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七の夕月   作者: サTo
8/17

満月

なな夕月せきげつ




「冬馬くん、冬馬くん!」

白鳥衣緒奈が生き返った次の日の朝、大鷹冬馬は前日よりも少し早い7時に琴平あゆむに起こされた。

昨日は衣緒奈を生き返らせた後、バイト先の貴人に報告にいくと、店がかなり忙しい状態だったのでそのまま仕事を手伝い、結局2時ごろまでバイト先に居たので冬馬は眠くて仕方がなかった。

「なんだよ。まだ7時じゃねえか」

ギリギリまで寝ていたい冬馬は不満をもらし、少しでも寝ようとあゆむとは逆の方向を向いて再び寝る態勢に入る。

「ちょっとくらいええやん!これでも気をきかせたんやで!」

そんな冬馬を、声を大きくして揺するあゆむ。

「おいおい、いったいなにがあったんだよ」

焦った様子で話してくるあゆむに違和感を覚えながらけだるそうに頭を掻き、冬馬は布団から起き上がる。

「これなんやけど」

あゆむはそう言うと手のひらに乗せている鎖を、起き上がった冬馬の目の前にさし出した。

「鎖?これがどうしたんだよ」

あゆむは冬馬の質問に答えず後ろを向く。

そしてお尻を冬馬に突き出すような格好になると、スカートをひらりと捲った。

「ちょっ!お前なにやって!」

あゆむのいきなりの行動に、顔を赤らめ目を手で覆い隠そうとする。

その瞬間、不思議なものが冬馬の目に飛び込んできた。

あゆむのお尻、尾骨のあたりからさっき見た鎖が生えていたのだ。

付いているというよりは、生えているという表現の方がしっくりくる。

「え?なんだこれ。いつからだ?」

訳も分からず恥ずかしいのも忘れ、あゆむのお尻から生える鎖を凝視する。

「昨日冬馬くんがバイトしてる時に気付いたんやけど。その後冬馬くん倒れるように寝てもうたやろ?せやから気をつこうて、今起きてもろたんや」

「昨日か・・・まあいろいろ忙しかったから気付けなかったのはしゃあないとは思うけど、それにしてもマジなんなんだろう―――」

そう言いかけてまた新たな事実に気付き、今度はしっかりと手で目を覆い、冬馬は勢い良くあゆむから飛びのいた。

「って、お前!なんで穿いてないんだよ!」

「へ?」

あゆむはよく分からないといった感じで振り向く。

「下着だよ下着!」

「下着?」

 そこまで言ってもあゆむは未だきょとんとしている。

「パンツ!なんで穿いてねえんだよ!」

「え?あの時言うたやん。襲われそうになった時に脱がされたって。そのまま死んでもうたからなんやけど」

声を荒げる冬馬に、あゆむがなにを今更?という感じで返してくる。

「なになに?冬馬くん、ちょっと興奮してもうたん?」

そう言うとあゆむは冬馬の方を向き、誘うかのようにスカートの裾をつまんでたくし上げた。

「しねえよ!」

冬馬は声を荒げながら後ろを向き、あゆむから目を逸らす。

「てか幽霊ってどういう構造なんだよ。そもそも幽霊って服装は白い着物だと思ってたけど、そうでもねえみたいだし」

「ぶう。まあなんや服装は死ぬ間際の服になるみたいやけど。白い着物は・・・あれちゃう?棺桶に入るときの服」

あゆむは向こうを向いてしまった冬馬にふてくされながら普通に座りなおすと、冬馬の背中に返した。

「なるほどな。じゃあその鎖もそれと同じようなもんじゃねえの?」

「それはないと思うで。これでも3年幽霊やってるけど、こんなんに気付いたんは昨日が初めてやし」

「三年もって・・・なんか微妙な発言だよなそれ。まあとりあえず鎖の件は獅堂にでも聞けばいいんじゃねえか?あいつならなにかわかりそうだし」

ジリリリリリリリ!

