特定
その日の晩、復讐代行部の三人は、トークアプリで通話を開いていた。最初に発言したのは、宏太だ。
「澤渡の私物を捨てたのは、尾木でほぼ確定だ」
ここからが復讐代行部の本領だ。後は復讐代行に必要な道具を揃えるだけである。
「尾木の住所とSNSアカウント、特定できるか?」
潤也は訊ねた。何やら彼は、またろくでもないことを考えている様子だ。されど、彼はこの部活動における優秀な人材でもある。
「尾木の個人情報、どうするの?」
そう質問したのは、絵里である。しかし潤也は、その質問には答えない。
「通話のログに音声が残るとまずい。だが、アイツの住所とアカウントがわかり次第、俺はアイツを壊せる」
相も変わらず、彼は匿名意識が高い男だった。兎にも角にも、今は潤也の必要とする情報が要る。
「明日、調査を開始する」
そう告げた宏太は、依然として無機質な表情をしていた。
翌日の昼休み、宏太は尾木のスクールバッグを漁った。その傍らでは絵里が飼い猫の写真を生徒たちと共有し、視線を逸らしていた。宏太が先ず手にしたのは、尾木の使っている定期券だ。そこには、「新栗ケ丘↔南岬原」の文字が印字されている。彼は急ぎ足で定期券をスクールバッグに戻し、それからスマートフォンを開く。彼が最初に見たのは、乗換案内のサイトだ。新栗ケ丘と南岬原を繋ぐ路線は、上条線であった。続いて、宏太はSNSを開き、「上条線 遅延」で検索をかける。結果、今年の三月三日に上条線に遅れが生じたことが発覚する。しかし、それだけでは尾木のアカウントを特定することは出来ないだろう。続いて、彼は「遅延 until:2026-3-3」で検索をかけ、「上条線」の文字列を直接含まない投稿群も調べ上げた。手作業でユーザー一人一人のアカウントを確認するのは、あまりにも地道だった。そのような行程を繰り返していくうちに、宏太は尾木のものと思しきアカウントを見つける。プロフィールには南岬原高の文字があり、他の投稿では澤渡への言及が数多綴られている。
「今日もクラスの陰キャの私物捨ててやった」
「俺のクラス、アニメの話の時だけ饒舌になる奴がいてキツい」
「いじめられっ子の気質ってどこからでも滲み出るよな。清潔感の有無、挙動、言動全部。澤渡は全部がキモい」
「あと女子のことジロジロ見てるのもキモい。小野田絶対嫌がってるだろ」
「澤渡が相良の裏垢をフォローしてて笑う」
このアカウントは、間違いなく尾木のもの――宏太はそう確信した。
続いて、宏太はメディア欄を漁り始める。飲食店、野生動物の写真の背景などを見る限り、尾木は新栗ケ丘を主な行動範囲としている。極めつけは、彼が室内でエナジードリンクを飲んでいる写真だ。
「潤也、ちょっと来てくれ」
突如、宏太は潤也を指名した。潤也はいつものようににやにやしながら、宏太の方へとにじり寄る。
「用件はなんだ? 部長さん」
「スマホを貸して欲しい。この写真とマップを照らし合わせたい」
「はいよ」
何の躊躇いもなく、潤也はスマートフォンを手渡した。宏太は新栗ケ丘周辺の地図を眺めつつ、画面をスクロールさせていく。そうした地味な手作業の末に、彼は尾木の住所を突き詰めた。
「岬原市栗ケ丘二丁目十番地の二――と言ったところだね。後で、グループチャットにも送っておくよ。アカウントもセットでね」
一先ず、これで復讐代行に必要な材料は揃った。潤也の笑みは悪意を帯びたものに変わり、その目つきはさながら捕食者のようになっていた。
「最高のゲームを期待してくれよ、宏太」
潤也がそう言い放った直後、校内ではチャイムが鳴り響いた。宏太たちとその同級生は、急いで席につきはじめた。
――次に復讐代行部が動き出すのは、早く見積もっても放課後だ。




