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七の夕月   作者: サTo
15/17

有明月

なな夕月せきげつ




あゆむが成仏してしまう当日、朝の大型ショッピングモールに琴平あゆむの姿があった。

本来この日は恋人である大鷹冬馬と一緒にいる方がいいのではないかと思われるあゆむだが、あゆむは冬馬と一緒ではなく白鳥衣緒奈と一緒にいた。

二人はショッピングモールの食品売り場を並んで歩いている。

「ごめんな衣緒奈ちゃん、お金まで出してもろて」

「いいのよ。要の術で物は触ようになれても、あゆむが買い物したら完全にホラーだし、幽霊のあゆむがお金なんて持ってるはずもないもんね。あ、お金のことは気にしちゃダメよ。私の好意をありがたく受け取りなさい」

カートを押す衣緒奈の後ろを、申し訳なさそうに顔を伏せながらついてくるあゆむに、衣緒奈は微笑みを向けた。

「ありがとな!衣緒奈ちゃん」

衣緒奈に眩しい笑顔を返すあゆむ。

「ほら、何が必要なの?遠慮せずにどんどん入れちゃいなさい!」

この日あゆむは衣緒奈達にお別れパーティーをして欲しいと頼んでいた。

本来パーティーを開かれる側のあゆむが準備を手伝うことはおかしな話だが、冬馬へのサプライズで自分の得意な料理を振舞うことを計画したあゆむは、料理の準備は自分に任せてもらうようにしたのだ。

冬馬のサプライズの件については他にいろいろ考えたが、自分の得意なことが料理であり、要の術をかけてもらえば問題なく行えることが理由で、今後ずっと形として残るものを自分で作る事も考えたが、物作りにが得意な人物が周りにおらず、あゆむ自身も工作は苦手だったために料理という案になったのだ。

冬馬はというと、準備段階からサプライズがバレてしまうため、パーティーが始まる前までは開催場所であるオカルト研究部の部室には近づかないで、どこかで時間を潰しているように言われている。

「えっと、とりあえず冬馬君は唐揚げが好きやから鶏肉を買っとかなな~」

「はいはい、精肉売り場ね」

衣緒奈は軽やかにカートを押し、あゆむはふわふわと飛びながら精肉売り場へと向かう。

「それにしてもあいつ唐揚げ好きだったのね。・・・知らなかった」

鶏肉を手に取りながらシュンとなる衣緒奈。

「ま、まあ家ではバイトでの貰い物とかで良く食べてるから。それに学校では購買がほとんどやから知らんで当然やで?」

「そうよね。二人は一緒に暮らしてるんだから」

あゆむがすかさずフォローするが、衣緒奈の落ち込みは治らない。

しかしそんな思いも自分自身ですぐに立ち直らせるところが衣緒奈のいいところである。

首をブンブンと降ることで悪い思考を吹き飛ばす。

「ほら、唐揚げだけじゃ全然物足りないでしょ!どんどん買って行くわよ!」

「うん!」

あゆむは衣緒奈のすっきりとした性格にありがたさを感じながら、再び二人で買い物を楽しむのだった。


そして。


「まあ量が量だけに仕方ないとは思うけど、手伝っちゃって良かったの?」

学校の調理室で忙しそうに料理を作っているあゆむに、材料を切りながら衣緒奈が尋ねる。

「さすがみんなの分の料理も作るとなると大変やし、ウチの味と気持ちが冬馬君に伝わったらええんやから」

衣緒奈に微笑み返しながらも、あゆむは料理をする手を休めることはない。

学校に来てからあゆむはすぐに、要に手をこの世の物に干渉出来る術をかけてもらい、料理の下準備に勤しんでいる。

今後の段取りとしては、あゆむはパーティーを始める7時をめどに料理が完成するようにして、時間になったら衣緒奈と要達が会場である部室に料理を運び、衣緒奈達が料理を並べ終えたタイミングであゆむが部室に入ることになっている。

