⑧星水鳥と赤火鳥
クオンと契約した妖精の目的のお話です。
むかしむかし、あるところに大きな体をした青い鳥の妖精がいました。
ある時、その青い鳥の近くで、赤い小さな火の鳥の妖精が生まれました。
『 おや。火の鳥とは珍しいねぇ『』
青い鳥がそう声をかけると、生まれたばかりの赤い鳥はまだ言葉の意味がわからず、首をかしげます。
『 小さきものよ。この世界に、ようこそ』
これが、青い鳥と赤い鳥の出会いでした。
青い鳥は、とある国の一部では星の神として崇拝されていました。
『 大きいモノ。背中に乗せて』
『 いいだろう、小さきものよ。しっかりつかまっているんだよ。』
赤い鳥は、青い鳥の背中に乗って飛ぶのが大好きでした。
『 オレ、鎖の出し方、わかってきた』
『 すごいじゃないか。じゃあ今度は自分で式を編んでごらん』
この赤い鳥がいう''鎖''はのちにフラット(捕縛)と呼ばれるものでした。
赤い鳥は鎖状の式を構成し、自分の小さな体を青い鳥の大きな体に巻きつけます。
青い鳥はそれを確認すると、赤い鳥をのせ、天に向かって飛んでいきました。
『 大きなモノのこと、人間神様言ってた。大きなモノ神様?』
『いいや、違うよ。周りがそう勝手に呼んでるだけだ。
まぁ、人間にも妖精にも頼られるのは悪い気はしないね。』
『 ふーん?』
そうして青い鳥はいつものように赤い鳥とともに夜空を空高く舞い、何度も旋回すると、地上へと戻ってくるのでした。
赤い鳥は、青い鳥のこの力強い飛行が好きでした。
青い鳥は、妖精の中でも特別小さいこの赤い火の鳥を心配して、なにかにつけては面倒を見ていました。
しかしある日、青い大きな鳥を悪神と見なした人間達や魔物が現れました。
青い鳥を神として崇拝していた人々や妖精を排除しようと動き出したのです。
青い鳥はそんな魔の手から、人間と妖精を守って戦い続けました。
けれども守っていたはずの一部の人間が裏切り、たくさんの魔物を青い鳥に向かわせました。
青い鳥が守っていた妖精達も、我が身可愛さに逃げ出しました。
そんな中、小さな赤い鳥と青い鳥を信仰する人間達だけは青い鳥のそばにいました。
しかし青い鳥の奮戦むなしく、ついには青い鳥を信仰する人間達が殺され、その血に青い鳥と赤い鳥は苦しみました。
妖精は人間の血が苦手なのです。
『 大きいモノ、オレずっとそば……いるから……」
『 小さきもの……!』
弱っていく赤い鳥をみた青い鳥は、激昂し大きな巨体で地割れを起こし、さらには星の雨を降らせ、その場にいた魔物を全滅させました。
青い鳥を敵視した人間達は、信じられない光景に逃げ始めます。
それを見た青い鳥は、この地を去ることを決めました。
『 さよなら、小さきもの。私のせいで危ない目にあってすまない。』
『 待って……行かないで……行かないで……』
赤い鳥はよろよろしながら必死に飛び、青い鳥を追いかけました。
けれども青い鳥の力強い飛行には追いつけず、赤い鳥は青い鳥を見失いました。
それでも何遍も空を舞っては地に落ち、を赤い鳥は繰り返しました。
何遍も何遍も繰り返した後に、赤い鳥は気を失いそのまま地面に倒れこんでしまいました。
『 大きなモノに会いたい……』
赤い鳥は小さい体をひきずりながら、青い鳥を追いました。
隣の国に行ったり、遠くの国に行ったり。
長い年月の中、いつしか赤い鳥は大きな火の鳥になりました。
妖精は、自身が抱える思いや欲望が大きくなると、強い力と体へ変化していくのです。
さすがに青い鳥ほどの大きさではありませんでしたが、青い鳥を害した魔物を追い払えるようにはなりました。
しかし力が大きくなっても青い鳥を見つけられません。
ある日、「譜面式」という術式の研究もしているというスーガンに行けば、何か探す方法が見つかるかもしれないと思いました。
『 といっても、人間と仲良くするのやだ……まずはこっそり観察、それから考える』
