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第11話 褐色勇者は姫様の夢を見る (1)

「じゃあ、私は別の用事があるから」


 そう言って、アスカはトリシュリア城の奥へと消えていった。

 悠斗は城の中庭にある柱時計を見つめるが、リステイとの待ち合わせにはまだ数時間ほど暇がある。


 アスカの用事があったとはいえ、早く来すぎたかと悠斗は中庭の噴水を眺めた。王都の城とはいえ、なかなかの豪華さだ。金があれば、時代に関係なくそれなりの見た目になるんだなと悠斗は目の前の光景を見やる。


「そういえば、リスティ隊長とかはこの城に住んでるんだよな。羨ましい。……いや、逆に面倒か」


 近衛隊長であるリスティは、王女の護衛という任務もあってか城に部屋を持っているらしい。自宅はあるらしいが、ほとんど帰っていないと隊員が世間話しているのを耳にしたことがある。


(……リスティ隊長の部屋か)


 まてよと、悠斗の頭に閃きが灯る。ここで弱みの一つでも握っておけば、これ以上あれこれと口を出されることもないはずだ。

 リスティのあの強さ。実力で従わせようとすれば、それこそ殺しあいの喧嘩になるだろう。それに、そういうもので大人しく従ってくれる性格にも思えない。


(とりあえず、上の階に行ってみるか)


 ひとまず難しいことは考えずに、悠斗はリスティの部屋があるという上の階を目指した。





 ーー ーー ーー





「ふぅ。今日は、少し疲れました」

「お疲れさまです姫様。本日のご予定はもうありません。お休みになられますか?」


 リスティの言葉に、美しい銀髪の少女が唇に手を当てた。そうですねぇと、少し考える顔をする。


「そうします。あっそうだ。リスティ、上着をお願いできるかしら? さっき少し擦れちゃって」

「かしこまりました。女中に洗濯させておきます」


 困ったわと、少女はリスティに肩から羽織ったローブの裾を見せつけた。そこは小さく、埃汚れのようなもので灰色に染まっている。

 リスティは、お任せ下さいと恭しくそのローブを受け取った。


「仮眠するわ。夜の会食には参加します」

「わかりました。あまりご無理なさらぬよう。ごゆっくりお休みくださいませ」


 ふあぁと欠伸を堪える少女に、リスティはぺこりと頭を下げる。少女はリスティに手を振って、そのまま自室がある最上階へと上っていった。


(あれは……リスティ隊長と、王女様か。これはついてるか?)


 そんな二人の会話を、廊下の角から窺う者がいる。


(いや。会話的に、女中のいる炊事場に向かうか)


 他ならぬ、悠斗である。悠斗は壁の陰から慎重にリスティの様子を覗き見ていた。


(……って、何してるんだ隊長)


 下の階に戻るならここまで来るはずだと、退避しようと悠斗がした矢先、リスティはきょろきょろと辺りを見渡す。まずいと、悠斗はばっと壁に身を隠した。


「誰かいるのか?」


 途端、リスティの凛とした声が響きわたる。そして、こつこつとリスティの足音が悠斗に向かって近づいてきた。


(やばっ!!)


 悠斗は、とっさに右手にとある宝具を現界させる。そしてそれを急いで被った。その間にも、リスティの足音がすぐ傍に迫る。


「……誰かいた気がしたが。気のせいか?」


 じぃと、リスティは目を細めて曲がり角を凝視した。首を捻り、目を瞑って気配を探る。


「ふむ。誰もいなかったようだな。ならよし」


 リスティはくるりと振り返り、そのまま元来た道を戻っていく。


(あ、あぶねぇええ。この人、残った気配まで感知できるのかよっ)


 そのリスティの褐色の背中を見ながら、悠斗は必要もないのに口に手を当てていた。

 先ほど、リスティの鼻先は悠斗の顔に触れるか触れないかまで迫っていたからだ。


(この宝具、念入りに創っといてよかった。即席だったらバレてた)


 冷や汗を感じながら、悠斗は頭の上のとんがり帽子を左手で握りしめる。


 『隠れ潜む道化師ハイドーアンドーシーク


 気配を完全に外敵から遮断する、悠斗の創りあげた補助的宝具の中でもピカイチの代物。それを必死に握りしめて、悠斗はそれでも小さく息を吐いた。


(音とか視覚だけじゃねぇ。匂いとか、それこそ存在してた名残とか、そんな意味不明なもんでバレる可能性がある)


 相変わらずとんでもないと、悠斗は歩く第四位の背中を見つめる。

 しかしそんな悠斗の頭に、一つの疑問が思い浮かんだ。


(……まてよ。何で戻ってるんだ? あっちは、確かリスティ隊長の自室。ローブは後回しで、何か用事でもあるのか?)