そうこう言っているうちに目覚ましのベルが鳴る。

「っと、もうこんな時間か。そろそろ準備しねえとな」

目覚ましの音で登校時間が迫っていることを知った冬馬はいそいそと支度を始める。

「あ、せやね。そういえば衣緒奈ちゃんは今日来られるんやろか」

「さすがにまだ病院じゃねえか?」

「と、衣緒奈ちゃんが居らんのに、律儀に学校へ行く冬馬くんであった。なんちゃって」

あゆむが冗談を言いつつ舌をぺろっとだす。

確かに真面目に学校へ行こうとする冬馬はおかしく思える。

だがそれは、冬馬の心に何か良い変化があったのだと思い、あゆむは心の中で微笑むのだった。

「別に学生なんだから学校行くのは当たり前じゃねえか。それにそろそろサボってられねえ授業もあるんだよ。おら、さっさと支度するぞ」

冬馬は怒ったようにあゆむに背を向けると学校へ行く支度を再開し、あゆむはその光景を嬉しそうに見守るのだった。




満月まんげつ




学校に着くと、教室、いや、学校中が衣緒奈の話で持ちきりだった。

死んでた奴が蘇ったのだから仕方ないとは思うが、誰もが嬉しそうであり、そこから衣緒奈の人気が窺い知れた。

「さすが白鳥は人気あるんだな。しかし情報元は誰だ?やっぱ獅堂なんかね」

そう言いつつあたりを見回してみると、人だかりの中心で鳩野静羽が泣いているのを発見した。

どうやら衣緒奈が無事だったことにうれしく思い、泣いているらしい。

「よかったじゃん静羽。衣緒奈が無事でさ」

「うん、うん!」

とりあえず近くに居たクラスメイトに話を聞いてみると、衣緒奈が死んでしまったことを信じ切れなかった静羽が病院の前に足をのばすと、病院が衣緒奈の蘇りで大騒ぎになっていたらしい。

