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七の夕月   作者: サTo
16/17

なな夕月せきげつ




つごもり




琴平あゆむの成仏から半年が経ち、大鷹冬馬は毎月の恒例となったあゆむの墓参りに来ていた。

普段はオカルト研究部のみんなと来るのだが、先月から冬馬とあゆむ二人だけの時間も必要だろうと要が言い出したので、今冬馬は一人であゆむのお墓の前まで来ていた。

季節は立っているだけで汗がにじみだしてくる季節になった。

先ほどバケツいっぱいに入れてきた墓掃除のための水を頭からかぶってしまいたいくらいである。

春奈の墓参りを先に済ませたので、二つ目ともなると汗の量が尋常ではない。

そんな衝動と戦いながらも、あゆむの墓を綺麗に拭き掃除した冬馬は、線香に火をつけて墓の前にしゃがみこんで手を合わせた。

「あゆむ。俺が教師を目指すって話だけど、衣緒奈のおかげで順調に成績を上げていけてる。俺が真面目に勉強なんてなんかおかしいよな」

冬馬は光沢が出るほどに綺麗なあゆむの墓を見ながら笑う。

最近建てられた墓だというのもあるが、毎月何回も掃除されてるのだから綺麗なのは当然のことだ。

冬馬とあゆむの母親が毎月別で来ているので、最低でも月2回は掃除されてることになる。

「今日もこの墓参りが終わったら部室で勉強会。大変だけどあれだけ授業をサボりまくってた俺が教師になるんだから当然の努力だよな。こんな俺に付き合って勉強教えてくれてる衣緒奈にはほんと頭が上がらないぜ」

あゆむが成仏してから一週間が経った日、冬馬は教師になることを決意し、今の自分ではどうにもならないと白鳥衣緒奈に協力を求めた。

あゆむが成仏してから冬馬は、あゆむのところにたくさん持っていく思い出を作るには、話しても話尽くせないくらいの思い出を持っていくにはどうしたらいいかを考えていた。

生きていく内に、思い出などいくらでも出来る。

だが教師であれば、いろいろな子供たちと接していくことで、濃密な思い出がたくさん出来る。

一番たくさんの思い出を作れる職業として、教師を見出したのだ。

しかし教師を目指すためには、現状の冬馬では成績がまるで足りない。

そんな冬馬が衣緒奈を頼るのは当然のことであった。

衣緒奈はというと、冬馬の願いを快く受け入れ、頼まれた次の日から冬馬へのスパルタ個人授業を開始したのだ。

「そういえば衣緒奈のやつ、俺と同じ大学受けるらしくてよ。その推薦試験が最近あったらしいんだけど、出来たのかを聞いたら、『受かってるから。心配してくれるなら少しでも自分の成績をあげなさい』って言われちまったよ。相変わらずあいつはすげえよ」

「へー。じゃあ衣緒奈ちゃんはもう自分のことは終わらせて、冬馬君の為に動いてくれてるんや」

「ああ、そうなんだ―――」

そう言いかけて違和感に気づく。

自分は一体誰と話していたのか。

その声はよく知っている声。

「あゆむ・・・なのか?」

驚きの表情で目の前の墓を見つめ、そう聞いてみる。

すると、

「ただいま、冬馬君」

墓の横側から満面の笑顔で、あゆむがゆっくりと出てきた。

 