赤い鳥は、青い鳥を傷つけた人間達を見て以来、人間が大嫌いで、絶対に許さないと思っていました。
そのため遠くからスーガンの王家というものを観察する手法をとりました。
『 ずーっと見ていれば、大きいモノ見つけられる何か、わかるかもしれない……』
そうして譜面式を自らも研究する王と、その王子をじっと見ていたのでした。
ある日のこと、その王が殺され、王子も殺されそうになりました。
しかし聖剣使いが王子を助けたので、赤い鳥は王子の後を追いました。
『 こいつ見てても、意味ないかもしれない……』
少しづつ大きくなっていく王子を見ながら、赤い鳥は思いました。
けれども赤い鳥は、それなりの年月をかけ、王と王子を見てきたので、彼らが他の国とは違う譜面式の''何か''をつかんでいるような、そんな不確かな思いが芽生えつつありました。
もう王子を観察するのをやめて次に進むか、このまま観察し続けるか……どうするか迷っていた頃、王子が大勢の妖精に向かって言いました。
「ここにいる妖精達よ、誰か俺と契約してくれないか。
契約してくれれば、望むものを、なんでも与えよう。
だから、俺が英雄になる手助けをしてくれないか」
妖精達はあきれました。
妖精は、自分の欲望を満たしてくれる人間を選んで契約するのです。
権力も富もない、目を見張るものも無い元王子には、誰も興味はありませんでした。
赤い鳥を除いては。
『 契約すればなんでも与えるっていったな。お前、名前は?』
「……クオンだ。」
赤い鳥は、それは王子の偽りの名であることを知っていました。
『オレ火の鳥。お前の通り名、今から''赤火鳥''』
そうして赤い鳥は王子の体に入っていきました。
(これで大きいモノ見つける方法、わかるかもしれない……)
実際に赤い鳥にとってはかなり好都合な環境になりました。なぜならクオンは、譜面式が苦手だったのです。
必然的に基礎を何度も学び、同時に何度も応用を学びます。
そのおかげで譜面式を詳しく学ぶ機会がなかった赤い鳥も、譜面式を展開できるようになりました。
クオンにバレないように、青い鳥を探す譜面式へと力の大半を注ぎました。
さすがに契約者に与える力が少なすぎたので、クオンから不満や怒りをぶつけられましたが、うまく誤魔化しました。
(オレが契約解除しないかぎり、コイツ自由になれない、大丈夫)
そうしてクオンを通して譜面式を見ては使えそうな式を拾い、せっせと青い鳥を探す術式を構築していきました。
年月が経った頃、赤い鳥の予想通り、クオンと父王しか知らない術式''音階''を、クオンは妖精に教えてくれました。
「内なる妖精よ。これは俺とお前だけの秘密だ。何者からもこれを守ると誓って欲しい」
『わかった!!』
クオンは内心ヒヤヒヤしていたようですが、赤い鳥にとっては舞い上がりたい思いでした。
(オレとコイツしか知らない''音階''を使えば、大きいモノ見つけられる!)
実際、既に構築した術式に''音階''を組み合わせたところ、青い鳥の足取りがわかるようになりました。
青い鳥の永き時の足取りを、赤い鳥は1つずつ譜面式で解析していきました。
その途中で、
時にはクオンともども命の危機にあったり、
時にはクオンが精神的苦痛を訴えたり、
時にはクオンの心が壊れそうになったりしましたが、
なんとかクオンは持ちこたえてくれました。
そうしてついに解析が終わり、青い鳥の大まかな位置がわかりました。
さらに正確な位置の把握のため、青い鳥にはバレないよう気配をけした譜面式を構築し、ついに完成しました。
(大きいモノは、オレが行ったら逃げる)
青い鳥はあの地から旅立って以来、自分からも魔物からも人間からも聖剣使いからも、見事逃げきっていたのです。
それが意味することは、「もう誰とも関わりたくない」という明確な拒絶でした。
(大きいモノ、100年以上誰とも会ってない。オレと会っても、喜んでくれない。それでも……会いたい!)