そして面会も出来無事が確認され、安堵を浮かべて登校したと、怯えた表情ながら教えてくれた。

しかしそんな馬鹿げた話をみんなよく信じたなと思ったが、どうやら写メもとっていたらしく、そのおかげで難なく信じられたらしい。

「まあ、鳩野のやつは白鳥とかなり仲よかったからな」

「衣緒奈ちゃん、ほんま人気者なんやね」

衣緒奈の人気ぶりを目の当りにし、キラキラした目であゆむはクラスメイトたちを見渡した。

「しかし獅堂のやつはまだ来てないのか?」

冬馬も辺りを見回すが、要の姿はどこにも無い。

「ほら、昨日のことで疲れてるかもしれへんし今日は休みなんかも。さすがに人を生き返らせるなんて並大抵のことやないやろから」

「だな。まあ一応子犬丸ってのが来てたら、携帯の番号くらい教えといてもらうか」

 そう言っている間に一時間目の授業の教師が教室に入ってきたので、冬馬はそのまま真面目に授業を受けるのだった。




そして昼休み。

授業が終わって購買に直行した冬馬とあゆむは、パンと飲み物が詰まった袋を重そうにぶら下げる子犬丸草太に出くわした。

「子犬丸!」

冬馬は草太にぶつかりそうになりながらもなんとか踏みとどまり、驚きで少し声が大きくなってしまう。

「あ!えっと・・・大鷹先輩と、鮎・・・さんでしたっけ?」

可愛らしくまるっとした目で冬馬を見上げる草太。

「正確にはあゆむだ。てか俺のこと覚えてたんだな」

「ええ、大鷹先輩は有名ですし、あゆむさんは・・・えっと、ごめんなさい」

草太はいきなりあゆむに向かって頭を下げた。

「え?あ!もしかしてウチの死ぬ間際のこと?」

「ええ、故意ではないにしろ、勝手に見る形になってしまって」

 草太は本当に申し訳なかったと、深々と頭を下げる。

「そんなんべつにええんよ。それより子犬丸くんもウチが見えるんやね」

「はは、まあ一応」

草太は荷物でふさがっている片方の腕を重そうに上げ頬をかいた。

「それはいいとして獅堂のことなんだけどよ」

「要先輩に用事ですか?それでしたら今部室の方にいますけど」

休んでいるのかと聞こうとした冬馬に、意外な答えが返ってきた。

「はあ!?」

「え?」

草太の言葉に驚きの声を上げる二人。

「ちょっと待て!あいつ来てるのか?」

「ええ、二現目終わったくらいからでしょうか。来たら来たでずっと部室にこもってますけど」

「そ、それならちょっと邪魔してみるか」

「せやね」

学校に来ているにも関わらす、授業に出ないで部室に篭っているらしい要に呆れながらも、二人は要がいるオカルト研究部の部室へ向かった。




「なにか用なの?」

オカルト研究部の部室に入った二人を迎えたのは、目の下にくまをつくり忙しそうに書物に目を通している、あからさまに機嫌の悪い要だった。

そんな要に不覚にもたじろいでしまう冬馬。

「いや・・・、ちょっとあゆむの事で聞きたいことが」

「今忙しいの。見て分からない?」

要は顔だけを冬馬に向けそれだけ告げると、再び書物に目を落とした。

「昨日あれからなんかあったん?随分機嫌悪いみたいやけど」

「今貴方たちに構ってる暇はないの。悪いけど出て行ってもらえる?」

「ちょっと、ホンマどないしてもうたん?」

いつも感情を顔に出さない要とは違い、明らかなる不機嫌を周りに振りまいている。

「お願い」

あゆむたちに一別もせず、手にした本を堅く握る要から、話し合いが出来ないことを悟らされる二人。

「忙しいとこ悪かったな。行くぞあゆむ」

