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赤火鳥のクオン  作者: ゆりたこっぺ


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9/9

【エピローグ】アルの心

知人に赤火鳥のクオンを読んでもらったところ、アルの心情や兄弟の契りのシーンがないと言われました。

たしかに、と思い今なら書けると思い書きました。

むかしむかし、あるところにスーガン国という国があり、そこに赤ん坊が産まれました。


しかし赤ん坊は父親のドルという王に似ていませんでした。


今でいうところの隔世遺伝であり、祖父に似た顔立ちだったのですが、当時のドルはそんなことは知らず、自分の子を産まなかったなと妃を責め、自殺に追い込みました。


そうしてドルは、赤ん坊を王宮から遠く離れた森の奥へ捨てました。



しかし不思議なことに何度捨てても戻ってくるので、ドルは仕方なく赤ん坊をアルと名付け、育てることにしました。


ドルは新しい王妃を迎え入れ、妾もたくさん作りましたが、なぜだかアル以外の世継ぎは生まれませんでした。



アルには、赤ん坊の頃の記憶がありました。


父の指示によって、何度も森に捨てられたことを知っていました。


その度に森の住人の青年と子どもが赤ん坊の自分を見つけ、王宮に返すのです。


茶髪の子どもは言いました。


「赤子が捨てられるとは、今のスーガンは腐っている。

俺がスーガンに戻った暁には、必ずや今の政権を一掃しよう。」


青年はそれを聞いて馬鹿なことはやめろと言うのでした。


アルは王宮で暮らしながら、いつかあの茶髪の子どもが成長して本当にスーガンに戻ってきて、父をどうにかするのだろうかと時たま夢想します。


そうして、「お前を助けに来たぞ」と言ってくれるのではないかと想像します。


アルはそうやって心を遠くに置き、自分を守っていました。


現実はというと、父に愛されず、いないような扱いを受け、

父が誇る体術や剣術は華奢なアルの体では上手くできず、

仕方なく、父が嫌う戦法の譜面式を学ぶという状態でした。


アルは譜面式には才があるようで、学べば学ぶほど上達する一方、父に嫌われるという悪循環が起きていました。


それでも戦法や兵法を学び、民衆のために何ができるか考え、努力と行動を怠りませんでした。

「甘ちゃんな王子様」とバカにされても、努力し続けました。


(いつか、あの子が戻ってきた時に、褒めてもらえるように……)


父に愛されずとも国を思い民を思い、よく頑張ったな、とあの茶髪の子どもが褒めてもらえる、


そんな空虚な幻想にすがって、生きていたのでした。


あくる日、アルは国を守るという大義名分で、部下を連れて魔物退治へと行きました。


ドルは魔物は体術や剣術で倒せると兵士らに発破をかけていましたが、それは兵士らにかなりの犠牲を強いることでした。


今こそ譜面式の出番であり、上手く使えば犠牲も最小限で済むことを証明しようと、アルは思ったのです。


実際、譜面式を使えば体術や剣術にあまり自信がない自分でもいくらか魔物を倒すことができました。しかし実戦経験がそこまでないこともあり、苦戦しました。


そんな中、茶髪の聖剣使いに助けられました。


「助かった。私はスーガン国 ドル王の息子、アルだ。そなたは?」


「俺は聖剣使い、赤火鳥のクオン。

スーガン国が多くの魔物に襲われていると知って狩りに来た。アル王子よ、力を貸していただけないだろうか。」


アルはクオンと挨拶を交わしながら、心は感動に震えていました。


(あの子だ……!本当に、戻ってきた……)


