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我ら復讐代行部!  作者: やばくない奴
氷室師走編
31/33

教唆

 昼休みの教室にて、由依(ゆい)はさっそく師走(しわす)に声をかける。

「そういえば、君は復讐代行部の存在を是とはしていないみたいだね」

 元より、師走は正義を愚直に追求する性分だ。そんな彼が復讐代行部の存在を悪く思うのは、言うまでもないことだ。

「当然だ。ボクは私刑を好まないし、ましてや藤谷潤也(ふじたにじゅんや)のような怪物を頼りにはしない」

「さっすが風紀委員長! でも、仮にだよ? 仮にもし、自分がいじめの標的になったらどうする?」

「対話を試みる。潤也はともかく、大抵の人間には善性があるはずだ」

 少なからず、師走は潤也を性善説の例外として処理していた。もっとも、これまでの潤也の悪行を鑑みれば、彼がその結論に至るのも必然でしかない。由依がそんな彼に声をかけたことには、もちろん大きな意味がある。

「ふぅん。君はそう思うんだ。だけど、痛い目を見ないように気をつけた方がいいね」

「どういうことだ?」

「他の生徒をいじめれば、やがて復讐代行部が動き出す。つまり復讐代行部を頼らない君は、唯一の狙われやすい標的で在り続けているわけだよ」

 無論、この会話はクラスの全員に聞かれている。二人のやり取りを横目に生徒たちは理解する。


――この会話は、実質的な教唆だ。


 師走は問う。

「脅しのつもりか?」

 やはり相手の誘導が露骨すぎたのか、彼はこれを脅迫と受け取った。それでも由依は、体裁を取り繕うように言葉を濁す。

「いや? あくまでも、私は可能性の話をしているだけ。いい子ちゃんが報われるほど、世の中は正しく出来てはいないからね」

 その言い分も一理あるだろう。仮にもし善人が報われることを確約されていたら、そもそも復讐代行部の活動も成立し得ないからだ。

「……何も言い返せないな」

 そう零した師走は、自嘲的な微笑みを浮かべた。


 この会話に、二人の人物が割り込んでくる。

「いざという時に復讐代行を頼むかどうかは君の自由だ、師走。ただ、正攻法でいじめっ子を裁くにも証拠が必要になる。君が望むなら、証拠を集めることくらいは手伝おう」

「あーしとしては、やられたらやり返さないと無意味だと思う! いじめって、いじめる方に非があっても、いじめられる方に原因があると思うんだ」

――宏太(こうた)絵里(えり)だ。絵里の意図を邪推した師走は、少しばかり睨みを利かせる。

「いじめられる方が悪いと?」

「違うよ。ただ、いじめられる人間は環境が変わってもいじめられる。弱者を攻撃するのは、多くの人間に備わった本能だもの!」

「悲しいことだが、そうかも知れない」

 形は違えど、両者ともに善性を愛する人柄だ。胸糞の悪さを噛みしめながらうつむく彼に対し、絵里は得意気にこう語る。

「だからこそあーしたちがいるの。復讐代行が機能している環境下なら、他者の恨みを買うことが怖くなるはずだからね」

 事実として、彼女たちの存在は校内の抑止力として機能していた実績がある。さりとて、それは復讐代行の正当性を担保するわけではない。

「それでも、ボクはキミたちのやり方が嫌いだ」

 それは師走の答えだった。そして、絵里にも一切の迷いがないわけではない。

「あーしも時々思うんだ。潤也のやり方は過激すぎないかって。だけど、潤也は結果を出している。潤也がいないと、復讐代行部が成り立たないほどにね」

 やはり彼女は、潤也のやり方で部が回っていることを不本意に思っていた。同時に、彼女は「結果」を否定してもいない。言うならば、これはアンビバレンスというものだ。


 由依が間接的な教唆を行った以上、多くの試練が師走を待ち受けていることだろう。その覚悟を呑み込み、師走は宣言する。

「……ボクは、ボクのやり方で秩序を守る」

「大丈夫なの?」

「大丈夫かどうかは問題じゃない。ボクだけは、最後まで正しく在りたい」

 もはや、それは正義感というより、執念に近かった。

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