冬馬は機嫌を悪くしたのか、むっとした表情であゆむに告げた。

「う、うん」

どうしていいか分からなかったあゆむは、冬馬について部室を出るしか選択肢が無い。

「衣緒奈ちゃんのことやろか・・・」

部室を出て、人気の少ない校舎裏に向かう冬馬の後ろであゆむが呟いた。

「昨日の今日だしたぶんそうだろうな。しかしいったい何なんだ?白鳥にお前が見えたって事がなにか関係してるとかか?」

あゆむは正直冬馬が怒っていると思ったのだが、衣緒奈達の心配が勝っているのか、冬馬は何が原因なのかを考えている様だった。

「とにかく、確か今日一日は検査入院するらしいから、放課後に衣緒奈ちゃんのとこ行ってみいひん?冬馬くん今日もバイトやし長居はでけんやろけど」

「そうだな。様子を見に行った方がいいのかもしれないしな」

そしてふたりは午後の授業が終わると、見舞いの果物をいくつか買い、衣緒奈の居る病院へと向かった。




病院に着き衣緒奈の居る病室を教えてもらう。

そして病室にたどりつくと、昨日とはうってかわって明らかに憔悴しきっている衣緒奈と、それを心配そうな表情で見つめる静羽が二人を出迎えた。

「あ、冬馬じゃない。来てくれたんだ」

いつもより元気は無いが、しっかり声をかけてくる衣緒奈。

「大鷹くん!衣緒奈ちゃんが!衣緒奈ちゃんが!」

そして衣緒奈の言葉で冬馬が来たことを知った静羽は、泣きそうな顔で冬馬に縋り付いてきた。

「今朝は元気そうだったのに・・・さっき来たらなんかすごく辛そうで」

涙を浮かせる静羽を優しく自分の前から退かすと、冬馬は衣緒奈に質問する。

「おい白鳥・・・お前いったい何があったんだよ」

「別になんでもないわ。ちょっと、遊び疲れちゃってるだけだから」

衣緒奈は力なくそう答える。

「遊び疲れた?」

訝しげに衣緒奈を見る冬馬には衣緒奈がそうなった原因が見えない。

しかし、その原因と同族であるあゆむには、それがはっきりと見えていた。

「男の子や・・・」

「男の子?」

あゆむの言葉に冬馬は軽く辺りを見回す。

しかしあゆむしか幽霊を見る事が出来ない冬馬には、あゆむの言う男の子が確認出来なかった。

「せや。小さい男の子が衣緒奈ちゃんに取り憑いとる。いや、今は取り憑いとるというより、ウチらみたいな感じやろか」

小さな男の子が衣緒奈にまとわりついて楽しそうにしている。

「おいおい。じゃああれが俗に言う『生気を吸い取られてる』ってやつなのか?」

「多分そうやろな。要ちゃんはコレを予期してたから・・・」

せっかく生き返れたのにこれではまた死んでしまいかねない。

「白鳥!お前自分がどんな状況だか分かって―――」

言いかけた冬馬を衣緒奈が手のひらを突き出して制した。

「分かってる・・・。でも、この子放っておくことなんて出来ないし」

そう言いながら膝上の何もない空間を撫ぜた。

「あゆむ。その男の子って」

「今は衣緒奈ちゃんの膝枕で寝とるみたいや」

そこで衣緒奈の様子を見ていた冬馬があゆむに疑問を投げかける。

「てかなんで触れるんだ?たしか衣緒奈の奴はお前に触れられなかったはずじゃなかったか?」

「たぶん、強い霊やからやとおもう。確か強い霊は現世のモノ、人なんかにも干渉出来る事があるらしいんや」

「へ~。お姉ちゃんも幽霊なんだ」

その声に驚いたあゆむが下を向くと、その男の子がいつの間にか目の前に来ており、屈託の無い笑顔で話しかけてきていた。

(いったいいつの間に!?)