確証はなく、ほぼ直感でした。


赤ん坊だったア自分を何度も見つけ、助け出し、スーガンに戻りドルを倒すと誓っていた茶髪の子ども。


その子どもが成長し、本当にスーガンに戻ってきた、とアルは思っていました。


アルはクオンを客人として扱い、ともに魔物退治をしました。


クオンは聖剣使いとしてはあまり強くはない、と自称した通り、強くはありませんでした。

しかし大きな個の力に頼らず、大勢で倒す戦法に長けていました。

そのため力を合わせれば誰もが魔物を倒せるようになり、兵の犠牲を減らしました。



アルはクオンの頼みなら何でも聞きました。


赤ん坊だった自分を救ってくれた恩人。

これから王宮に何かをしようとしている人。


そんなクオンのためなら、何でもしたい気持ちだったのです。


アルの心からの善意をクオンは受けとめてくれ、遠回しに褒めてくれました。


長年夢見ていた「茶髪の子どもに褒めてもらう」ことがやっと叶い喜ぶ一方、どこか心が満たされない気持ちになっていました。


そんな時、彼が父の側近から打診を受け困っていると聞き、兄弟の契りを提案しました。


アルとクオンは兄弟の契りのために、互いの手のひらに横一線、剣で傷をつけました。


流れる熱い血と剣を見て、このまま喉をかき切ったらどうなるだろう、と発作的に考えた自分にアルは驚きました。


(私は、なぜ今自分の死を考えたのだろう……?

私は死ぬことを望んでいるのか……?)


突然芽生えた自分の感情に戸惑いながら、その日からクオンとアルは義兄弟となりました。



「アル、何をしているんだ」

「クオン!ふふ、見てくれ」


ある日のこと、いつものように譜面式をいじるアルをクオンが見に行く、ということをしていました。


今アルがいじっている譜面式は、球体で七色にキラキラ光る、ユルディアンというものでした。


「この譜面式は、王室のゴミ置き場にあったのを、小さい頃私が見つけたんだ。


譜面式が嫌いな私の父は反対するだろうが、私はこの美しさを多くの人に見てほしい。


クオン、力をかしてくれないだろうか」


まっすぐな瞳で見ると、クオンは言いました。


「まったく……しょうがない弟分だな」


兄弟がいないアルにとって、弟のように接してくれるクオンは、前よりもさらに大切な存在になっていました。


同時に、兄弟の契りの時に芽生えた死にたい気持ちは、あの日からずっとこびりついて離れませんでした。


それどころか、クオンの師匠・ハヅキが彼の目の前で壊れた光景を見た時でさえ、その「死」に羨ましいなとさえ思ってしまったのです。



ハヅキは、あの茶髪の子どもと共にいた青年で、自分を救ってくれた人だったのに。


師の最期に呆然とするクオンを見て、何とかしなければと思い、僅かに残ったハヅキの欠片を拾い集めながら、


なんでそんな死にたいんだ、頭がおかしいのか、と思う自分と、


いつか死ぬなら今死にたい、ああ早く、と思う自分に、アルは内心混乱していました。


なぜ急に死にたくなったのか、

自分のことなのに考えれば考えるほどわからないのです。


そんな苦悩の日々の中、父のドルに譜面式ユルディアンをいじっていることがある日バレてしまいました。



「なぜお前が……この忌み子め!死んでしまえぇぇぇぇええ」


ドルは剣を抜き、アルを斬りすてようとしました。



普通ならこの時悲しみや怒りが湧き上がるはずです。


しかしアルはこの時、やっと死ねるんだと喜ぶ自分を自覚してしまいました。



(なぜ私は父の逆鱗に触れるような真似をしたんだ……考えればわかることじゃないか。


父が抹消した譜面式をわざわざ拾ってきて復元すれば、殺されることも分かっていたろうに。)


