」

「あーはい。そうですね。こんだけちっぱいだと、当たるものも当たらないでしょうしね」

「ちちち、ちっぱっ!?」


 かぁとリスティの頬が赤くなり、さっと腕で胸を隠す。悔しそうな表情に、ああ一応気にはしてるんだなと悠斗は思った。


「胸の大きさ気にしてるなんて、可愛いとこありますね。もっと、血も涙もない殺戮マシーンかと思ってました」

「お、お前はあたしのこと何だと思ってたんだ……」


 悠斗の呟きに、リスティは呆れたように悠斗を見つめる。悠斗としては、あんな化け物じみたリスティを見ているのだ。心も、すでに人を捨てているのだろうかと、そう思っていた。


「……まぁ。女として色々とあれなのは変わりませんが」

「な、なんだとっ」


 先ほどの醜態を思い出して、リスティがうぐっと言葉を呑み込む。そして、悠斗は立ち上がるとリスティに近づいた。


「なんだ? お、犯すのか?」


 びくっと警戒を強めるリスティに、悠斗はまさかと首を振る。そんなことをしたら、この場で殺されても本当に文句は言えない。

 それに、どうすればいいか分からないというのは口には出さないでいた。


「思ったより隊長が可愛いんで、少し意地悪するだけですよ」


 にこりと笑って、悠斗はリスティの部屋を見渡す。案の定、めぼしい物がいくつか見つかった。

 それを手にとって、悠斗はことんとリスティの前に置く。訳が分からずに首を傾げるリスティに、悠斗は優しく微笑んだ。


「リスティ隊長。スクワットって、得意ですか?」


 悠斗の言葉に何かを察したリスティの額を、たらりと汗が流れた。





 ーー ーー ーー





「ふっ、ううっ……」


 ぎしぎしと、床板が軋む音が響く。それに、リスティの弱々しい声が混ざっていた。


「ほら。まだ十七回ですよ。頑張って」


 目の前の光景を、悠斗は出来るだけ平常心で見つめるように努める。


「んっ、ふぅ。うっ」


 腕を頭の後ろに組んだリスティが、足を広げて腰を上下させる。スクワット。一般的な、なんら不自然でないトレーニング。


 しかし、リスティは泣きそうな表情で筋肉を動かしていた。唯一身につけているマイクロビキニは、存在を主張する胸の先を完全には隠していない。下を見れば、盛り上がっている二つの突起がリスティ自身にも確認できる。


「ううっ」


 しかし、肌の露出はリスティには最早どうでもよかった。恥ずかしいことは恥ずかしいが、そんなことよりもリスティの心を乱す物が存在する。


 王家の紋章。


 リスティは今、それが刻まれた盾の上で股を広げていた。


「こ、こんなことっ。あたしがっ」


 忠誠を誓っているはずの存在。その上で、卑猥な格好で腰を動かす自分に、リスティは気絶しそうな程の倒錯を感じていた。


「ゆ、ユート。こ、これ以上は……」


 ぎちぎちと、下ろしたときに食い込むリスティの下半身を眺めていた悠斗が、ふむと顎に手を当てる。


「やっぱり、姫様の肖像画にしますかっ?」

「ーーッ!? こ、これでいいですっ。王家の紋章の上でやらしてくださいっ」


 リスティの返事に、満足そうに悠斗は頷く。内心、リスティの痴態にどうにかなりそうだが、それをリスティに見せるわけにはいけない。


(ううっ、あたしが。王家の紋章の上で……)


 リスティは、悠斗に従って黙々と腰を上下させる。しかし、段々とその息づかいには熱が籠もり始めていた。


(見られてる。……お、男に肌を見せるなど。初めてだ)


 つい、自分の身体の貧相さに意識がいって、リスティはぶんぶんとその考えを飛ばした。


(考えるな。は、肌なんて。……んっ。み、見られても何てことはない)


 ふぅふぅと荒くなる息が、運動による物か判断が付かないまま、リスティは悠斗の顔を見つめる。


(見てる。男の視線が、あたしの身体を。……んっ、くそぅ)


 正直、リスティには悠斗の真意が読みとれないでいた。スパイでもなければ、暗殺でもない。リスティが欲しいと脅すが、犯そうとはしない。何が目的なんだと、リスティの中に疑問が募る。


(うっわ~。エロっ。褐色ってエロいなぁ。……勢いで脅しちゃったけど、どうしよう。これ以上は、殺されそうだし)


 至って健全に生きてきた悠斗が、今の状態で十分眼福に満足していることに、リスティが気づくわけもない。悠斗は、笑顔を絶やさないようにするだけで精一杯だった。


「あっ、そうだ隊長。この前、心得を教えてくれるって言ってたじゃないですか? 言ってみてくださいよ」

「へっ!? こ、心得をかっ!?」


 リスティの表情に、今度こそ困惑が広がる。悠斗の要求は理解が出来ない物ばかりだが、それが何となく自分をいじめようとしていることはリスティにも理解できた。


(心得って……。こ、この格好で?)


