公開処刑
その日の昼休み――相良は更に追い詰められることとなる。突如、教室に備えられたスピーカーが起動し、そして淡々と音声を放送する。
「金、持ってきたんだろうな?」
「い、いや……お母さんに頼んでも、お金を貰えなくて……」
「だったら親の金を盗んで来いよ!」
そう――これは小野田が録音した音声だ。同級生たちがどよめく中、相良は冷や汗をかいている。その後ろの席では、小野田本人も絶句している様子だ。しかし放送は止まらない。
「持ってないとか言って、嘘ついてるんじゃねぇのか?」
この時点で、相良による恐喝は全校生徒に知れ渡ってしまった。宏太が唖然とする隣では、絵里が右手でピースサインを象っている。
この時、職員室では教員が動き始めていた。
「早く、放送を止めないと!」
放送部の顧問は、急ぎ足で飛び出す。放送委員会による公開処刑は、まだ続行されている。
「やっぱり、持ってんじゃねぇか!」
「ああ、アタシの三千円が!」
「たかが三千円だろ? それくらいでケチケチしやがって。次はもっと持って来いよ?」
これで少なくとも、相良が三千円を強奪したことも知れ渡った。職員室は依然として騒然としており、教師たちは狼狽している有り様だ。
一方、教室では相良が激昂している。
「止めろ! おい! 誰か、放送を止めろ!」
無論、そんな声は誰にも響かない。
「黙れヤリマン。これがお前への報いだよ」
「そうだ、そうだ!」
「小野田に謝れよ! 変態クソアマ!」
もはや校内では、彼女の印象が「横暴な痴女」として根付いてしまったようだ。相良は歯を食いしばったが、その目元からは抑えきれない涙が零れていた。
「アナタはどうして、そう簡単に人を殴れるの? 普通、殴る方も怖いはずだよ……」
「世の中はな、弱肉強食なんだよ。殴った奴が勝つし、殴られるだけの奴が負ける。だからアタイは拳を振りかざすんだ」
――これで、録音データは全て放送された。生徒たちは相良を囲い込み、次々と罵声を浴びせていく。
「泣けば許されると思うなよ? 濡らすのは股だけにしろ!」
「金も返してやれよ! 利息もつけてな!」
「現実ではカツアゲ、ネットではエロ売りか! どうしようもない奴だな、あんた!」
言の葉の一つ一つが、鋭利な刃と化していた。相良はその場で崩れ落ち、慟哭し始める。
「違う! アタイは、裏アカなんて持ってないのに! カツアゲも、暴力も認めるよ! でも、あのアカウントのことだけは、本当に何も知らないよ!」
その最中、事の発端となる被害者である小野田は、名状しがたい胸糞の悪さを噛みしめていた。無論、師走も焦りを見せている。
「皆! もういい、もうやめろ! これ以上、女子を泣かせるな!」
彼はそう言ったが、同級生はまるで聞き耳を持たない。
「お? ヤリモクか? 優しくしたら抱けそうだもんなぁ!」
「あんなクズを庇う理由は、ウチらにはないんだよ!」
「本っ当に気持ち悪いよね! ネットにあんな写真を上げて、知らない男にチヤホヤされて!」
結局のところ、彼らは相良を責めることができれば、それで良いと思っているのだ。地獄絵図を目の前にして、絵里は屈託のない笑みを浮かべる。
「ねぇねぇ、宏太。あの録音データ、あーしが放送委員に渡したんだよ」
「よくやった、絵里。それでこそ、僕たちは復讐代行部だ」
「へへーん! 正義が勝つ盤面を作る時は、いつでもあーしを頼ってね!」
相も変わらず、彼女の正義感は壊れている。眼前で繰り広げられる私刑の押収を、公開処刑を――彼女は正当だと信じてやまない。
昼休みの後、学級会が開かれた。生徒たちは、自らが相良から受けた被害を次々と提示していった。当然、この学級会において、相良に勝ち筋など残されていない。
その日、相良の停学処分が決まった。