要はというと、今現在は草太と部室の飾りつけをしていた。

今回の主役であるあゆむに準備段階から部室を見せられないとのことなので、ああゆむは始まるまで調理室に居るように言われている。

ちなみにこの休日に夜まで調理室と部室が使えるのは、衣緒奈の働きかけである事は言うまでもない。

「それにしても、さすがやってただけあって手馴れてるわね」

「衣緒奈ちゃんやって、普通に切るん上手いやんか」

互を褒め合う二人。

衣緒奈はなんでもそつなくこなせる自信はあったのだが、母親のサポートとして家事を長年やってきたあゆむは手際がいい。

『料理が出来る』と『料理が上手い』の違いが準備段階から如実に表れることを衣緒奈は感心していた。

あゆむはあゆむで、普段料理はしないと言っていた衣緒奈がそつなく材料を切りそろえていることに感心していた。

「衣緒奈ちゃんはホンマに凄いな。なんでも出来るしかっこええし、スーパーマンみたいや」

「スーパーマンってただ強いだけだし、それに私女よ?」

衣緒奈があゆむの言葉に軽く笑う。

「あはは、確かにそやな。ごめんごめん」

「私としては女の子っぽいところが得意なあゆむちゃんの方が羨ましいわ。可愛いしプロポーションだっていいし。私が男だったら放っておかないわよ」

衣緒奈は自分の胸を見下ろしてため息をついた。

何度目かわからない落胆。

あゆむが見える様になって衣緒奈は自分のコンプレックスが一段と気になってしまっている。

「ウチ衣緒奈ちゃんなら大歓迎や」

あゆむはフォローをせず衣緒奈に乗ることにした。ここで下手なフォローをしても逆効果になってしまうからだ。

「それにしても、ちょっと時間取りすぎたかもしれないわね」

衣緒奈の言う通り時間に余裕を持たせすぎたせいか料理を作り出すまでの時間がけっこう空いてしまった。

こういう時間にこそあゆむには冬馬との残り少ない時間を過ごしてもらいたいと、衣緒奈は思っていたのだが今更どうこうする事も出来ない。

調理準備がそろそろ終わりそうなのを見計らって、衣緒奈は冬馬を学校に呼び出そうと携帯をかけた。

しかし冬馬の携帯はドライブモードになっていて繋がらない。

何度か電話するも反応は変わらない。

「まったく、この大事な時にあいつはなにしてるのかしら」

携帯の画面をみながら衣緒奈はプリプリと可愛らしく怒る。

「まあ冬馬君もこの状況で寂しい思いしてると思うから、どこか電話がとれへんところにでもいるんとちゃうかな?」

そんな衣緒奈を愛しい娘でも見るかのような表情で見るあゆむは、衣緒奈を窘め仕方がないので二人で楽しく話していようと提案するのだった。




有明月ありあけづき




そしていよいよパーティーが始まる時間が迫り、あゆむは一人調理室で待機していた。

二時間前に調理を開始し、ほんの十分前にすべての料理を作り終えたあゆむは、久しぶりに味わう達成感に満たされた表情をしていた。

あとは冬馬に食べてもらい、美味しいなんて言われたら、その瞬間にも昇天してしまうくらい嬉しい。

「冬馬君、喜んでくれるやろか・・・」

期待と不安が入り混じる中、未だ連絡が取れない冬馬を待つ。

手はずでは既に冬馬と合流し、パーティー開始まで調理室で一緒に待っているはずなのだが、未だに冬馬とは連絡がついていない。

もしかしたら、どこかで事故にあったのかもしれない。

そんな不安が生まれ始めた矢先、調理室の外から衣緒奈の怒鳴り声が聞こえてきた。

「今頃電話してきて遅れるってなによ!こんな大事な時に!」

話の内容から相手は冬馬だと予測できるので、冬馬の無事がとりあえず確認できてあゆむはホッとする。

「だから今まで電話出来なかったのは謝ってんだろ?とにかくいま急いでそっち向かってるからもう少しだけ待っててくれよ」

「待つったってあとどれだけかかるのよ!早くしないとあゆむが成仏しちゃうのよ!」

今回のパーティーの開始時間は、鎖が消える時間を成仏する時間だと考えたうえで、要のもしかしたら成仏する時間が早まるかもしれないという指摘により、少し早めの時間で設定している。