半年経とうがわすれるはずがない。


成仏したはずのあゆむがそこにいたのだ。

「冬馬君!」

久しぶりの再会に感極まったのか、目に涙を貯めながらあゆむが冬馬の胸に飛び込んできた。

驚き硬直していた冬馬だが、そんなあゆむをなんとか抱きとめる。

「あゆむ・・・、お前成仏したんじゃなかったのか?」

冬馬は未だに信じられないといった感じで、抱きしめるあゆむを見る。

「ちゃんと成仏したで。でもなんやこの時期には帰って来れることになってん」

冬馬の胸に顔をうずめたままあゆむが答える。

「どういうことだ?」

冬馬のその言葉を聞いた瞬間、あゆむは冬馬にうずめていた顔をバッと上げると、怒った顔を冬馬に向けた。

「冬馬君!教師目指してるんやろ!やったら今日が何の日かくらい知ってなあかんやん!」

あゆむの怒った表情に狼狽える冬馬。

そう言われても、冬馬には今日がなんの日なのかわからない。

「てか教師やなくても大抵の人は知ってるで」

「え?なんだっけ?そういや貴人がコミケとか言ってた気はするが」

冬馬の答えに大きくため息をついたあゆむは、やれやれといった感じで冬馬に答えを教えてやる。

「まあ教師になる為の勉強にはいらんことかもしれんけど、常識やで常識!ほら、今日はお盆やんか」

言われて冬馬は初めて気がついた。

「あー、そういえばそうだったな。てかあれって先祖が帰ってくるんじゃなかったのか?」

「先祖やなくても帰ってくる霊もおるみたいいやけど、ウチも詳しいことはわからんわ。まあとにかくウチは毎年この時期に帰ってこれるようになってん」

嬉しそうに話すあゆむ。

「そうか・・・」

冬馬はそう呟くと少し離れていたあゆむを抱き寄せて、再び強く抱きしめた。

「よかった。会えるのも嬉しいけど、成仏してもこうしてお前に触れられるのが嬉しい」

「冬馬君」

そして二人は一頻り抱き合ったあと、どちらからともなく離れた。

「なああゆむ、春奈も帰ってきてるのか?」

「うーん。向こうでもまだ会えてないしわからんわ。必ずしも帰れるわけやないみたいやし」

「そこらへん詳しく聞きたいぜ。あの世の本当の事情とか知れたら、今までの常識を覆せるかもしれねえし」

「さすがにそれは教えられへんよ。ウチが今回からずっと帰れるようになったんは特別らしいし、冬馬君達には、あの世のこと教えへんことを前提に帰るん許可してもろたみたいやし」

冬馬は、『誰にだよ!』というツッコミを飲み込んだ。

いろいろ聞きたいことはあるのだが、無理なものを聞いても仕方がない。

「春奈ちゃんのお墓らへんには誰もおらへんし、このあたりにも春奈ちゃんの姿が見えへんから、既に帰ってお母さん達のところに行ってるか、帰られへんのか、輪廻転生を選んで次の輪廻に入ってるんかどれかやとは思うけど」

「そうか・・・」

冬馬は少し残念そうな顔になる。

冬馬には春奈が帰っていてもわからないが、あゆむがいるのでコミュニケーションは取れる。

「帰って来てるんやったら、絶対冬馬君のところにも来てくれるやろし、そうしたらウチがわかるから教えたるわ」

「春奈が帰ってきてないのは残念だけど、お前に会えただけでも奇跡だよな。まあもし俺がここに来れてなくても、お前なら俺のところまで来てたんだろうけど」

「当たり前やん!でもお盆の事も知らんかった冬馬君が、よう今日にお墓参りに来てくれたなあ」

あゆむの言葉に冬馬は自分の無知を反省する。

「毎月来てくれてたんは知ってたけど、だいたい月始めと中頃の十五日頃やったから余計不思議な感じやわ」

「知ってたって、もしかして俺が話してた内容も伝わってるのか?」

あゆむの発言に驚く冬馬。

「なんやろな。お墓ってウチらにとっては電話みたいな感じになるんやろか。とにかく冬馬君が話してくれたことは、全部聴いてるで」

こういう事は言っていいのかと思う冬馬だが、得てしてあの世の事情の一つを知ることになった。

「ほんで、なんでなん?」

「あ、ああ。獅堂のやつがよ、今月は今日にお墓参り行ったほうがいいって、なんか嫌に強引に勧めて来てたんだよな。今にして思えば、あいつお前が今日帰ってくるっての知ってたかもしれねえ」

