初期設定が完了しました
「…ッ」
我に返って瞼を持ち上げると、辺りは真っ暗だった。つい先程まで布団の中で寝ようと苦戦していたのに、自分は何故こんな闇の中にいるんだろう。
真っ暗闇を見渡すと、一本の光の筋が見えた。
まるで、トンネルの中にいるように、光は宇佐見を一直線に照らしていた。
「ていうか、これ…夢…?」
起きている時となんら変わらない感覚、自分は本当に夢の中にいるのかと疑ってしまった。
手を握ったり開いたりしてみるけど、夢とは思えない感触がある。宇佐見は思わず息を呑んだ。思わず頬を抓ってみる―――痛かった。
《ようこそ、箱庭へ》
「うおびっくりした!!」
いきなり声が響いたもんだから、宇佐見は肩を飛び跳ねさせた。
声は、男とも女とも言えない、機械を通したような声。どこから響いたのかと音源を探るが、なんせ周りは暗闇で何も見えない。壁はあるのだろうか、自分が立っている場所さえ暗くて見えない。
「なんだ、今の声」
宇佐見はびくびくしながら、周囲の気配を探った。
《私はこのゲームの案内人でございます》
「案内人?」
声を警戒していたため、今度は声に驚くことはなかった。心臓がばくばくと暴れている。本当に現実のようだ、驚いた時に血の気が引く感覚もあった。
《最初に、あなたのお名前を教えてください》
「名前…」
どうしよう、こういうゲームって本名を使うことはあまりない。だからと言ってちょっとやり過ぎた感がある派手な名前も好みではない。
宇佐見は唸り、それから呟いた。
「兎」
《兎様ですね》
ちょっと捻りがなさすぎただろうか。〝うさみ〟という名前から〝うさぎ〟と一文字変えただけだ。兎も可愛くて好きだし、まぁいいだろう。宇佐見―――否、兎は我ながらいいセンスだろうと満足げに頷いた。
《では兎様、大まかにこのゲームのルールを説明いたします》
要点をまとめると、このゲームは夢の中という以外は、オンラインゲームとほぼ変わらない。他のプレイヤーもいる中で、自分のキャラクターのレベルを上げていく。
一つ違うのは、この〝箱庭〟は他人を蹴落として生き残るゲームだということ。いかに他人をゲームオーバーにさせ、自分が生き残るか。それが最大の鍵である。
プレイヤーは100000人、自分の他に99999人ものプレイヤーがいる。優勝するには、最後の一人にならなければいけない。なんともシビアな…兎は眉を顰めた。
《左手の甲をご覧ください》
「?」
兎は言われるがままに左手の甲に、視線を向けた。
「うおあ!?」
そこには結晶が埋め込まれていた。完全に、皮膚に埋め込まれている。
怖すぎる。
「ていうか、いつ!?いつ埋め込んだ!?」
パニックになって、手の甲に埋め込まれた結晶を右手で触れる。真っ黒に光る、〝箱〟のような結晶だった。痛くはないが、本当にいつ埋め込まれたんだろうか。
案内人の声は苦笑し、ゆっくりと兎を落ち着かせるように言った。
《ここは、夢の中でございます。直接体には、何もされていませんので》
「あ、そっか」
あまりに現実のようで、焦ってしまった。
《その結晶は、ゲームにおいてさまざまな活躍をします。ゲームでいう、メニューだと思っていただいて構いません。ステータス、持ち物、現在位置、さまざまな情報を記録します》
「へぇぇ」
《まず、アイテムを手に入れた時。収納したい道具に、結晶が埋め込まれた方の手を翳し、"イン"と口にすれば収納できます。お金なども収納可能です。また、取り出したいときは、同じように手を翳し、取り出したいものの名前を口にすると出すことができます。
現在の兎様の能力データや〝箱庭〟の情報、ヘルプをご覧になりたい場合は、結晶に触れながら見たい情報を口にすれば視界に情報が表れます》
「この結晶、すっごいハイテクなんだなぁ…」
《結晶はランキングごとに色を変えます。まず初期段階は黒、草は緑、地は赤、海は青、星は水色、月は黄色、そして太陽は白です。ランキングについてはご存知ですか?》
「確か、キャラクターの強さのランキングに反映した階級だよね。下から草、地、海、星、月、そんでトップ7は太陽。始めたばかりの初心者の俺は、階級は草」
《その通りです、ゲーム開始と同時にその結晶は緑に変化しますので、ご了承ください》
兎は頷いた。
《それでは、ゲームの設定をいたします。種族を選んでください》
「種族?」
《魔法種族、戦闘種族、二種類の種族があります。魔法種族は魔法を使うことができ、さらに広範囲の攻撃が可能です。主に、遠距離攻撃を得意とします。一方戦闘種族は、接近戦がとても強く、また攻撃力が魔法種族よりも高いので、その名の通り戦闘向きです》
「ほほう」
魔法と戦闘、どっちがいいだろう。魔法って空が飛べたりするのかな、それってちょっと楽しそうかもしれない。兎は胸を躍らせながら、「魔法種族で」と言った。
《設定終了しました。それでは、あの光に向かって歩いてください》
「え、もういいの?」
兎は驚いて声に訊くが、声は一切聞こえなくなった。兎は諦めて、光の方向に足を向ける。光のもとに近づくにつれて、光が眩しくなった。
暗闇を完全に抜ける頃には、眩しい光から目を護ろうと瞼を閉じていた。