もし成仏の時間が早まってしまって、冬馬が間に合わないのでは目も当てられない。

「んなことわかってるって!・・・えっと、すんません、あとどれくらいで着きそうですか?」

「ん~、冬馬の学校だろ?信号とかうまく抜けれたら十分、最悪でも十五分ってとこかな」

冬馬の近くから男の声が聞こえる。

衣緒奈はおそらく、あゆむの両親のところに行った時に運転をしてくれた伊藤公博と車にいるのだろうと想像した。

「聞こえたか?とりあえず最低でもあと十五分でそっちに着くから待っててくれ」

冬馬はそれだけ言うと電話を切ってしまった。

「まったく!どこほっつき歩いてたってのよ!」

「まあまあ衣緒奈ちゃん、冬馬君かてなにかせなあかんことあったんやろし」

切れた電話に向かって怒る衣緒奈を宥めるために教室の壁をすり抜けてきたあゆむ。

「それで冬馬君はいつ着くって?」

「遅くても十五分だって。時間くらいちゃんとあ守って欲しいものだわ」

「まあ十五分やったらまだ成仏もせんやろし待ってよ。な?」

あゆむは優しく衣緒奈を諭す。

「わかったわよ・・・」

衣緒奈は納得していないようだったが、しかたなく冬馬を待つことにした。


そして十五分が経った頃、ようやく冬馬が調理室に姿を現した。

走ってきたのか息が切れ、少し汗も見えている。

「わ、悪い、遅くなった・・・。時間押しちまったからさっさと始めようぜ」

「せ、せやね!衣緒奈ちゃん、もうええんやろ?」

雰囲気を壊しているような冬馬の発言に苛立ちを覚えた衣緒奈だが、そのことを感じ取ったあゆむが冬馬の腕をとりパーティー開始に持っていこうとする。

「・・・大丈夫よ。ここで時間潰すワケにもいかないから始めましょうか」

衣緒奈は仕方なく二人を会場であるオカルト研究部の部室へと案内した。

「主役の二人が入るわよ~!」

衣緒奈の言葉と共に部室の扉が開かれる。

部室内は色とりどりの装飾がなされていた。

「おお~、すげぇじゃん」

冬馬が感心し、二人で一歩部室に踏み入った瞬間。

パンッパンッ!

煌びやかな装飾と一緒に盛大なクラッカーが二人を出迎えた。

次い衣緒奈が『こほん』と軽く咳払いをし、

「こういう場合なんて言ったらいいのかわからないけど、あゆむの旅立ちを祈って盛大にいきましょう!」

その言葉と共に、あゆむのお別れ会が始まった。

「それにしても豪華な料理だな。金は大丈夫なのか?」

豪華な料理を前に驚く冬馬に、照れてなかなか自分が作ったといいださないあゆむを見かねて、衣緒奈が後ろからあゆむの肩を抱いて言った。

「これは全部あゆむが作ったのよ」

「ウチ、何が得意か考えたら料理やって、冬馬君に食べて欲しかったから。喜んでもらいたかったから」

恥ずかしそうにするあゆむを愛おしそうに眺める冬馬は、タイミング良く草太から差し出された皿に好物のからあげを取って食べてみた。

「うまっ!さすがあゆむだ!めちゃくちゃうめぇよ!」

冬馬は本当に気に入ったらしく、からあげを皿に山盛り載せてガツガツと食べ始める。

「よかった」

あゆむは本当に嬉しそうに涙を浮かべて喜んだ。

そんなあゆむの頭に手を載せて冬馬は微笑む。

「ありがとなあゆむ」

そう言って笑顔を見せると、冬馬はまた直ぐにからあげをほおばり始めた。

「ほら、他にもいろいろ料理あるんだから、からあげばっかり食べないの!」

衣緒奈の叱咤にみんなが笑う。

「せっかく作ったんやし、みんなも食べてな」

「そうね、私たちもいただきましょ」

草太は衣緒奈と要にも皿を渡し、みんなであゆむの料理を堪能することになった。

「なにこれ、ほんとに美味しいわね。料理屋開けるレベルだわ」

口に手を当てながら衣緒奈が感心した声を上げる。

「いややわ衣緒奈ちゃん、それは言いすぎやって」

「おお!ほんとにそれくらい美味しいですよ」

草太も感嘆の声を上げ、要は夢中で箸を勧めている。

その要の行動が、本当に美味しいのだとあゆむに伝えていた。

「まあそれにしたって、こんな席で言いたくはないけど、あんたなんで遅刻したのよ。いつもの学校じゃないんだからね」

「おー、そうだ。そのことな」

冬馬はそう言うと、持っている皿と箸を机に起き、嬉しそうにみんなを眺めているあゆむの前に歩を進めた。

「俺よ、ずっと考えてたんだ。先にあの世に行っちまうあゆむに、俺が何をしてやれるのかって。で、俺なりにあゆむがあの世に行っても寂しさを少しでも和らげられることを考えたんだよ」

冬馬はそういうと、服の内ポケットをあさり始めた。

「あんたまさか!」

「あかんよ冬馬君!」

その言葉で、自分も一緒にあゆむとあの世に行くものだと勘違いしたあゆむと衣緒奈が、冬馬を止めようと慌てて近づく。

そんな二人に冬馬は、器用に両方にデコピンをかました。

バチ!バチぃっ!

