⑦クオンと''音階''
これでいったんお話は区切りがつきます。
最後らへんめっちゃアルのターンです
「まさか虎王を倒す方が先とはな。
お前の鳥の伝達が来た時は正直驚いた。
こっちは古代術式の解除出来なくて大変だったというのに」
「だからそっちに行くっていったんだろ。その瞬間に猫の迎えが来たのは、久しぶりに驚いたが。
相変わらず移動は音速だな」
クオンは表面上はいつも通りレーヤと軽口をたたいていましたが、本当は緊張感で胸がいっぱいでした。
(……聖剣騎士団本部ってやっぱり苦手だ……)
今、クオンは聖剣騎士団本部にいました。
スーガン国の内部のあれこれが落ち着いた後、クオンとイリアはレーヤに聖剣騎士団本部へと、強制連行されたのです。
連行理由は、クオンが使った古代術式のことでした。
重苦しい空気が立ち込める中、2人は頑丈そうな分厚い扉を抜け、レーヤはさらに分厚い扉をノックします。
「失礼します。''赤火鳥''のクオンを連れてきました。」
レーヤがそういうと、扉の向こうからは、100年以上ぶりに聞いた少女の声がします。
「入ってもらって。」
そしてレーヤとともに中へと入りました。
部屋にはイリアとイリアの師ローラも並んでいて、彼女を含む9人の聖剣使いが立っていました。
そして、中央に立っているのは先ほどの声の主、''蒼天馬''(そうてんま)シィラでした。
「さあ!レーヤ。まずはあなたの見解を教えてちょうだい。敬語抜きでいいわ。」
少女は可愛らしい笑顔でレーヤに言います。
(久しぶりだというのに、挨拶もさせてもらえないか……)
久しぶりに再会した、師匠ハヅキの同期、シィラに挨拶するタイミングを逃したクオンは、少し調子が狂いました。
「はい。シィラ様。ではこの翠雷猫レーヤが今回の見解と顛末を説明する。」
シィラに促されたレーヤは、そんなクオンを一瞬見てから、すぐさま説明を始めました。
「まず、人類が始まって以来、譜面式と呼ばれる3つの式は当初から発見され使用されていた。
しかし、人類は使用していく中でこう思った。これらはあくまで補助式で、主体となる式があるのではないか?と。
東洋でも西洋でも、主体となる式が7つあると式自体の実物の一部だけ発見、全容は把握できなかった。
だが近年、スーガン国のドル王の前の王が、100年以上前に発見していたのではないかと、スーガン国内の学者たちが唱え始めた。
その結論にいたったのは、いたって簡単だ。
英雄王アル王の先代ドル王の、その前の王と王子の記録が不自然なほど記録がない。
そのため学者間では便宜上、空白の王、空白の王子と呼ばれている。」
「なぜかドル王は徹底して先代の王家の存在やそれを知る市民、関係者全てを抹殺するまで、譜面式を恐れていた。
それでも先王が作った脅威にならない譜面式のみ、当初は大目に見ていたらしい。
ただ、歳をとるにつれそれすらも恐れるようになった。
有名な逸話では、譜面式''ユルディアン''をゴミ捨て場で発見し復元したアル王を見て、斬りかかった話だ。
攻撃性のない、脅威にもならない譜面式さえなぜ恐れる?」
レーヤは皆に説明しながら、時折クオンを見ました。
「それでも学者たちは少ない手がかりの中で、空白の王が譜面式を研究し、7つの式の存在をつきとめていたことを発見した。
その上で以前発見されていたような1部ではない、7つの式のうち2つの実体も確認。
さらには空白の王子が、''赤火鳥''クオンではないか、という推論も上がっていた。
そんな中で''虎王''に襲撃され、資料も1部強奪される、発見した式のうち1つの擬似譜面式も奪われる、という騒動があった」
「なるほど。それで虎王が父王の式のことを知っていたのか。