「そっちのお兄ちゃんはボクのことは見えてないみたいだけど、お姉ちゃんのことは見えてるんだ。不思議だね」

もちろん冬馬は男の子に気付いていない。

「ねえボク?あのお姉ちゃん辛そうだしちょっと離れない?」

あゆむはゆっくりしゃがむと笑顔を作り、諭すように男の子に喋りかけた。

「やだ」

男の子は笑顔で即答する。

「なんで?」

「なんでって分かるでしょ?お姉ちゃんはボクの渇きを癒してくれるんだもん」

「やからってしていい事と悪いことがあるやろ!」

「あゆむ?」

いきなりしゃがんで声を荒げたあゆむを、冬馬が不思議そうに見る。

「うるさいなあ。邪魔するなら出てってもらうよ」

そう言って男の子があゆむに手をかざした瞬間。

「あゆむ!?」

唐突にあゆむが病室から消えた。

いきなりのことに驚く冬馬。

「てめぇ!あゆむに何しやがった!」

冬馬がいきなり大声を出したので、隣にいた静羽がビクッと肩をこわばらせ、冬馬から手をはなす。

「安心しなよ。病院の外に飛ばしただけだから。って聞こえないんだよね。あんまりうるさくされるのも困るし、お兄ちゃんも出て行ってもらうね」

そして冬馬も同じく病院の外へ飛ばされてしまうのだった。

いきなり近くにいた冬馬が消えてしまった事で、静羽は混乱し固まってしまう。

「ちょっと、いきなりそんなことしちゃダメでしょ。ほら、静羽も固まっちゃったじゃない」

衣緒奈は男の子の行為を叱ると、いきなり消えた冬馬に呆然としている静羽に近寄った。

そして、肩を軽く叩くことで意識を自分に向けさせる。

「大丈夫。冬馬たちは病院の外だから。それより静羽、今日はもう帰ってもらっていいかしら。私もこれからいろいろあるから」

なにがなにやらわからない静羽は呆然とうなずくしかなかった。




数分後、病院の外のベンチでため息をつきながら缶コーヒーで一服していた冬馬は、フラフラと病院から出てくる静羽を見つけた。

「鳩野!」

声をかけたことで冬馬に気付いた静羽は冬馬の元へかけよってくる。

そしていつもの静羽からは想像出来ないくらいに凄い勢いでまくし立てた。

「大鷹くん!衣緒奈ちゃんは!衣緒奈ちゃんはどうしちゃったの?それにさっき消えたのってなんなの!」

「お、落ち着けって」

冬馬はいったん静羽をベンチに座らせると、自販機でオレンジジュースを買い静羽に手渡した。

「あ、ありがとう・・・」

顔を伏せ、ボソッとかえす静羽。

ようやく普段の静羽に戻ったようだ。

「ねえ大鷹くん・・・。いったい衣緒奈ちゃんの周りで何が起こってるの?」

冬馬は少し考えたあと、静羽に状況を話してやることにした。

「あいつは、白鳥は幽霊に取り憑かれているらしい。多分その原因は幽霊が見えるようになったからだと思うんだけど」

「・・・そうなんだ」

そう返した静羽の顔は、以外にも少し嬉しそうに笑っていた。

そんな静羽を怪訝な顔で見つめる冬馬。

そして自分の不謹慎さに気付いた静羽は顔を赤くして更に顔を伏せた。

「衣緒奈ちゃん、・・・ずっと幽霊が見た言っていってたから」

衣緒奈の念願が叶い静羽は嬉しく思う反面、今の衣緒奈の状況が霊によるものだと思うと複雑な気持ちになった。

「そうだったよな。でもそういやそもそもあいつは、なんであんなに幽霊なんて見たがってたんだ?鳩野、お前はなにか知ってるか?」

「それは・・・」

静羽は少し言いよどんだが、意を決して話しだした。

「それは最初、私を庇うためだったの・・・」

「・・・どういうことだ?」

返ってきた意外な答えに冬馬が聞き返す。

「小学校高学年の頃、私には死んじゃったお母さんが見えてたんだけど・・・。それを話題にしちゃったことがあったの。当然私は変な娘あつかい。唯一衣緒奈ちゃんだけが私を信じてくれた」

静羽はいつになくしっかりとした言葉で話す。

「でも、いくら衣緒奈ちゃんでも、科学でも証明されていない幽霊を証明することなんて出来なかった。それに衣緒奈ちゃん自身、幽霊を見たこともないんだからどうしようも無いよね。そして私があまり人と話さないようになって、その話題は風化していったの。でも、衣緒奈ちゃんはああいう性格だから、ずっと幽霊を求めてたみたい」