「痛ぁ!」

「痛っ」

「ったくお前らは同じ勘違いしやがって。さすがの俺も、そんな事したらあゆむが悲しむことくらいわかってるっつーの」

ふてくされた表情で話す冬馬は、頭を抱える二人に微笑んだ。

「そういやあゆむと初めて出会った時も、同じことしたよな」

痛みと覚えていてくれた喜びで涙が目に貯まったあゆむは、おでこを摩りながらゆっくりと立ち上がる。

衣緒奈も痛そうにおでこに手を当てながら立ち上がった。

「覚えててくれたんやね。それで、一体何を取り出そうとしたん?」

あゆむの質問に、冬馬は内ポケットから出した小さな箱をあゆむの目の前で開けた。

「え?」

あゆむはその箱に入ったものの意味が、一瞬わからなかった。

驚くあゆむに冬馬がしっかりとした口調で話す。

「あゆむ。結婚しよう」

箱の中には綺麗な指輪が光っていた。

そこに居るすべての者が放心状態となってしまう。

もう成仏してしまうあゆむとどう結婚するというのか。

 冬馬は真剣な表情で続ける。

「俺はすぐにはお前のところに行ってやれない。俺は自分自身の人生を精一杯生きて、話しても話尽くせないくらいの思い出話を持ってお前のところに行く。その時に俺と結婚して欲しい。事故や病気でない限りお前を長い間待たせることになると思うけど、俺がお前のところに行くのを待ってて欲しいんだ」

