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七の夕月   作者: サTo
6/17

後の月

なな夕月せきげつ




その朝、大鷹冬馬はいつもより少し早い時間に目が覚めてしまった。

ゆっくりと体を起こした冬馬は、7時20分を示した時計を確認し、次に自分の姿を見て頭を抱える。

「やっちまった・・・」

冬馬は昨晩あゆむと唇を重ね、その後体を重ねた。

お互いの傷を舐めあうかのように。

それから直ぐに眠ってしまった冬馬は、当然の如く上半身裸で寝ていたのだ。

「はあ・・・」

改めて見る自分の姿に冬馬はため息をつく。

「おはよう冬馬くん」

そんな冬馬に窓越しに座っていた琴平あゆむがやわらかい声を投げかけた。

「あゆむ・・・」

「昨日のこと、後悔してるん?」

「こ、後悔なんてねえよ!」

昨日のことでさすがに気恥ずかしいのもあり、あゆむに背を向けてぶっきらぼうに返す。

「俺はお前が好きになったからお前を求めたんだ。だから昨日のことに後悔なんてしてねえよ」

そう答えた冬馬だったが、後悔していないといえば嘘になる。

普通の女の子ならいざしらず、自分は幽霊と体の関係を持ってしまったのだ。

「よかった。なんやゆうてもウチ幽霊やろ?

せやから冬馬くん、そのことで後悔してるんかなって思って」

あゆむの顔を見なくても冬馬には分かる。

たぶん苦笑いをしているのだろう。

あゆむも不安だったのだ。

いくら悲しみを和らげる為だとはいえ、幽霊と生きている人間が恋をすることが。

あゆむの気持ちを感じた冬馬は、頭を振ることで自分の不安を吹き飛ばした。

自分も後悔はあるが、あゆむを好きなことに偽りはない。

冬馬は意を決してあゆむに向き直り、手を肩に乗せた。

「あゆむ!俺はお前が好きだ!ずっと一緒にいて欲しい」

いきなりの告白に、あゆむの顔が驚きと共に赤くなる。

それにつられて冬馬の顔も赤くなった。

そして少しの沈黙の後あゆむが微笑んだ。

「ウチも大好きや。ずっと一緒にいさせてな」

そして冬馬にかるくキスをした。

「えへへ」

嬉しそうに笑うあゆむの目には、かすかに涙が浮かんでいた。

しかしこの涙は昨日のものとは別物。

嬉しさから出る涙なのだろう。

あゆむの微笑みに心引かれてしまった冬馬は自分も答えようとキスをしようとする。

ピピピピピピピピ!

しかしいざしようとした瞬間、目覚ましの音でその気持ちが霧散してしまった。

「も、もう起きる時間か。今日は白鳥に怒られずに済みそうだな」

気持ちが霧散してしまい再び気恥ずかしさがやってきた冬馬は、その言葉と共にあゆむの肩を掴んでいた手を離すと、昨日買っておいたパンを取りに台所へとむかった。




のちつき




「なあ冬馬くん。そういえばなんで衣緒奈ちゃんと仲ええの?」

パンを貪りながら学校へ行く支度をする冬馬にあゆむが尋ねる。

「あ?あれが仲良い様に見えるか?ただうるさく付きまとわれてるだけだろうが。てかなんでそんなこと聞くんだよ」

「ライバルやから」

その言葉の意味を冬馬はよくわからなかった。

「はあ?どういうことだ?」

「ええやんええやん、とりあえず馴れ初め教えてえな」

「馴れ初めって・・・」

冬馬は苦笑を浮かべ頭をかいた。

よく分からないが、自分の好きな男の近くにいる女の事が気になるのだろう。

そう思った冬馬は衣緒奈のことを話してやることにした。

「まあなんだ、あいつが俺に絡みだしたのは、二年で一緒のクラスになってからだ。それまでも何度かケンカ見つかって注意されたことはあったけどな」

「二年になってから?」

「ああ、あいつ曰く孤立してる奴がほっとけないんだとさ。でも流石に学校中の生徒をって訳にはいかねえから、せめて自分のクラスメイトだけでもってことで、人から距離を置いてた俺に突っかかってきたって訳」