「要ちゃんやからな。知っててもおかしないとは思うけど、たぶんお盆に帰ってくるかもしれんから行ってみたら?ってことやったんやと思うで」

あゆむの言うことも一理あるが、要だからこそ知っていたのではないかと思えてしまう所がある。

「ああ、そういえば今日は獅堂も一緒に勉強する予定みたいだから聞いてみるか。あゆむの帰省を祝うついでに」

「え?祝ってくれるんは嬉しいけど、今日これから勉強会やないん?」

お墓参りの後に勉強会があると冬馬が言っていたのを覚えていたあゆむは、心配になって聞いてみる。

「お前が帰ってきたんだぜ。衣緒奈だって今日くらい勉強しなくていいって言うはずだ」

冬馬は嬉しそうにすると、衣緒奈の携帯に電話をかけた。

あゆむはそんな冬馬が、自分の帰還をみんなで祝えるのが嬉しいのか、勉強がなくなって嬉しいのかを考えたが、後者にあの頃の冬馬を感じて微笑むのだった。

冬馬はというと、衣緒奈に電話がつながった様子だった。

「衣緒奈!朗報だ!あゆむが帰ってきたぞ!」

電話の向こうで衣緒奈が息を飲んだ。

「ほ、本当なの?」

「ばか!こんなのとで嘘ついてどうすんだよ!本当に帰ってきたんだよ!」

衣緒奈は目に涙を浮かべて喜んだ。

「帰ってきたんだ・・・」

「ああ、なんか毎年こに時期に帰って来れることになったんだってよ」

「お盆に帰って来れるってことね。一年に一度だけだけどずっと会えないよりは全然いいわね」

衣緒奈は涙を勢い良く拭き取ると、明るい笑顔に変えた。

「で、あゆむの帰還を部室で祝ったりする?するわよね?今日くらいみんなで祝いましょうよ!」

衣緒奈の中でもう予定は決まっているらしく、強引に予定を立ててきた。

冬馬もそのつもりなので断る理由なんかない。

「じゃあもうすぐで部室に着くから、みんなに言って準備しとくわね。あんた今墓地にいるんでしょ?できるだけゆっくり来なさいよ」

強引ではあるものの冬馬の予定も祝う方向に向いているため、冬馬はそれを伝えると、衣緒奈の方からさっさと電話が切れてしまった。

「ったく、相変わらず強引なやつだ」

そういう冬馬だが、顔は嬉しそうだった。

あゆむは、冬馬が衣緒奈に対する呼び方を変えていたことと、今の笑顔で多少二人の仲が進展していることは感じたが、ほんとうに多少だけに感じた為にため息をついた。

あゆむが思うに、冬馬は一途なのであゆむ意外と恋愛関係になろうとは思っていない。

なってしまうと浮気していることになり、あゆむを裏切ることになると考えているのだろう。

しかしそれでは最大限の思い出を作ることが出来ない。

奥さんがいて、子供もいた方が、思い出の数も増え、その内容も濃くなるはずだ。

冬馬が認めた人なら結婚も全然して欲しいと思うあゆむだが、出来れば自分が一番好きな衣緒奈と結婚して欲しいと思っていた。

成仏する間際に、衣緒奈に冬馬のことを頼んだのは、そういう意味合いも含んでいたのだが、半年経っても二人の関係はいうほどに近づいていないのだから、ため息をついてしまうのもしかたがなかった。

冬馬の気持ちを考えると、恋愛に気持ちがいかないのもわかるが、冬馬自身周りがそういう信号を発していても気づかないほど鈍い。

衣緒奈がこの半年間でどこまでその信号を発していたかはわからないが、冬馬が恋愛を意識しないと始まるものも始まらないと感じたあゆむは、少し二人の手助けをすることにした。

「じゃああゆむ、ゆっくり部室に向かうとしようぜ」

冬馬はバケツと雑巾を片付けると、あゆむの手を引いて歩き始めた。

そんな冬馬にあゆむが、冬馬の反応を想像してニヤニヤしながら言った。

「ねえ冬馬君」

「なんだ?」

冬馬は歩きながら、振り返らずに前を向いたまま返す。

「浮気してもええんよ?」

瞬間、冬馬はいきなり唾液を喉に詰まらせて、ゲホゲホと激しくむせた。

「ば、馬鹿野郎!んなことするわけないだろ!俺はお前一筋なんだぞ!」

冬馬の言葉はあゆむにとって凄く嬉しいが、衣緒奈とならくっついても構わないし、むしろ結婚する事すら望んですらいる。

「冬馬君の思いは嬉しいけど、結婚して子供出来たりしたほうが、ウチに持ってきてくれる思い出も格段に増えると思うよ?」

「それはそうだけどよ。俺にとってお前が一番なわけだし、他に誰かと恋愛をすることになっても、そいつは二番目にしか成りえない。一番好きな奴が他にいるのに、それでも2番目でもいいから俺の恋人になってくれる酔狂なやつなんてさすがにいねえよ」