その言葉を聞いた瞬間、あゆむの目に溜まっていた涙が次いで溢れ出てきた涙に押し出されて流れ出した。

そして衣緒奈も目からも大粒の涙が流れていた。

「待っててくれるか?」

冬馬の問いかけにあゆむはぶんぶんと頭を降る。

「待ってる。待ってる!」

「結婚してくれるか?」

「する!結婚するぅ!」

あゆむは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、冬馬の胸に飛び込んだ。

「ありがとな、あゆむ」

「ウチもや!ありがとう!ありがとう冬馬君!」

冬馬はひとしきりあゆむの頭を撫ぜると、要の方に顔を向ける。

「なあ獅堂、あゆむの手の術式ってまだ効果残ってるのか?」

「ええ、あゆむが成仏するまでは持つようになってるはずだけど?」

この状況でも、要は顔色一つ変えずに冷静に返した。

その言葉を聞いた冬馬は、あゆむの手を優しく取ると、その指に指輪をはめた。

指輪はぴったりあゆむの指にはまり、綺麗に輝く。

あゆむは愛おしそうに指輪をその手ごと抱きしめ嬉しそうに涙をながした。

そんなあゆむを冬馬は優しく抱きとめる。

「あゆむ。愛してる」

「ウチもや!冬馬君!愛しとる!」

冬馬があゆむを抱く力を強めた時、いきなり拍手が起こった。

「おめでとう」

衣緒奈が涙を拭うこともせず、笑顔で手を叩いていた。

それにつられて要と草太も手を叩く。

「もしかして今日遅れてきたのってそれのことで?」

「ああ、買いに行ったはいいけど、あゆむの指のサイズがわからなくてな。あゆむの指にぴったりで正直ホットしたぜ」

冬馬は以前から今朝の待機を言われていたので、あゆむの為に自分が出来ることを考えていた。

そして結婚指輪にいきつき、屋敷貴人に相談して公博の運転で今朝から指輪を買いに行っていたのだ。

ちなみに毎月多少貯めてるとはいえ、冬馬の貯金では買えないので、貴人に借金をした事を流石にあゆむには言えなかった。

「っていうかさ、もうここで擬似的な結婚式しちゃいなさいよ。指輪もあるんだし、ちょうどいいと思うけど」

「おいおい、ここで俺の考えまげてくれるなよな」

冬馬は苦笑しているが、そのことを怒っているわけではない。

「別にあんたの考えを否定する訳じゃないわ。ただ結婚式はこっちでもやったほうがいいと思っただけよ」

「結婚式って、そう何度もしないから価値があるんじゃねえのか?」

冬馬は衣緒奈の言葉に思った疑問を口にする。

「馬鹿ねえ。女の子は何度だって結婚式をしたいものなのよ」

衣緒奈の言葉に残り二人の、あゆむと要がうんうんと頷く。

人知れず頷いた要だったが草太がそれを見ており、要の女の子らしい部分を見られて密かに喜んだ。

「ふーん。そういうもんなのかね」

「あ、別の男と何度でもなんて考えてるなら殴るからね!」

「お、思うわけねえだろ!」

いきなり思いもしなかったことを言われ、たじろぐ冬馬をみんなで笑うのだった。

「ま、そういうことにしといてあげるわ。てかあんたと言い合いしててもしょうがないから、さっさと始めましょ。時間も限られてるわけだし」

そう言うと衣緒奈はいそいそと準備を始める。

冬馬とあゆむを向かい合わせに立たせて、衣緒奈自身は本を持って二人の間に立つ。

どうやら衣緒奈は牧師役をやろうとしているらしい。

そして衣緒奈は、冬馬から冬馬の分の指輪、そして、あゆむからあゆむの指輪を一時的に外すためにあゆむの手を取る。

「ごめんねあゆむ。少しの間だけ外すわよ」

「ええよ。指輪交換のためなんやし」

あゆむは笑顔で衣緒奈に指輪を差し出した。

要と草太は空気を読んで、列席者を努めようと移動する。

衣緒奈はみんなが配置についたこと、準備がちゃんと出来ていることを確認すると、咳払いをひとつしてから始めた。

「こほん。それでは新郎、大鷹冬馬。汝は汝この女、琴平あゆむを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「お前すげえな。完璧に覚えてるじゃねえか」

「ほんまや。すごーい」

結婚式の誓いの言葉を完璧なまでに覚えている衣緒奈に、感心の声を上げる二人。

「いいから!ちゃんとしなさい!もう一度言うわよ!」

衣緒奈はそんな二人を叱り、再び誓いの言葉を言い直す。

「汝大鷹冬馬は、この女琴平あゆむを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

その言葉に冬馬はあゆむの顔を見てから衣緒奈に向き直り、

「はい、誓います」

と答えた。

「新婦琴平あゆむ。汝は、この男大鷹冬馬を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

あゆむも冬馬と同じく冬馬の顔をみてから衣緒奈に向き直り、

「はい、誓います」

と答えた。

「それでは指輪の交換です」

衣緒奈は預かって机の上においていた指輪とケースを手に取ると、まずは冬馬にあゆむ用の指輪を手渡す。

そして冬馬はあゆむの手を優しく持ち上げ、手渡された指輪をあゆむの左薬指にはめる。

続いてあゆむも指輪が手渡され、あゆむも同じように冬馬の手を優しく持ち上げて、冬馬の左手の薬指に指輪をはめた。

それと同時に要と草太が祝福の拍手をした。

そして、いよいよ誓いの口づけを前に、拍手が鳴りやんだ。

その瞬間だった。


カラーン!