呆然とするアルを庇うようにクオンが割って入り、ドルによってクオンは背中を縦一閃斬られました。


「クオン!?」

「アル、下がれ!」


ドルとクオンによる激しい剣撃が繰り広げられ、アルはハッとしてドルに言います。


「ち、父上、おやめください!」

「うるさい!殺してやる」


ドルは尋常じゃない剣幕でした。

クオンは隙を見てアルを連れ出しました。


怒るドルを発見した将軍や側近は慌ててなだめ、


アルはクオンをすぐに手当するよう助けを呼びました。


するとドルは言いました。


「アル、お前はそこの聖剣使いとともに追放とする!今すぐ出て行け!」


半ば無理やり王宮から追い出され、なんとか救急セットを持ち、泣きながらアルはクオンを手当しました。


「すまない、すまないクオン……!」

「なに……大した怪我じゃ……ない。」


暗い夜の中、草むらの中でアルはクオンを看病しながらずっと謝り続けました。


アルは、初めから死にたかったのです。


「茶髪の子どもが戻ってきて父をどうにかしてくれる」「自分の境遇を悲観せず努力していることを褒めてくれる」


空虚な幻想に浸って見ないフリをしていただけで、父に愛されない自分が嫌いで、ずっと死を望んでいたのです。



赤ん坊の時、あのまま森で死んでもよかったのに、森にいた茶髪の子どもと青年のせいで死ねなかった。


自分の騎士カーディンや民衆、仲間達、クオンに誉められても、父から愛されないなら意味がない。


父はこれからも自分を愛さないだろう。

親に存在を否定され続けられるのは、とてもつらい。



だから、死にたい。



その気持ちを自覚したアルは、クオンに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。


自分の死への願望に彼を巻き込み、今、生死の境に彷徨わせているのです。


「クオン、すまない、すまない」

「もう謝るな、俺は……大丈夫だから……だが……少し寝る」


気絶するように寝たクオンを見て、その日アルは眠れませんでした。


次の日、クオンは起き上がり少し動けるようになっていました。


「アル、俺は本調子ではない。魔物にでも襲われたら困るから、身を隠せる場所に移動する」

「わかった。場所はどこなんだ?」

「……王宮から遠く離れた森だ」

「そ、そうか」

「王宮育ちのお前には慣れないだろうが、我慢してくれ」

「ああ……」


王宮から遠く離れた森……そこは、赤ん坊だったアルが何度も捨てられた、あの場所でした。


「ここもずいぶん変わったものだな……」

「……クオンは昔、ここに住んでいたことがあったのか……?」

「……さぁ?どうだろうな」


クオンに質問をうまく交わされながら、たしかにこの森は変わったとアルは思いました。


以前は暗く大木が多く、緑に覆われ鬱屈とした場所でしたが、今は花がたくさん咲いていました。


それでも昔と変わらないところはあるようで、森に元からあったらしい譜面式を、クオンは稼働させました。


「今、人間用の防御の譜面式を稼働させたから、ひとまずここは安全だ。


食料だが……食べられる木の実が、昔は水辺の近くにあったんだ。見に行くか」


クオンの言った場所に行くと、たしかに木の実がたくさんなっていました。

二人してそれをつまんでいると、ひょこっと桃色のうさぎが出てきました。


『あれ!光る君だ』

「その呼び方はやめろ!!!!今はクオンだ!!!」

『あ、そうだった。久しぶりだね。どうしたの?なんかあった?その男の子は?』


どうやらうさぎは妖精のようでした。

次々と質問するので、クオンは戸惑っているようでした。


「は、はじめまして、私はクオンの義弟のアルだ」

『そうなんだ!ウチは花の妖精!この辺をお花で埋め尽くしてるのはウチの力なんだよ!』

「そうなのか……綺麗な花畑だな」

『ふふん!』


アルに褒められ上機嫌になっている花の妖精に、クオンは聞きました。


「花の妖精、お前は前までは譜面式に興味がなかったはずだ。それなのになぜ今は花に譜面式を使っている?