多分衣緒奈がその酔狂な奴なのだろうと思うあゆむだが、ここで勝手に衣緒奈の気持ちを言うのはさすがにまずい。

「もしかしたら居るかもしれんよ?案外近くに」

「近くにったって誰がいるんだよ」

冬馬はあゆむの言葉を笑い飛ばした。

どうやらまったく衣緒奈の存在が見えていないらしい。

あゆむは少し踏み込んで衣緒奈の存在をアピールしたつもりだったが、無駄に終わってしまった。

「冬馬君のにぶちん」

「え?俺がなんだって?」

「もうええよ。とにかく冬馬君が認めた人やったら、ウチは結婚して幸せな思い出作ってもらいたいって思ってるから」

あゆむはそれだけ言うと怒って頬を膨らましながら冬馬を追い越して、さっさと部室へと向かった歩いて行った。




そのころ部室では、ちょうど衣緒奈が勢い良く部室の扉を開けて中に入ってきたとこだった。

「みんな!朗報朗報!あゆむが帰ってきたんだって!」

「おー!よかったじゃないですか!」

衣緒奈の満面の笑顔でそれが真実なのだと判断した草太が嬉しそうに声を上げる。

「そうなのよ!それで今からあゆむの帰還を祝う準備をしようと思ってるんだけど・・・。って、あんたたちなにやってるの?」

衣緒奈は部室内に広がる光景に疑問を感じた。

既にあゆむを迎える準備が出来ているかのように飾り付けされており、その一角に、今は場違いのものがデカデカと置いてあったのだ。

「見てわからない?」

長方形の紙に文字を書きながら要が答える。

「なんで既に飾り付がされてるのかって疑問もあるけどさ、それの存在意義もわからないわよ。既に時期が過ぎてるじゃない」

衣緒奈が指差すそこには装飾がなされた笹が一本でかでかと飾られていた。

「あら、私はぴったりだと思うんだけど」

要はそれだけ言うと、さっさと作業に戻ってしまう。

そんな要に疑問を抱きながらも、衣緒奈はとりあえず草太に質問してみる。

「ぴったりってどういうことなの?」

「わかりませんよー。昨日いきなりこのサイズの笹買ってこいって言われて。時期過ぎてるんで見つけるのにかなり苦労したんですよ」

理由もわからず付き合わされている草太は、嘆きながらも要を手伝う作業の手を止めない。

「まあ、ここまで飾り付されてるならあゆむを祝う準備する必要はないんだろうけど、ほんとこれは異色よね」

困ったように笹を見上げる衣緒奈に、要は大きくため息をつく。

「犬はしかたないにしろ、あんたは鮎達から聴いてるはずだからわかるでしょ?」

そんなことを言われても、衣緒奈はなんのことを言っているのかわからない。

「いったいなんだってのよ」

少し怒った風に要に尋ねるが、要はいつもの無表情を崩すことなく答えを言わずに返してくる。

「馬に経緯を聞いたんでしょ?なんで鮎が帰ってきたのかを」

要の言葉に衣緒奈はもう一度冬馬の話を振り返ってみる。

「ああ、そういえばあんた達にはそれを伝えてなかったわね。なんかお盆に帰ってこられるようになったらしいわ。だから一年に一度この時期だけ・・・」

言おうとして、最後のフレーズで衣緒奈はようやく要の真意に気づいた。

「あはははは!なるほど、確かにぴったりね!要にしてはやるじゃない!」

大声で笑い出した衣緒奈に驚く草太と、ようやく気づいた衣緒奈に向けて親指を上に立てる要。

「え?どういうことですか?」

草太はまだ理解していないらしい。

「我ながら自分を褒めたいくらい。ほら、わかったんなら鳥も願いをかきなさいよ。今日書く願いはきっと叶う」

要はそう言うと、短冊とペンをを衣緒奈にも差し出した。

「そうね。ところで草太君は何か書いたの?」

「い、いえ」

「なら書いたほうがいいわよ。今日書く願いはかならず叶うんだから」

衣緒奈はウインクをすると、自分の持っている短冊とペンを草太に渡し、要に再び自分の分をもらった。

「そ、そうなんですか!?じ、じゃあ」

そういうと草太は勢い良く殴り書きで短冊に願いを書いた。

そして『要先輩とデートができますように』と書かれてた短冊を衣緒奈と要の前に掲げた。

「この願いも叶いますでしょうか?」

「あら、あんた私とデートしたかったの?」

その願いを不思議そうに見る要。

「別にそれくらい、言ってくれたらしてあげるのに。そんなにしたいなら今週の日曜日に買い物でも行く?」

「え?ホントですか!?すごいです!ほんとに願いが叶っちゃいました!」

いきなり願いが叶った草太は嬉しそうに歓喜する。

しかし要は一筋縄ではいかない事を草太は忘れていた。

「ってことで今度の日曜に部活の備品買いに行くから、衣緒奈も参加ね」

「ええーーーっ!それはないですよ」

涙を浮かべながら落ち込む草太を可愛そうだと思いながらも、半年経っても変わらない二人を暖かく見つめる衣緒奈。

「さて、私はなにをかこうかしら」

自分の願いを考えながらふと窓の外を見る衣緒奈。

その先には校庭が広がっていて、そこを楽しそうに喋りながら、あゆむと冬馬が歩いてきた。

その光景を見て微笑んだ衣緒奈は、さっと短冊を書き上げた。

それを笹に吊るすと、これから直ぐに扉をあけるであろう二人を祝うために準備を始める。

風にゆられるその短冊には、『あゆむと冬馬の幸せをずっと近くで見ていられますように』そう書いてあった。



衣緒奈は思う。


今日書く願いはきっと叶う。


なぜなら今日は、離れ離れになってしまった恋人達が、一年に一度逢うことの出来る奇跡の日なのだから。

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