そう言うと、冬馬は困ったような顔を見せた。

「まあ、普段の俺なら無視を決め込むところなんだが、あいつには入学して直ぐの頃に助けられたことがあったからな。無碍にすることも出来なかったから、ある程度の条件で譲歩することにしたんだ」

「助けられた?」

気になるワードに引っかかり、冬馬に聞こうとしたあゆむの前に冬馬が手のひらを差し出した。

「とりあえず行きながら話す。話し込んで遅刻でもしたら元も子もないしな」

そう言ってあゆむに差し出した手を、こんどは時計に向けて指差す。

見ると結構いい時間になっていた。

冬馬は残っていたパンを口に押し込むと、いそいそと玄関に出て靴を履く。

「もうそんな時間なんや。じゃあ」

「よし、じゃあ行くか」

靴を履き終えあゆむに振り返った冬馬の顔に、あゆむが顔を近づけキスをねだっていた。

「はあ?」

あゆむの行動に顔を顰める冬馬。

「はあ?やあらへん。行ってきますのチュウ!」

そう言って更にあゆむは冬馬に顔を近づける。

そんなあゆむに対して冬馬はさらに怪訝そうな顔を見せた。

「いやお前、一緒に学校行くんだろ?それとも部屋で待ってるのか?」

「一緒に行くけどええやん!ん!」

あゆむは怒ったように返すと、再びキスをねだる。

かたまる冬馬に、キスをねだる体勢を崩そうとしないあゆむ。

どうもキスをしないといけないらしい。

「ああもうわかったよ!」

根負けした冬馬はあゆむに軽くキスをした。

軽く触れた唇が離れる。

「え~、もうおしまい?昨日してくれた熱~いキスがええなあ」

軽いキスでは満足できなかったのか、あゆむは唇に指を当て上目遣いで再び冬馬にキスをねだる。

「ば、ばか!朝からあんなもん強請ってんじゃねえよ!」

顔を真っ赤にして返す冬馬。

「そ、それは夜にしてやるからさっさと行くぞ!」

そう言うと、冬馬は耳まで顔を真っ赤にしながら、そそくさと玄関を後にする。

「ふふっ、やっぱり照れてる冬馬くんも可愛いな」

あゆむはあゆむが追いつけるように歩く速度を緩めた冬馬の頬に軽くキスをすると、並んで学校へ向かうのだった。



「ほんで、助けられたってなんなん?」

少し歩いたところであゆむが冬馬に尋ねる。

「ああ、そのことな。停学終わって直ぐにこのイヤーカフのことでセンコーともめた時、

白鳥に助けられたんだよ」

冬馬が左耳に付けられたイヤーカフを指差す。

「あ、それって妹ちゃんに買ってもらったってやつ?」

「ああ、学校にこんなもんつけてくんなって、生活指導のセンコーにからまれてな」

冬馬の高校は割と自由な校風だが、さすがにアクセサリーを付けて行くと指導が入る。



「おい大鷹!お前は校則を理解してるのか?アクセサリーは禁止されてるだろう」

そう言いながらその教師は俺の耳に手を伸ばそうとする。

俺はその手をおもいっきり払いのけた。

「すんません。これ命より大切なものなんで」

俺はまったく反省無く冷めた表情で教師を見る。

「そんな言い訳が通用すると思ってるのか?没収に決まってるだろ!」

呆れ顔で怒る教師。

俺は引くつもりはないし、教師もそのつもりはないらしい。

そのうち教師は無理矢理イヤーカフを奪おうとしてきたんだ。

殴って教師を黙らせるのは簡単だったけど、

流石に教師を殴ったとなったら退学だろうし、そうなると一時的にでも学費を出してくれてる屋敷の親に悪い。

どう対応しようか迷っているスキに、イヤーカフを奪われてしまった。

「返せよ!それは妹の形見なんだ!」

俺は勢いよく教師の胸座に掴みかかった。

「大鷹、私を殴ると退学になるぞ?」

教師はまじめな顔で話す。

この教師は気難しいが悪いセンコーではないことは知っていたけど、俺にとっては面倒この上なかった。

「くそっ!」

「しかしなんだこの薄汚いピアスは。こんなもんに退学は賭けられんだろう?」