 何か、引っかかった。リスティの性格から考えて、姫様からの言付けを後回しにするというのが、どうも納得いかない。それこそ、まず第一に片づける気がするが。


 そんな悠斗の疑問を深めるように、リスティはきょろきょろと辺りを見渡して、隠れるように自室へと入っていった。


「何か、ありそうだな……」


 悠斗の目が、邪悪に光る。ぐいと、帽子を深く被り直した。






 ーー ーー ーー





「あっ、ふぅう。ひ、姫様ぁ。姫様の匂いぃ」


 悠斗は、進入したリスティの部屋で我が目を疑っていた。


「はぁんっ。姫様ぁ。お慕い申してあげますぅ。んぅ、んっ」


 リスティが、ローブを抱き抱えて悶えている。

 それ以外に形容できない光景に、悠斗はしばし呆然と目の前の光景を眺めていた。


「あ、あつい。脱いじゃお。……はぁ、姫様の温もりがあたしの肌にぃ」


 甲冑を外したリスティが、露出した自分の肌にローブを擦り付ける。ぐいぐいと股の間にローブを挟んで、小刻みに腰を動かしていた。


「あっ、あふぅ。ひ、姫様。姫様ぁ。好き、好きですぅ。大好きぃ」


 すぅとローブの匂いを吸い込んで、リスティは恍惚とした表情で自らの胸をまさぐり出す。

 

(……はっ。いかん、あまりの衝撃にフリーズしてたっ!)


 ふーふーと息を荒くするリスティに、悠斗はぶんぶんと首を振った。慌てて、ポケットからスリムフォンを取り出す。


 この世界に持ってきた数少ない私物だが、電力は雷剣の宝具で何とかなっていた。使い所のなさに悩んでいたが、携帯電話は何も通話だけが機能でないことを悠斗は思い出す。


(うわっ。カメラ通すと一段とエロい)


 カメラアプリを起動して、悠斗は録画ボタンをタップした。録画開始の音がポーンと鳴るが、その音は『隠れ潜む道化師』が消してくれる。


 画面には、もぞもぞと身をくねらすリスティの褐色の肌が鮮明に写っていた。全裸ではないが、元より露出の多い格好が更に軽装になっている。


「ん、ちゅっ。だ、だめです姫様ぁ。そ、そこは……」


 ローブを胸や股間に押しつけて、リスティは俯せで軽く腰を上げる。ぐいっと、張りのあるリスティの尻が突き上がった。


 ふりふりと、リスティは誘うように尻を左右に揺らす。


「あんっ、だめ。だめです姫様。リスティ、壊れてしまいますぅ」


 自分のことを名前で呼びだしたリスティに、悠斗はついどきりとしてしまった。目の前の金髪の少女が、あの勇者ランキング第4位だとはとても思えない。


「うっ、ふぅ。姫様ぁ」


 直接は触っていないが、ローブを必死になって擦り付けるリスティの動きは扇状的だ。悠斗は、ごくりと生唾を呑み込む。

 苦手なリスティだが、見た目はもともと好みなのだ。こんな姿を見せつけられては、喉も鳴るというものだった。


『まぁ、リスティったら。悪い子ね』


 突如、聞き慣れない声が聞こえて悠斗はびくりと背を震わす。辺りを慌てて見渡すが、勿論周りには自分たち以外誰もいない。


「申し訳ありません姫様ぁ。『ふふ、いいのよリスティ。ほら、足を広げなさい』ああ、だめ。だめです、姫様ぁ」


 その声は、リスティの方から聞こえていた。


「ふっ、ふあっ。ああっ。『あら、リスティ。本当に貴方は駄目騎士ね。私でこんなにしているなんて』う、ああ。申し訳ございませんんっ」


 裏声を使って一人二役を演じるリスティに、悠斗はぽかんと口を開ける。尻を突き出したまま、リスティの足がかぱりと開く。


(さ、さすがにこれ以上は……)


 殺される。そう思い、悠斗は録画の停止ボタンをタップした。脅すにしても、これ以上はリスティが自決しかねない。いや、もう遅い気もするが。


「んっ、ちゅっ。むちゅっ。ひ、姫様のきしゅぅ」


 ついにローブと接吻を始めたリスティを見て、そろそろ止めて上げなければと、悠斗はこほんと咳を払った。


「ふっ、はむっ。んっ、んぅうっ」


 尚も止まらぬリスティに、そういえば『隠れ潜む道化師』を被ったままだったなと悠斗は気づく。

 右手で、『隠れ潜む道化師』を頭から取り外した。


「……ッ!? 誰だっ!!?」


 瞬間。リスティが跳ね起き、悠斗の首筋にはいつの間にか、リスティの双剣の一本が添えられていた。

 いつ抜刀したのかも分からぬ速度。悠斗は、首から下げた防御宝具に心の中で礼を述べる。


 首を跳ねられはしないものの、なければ傷は付いていただろう。


「……って、何でお前がっ!!?」


 侵入者の顔を確認したリスティが、驚愕に目を見開いた。

 一瞬の動きは流石だと言わざるを得ないが、それでも悠斗は呆れた顔を見せてしまう。


「え、えと。ようやく抜いてくれましたね」


 リスティの抜き身の剣をよいしょと摘み、悠斗はそれを危ない危ないと脇に下げた。リスティは、未だに目を見開いたまま悠斗を凝視している。


「……とりあえず、お話しましょうか?」


 悠斗がにっこりといつも通りに微笑み、それを見たリスティの顔に絶望の二文字が浮かぶ。


 夜にはまだ、時間がありそうだ。


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