神様、どうか
―――苦しい。
―――寂しい。
震える手でナースコールを押そうとしても、視界が狭まって、暗くなって、何処にあるのかも分からない。
激しく痛む心臓が、息を吸わない肺が、自分の命はもう尽きるのだと告げた。
それはもう何度も覚悟したものなのに、私はこんな死に方は嫌だ、と心は全力で拒絶する。
誰かを幸せにする事なんて、全く出来ない人生だった。
寝台から離れられないのは就学前からで、誰一人友達なんていない。
親身になってくれた看護師さん達だって、仕事と割り切っていて線を引いた関係でしかない。
両親でさえ、長年に渡り病弱なままの私の命を、何処か疎ましく思っているのは知っている。
きっと、死んだら誰もが私を忘れて行くのだろう。
白いシーツと積み上げられた本と医療機器の機械音だけが、私を取り巻く世界の全て。
太陽の下で走り回った記憶なんて、ありはしない。
誰かと思いっきり遊んだり、喧嘩をした事だってない。
私の中にも、忘れられない程に幸せな記憶は無い。
ああ、なんて、寂しい人生なのか。
一人ぼっちでなんて、死にたくない。
誰も私の死を惜しまないなんて。
こんな空っぽな生なんて。
なのに、そんな想いとは別に心臓の痛みは私から意識を刈り取っていく。
もう駄目だ。
例えナースコールを押せたとしても、私は死ぬのだろう。
だったら。
震える手を、サイドテーブルの上にある本へと伸ばす。
届かないかもしれない。
掴めないかもしれない。
だけど、せめて。
私の生が何も残さなくても、最後は幸せな気分で死にたい。
大好きで、憧れで、夢のような希望に満ち溢れたそれに触れていたい。
もしも。
もしも生まれ変わる事が出来るなら、今度は、あの人みたいに。
伸ばした手は、何も掴めずに白いシーツの上に落ちた。