訝しげな表情でイヤーカフを眺める教師。

イヤーカフを馬鹿にされ、俺の我慢は限界を通り越してしまった。

握り締めた拳を教師に放とうとした刹那、俺達の間に白鳥が入ってきた。

「やめなさい。本当に退学になっちゃうわよ」

白鳥は振りあげられていた俺の腕を掴んでいた。

「うっせえ!妹の形見取られたうえにバカにもされてんだ!黙ってられるか!」

「はいはい分かったから」

白鳥は教師の胸座を握った俺の手を押さえるように両手で包むと、先生に向き直った。

「すいません、私からも注意しておきますので」

そう言いながら俺を教師から離し、引っ張っていった。

「白鳥、よく言い聞かせておいてくれよ」

教師もそう白鳥に話しかけると、その場を去っていった。


「まったく。あの先生がいい先生だったからいいものの、体育の先生だったらかなりやばかったわよ?」

人気の少ない外階段に連れてこられた俺は、両手を握って黙っていた。

その手には教師に奪われたはずのイヤーカフが握られている。

白鳥が俺と教師を引き離すスキに教師から取り返してくれたのだ。

俺はイヤーカフが傷つけられてないのを確認すると、再び左耳につけようとする。

「ちょっとちょっと!なに考えてるのよあなた。せめて学校にいる時はポケットにしまうなりしなさいよね」

慌てて止めようとする白鳥に、俺は残念そうに返す。

「妹が死ぬ前に俺に買ってくれたものなんだ。出来ればつけていたい」

「なに?さっきの話ホントなの?」

俺はこくりと頷く。

力なく頷いた俺に白鳥はバツが悪そうに頭をかいた。

「ああもうわかったわ!兎に角一週間だけ学校にいる時はポケットにしまっときなさい。

それが出来たなら、それ以降それつけてられるようにしてあげるから」

「は?どういう事だ?」

俺は白鳥の言葉の意味が理解出来ず、間抜けな顔で聞き返す。

「それであなた、それが妹さんの形見っていうのは間違いないわね?」

「間違いじゃねえけど・・・おまえなにする気だよ」

「OK。で、その経緯とかってのは教えてもらえる?」

白鳥は俺の質問を無視するかのように質問をまくし立てる。

「い、いや、あんまり言いたくねえ。気持ちのいい話でもないし」

「わかった、話したくないなら仕方ないわね。確か死ぬ間際に買ってもらったって言ってたわよね?まあそれらしく作ればなんとかなるでしょうし」

白鳥はぶつぶつつぶやきながら俺から離れると、俺に振り向いた。

「いい?妹さんのことを大切に思っていて、学校でもそれを付けてたいんなら一週間は我慢しなさい。いいわね?」

「おい!マジでなにするつもりなんだよ!」

「いいから言うとおりにしなさい。信じるものは救われるから」

白鳥はウインクをするとその場を離れていった。

俺は半信半疑ながらも、妹のことを大切に思ってるならという言葉に対抗心を覚え、一週間学校にいる時はイヤーカフを耳からはずしていた。


そして一週間後、俺は白鳥からでなく俺からイヤーカフを取り上げようとした教師から、

もうイヤーカフをつけててもいいと言われたんだ。

訳も分からず教師に理由を尋ねると、いきなり泣き出されてな。

聞くところによると、白鳥が俺がイヤーカフをしている理由と経緯を、細かく説明した用紙をみせられたらしい。

白鳥は生徒や先生からかなりの信用を得ていたので、変に疑われることもなかったそうだ。

その用紙を見せられた教師たちの半分以上は涙をながしたらしい。

ちなみに生活指導のセンコーが一番号泣していたとのことだ。

そして最後の一文に『妹を思い一週間、イヤーカフをつけることを我慢します。それが出来たのなら今後イヤーカフをつけることを認めて欲しい』そう書かれていたようだ。

白鳥の創作だとばれるといろいろやっかいなので、その用紙を見せてもらうことは避けたけど、俺のイヤーカフが認められたのだから、かなり信憑性が高く書かれていたのだろう。



