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学級会

 その後、クラスでは学級会が開催された。烏合の生徒たちをまとめるのは、風紀委員長である氷室師走(ひむろしわす)だ。

「改めて、今回話し合うのは、復讐代行部の是非についてだ」

 その一声を皮切りに、論争が勃発する。とりわけ、最も熱くなっているのは、言うまでもなく絵里(えり)だ。

「いつだって、大人は何もしてくれなかった! 子供の問題であれば全部矮小化できる、それが世論であり社会の病理なんだよ! そんな中で復讐代行部という抑止力が奪われたら、誰が善人の人生を守ってくれるの?」

 彼女に続き、他の生徒たちも口々に叫ぶ。

「そうだそうだ! 風紀委員長としての責務もろくに果たせない奴が、都合良いこと言ってんじゃねぇぞ!」

「復讐を止めるくらいなら、いじめを止めろよ!」

「やり返さないと足元を見られるんだよ! ウチらには、復讐代行部が必要なんだよ! 恨みを晴らすためじゃない、静かに生きるために!」

 何やら絵里は、またしても無自覚に生徒を扇動してしまったようだ。内心で、潤也(じゅんや)はこう呟く。

「ある種の才能だよな、群衆を焚きつける言葉選びが」

 そんなことを考えながら、彼はいつものように薄ら笑いを浮かべていた。一方で、宏太(こうた)もまた好奇心をそそられている。

「人間って感情論を悪とするわりに、感情論を自分の感情と同期されたら同調するようになるんだね。実に興味深いよ」

 彼はそう思ったが、潤也と同じくそれを口にしなかった。今のところ、彼らは優勢だ。復讐代行部の存在に真っ向から反対しているのは、ほんの数人だけである。


 師走は思考を巡らせた。眼前の扇動者を前に、どんな言葉を用いれば盤面を覆せるのか――もはやこれは議論ではなく、カリスマを巡った論争なのだ。師走は机を強く叩き、声を張り上げる。

「なんでもかんでも大人のせいだと思うな!」

 その語気の強さに、辺りは静まり返った。それから自らが耳を傾けられていることを確認し、師走は続ける。

「どこの国でも、どんな政治体制の下でも、いじめは必ず起きる! これはもう、血の通った人間の介入で解決できる範疇を超えているんだ! だからと言って私刑を肯定するのは、魔女裁判と何も変わらない!」

 当然ながら、絵里も反論する。

「でも、あーしたちはちゃんと魔女を見極めている! 裏だって取ってるもん! 実際問題、あーしたちが裁いた奴らは、全員黒だったわけじゃん!」

 確かに、宏太の巧みな調査により、復讐代行部は間違った標的を攻撃してはいない。それは揺るぎない事実だ。されど、それで復讐代行が正当化されるか否かは話が変わってくる。それもまた事実だ。


 舌戦の応酬はまだ続く。

「そもそも、学校は社会に備えるための施設だ! 嫌な奴を相手に折り合いをつけることが、健全な人間の通るべき道なんだ! 復讐代行部に手を汚させて、歪んだ安寧を勝ち取ったところで、キミたちは何も成長できない!」

「なんでいじめられる側に成長の責任を求めるの? 悪いのは、いじめてくる方じゃん! 成長しなきゃいけないのは、いじめてくる方だよね?」

「社会に出れば、嫌な奴はごまんといる! その一人一人に報復していってはきりがない! 目には目を歯には歯を……そんな考えでは、世界が盲目になる! 復讐なんてものは、安寧の前借りでしかないんだ!」

 両者ともに、一歩も譲らぬ戦いだ。その雰囲気に圧倒され、他の生徒たちは全員無言になる。そんな彼らとは対照的に、絵里は更に燃え上がる。

「世界が盲目になる? それ、あーしが一番嫌いな言葉だよ! 自分一人が失明すれば良いなんて、そんなの納得できないもん!」

「武力がものを言えば法律は沈黙する! これは古代ローマの偉人の言葉だ! 暴力による自警は秩序の敵であり、明確な悪なんだ!」

「っ……!」

 相手の反論に対し、彼女はついに言葉に詰まった。


 この論争に終止符を打ったのは、師走だった。

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