魂を呼び出す譜面式も、''音階''のうちの1つのG式、闇の擬似譜面式とは知らずに一部として使ったんだな。」
(そう思うと、虎王はあの擬似譜面式を何も知らないまま稼働し、本物に近い力を出力、その上で魂を呼び出す術式を自分で作成できていたんだな。
なんだかんだ強かったんだな……)
クオンはそんなことを思いながら、会話の腰を折ってすまない、とレーヤに言いました。
レーヤは少し驚きつつ、クオンに言います。
「……クオン。お前が本当に空白の王子だったとはな。」
「……すまないな、レーヤ。ずっと隠してて。」
「いや、いい。ではあとは、説明頼めるな。」
「ああ。」
イリアを含めた聖剣使いから、動揺と驚きの声が上がります。
周りの空気が張り詰める中、クオンは話始めました。
「さっきレーヤが言った通り、父王は俺が5つくらいの時に、7つの式の実体を発見していた。
CDEFGAH、''音階''といってな、
無から有を生み出せる式だ。
Cは水、
Dは火、
Eは風、
Fは土、
Gは闇、
Aは光、
Hは雷。」
クオンから紡がれる、自分達が知らない知識に、その場にいる聖剣使い達はただ聞いていました。
「すぐ自国でさらなる研究を行おうと部下のドルに相談したら、''音階''を脅威に思われ、父王は殺された。」
ドルはすぐさま、''音階''の発現も使い方も知ってる王子をも殺そうとしたが、これは白幻狐ハヅキに阻止された」
まるで他人事のように話すクオンを、イリアは心配そうに見つめます。
「ドルが父王を殺した理由はわかる。
"音階''を使うだけで、楽に火や水をその場に出現することができてしまう。
当時も今も一つ一つの式の威力自体はそこまでないが、7つの式を組み合わせれば、魔物や人を大量に殺せるほどの攻撃さえ、可能にしてしまう。
ドルは、世界を左右するほどの大きな力を広めるのは、危険と考えたんだ。
……だからといって、殺していい理由にはならないが。」
その声には、悲しみが混ざっていました。
クオンは少し間を置き、続けます。
「ちなみに、俺の師匠ハヅキは、''音階''のことは全く知らなかった。
ただ、俺がなにかの式を知っている、というのは分かっていたみたいだ。
ドルだって式の存在は認知したが、発現方法や使い方は知らなかった。
俺自身、アルと追放されて出た旅に出る前まで、''音階''のことは眼中になかった。
ドルが父王を殺したのは、政治的手腕や権力に対しての嫉妬だと思っていたしな」
一通り話終えたクオンに、内なる妖精が怒り始めました。
『 クオン!全部言ったな!全部!
オレとお前だけの秘密だったのに!』
内なる妖精はかなり激昂したようで、赤い鳥の姿でクオンの前に出てきました。
イリアはそれを見て前に出ようとしましたが、クオンが手を前に出して制止します。
「約束を破ったことは悪いと思ってる。でも時代が追いついてきたんだ、悪用する誰かの手に渡る前に、聖剣騎士団に話した方がいい。
今まで通り、魔物は狩り続ける。
約束を破った代わりとは言ってはなんだが、魔物を狩る以外になにか望みなどないか?」
『?!……』
妖精は黙ってしまいました。
クオンは''音階''が世界に及ぼす危険性と重要性に気づいた時から、内なる妖精に2人だけの秘密、と約束していました。
そして、聖剣騎士団に言うべき、となった場合は言うとも言ったのですが、妖精は聞いてくれませんでした。
(やっぱり契約解除されるかな……)
契約解除をされれば、内なる妖精は体から出ていき、クオンは死んでしまいます。
(だが……このまま契約解除されるわけにはいかない。
この妖精は魔物を狩る以外に、何か望みがあって俺と契約したはずなんだ……!
他の妖精がそうだったように!)