「そうか・・・。で、お前のお袋さんは結局どうなったんだ?」

「6年生になる頃に見なくなっちゃった。見えてた時期も1年ちょっとだったし、多分成仏したんだと思う」

「お母さんだけ見えてたってことなんかな?」

「どうだろうな。まあ俺がお前だけ見えてるようなもんなのかもな」

不思議な話ではあるが、自分達の状況を考えるとそういうこともあるのかと納得出来てしまう。

「そういえば大鷹くん、衣緒奈ちゃんが幽霊に取り憑かれてるって言ってたけど、大鷹くんも幽霊見えるの?」

冬馬はその質問にどう答えていいのか戸惑ってしまった。

しかし、ごまかすのも悪いと思ったので正直に全てを話すことにした。

「俺にそんな力はねえよ。ただ、俺は今幽霊の彼女がいるんだ」

「え!?」

静羽はその言葉に驚いた。

当然といえば当然の反応だ。

「どういうこと?見えるの?見えないの?」

だが、幽霊を見る力はないと言っておきながら、幽霊の彼女がいるという矛盾に静羽は戸惑い、ちゃんとした答えを得ようと再び質問をする。

「幽霊は見えねえ。だけど、なぜかコイツだけは見えるんだ」

冬馬はそういうと、あゆむの肩に手を置いた。

誰も居ない虚空に置かれた腕。

「まあ、こんな事しても信じられないかもしれないな。あゆむ!」

冬馬は苦笑して、あゆむを呼ぶ。

ずっと側で二人の話を聞いており、その言葉の意味を理解したあゆむは冬馬のほっぺたを引っ張った。

口内から舌で押したとは考えられないほど伸びる頬。

この行為は二人が普通の人に幽霊を証明する定番になっていた。

「本当に・・・そこにいるの?」

目の前で起こる不思議な現象に静羽は驚く。

「ああ、コレでも信じねえやつはいるかもしれねえが、お前なら信じてくれるだろ?」

静羽は静かに頷くことで冬馬の質問を肯定した。

「まあそんなわけで、俺はあいつに男の子の霊が取り憑いてることを知ったわけなんだが」

「そうだったんだね・・・。でも皮肉な話しだよね・・・。幽霊をあれだけ求めてた衣緒奈ちゃんが、幽霊に蝕まれてるなんて」

「そうや。せっかく生き返れた命をまた失うなんてそんなん悲し過ぎるわ」

「どうにか・・・できないのかな・・・?」

静羽が悲しそうに俯く。

何とかしたいのは冬馬もあゆむも同じなのだが、衣緒奈の性格を知った上、今日のやり取りを見てしまっては、衣緒奈を止める手立てが見つからない。

「とにかく明日、また獅堂を頼るしかないだろうな」

「獅堂さん?あのオカルト研究部の?」

「ああ。今日別の件で尋ねたときは突き放されちまったけど、たぶんあいつも白鳥のことでなにか調べてたんだろうから協力してくれるだろう」

おそらく衣緒奈に幽霊が見えてしまった時点で、この結果を予想していたのだろう。

「大鷹くん・・・。私も・・・協力出来ないかな?」

静羽は持っているジュースの缶を強く握って冬馬に尋ねる。

「まあなんの力も無い俺が言えることでもねえが、なにかしたいなら明日一緒に獅堂のところにいこうぜ」

「ありがとう」

顔を伏せ、顔を赤らめながら礼を言う靜羽。

そんな靜羽をみながらぐいっとコーヒーを飲み干すと、冬馬はその足でバイトへと向かうのだった。




そして次の日、また獅堂が1時間目から教室に姿を現さなかったので、休み時間を利用して冬馬とあゆむ、そして静羽はオカルト研究部へと向かった。

部室に入るとそこには力なくうなだれる要と、それを心配そうに見つめる草太の姿があった。

「鷹。ちょうどいいところに来たわね」

ゆっくりと体を持ち上げる要の口からは、喜びが感じられる。

「今さっきようやく見つけたわ!霊視を打ち消す術を!」

目の下のくまがひどくなっていることから、獅堂は昨日からずっと、その方法を探していたのだろう。

そしてそれがようやく見つかったという。

やはり要は衣緒奈の事を心配していた様だ。

「犬!すぐ鳥のところへ向かうわよ!タカも来たかったらくればいいわ」

「おいおい今直ぐかよ。まああいつもヤバイ状況だから授業とか言ってられねえけど」

その言葉に反応した要が、冬馬に勢いよく掴みかかってくる。

「なっ!なんだよ」

「あんた!今ヤバイっていったわね?鳥はどういう状態なの!?」

要のあまりにもの気迫に、冬馬はたじろいでしまう。

「昨日衣緒奈ちゃんに男の子の霊が憑いてたみたいで・・・。衣緒奈ちゃん、すごく憔悴してた・・・」

「なに?鳩もいたの?まあそんなことより、やっぱり予想通りになっちゃってるみたいね。鳩も来たければくればいいわ。とにかく急いで病院にむかうわよ!」

急な展開に、冬馬も静羽も付いて行くことがやっとだったが、衣緒奈を再び助けられる算段がたったようなので、獅堂とともに病院へと向かうことになった。











《予告》

衣緒奈ちゃんの気持ちは分かる。けど、どんどん生気を失っていく衣緒奈ちゃんを放っておけるはずがない。それは皆も同じで。そんな衣緒奈ちゃんに怪しい影がほくそ笑む。

次回、七の夕月『十六夜』





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