この辺一帯の花畑には、みんな防御の譜面式がかけられている。」


『ウチも前までは譜面式は興味なかったけど、あんたとハヅキがこの森から旅立った後、魔物の大群がこの森に来てね。


その時ウチらを守ってくれたのが、ハヅキが残した譜面式だったのよ。


そうだクオン、ハヅキには会えた?こないだこの森に来て、クオンに会いに行ってくるっていってたよ』


それを聞いてクオンは俯きました。


「……死んだよ」


「死」という言葉が、ずしりとアルに響きました。


『……そっか。そういえば、光る君って名前は、ハヅキの故郷にあったお話の主人公からつけたって、言ってたよ』


「そうか……しばらく、俺達はここにいる。他の妖精達にも、俺のことはクオンと呼ぶよう伝えてくれ」


そういうとクオンは、花畑の方へと歩いていき、そのまま花畑に身を沈めました。

花びらが舞っていきます。


「……少し疲れた。すまんが少しだけここで休ませてくれ」

「わかった……」


アルはクオンになんて言葉をかけていいか分からなくて、花を手にとり、じっと見つめました。

ちなみに散るように砕け散って壊れたハヅキの欠片は、クオンの了承の元、まだアルが持っていました。


「なぁ、アル。俺は今、ちょっとばかり驚いているんだ。」


「え?」


「俺はな、この森はずっと変わらないと思ったんだ。そんな根拠、どこにもないのに」


「……」


「けれど1つ、わかったことはある。変わるものもあるし、変わらないものもある」


「……なぜ、それを私に伝えたんだ?」


「なんでだろうな……わからない……すまない……万全な状態じゃないせいか……らしくないことを言ってるな。忘れてくれ。


ああ……あと、俺のことを光る君なんて、お前は絶対呼ぶなよ。

光る君は本名でもないし……仮の名前だからな」


クオンはそのまま目をつぶってしまいました。


アルは、眠るクオンを横目に花畑の中、クオンの先ほどの言葉を反芻し考えていました。


(変わらないもの……

変わっていくもの……)


アルはその言葉をいくら頭の中で転がしても、何も思いつきませんでした。

ただ、今、目の前で風に揺られる色とりどりの花達が綺麗だと思いました。


(綺麗……そうだ、ユルディアンも綺麗だった)


自分とクオンが今の状況に追いやられた原因のものでしたが、どうしてもアルはユルディアンが嫌いになりませんでしたし、あの美しいものをたくさんの人に見てほしいと思いました。


「……よし。」


アルは、クオンが起きた後、ユルディアンを世界に広めたいと言いました。

アルにとってユルディアンは「変わらないもの」であってほしいと思ったからです。


そのことが彼を傷つけてしまうのであれば一人でやる覚悟でしたが、クオンはすんなりとアルの提案を受け入れてくれました。


アルはクオンと旅をしながら道行く人や国に、ユルディアンを伝え広めました。


色々な文化や価値観に触れ合う中で、アルは思いました。


(世界から見れば、私など、ちっぽけな存在だったのだな……)


世界は広く、けれども案外優しかったのです。


(ちっぽけな存在だからこそ、せめて自分くらいは自分を好きでいたいな……)


