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箱庭  作者:
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しんと静まり返った広い会議室のような一室、電気はついていない。薄暗いその場所は、閑散としていた。数十個ある椅子には、誰ひとりとして座ってはいない。


その中で、もぞっと影が動いた。

椅子ではなく会議室の大きな窓際に、一人の青年が座っていた。

青年は窓の外を覗いた。高層ビルの上の階であるその部屋の窓からは、小さくなった都市が見えた。ぽつぽつと動いている人や車、そこから都市を眺めていた青年は、小さく笑った。


「箱庭」

青年は呟き、再び笑った。


「まるで、箱庭のようだね」

青年の呟きは、青年以外には届かない。青年は真っ黒なパーカーにジーンズというラフな格好をしていた。パーカーにあったポケットに手を突っ込み、すぐさま引き抜いた。

手には、手のひらサイズの立方体の物体。

真っ黒のそのキューブを、楽しそうに手で弄った。

「さぁて、始動だ」


そうして青年は窓際から立ち上がり、会議室をあとにした。



宇佐見は立ち尽くしていた。玄関で、立ち尽くしていた。

寝ぼけて緩くなった表情のまま、手で寝癖のついた髪を弄りながら。


「……えっ…と…?」

思考回路が追いつかない。

宇佐見は、自宅の郵便受けの中にあった小さな小包を見つめた。


「おめでとうございます…?」

〝おめでとうございます〟そう書いてある怪しげな小包を、ゆっくりと手に取った。小包は軽かった。小包を良く見てみると、なにやら自分が当選したことが綴られていた。


当選ってなんだっけ。

宇佐見は回転が未だに遅い頭で、一生懸命記憶を探った。


「あ」

そういえば、応募した、気がする。

商品は、確かゲームだった。しかし、ただのゲームではない。ゲーム機を使って、画面と睨めっこをしながらボタンを押したり、コントローラーを持ったりする物理的なゲームではないのだ。


これは、〝夢を活用したゲーム〟なのだ。


現在、世界ではさまざまなものが普及し、まだまだ科学が行き届かない田舎はあるけれど、都市では何一つ不自由のない生活が送れるほどにまで科学が発展した。

事故のない交通、出歩かずともできるショッピング、すぐにとれる連絡手段。不自由な昔を知っている者からすれば、けしからんと眉を顰めるほどに無駄なことがなくなり、人々のコミュニケーションも徐々に減った。そう言った社会で、問題になったのが若者の睡眠不足である。その原因の多くは、ゲーム依存によるものだった。


そういった問題が挙がってから数年後、大手某会社を差し置いて、聞いたこともない無名が、驚くべき開発を遂げた。

その試作品が、このゲームだった。


バリバリと包みをあけて、中を見る。入っていたのは、説明書らしき紙一枚と、手のひらサイズの真っ黒な立方体だった。


「…発送から一週間の間に、初期設定を終了させてください。一週間の間に終了しなかった場合、同封した〝箱〟は使用できなくなります。初期設定終了時点で、有効期限はなくなりますので、早めに初期設定を終了させることをお勧めします…と」

宇佐見は紙を読み上げ、同封されていた黒いキューブを手で弄った。


「初期設定を終えた時点で、初期設定をしたお客様以外は使用できなくなるので、ご了承ください」

他の人に貸し出しても、初期設定で俺を設定した時点で使用できなくなるのか。宇佐見は、目を丸くした。


「使用するときは、半径一メートル以内に〝箱〟を置いてください。初めにログインした時点で、初期設定は終了となります」

宇佐見は説明書の文を読みながら、布団の中に入った。

今日は休日、ちょうど二度寝をしようとしていたところだった。宇佐見は少しわくわくしながら、手に持っていた真っ黒の〝箱〟を枕元に置いた。


「やべ、寝れないかな」

楽しみ過ぎて眠れなくなった、と宇佐見は焦った。寝れなかったらログインできないじゃないか、宇佐見はぎゅっと目を瞑った。

だが、予想に反して宇佐見の意識はあっさりと落ちた。高ぶった鼓動が、遠ざかっていくようだった。これもすべて、"箱"のせいなのか。


まるで、引っ張られるように。

宇佐見は、夢の中へと走っていった。



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