 ちらりと紋章を見下ろしたリスティの背中に、ぞくぞくとしたものが走る。何か、自分の中のいけない部分が顔を出した気がした。



 ・・・ ・・・ ・・・



「ひっ、ひぅっ。た、隊士は……王家にちゅ、忠誠を尽くしっ。この忠道を進むべしぃっ」


 ぽたりと、王家の紋章に何かが垂れる。それがリスティの瞳に映り、彼女の奥を揺さぶった。


「ひんっ、んぅっ。……隊士たる者ぉっ、その剣は。おっ、王家と民のために抜くべしぃっ」


 布が擦れる感覚が、やけにもどかしいとリスティは感じる。これ以上はいけないと、どくんと鼓動を大きくした。

 ちらりと悠斗をリスティは見やる。何を考えているかは分からないが、自分の何かが見透かされているようでリスティは羞恥に顔を赤くした。


(じんじん、するっ。……うぅっ、こんな。あたしが、見られてっ)


 ぴくぴくと太股をひくつかせるリスティに、悠斗が冷たい視線を送る。勿論、リスティはその奥の焦りに気がつかない。


「へぇ。いい眺めですね。姫様を御守りする、近衛隊長が……」

「うっ、うぅっ」


 リスティは、悔しさで顔を滲ませる。しかし身体が動く度に、擦れる度に、リスティは熱を増す自分の肢体に困惑していた。


「さすがだなぁ。忠誠心が股の間から滲み出てますよ」

「そ、そんなことないっ。……ないっ」


 リスティも、気づいている。盾に落ちる滴が、汗だけかどうかを。


 にこにことした視線が、リスティに突き刺さる。リスティの口が、ぽろりと動いた。何か、言い返さなければ。その思いが、リスティの声帯を震わす。


(い、言い返してやる。な、何か言わないとっ)


 そのとき、きゅっと、リスティの奥の方で何かが鳴いた。


(な、にか……)


 ぺろりと、リスティの舌が唇を濡らす。


「……ど、どうした? 見てるだけでいいのか? あたしなんて、見てるだけじゃつまらないだろ」


 言った後で、リスティの口がはっと締まった。何を言ってるんだ自分はと、リスティは視線を紋章に戻す。ばくばくと、リスティの心臓が波打った。


「そんなことないですよ。リスティ隊長、綺麗ですし。褐色の肌がエロくて、見てるだけで嬉しいです」

「なっ!?」


 リスティが、びくりと足を震わす。からかっているのかと、悠斗を見つめた。


「さて、堪能しましたし。僕は帰りますね」

「えっ?」


 唐突に立ち上がった悠斗に、リスティは声を上げる。何ですと振り返る悠斗に、リスティは聞き返した。


「い、いや。別に、構わないが。その……」


 もう終わりか? そう言いそうになった自分に、リスティの胸がどきりと揺れる。熱を帯びた身体は、どこか物足りなさを感じてしまっていた。


「お、お前。結局何がしたかったんだ。あたしの部屋にまで入って」

「何って。そりゃあ……」


 そこで、悠斗は当初の目的を思い出す。言われてみれば、リスティの肢体に見惚れて当初の予定を忘れていた。


「そうだ。すみませんけど、あんまり僕とアスカ様に干渉しないで貰えますかね。あと、よかったら色々と協力してください」

「……はっ?」


 悠斗の言葉に、リスティがぽかんと口を開ける。


「お、おまっ。そんなこと、口で直接言えば済むだろっ。こ、こんな脅しなんてしなくてもっ」


 リスティの困惑する声に、言われてみればそれも確かにと悠斗は手をたたいた。しかし、ちょっと前までは、何となく脅しでもしなければ無理なような雰囲気がリスティにはあったのだ。


 悠斗はうーんと考え、くるりとリスティの方を向いた。


「じゃあ隊長、僕の言いなりになってくださいよ」

「ふぇ!?」


 リスティの目がくりりと見開き、あっけらかんと悠斗は声を出す。

 何となくここに、奇妙な主従関係が成立した。

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