クオンは、100年以上聖剣使いをやっていることもあり、人間と契約する妖精の特徴を掴んでいました。
それは、魔物を狩る以外に契約した人間への望み。
ある者には愛を、
ある者には美貌を、
ある者には剣術を、
ある者には知識を、
ある者には主従の絆を。
クオンはこの''妖精の望み''に、自分の生死を賭けていました。
『 じゃあ……大きい……星の妖精……探セ』
「星の妖精?」
『 うン……』
そういうと、先ほどまでいた赤い鳥はいなくなっていました。
そして、内なる妖精はクオンにしか聞こえない声で話しかけました。
(……なんでそこまで生きたがる?お前、もう何もない)
復讐もできず、
憎みきれなかった義弟を守りきることもできず、
父が残したものも今、他人に渡し、
死んだと思っていた妻は、1人残されてもやっていけるほど強くなった。
それなのになぜ、と問われているように感じました。
(生きたい理由はたくさんある。
イリアと一緒にいたいし、
プートル人形ももっと見ていたいし、これから''音階''を使う譜面式もたくさん出てくるだろうから、それも見たいし)
内なる妖精にだけ聞こえるよう話しながら、クオンは決意のように言いました。
(アルが残したもの……そして守った世界を、まだまだ見ていたい)
それに、と付け足しました。
(これから譜面式は急速な発展をするぞ。
まだ俺のは中にいて、静観していた方がいいんじゃないか?)
もう契約解除はされなさそうだな、とクオンは少し安心しながら、内なる妖精に提案しました。
(ふん……でもオレまだ怒ってる。死なない程度に風邪ひかせたりしてやる)
(それは困るな……ちなみに星の妖精はどんなのなんだ?)
(知らない!お前が探せ!)
(ええ……)
内なる妖精の怒りに複雑な思いを抱いていると、シィラは言いました。
「妖精との会話は終わったかしら?
ひとまず、クオン、あなたが''音階''を誰にも伝えなかったのは、傲慢でもあるし、臆病でもあるわね!」
可愛らしく首を傾げると、薄水色の長い髪が揺れました。
「はい。シィラ様」
シィラの重い一言が、返事をするクオンの胸に重くのしかかります。
「さあ、さっそく''音階''とやらを使ってみよう!
まずは水から!」
「かしこまりました、シィラ様」
そうしてクオンは''音階''について教えました。
この日、クオンを含めて、世界で現存する聖剣使い達11人が''音階''の使い方をマスターしました。
『 この術式が世界にもたらす影響を常に考え続けてくれ。
約束だぞ。』
クオンは、父が言った言葉が、何度も頭に木霊していました。
クオンはその後、イリアとともに数週間聖剣騎士団本部に拘束された後、スーガン国に戻って、アル王没後100年記念展覧会に来ていました。
「クオン……あの……私が古代術式の調査に行くのを止めたのは、''音階''のことを知られたくなかったからですか?」
「え?違うぞ?ま、前にも言ったろ……今の俺を知ってほしいなぁと思って」
「……」
「結果オーライだ!さ、アル王最高傑作プートル人形の三体を存分に楽しもう!」
「……はい!」
イリアが少し笑ってくれたので、クオンはホッとしました。
クオンはサヴァールとの約束通り、アル王最高傑作プートル人形の三体をじっくり鑑賞していました。
『 うわー最高傑作をなくしてしまったぁぁ!!』
クオンはアルが生前、クオンに見せる前に最高傑作をしまいこんでそのままなくしてしまい、ガックリしていたことを思い出していました。
そんな最高傑作は、今クオンの目の前にあります。
さっそく最高傑作のギリギリ前まできて見ようとするクオンを、サヴァールが呼びとめます。
「クオン様、イリア様この度は我がスーガンのためにありがとうございました」
「サヴァールこそご苦労だった。虎王がドル派を手駒にしてたとはな……」