部室の床に硬いものが落ちたような音が響いた。

「え?」

そこにいた全員が何が起こったのかわからずにお互いを見合わせた。

そんな中、自分が原因であったことから、その音の意味に気づいたあゆむが床に突っ伏して喚きながら周辺を探り始めた。

「指輪が!冬馬君との大事な指輪が!」

あゆむは涙を振りまき、一心不乱に床を掻き毟る。

「来ちゃったのね・・・」

要のつぶやきに全員が理解した。

あゆむが成仏する時間が来てしまい、要のかけた術式が解け、あゆむの指から指輪がすり抜けて落ちてしまったのだ。

「冬馬君の指輪!指輪がああぁぁ!うわあああぁぁぁぁーーーん!」

あゆむの悲痛な叫び。

衣緒奈は見ていられなくなり、涙のあふれる顔をあゆむから背ける。

そんな中、冬馬は泣きじゃくり床を掻き毟るあゆむを勢い良く抱きしめると、指輪を拾い上げてあゆむを抱く力を強めた。

あゆむにはもう現世の物に干渉出来る力はないが、やはりなぜか冬馬にだけは干渉出来るようだ。

「大丈夫だ。この指輪はお前のお袋さんの許可をもらって、お前の骨壷の中に入れてやる!そしたらあの世でもあゆむは指輪をつけておけるんだよなぁ!獅堂!」

「ええ。そこまでしたら、大丈夫だと思う」

さすがの要も顔を伏せて冬馬に答えた。

「聞いたかあゆむ?大丈夫だ!指輪はずっとつけていられるから、俺のこと待っていてくれ!」

冬馬は強い言葉と共に、あゆむを抱きしめる力を一層強めた。

そして数分抱きしめてもらっていたあゆむは、それで落ち着いたのかゆっくり冬馬から体を離した。

「ありがとう冬馬君、ウチはもう大丈夫や。でももう成仏してまうんやから、皆にお別れの挨拶するな」

あゆむはそう言うと、まずは草太前に立った。

まさか自分のところにまで別れを言いに来るなんて思わなかった草太は少し驚いてしまう。

「ありがとな草太君。いろいろ協力してくれたこと、感謝してるで」

「いやいや、僕は要先輩優先で行動したまでですから」

「でもウチが草太君に助けられたのは事実や。だからありがとう」

あゆむの眩しい笑顔。

それを目の当たりにして、草太は涙を堪えられなくなった。

両腕で涙を拭いながら、なんとかあゆむに返す。

「そんなこと言われたら、泣いちゃうじゃないですかぁ」

涙を流す草太に近づき、頭を軽く撫ぜると、あゆむは草太に耳打ちした。

「要ちゃんも草太君のことまんざらやないみたいやから、頑張ってな」

草太はその言葉を聞くやいなや、勢い良く顔を上げるとあゆむに頭を下げた。

「はい!僕の方もありがとうございました!あゆむさん!お元気で!」

「うん!あんまりはよぉにこっち来らあかんよ」

あゆむはそれだけ言うと、草太の前を離れ、今度は要の前に立った。

「要ちゃんにはホンマ感謝してもし尽くせへんくらいやわ。この世に留めてくれて、いろいろなことをさせてくれてありがとな」

要に対しても眩しい笑顔。

それを受けた要は、やはりこの状況でいつもの無表情を貫けるはずもなく、あゆむから顔をそらして答えた。

「私が勝手にしたことよ。あなたに感謝される言われはないわ」

あゆむはそんなぶっきらぼうに返した要の顔の前に、鼻先がくっつくくらい顔を近づけ、要にだけ聞き取れるような声のトーンで話した。

「要ちゃんは、ほんまは凄いええ子やねんから、もう少し素直になった方がええで。特に草太君に対してな」

いたずらっぽく微笑むあゆむに、要は頬をふくらませて、再び顔を逸らした。

「余計なお世話よ」

「せや、ウチがするのは忠告だけ。聞く聞かんは要ちゃんの自由やけど、聞いといた方が幸せになれると思うで」

あゆむはそう言うと、要に頭を下げた。

「ホンマにいろいろありがとう!また会えるよな?」

「ええ、必ず会えるわ」

顔を逸らしたまま答える要に満面の笑みを送ったあゆむは、要から離れ次に衣緒奈の前に立った。

あゆむが前に立った途端、衣緒奈の涙腺が決壊してしまう。

もともと流れていた波が更に溢れて止めどなく流れる。

「こんなに泣いてくれて、ウチのこと想ってくれて、ホンマにありがとな衣緒奈ちゃん。ウチは衣緒奈ちゃんと友達になれてホンマに幸せや」

「あゆむ!あゆむぅ!」

衣緒奈はもうまともに話すことはできなくなっていた。

涙でぐちゃぐちゃの顔を伏せてあゆむの名前を叫んでいる。

そんな衣緒奈をあゆむは優しく包み込んだ。

「衣緒奈ちゃん、大好きやで。冬馬君のこと、よろしく頼むな」