どんな素敵な人に愛されても、自分が自分を好きでなければ何も始まらない。

それが旅に出てわかったことの一つでした。


そう思い、アルは自分を好きになる一環として創作に手を出しました。


そして作ったものがプードル人形であり、自身が作った人形を通してアルは様々な経験をしたのでした。


アルはこの頃には、死にたい気持ちはなくなっていました。



旅をする中で世界を知り、自分が思っていたよりも父親は大きな存在ではないことに気づいたからです。


父に愛されなくても、自分が自分を愛していればいい。


誰かを恨んだりするよりも、

目の前にいる人の幸せを願いたい。


そう考えるようになり、クオンと旅をしていました。


もう茶髪の子どもに幻想を抱くこともありません。

茶髪の子どもが成長したのがクオンかどうかなど、確認するつもりもありませんでした。


アルにとって、自分を大切に想ってくれているクオンと義兄弟である、その事実だけで充分だったのです。


迷いが無くなったアルとは対照的に、クオンは時より悲痛な表情でアルを見るようになりました。


「クオン」とアルが名前を呼ぶ度に。

アルがクオンに笑いかける度に。


なにか思い悩んでいるなら話して欲しいといっても、クオンは頑として話してくれませんでした。


そんな中、父王のドルが魔物によって殺されたと聞き、クオンとともにスーガンに帰りました。


魔物と攻防を繰り広げながら、ドルの葬儀を行いました。


アルは、父の遺体を見てドルが死んだことを実感し、大粒の涙を流しました。


もう二度と怒鳴られることも、叱られることもないのです。


喪失感に耐えながら、アルはスーガンの王になりました。



クオンや仲間達とともに魔物を退治し数々の偉業を成し遂げる中、アルは以前よりも生への執着が強くなっていました。



自分が死んでしまうかもしれない、となった時によぎるのは父の遺体でした。


まだ冷たくなるわけにはいかない、

そう自分を必死に鼓舞し、死線を潜り抜けました。


それでも万が一に備え、自分が何かあった時の場合の次期王の指名書と、プードル人形制作ノートを騎士のカーディンに渡しました。


自分がどれほどクオンを大切に想っているか、口で言うのは照れくさかったのです。


そんして、年月が経った頃。


魔物が王宮内に侵入し、スーガンは大混乱しました。


アルは仲間達とすぐに体制を立て、反撃しました。


スーガンの次期王とその他重鎮を騎士のカーディンに託し、他の仲間には民を避難させるよう言いました。


アルは自分一人で城に籠城し、魔物を相手取るつもりでしたが、クオンは残ると言いました。


「クオン、そなたも早く避難するんだ!」

「何言ってるんだ。俺は聖剣使いだぞ?魔物を狩るのが使命だ」

「だが危険だ!逃げろ!」


アルがそう言ってもクオンはひきませんでした。


「わかった。ではクオン、どさくさに紛れている大きな魔物を頼んでもいいか?」


「ああ、わかった。」


アルは、願いを込めて言いました。


「それではまた会おう、兄弟」


クオンは少し苦しそうな顔をして頷きました。



(結局……理由を聞けなかったな……)


アルは、魔物''狼王''と一騎打ちした後に、ボンヤリそんなことを考えました。


自分と接している時に、たまにクオンは辛く苦しそうにしていました。

アルが理由を尋ねても答えてはくれず、確かなことは自分を嫌いになったからでは無い、ということだけでした。


(死ぬつもりはなかったんだが……)


狼王と最後に斬りあった時の一撃が、脇腹に深々と刺さったのです。

アルの譜面式と剣での渾身の一撃で狼王を狩ることはできましたが、死を回避することはできませんでした。


心の中で、カーディンを始めとした仲間達や国民にすまないと詫びました。


そして最後に浮かぶのはクオンでした。


(クオンに……クオンに会いたい……)


自分の命を救ってくれた人。

逃げ出すことも出来たはずなのに、そばにいてくれた人。

自分が作ったプードル人形を、大切に持ってくれている人。


自分は大切に想っているけど、クオンは違うのかもしれない。

そうだったとしても、最後に彼を大切に想っていたことを伝えたい。


最後の力を振り絞り、アルはクオンの所へ行こうと血を流しながら歩きました。


ボロボロになったクオンを視界にとらえ、言葉を発しようと思った瞬間、意識は途切れました。


アルは、自分が死んだことに気づいた時は、クオンが持っているプードル人形に自分の意識が入ったことに気づきました。



言葉を発することも、何かを止める力もない。

ただただ、目の前のことを見つめるだけ。


最初のうちは色々考えたりなにか出来るのではないかと思いましたが、月日が経ち精神は摩耗していきました。

アルの意識が入ったプードル人形は、クオンの旅の荷物の奥にしまわれました。


何十年か経った頃、アルは、カーディンに託したプードル人形制作ノートをクオンが読んで、泣いているクオンを見ました。


その時、止まっていた意識が動き出しました。


(クオン、泣かないでくれ!私はそなたを責めたりしない。)


クオンを心配するアルの気持ちとは裏腹に、クオンは立ち上がり、アルのお墓参りをしました。


(もう、クオンは大丈夫ですよ、アル王)

(カーディン!)


魂となった存在のカーディンが、アルに話しかけました。


プードル人形を通してクオンをみると、クオンはハッキリとした足取りで歩いています。


(うん……そうだな……そうだな……)


この状態になって、アルはクオンに何かしてあげたわけではありません。

ただ、見ていただけです。


最初は、どうして自分が意識をプードル人形に入ったかわかりませんでした。


でも、今ならわかります。

クオンを見守りたかったのです。



(さよなら、クオン。巡る魂の果てに、また会えたらいいな、兄弟……)


そうしてアルは、カーディンとともに旅立ちました。



巡り巡って、いつかクオンとアルは再び出会えるでしょう。


クオンとアルの話はスターシステムとか使って別の話でも書こうと思っています。

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