会いたい気持ちを胸に、赤い鳥はクオンとともに虎王パラングと戦いました。
虎王の大きな力を密かに吸い取り、その力で青い鳥の正確な位置把握の譜面式を稼働させました。
しかし術式は思っていたよりも膨大な力を必要とし、あと一歩のところで虎王の力だけでは足りなくなってしまいました。
赤い鳥は慌てて自分の力を流し込みました。術式は稼働し、ついには青い鳥の現在地を特定することができました。
ホッとしたのもつかの間、契約者のクオンが赤い鳥にだけ聞こえる声で言います。
(あの魔物は俺の弟の遺体、遺品を傷つけた。
約束通り、最大出力の力を貸せ)
たしかに約束はしましたが、想定外のことが起きて今しがた使ってしましたため、すぐには力を貸せません。
(……やだ。今は無理。)
(はぁ……?!お前、ふざけるなよ!)
いつものようになんとか誤魔化しました。
これにより虎王にとってはクオンが窮地に陥ったと解釈したようですが、赤い鳥にとってはクオンがこの程度で負けるはずはないと分かっていました。
100年以上も一緒にいるので、さすがに契約者の技量を知っているのです。
赤い鳥の予想通り、クオンは形勢逆転しました。
クオンとともに虎王を狩った後、赤い鳥は思いました。
(大丈夫……''音階''が知られなければ大きいモノに警戒されないで会える……)
青い鳥が今どこにいるかわかったので、後はそれとなくクオンを誘導するだけです。
もう少しで、青い鳥に会えるのです。
(大丈夫……大丈夫……今まで通りコイツ誤魔化せば……)
しかし赤い鳥の願い虚しく、クオンは''音階''について、現存する聖剣使い達に全て話してしまいました。
『 クオン!全部言ったな!全部!
オレとお前だけの秘密だったのに!』
妖精は泣きたい気持ちでいっぱいでした。
あともう少しだったのに、クオンにぶち壊されたのです。
"音階''はこれから早い勢いで普及し、いずれは青い鳥の耳にも入ってしまうでしょう。
そうすれば''音階''を使って追跡しているのが青い鳥にバレてしまい、最悪逃げられてしまいます。
クオンが赤い鳥に謝罪の言葉をかけていましたが、赤い鳥はそれどころではありませんでした。
光が見えたと思ったら、暗闇に放り出されたような気持ちになっていたのです。
そんな時、クオンは言いました。
「今まで通り、魔物は狩り続ける。
約束を破った代わりとは言ってはなんだが、魔物を狩る以外になにか望みなどないか?」
赤い鳥は驚きました。
まさかクオンからそんなことを言われるとは思わなかったのです。
赤い鳥は、青い鳥が姿を消したあの日から、自分から青い鳥を奪った魔物と人間と妖精を、ずっと許さないと決めていました。
クオンに与えた力で結果的に人間と妖精に恩恵があったとしても、それは自分の行く道を邪魔した魔物を狩りたかっただけで、ついでなだけであって、誰にも心を開かないようにしていたのです。
それなのに今、クオンは赤い鳥を真正面から見つめたのです。
まっすぐな、瞳で。
『 じゃあ……大きい……星の妖精……探セ』
赤い鳥はわざとぶっきらぼうに言いました。
「星の妖精?」
『 うン……』
それ以来、クオンは妻のイリアとともに青い鳥……星の妖精「星水鳥」のいる場所へとを旅するようになりました。
星水鳥捜索に力をさいていたので、クオンにあまり力を与えていなかったことも、すぐにバレました。
それでもクオンは、怒ったり悲しんだりしませんでした。
赤い鳥は不思議に思い、ある日、思いきって聞いてみました。
『 クオン、お前オレのこと怒ってないの』
「ん?お前がオレにやったこと自体には文句を言いたい気持ちはある。
だけどな、俺はお前と契約していなかったらアルやイリア……たくさんの人達に出会えなかった。
だから……お互い様、ってとこかな」
『 ふ……、ふん』
「なんだよ、ちょっと恥ずかしかったのに」
赤い鳥はクオンのそのまっすぐな気持ちに、自分が嬉しいと感じているのが分かっていました。
あの日、青い鳥を傷つけた、同じ''人間''という種族相手に。
(こんなの、オレもクオンと同じなってる……)
憎みきれず、それがいつしか許したい気持ちになり、最後には愛おしい気持ちになるなんて。
(青い鳥は、今のオレ見たらどう思う……?)
赤い鳥には、わかりませんでした。
青い鳥のイメージは、日本書紀に登場する香香背男です。