クオンの横に現れ、サヴァールは深々と頭を下げました。
対するクオンは頭をあげるように言いました。
今回の報酬は、既に受け取っていました。
「虎王から、アル王の遺品がほしいから協力してほしい、とドル派に近づいたようです。ドル派も虎王を利用するつもりで結託したらしいですが、なにぶんドル派は譜面式が苦手なばかりに、逆に利用されてしまったようです。」
「虎王がアル派に近づかなかったのは、譜面式を警戒していたんでしょうか?」
イリアが会話に入りました。
「だろうな。譜面式を知らない奴らの方が、自分の手駒として扱いやすい。
虎王からしたら、アル派の襲撃の協力ついでにアルの遺品や譜面式の資料が手に入って万々歳、ってとこだったってわけか。」
「そんな……」
それを聞いて複雑な顔をするイリアに、サヴァールは渋い顔で話しました。
「はい。思わぬお宝が手に入ったお礼に、ということで、虎王から、自身が作った魔物が大群に出る術式、古代擬似術式をもらったようです。
それら術式を深く考えないまま、我々アル派襲撃に使用したようで……」
ドル派は魔物・虎王に利用されたこともあり、壊滅状態でした。
「スーガン国は今後、聖剣騎士団と協力して譜面式の研究をしていきます」
曇りなき瞳で宣言するサヴァールに、
「あ……分かっているとは思いますが、くれぐれも、悪いことに使わないように」
イリアがサヴァールに釘を刺しました。
「はい。英雄王アル王の威光に泥を塗るようなことはしません!」
クオンはサヴァールの言葉を聞いて安心したようで、一言言いました。
「頼む。」
その後に、気まずそうに言いました。
「で……すまない。アル王最高傑作プートル人形の三体をもう見てもいいか……?」
「あ……呼びとめて申し訳ございません、クオン様!」
「クオン……」
微妙な顔をするイリアの隣で、クオンはアル王最高傑作プートル人形の三体に改めて目をやります。
相変わらずプートル人形は、埴輪を少し奇抜にしたような見た目です。
赤、青、黄色の三体の人形が、クオンをまっすぐ見つめています。
クオンは、最高傑作をなくした後に、アルにこんなことを言ったのを思い出していました。
『 その最高傑作とやらは、いつか永い時の果てに見つかって、俺の前に現れるかもしれんぞ』
それは、落ち込むアルにどんな言葉をかけていいかわからない中で、クオンが考え抜いて出た言葉でした。
『 ……そうだといいなぁ。クオン、その時はじっくり見てくれないか?』
『 ふん……。考えておく。』
そんな最高傑作は、今クオンの目の前にあります。
本当に永い時の果て……
久遠のような時間の果てに、現れたのです。
巡り合わせに胸が熱くなり、アル王最高傑作プートル人形の三体を1時間以上眺めました。
さすがにそれ以上はイリアに申し訳なかったので、やめました。
クオンはその日の夜、サヴァールが用意してくれた部屋でイリアとともに寝ました。
愛妻の愛らしい寝顔を見ながら、起こさないように、久しぶりにアルの制作ノートを読みました。
(アル……俺はお前がいない世界で、これからも生きていくよ)
クオンはもう、昔のように『 今ある感情』『 そこにあった感情、事実』を無視して生きたりはしません。
アルの制作ノートの、アル王最高傑作プートル人形の三体のページを改めて読んでいました。
そこにはアルの字で、でかでかと「赤はクオンの色でもあるから最高品質を使うこと!」と書いてあります。
(お前が守ったもの、残したものを感じながら、生きていくよ)
ノートを読みながら、そう、心の中で高らかに思いました。
そして、ノートを大事にしまうと、アルが一番初めに作ったプートル人形を、いつものように丁寧に布で磨きました。
そのプートル人形は、もらった時と同じように、笑っている顔をしているのでした。
クオンが契約する妖精がいう、星の妖精については次回書きます。