衣緒奈はあゆむの言葉にハッとなり、涙で崩れた顔を上げた。

そこにはあゆむの優しい笑顔があった。

「あゆむ・・・?」

「冬馬君はホンマにぶちんやから、衣緒奈ちゃんの気持ち全然気づいてへん。やから、もうちょっと積極的になった方がええよ」

「なに言ってるのよあゆむ!冬」

冬馬はあなたの彼氏じゃない!そう言いかけた衣緒奈の口をあゆむの指で止められる。

「ウチは大好きな衣緒奈ちゃんやから、冬馬君のこと頼むんやで?衣緒奈ちゃん以外、ウチは認めへんよ」

あゆむはそう言うとすっと衣緒奈から離れた。

「衣緒奈ちゃん、今までホンマにありがとな。これからもずっと親友やで!冬馬君のことよろしくな」

あゆむは頭をさげると小走りで、最後に冬馬の胸に飛び込んだ。

「冬馬君。ウチを愛してくれてありがとう。ウチホンマに幸せやった。死んでからこない幸せになれるんはウチくらいのもんや」

「俺も・・・幸せだった」

冬馬は再びあゆむを強く抱きしめる。

その瞬間、あゆむが淡い光に包まれる。

その光はあゆむを天へと昇らせるための光だと、みんなが気づいた。

「冬馬君、愛してる。・・・ウチ、ずっと、ずっと冬馬君のこと待ってるから」

「ああ、話しても話尽くせないくらい、いっぱいの思い出もってお前のとこに必ずいくから、待っててくれ!」

冬馬は成仏の光にあゆむを取らせないと言わんばかりに、抱きしめる力を強める。

「冬馬君。愛してる。ずっと待ってるからな」

あゆむの声があたりに優しく響いた瞬間、冬馬の体がガクッと前のめりに倒れ、冬馬は膝をついてしまった。

冬馬の腕の中にはもう既にあゆむはいない。


あゆむは無事に成仏していったのだ。


冬馬は声にならない叫び声であゆむの名を呼び、あゆむを抱いていた腕を抱きしめた。

歯を食いしばり、悲しみに泣き崩れるのを数分かけて我慢した冬馬は、立ち上がって衣緒奈達の方に向き直った。

「みんなありがとう。あゆむが幸せのままに成仏出来たのはみんなのおかげだ。あゆむの彼氏として感謝する。ほんとにありがとう!」

冬馬は深々と頭を下げる。

そしてその体制のまま動きを止めてしまった。

衣緒奈はそんな冬馬にフラフラと近づく。

「なに強がってるのよ!あゆむ成仏しちゃったのよ!あんたが一番泣きたいはずじゃない!」

衣緒奈はボロボロと涙を流しながら、強く冬馬を抱きしめた。

「泣いてる姿をあゆむに見せたくないなら私が隠して上げる!隠して上げるから、今は気が済むまで泣きなさい!」

そう言って、衣緒奈は胸を冬馬の顔に押し付けた。

すると冬馬の体が震えだし、衣緒奈の肩を思い切り掴んだ。

冬馬はそのまま声を漏らすことなく泣き続けた。

声を決して出さなかったのは、あゆむに聞かれて心配されるのが嫌だったからだろう。

衣緒奈はそんな冬馬を泣き止むまで抱きしめるのだった。

 


その光景を眺めながら、感動の涙を流す草太の耳がいきなり引っ張られた。

そして慌ただしく部室の外へと連れて行かれる。

「痛っ!痛たた!痛いですって先輩!」

なぜそのようなことをするのか、草太は初めて要に怒りを覚えたが、それが直ぐに草太自身を戒めるためのものだと気づいて謝る。

「すいません、僕空気読めてませんでしたね。あの場合は、大鷹先輩と白鳥先輩二人っきりにしてあげるべきでした。だから先輩は僕を連れ出したんですね」

耳を摩りながらあやまる草太の胸に、要の顔がいきなり飛び込んできた。

嬉しいハズなのに、訳がわからずうろたえる草太。

「せ、先輩!?」

「いいからちょっとだけ胸貸しなさい」

そう言うと要は草太の胸で、冬馬と同じく声を出さずに泣いた。

そんな要の頭を、草太は愛おしそうに撫ぜる。

と、いきなり要が勢い良く顔をあげて草太を睨んできた。

「私が胸で泣いてるからって、調子に乗ったら怒るから」

要はそれだけ言うと、再び草太の胸に顔をうずめた。

要は相変わらず素直にはなってくれないようだ。

「僕たちの恋は、まだまだ前途多難なようですね。白鳥先輩」

草太は要に聞こえないようにそうつぶやくと、後ろの部室に向かって微笑むのだった。











《予告》

運命によって別たれた俺とあゆむ。そんなうちらを再び引き逢わせるのは月の舟?それとも鳥の橋?今、伝説は新たな翼を広げ、大空へと舞い上がる。

次回、七の夕月『晦』

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