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挿絵(By みてみん)

 市立南岬原高等学校しりつみなみみさきはらこうとうがっこうは、良くも悪くもありふれた学校だ。朝のホームルームが始まる前に、生徒たちはいつものように談笑している。中には、浮かない顔をする生徒もいる。何故なら、当校ではいじめが絶えないからだ。


 一人の少年「萩田(はぎた)」は、物憂げな表情でデスクを見下ろしている。その天板は、決して綺麗なものではない。

「死ね」

「学校来るな」

「キモイ」

「消えろ」

「自殺しろ」

 そんな心無い罵詈雑言が書き殴られているデスクは、まさしく萩田自身の人生を象徴していた。南岬原高は、まさに「普通」の高等学校なのだ。


 そこに通りかかるのは、眼鏡をかけた少年――三日月宏太(みかづきこうた)だ。

「エタノールと除光液」

 それが彼の第一声だった。萩田は首を傾げるばかりだ。

「エタノールと除光液?」

「これらを使えば、油性インクは落ちる」

「あ、ありがとう」

 校内に蔓延するのは、悪意だけではない。無論、それだけで萩田が報われる道理などないだろう。

「その机、写真に撮っても良いかな?」

 宏太は訊ねた。その目的は定かではないが、少なくともこの少年に悪意は無さそうだ。

「撮って、どうするの?」

「君が復讐を望むのなら、僕はその手助けができる。表向きでは、僕は帰宅部なんだけどね。ここからは、ここだけの話なんだけど……」

 数瞬の緊張感がほとばしった。彼は萩田の耳元に口を近づけ、そして囁く。

「裏での僕は、『復讐代行部』の部長なんだ」

 突如告げられた真実に、萩田は耳を疑った。たった今提示された情報は、至って簡潔なものだ。さりとて、その衝撃は一瞬で処理できるようなものでもない。

「復讐……代行……?」

「しっ。声が大きいよ。それで、復讐したいの?」

 惑う萩田を置き去りに、話は淡々と進行していく。たった今眼前に差し伸べられた救いの手が、彼には悪魔の牙に見えるのだ。

「ふ、復讐なんて、恐ろしいよ。第一、犯人がわからないし……」

「大丈夫。その犯人を特定するために、机の写真を撮るんだ。とりあえず、撮っても良いかな?」

「う、うん。わかった。撮っても良いよ」

 話の全貌が見えないまま、彼は提案を呑んだ。宏太はすかさずスマートフォンを取り出し、机の写真を撮る。最新の技術を取り入れた端末は、その画素数も多い。彼が画像を拡大すれば、天板に書き殴られた暴言の一つ一つが鮮明に見える。

「……よし、これで一つ、必要な証拠が手に入った」

「い、一体……これから、何をするつもりなの?」

「それは事が上手く動き始めてからのお楽しみだよ」

 三日月宏太の言動は、何から何まで不穏なものだった。この時の萩田が感じていたものは、断じて希望ではない。


――恐怖だ。


 されど、彼も好機を不意にする男ではない。

「……きみに、頼んでみようかな」

「ん?」

「復讐には反対だけど、調査だけ頼もうかな」

 それが萩田の答えだった。しかし宏太は彼を説き伏せる。

「復讐は何も生まない……世の中はいつもそんな言葉を叩きつけてきた。だけど、やり返さないと止まらない悪人もいる」

「で、でも……」

「萩田。君はこの高校を卒業するまで、ずっといじめられても良いのかい?」

 確かに、こちらがアクションを起こさない限り、相手は足元を見てくることだろう。数秒の沈黙が生まれた。俯いている萩田の目には、数多の心無い言葉が映っている。さりとて、彼が手段を択んでいる場合ではないこともまた事実だ。

「……わかった。きみに、復讐代行を依頼する」

――交渉成立だ。

「『僕たち』の力があれば、必ず君を助けられる」

 そう言い残した宏太はその場を離れ、自分の席についた。もうじきホームルームが始まる。生徒たちは喋るのをやめ、一斉に教壇へと目を遣った。


 これは、「復讐代行」に青春をかけた者たちの物語である。

挿絵(By みてみん)

主題歌:https://youtu.be/4lVZ4xl5_Fo

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