「ってな訳で、俺はこのイヤーカフを学校でもつけていられるようになったんだ」

「ほへー、さすが衣緒奈ちゃんやな。めちゃめちゃかっこええやん」

あゆむは目をキラキラ輝かせながら興奮していた。

「そんな事があって、俺はなるべく皆とする行事には出来る限り参加するってことで、白鳥には納得くしてもらたんだ。まあ二年になってからは授業の出席日数とかでかなりうるさくされたんだけどな」

「そんなんどうでもええわ。そもそも授業にちゃんと出るのは学生の基本やろ?それよりホンマ衣緒奈ちゃんは凄いな。女のウチでも惚れてまいそうやわ。こら手ごわいで・・・」

あゆむは最後ぼそぼそと呟くと、なにやら考え込む仕草をした。

「お前は何であいつと戦うつもりなんだ」

「にぶちんの冬馬くんには教えへ~ん」

あゆむはイタズラっ娘っぽく笑うと、歩く速度を速め冬馬の前に出た。

随分話していたのだろう。

話が終わる頃には、学校の近くまで来ていた。


そんな二人の後ろ姿を、獅堂要が眺めていた。

(また随分と仲良くなったものね・・・)

人間と幽霊ってことをわかってるのか?と苦笑をもらそうとした瞬間、要の目に意外な光景が飛び込んできた。




そこからは無我夢中だった。

とっさの事とはいえ、自分のした行為に反省を覚える。

本来は禁じられている行為。

だが自分は無意識のうちにそれを行っていた。

「はあ・・・」

その事についてため息を漏らす要。

「どうしたの要。ため息なんて珍しいじゃない」

そんな要を見て心配そうに衣緒奈が話しかけてきた。

「なんでもない」

「あ、なにか隠し事してるでしょ。なにがあったの?」

「なんでもない」

いつものように冷めた表情でそっぽを向く要。

こんなやりとりは日常茶飯事なので、衣緒奈はさっと追及を止めて自分の話題に切り替えた。

「まったく・・・あいかわらず強情よね。ま言いたくないならいいわ。それより聞いてよ~。今朝の冬馬とあゆむちゃんの様子、ちょっとおかしかったのよね。なんか通じ合ってるみたいな感じかしら。あれは絶対なにかあったのよ~」

むすっとした表情で机にうなだれる衣緒奈に要がゆっくりと振り向く。

「やったんじゃない?」

要が親指を人差し指と中指の間に握りこんだ形を作る。

その意味に気付いた衣緒奈は耳まで赤くしてそっぽを向いた。

「ばっ、ババババ馬鹿!そ、そんなのあるわけないじゃない」

「人と幽霊とはいえ男と女が一つ屋根の下で暮らしてるんだし、あってもおかしくないことだと思うけど」

そう話す要の表情は相変わらず無表情のまま変わらない。

「ま、それはそれとして鳥」

「なによ」

完全にからかわれていると思っている衣緒奈はそっぽを向いたままぶっきらぼうに返す。

そんな衣緒奈に要はいつも通りの無表情で重大な事を言ってのけた。


「あんた、なんで死んでるの?」


瞬間、二人の間の空気、正確には衣緒奈が凍りついてしまった。











《予告》

知らぬうちに幽霊になってしまった白鳥女史。まだ生き返らせる事が出来ると言った獅堂候補生の言葉に、冬馬達は夜の病院に忍び込むことになる。しかしそこには獅堂候補生の陰謀が隠されていた。

次回、七の夕月『小望月』


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