アリバイ潰し
宏太たちは先ず、図書室に足を運んだ。彼らは別段、本に用があるわけではない。最初に宏太が手にしたものは、カウンターに置かれている図書入室カードだ。宏太はすぐに写真を撮り、十二時四十分ごろに入退室している生徒を犯人候補から除外した。
「クラスメイトのうち、五人はここで時間を過ごしていたみたいだね」
「うん、彼らは犯人ではなさそうだ」
これで二人は、犯人を絞れる希望へと一歩前進した。
次に二人が向かう先は、職員室だ。様々な部活の顧問から、誰がいたのかを確認していく。
「ああ、小野田と明知は文芸部にいたよ。後は猿稲と本田だったかな」
「うちは軽音部だけど、尾木以外は全員来たよ。まあ、軽音部の活動は主に放課後だから、参考にはならないと思うけど」
「聞き込み調査をしたいなら、部室も回ってみるといい。部活動の顧問をやっている教員は、大体部室にいるはずだから」
次は、部室を見て回ることになる。道のりはまだ長そうだ。
続いて、宏太たちは様々な部活の顧問を訪ねた。
「昼休みかぁ。西山と衛宮、それから小鳥遊が来たな」
「小倉と出光が来たぞ。アイツらは勉強熱心だからな」
「今日の昼は、萩田と城ケ崎しか来てないな」
やはり昼休みに部活動に励む生徒は少数派らしい。続いて宏太は復讐代行部のグループチャットを開き、聞き込みをする。
「絵里。昼休みの屋上には誰がいた? 潤也、昼休みの教室には誰がいた?」
彼のメッセージに既読がついたのは、それから三分後のことだった。「潤也、絵里が入力中」の表示が浮かび上がる中、宏太は息を呑んでいる。直後、先に返信を送ってきたのは、絵里だった。
「水島、戸山、立花、それから三角と大和田、蒼木だったかな」
――やはり昼休みに屋上に集まる者は少ない。残るは、教室に誰が残されていたのかだ。二分ほどたち、潤也からの返信も来る。
「目白、大塚、巣鴨、駒込、田端、鶯谷、神田、新橋、田町、大崎、目黒、代々木。俺が覚えている範囲では、こんなところだ」
これで三十七名のアリバイが確保できた。いずれも証言の域を出ないものだが、参考程度にはなるだろう。何せ、聴取の相手は教育者と仲間なのだ。そうなれば、疑われるべき人間は
一人に絞られる。
「唯一アリバイのない尾木が怪しいかも知れないな」
そう呟いた宏太は、次の調査に進んでいった。
実は宏太によるアリバイ潰しには、まだ穴がある。一見最も信憑性を帯びている図書入室カード――それこそが最大の罠になり得る。
宏太は以前用いた署名のコピーを手に、書道部顧問である木下を訪ねた。
「おや、宏太。また事件でもあったのか?」
木下は訊ねた。己の事情に深く言及することもなく、宏太は話を切り出す。
「はい。今度は、署名用紙と図書入室カードの写真を照らし合わせて欲しいです。両方に名前の載っている生徒たちが、果たして本当に本人なのか……僕が知りたいのはそんなところです」
そう――図書入室カードに名前が書かれているからといって、それが本人の筆跡であるとは限らないのだ。木下は老眼鏡をかけ、署名用紙のコピーと図書入室カードを見比べる。眉間に皺を寄せつつも、彼は真剣に目の前の課題に取り組んでいる。しばらくの沈黙の間、宏太と澤渡は手汗を握っていた。
答えを口にするのは、書道部顧問の木下だ。
「……よし、大丈夫だ。少なくとも、署名した人間の中に嘘つきはいない。ところで、今度はなんの調査をしているんだ?」
「澤渡のスクールバッグの中身が、ごみ箱に放られていました。だから犯人を特定するために、アリバイ潰しをしていました」
「それは地道なこった。宏太……君は探偵でも目指してみたら良いかも知れないな」
少なからず、宏太の推理と調査への執念は常人のものではない。何はともあれ、この瞬間に犯人が確定した。




