⑥イリアと抜刀術
クオンの妻イリア戦闘パートです。
最後らへんにクオンとイリアのイチャイチャシーンあります
クオンが虎王パラングと戦っている時、イリアはサヴァール、レーヤとともにアル王没後100年記念展覧会のスタッフルームに待機していました。
はずだったのですが、先刻前に状況は一変しました。
「来場者の皆さん、落ち着いて避難してください!」
聖剣騎士団員やサヴァール達を初めとしたアル派の者達が、展覧会来場者の避難誘導を行っていました。
魔物の大群と、ドル派の刺客が現れたからです。
彼らは次々と、人殺しをしようと襲いかかってきます。
「くそっ!これもきっとドル派の連中の差し金だ!俺達アル派を潰す気なんだ!」
「憶測でものを言わないでください!今はまず来場者の避難を……」
怯えるアル派に、レーヤと共に来た聖剣騎士団の団員がなだめます。
「まさか……聖剣騎士団の中にもドル派がいるんじゃないか?!」
「な?!何をいって……」
しかし、アル派は矛先を聖剣騎士団員へと向け始めました。
「待ってください!いったん疑心暗鬼はやめましょう!」
不穏な動きを察したイリアは、魔物を妖精の力で作り出した聖剣で斬りながらアル派を止めます。
先ほどからこの調子でした。
ドル派の人間は躊躇いなくアル派を殺そうと襲いかかってくるので、アル派は懸命に防御します。
しかしそこに魔物も襲いかかってきて、レーヤやイリア、聖剣騎士団員は対処にあたります。
けれども、
突然の魔物''虎王''パラングの襲来、
アル王の墓荒らしと警護にあたっていた仲間の死、
そんな中でのドル派の襲撃、魔物の大群と、
次から次へと不安なことが起こるため、精神が疲弊しアル派の人間は周りを信じられなくなっていたのです。
「どうせ赤火鳥だって負けるんだ!俺達だって……」
また不安を口にするアル派のそばで、大きな翠の猫とともに、落雷が起こりました。
周りにいた魔物は一掃され、いつの間にか、聖剣使い''翠雷猫''(すいらいびょう)レーヤがそばにいました。
「少し眠っていてくれ」
レーヤの言葉とともに、バチンと電撃が走ると、不安を口にしていたアル派の人間は倒れこみました。
「申し訳ないが気絶させた。あとは任せた」
「ありがとうございます、レーヤ様!」
サヴァールはレーヤから自分の仲間を受けとると、抱きかかえ安全な場所へ移動するため走り出しました。
(これがレーヤ様と妖精の、雷の力……瞬間移動に、広範囲の雷、死なない程度の感電……)
思わずレーヤの力に関心していると、イリアは内なる妖精に怒られました。
(こらイリア!
ぼーっとしちゃダメです〜
ハヅキはこういう時、人間にちゃんと指示を出してですね〜!)
(わ、わかってますってば!私も自分のやるべきことをやります!)
イリアが内なる妖精にしか聞こえないよう会話している間に、レーヤは戻ってきたサヴァールと話していました。
「サヴァールといったか。今の状況を整理しよう。
今アル派とドル派の人間がやりあってるが、俺達聖剣使いは妖精が人間の血を嫌うから殺し合いはできない。
だからドル派を殺さず捕らえる手法でアル派は戦っているが、向こうはこっちを殺す気でいる上に、魔物まで出てきて圧倒的不利。ということだよな?」
「はい……そうです。しかも譜面式が使えない術式が張られて、レーヤ様とイリア様の妖精の力しか当てにできない状況です……!」
「おそらくは俺達聖剣騎士団も探していた古代術式が使われているな……
俺はこの古代術式の解除と同時並行で、魔物の相手もしよう。サヴァールは人間の安全を頼む。
イリア殿は……」
「私は厄介そうな魔物達を狩ります!」
「頼んだ!」
そうして3人は目的の場所へと一目散へ駆け出しました。
(レーヤ様は古代術式の解除があるから、通常よりも魔物を多く狩れない!私が代わりに狩らなければ!)
イリアはそう意気込み、手始めに空中で大暴れしている魔物達を、ドリルのような形をした風で撃ち落とし、そのまま圧死させました。
そしてフラット(捕縛)で魔物達の足場を崩し、1箇所に纏めたらまた風のドリルで圧死させます。
避難する人間や、ドル派と戦うアル派を刺激しないよう、それらの攻撃はナチュラル(防御)で塞ぎ、見えないように行いました。
(いいですか〜?
人間に聖剣使いの力は圧倒的!と思わせると、万が一自分達にその力が来たら脅威だ!と思われてしまいますよ〜
うっかりすると聖剣使いは人間に殺されちゃいます。
そうならないように、ハヅキはもっと威力を大きくした上で攻撃はもっと小型にしていました〜
毎回言ってるでしょ〜)
(善処します!)
相変わらずの内なる妖精のダメ出しに、イリアは半分聞き流しながら周囲を見渡すため風でひとっ飛びし、上空を確認しました。
「よかった……避難は無事終わったみたいですね!」
"虎王''パラング襲来前にサヴァール達と確認していた避難所の場所に、レーヤが作ったと思われるナチュラル(防御)の譜面式が見えました。
さらに、サヴァールがアル派の仲間とともに、ドル派もかなり捕らえたようで、避難所とは別の場所にいるのが見えました。
(人間同士の戦いも終わったみたい……あとは、魔物!)
展覧会の、ちょうどデザートなどの屋台があった場所で、レーヤが古代術式の解除と魔物の大群を狩っているところが見えました。
イリアはそこに行こうと飛ぼうとした、そのとき。
たくさんの魔物が襲ってきました。
(イリア、成長できるチャンスですよ〜たくさん斬って、はやくハヅキみたいな剣士になってください〜)
(はいはい)
すぐに風の聖剣を作り出し、イリアは構えをとります。魔物達に飛びかかられると、ひたすらに斬りました。
「聖剣使い、仲間との合流はさせない、お前はここで、うぉ?!」
「我らが相手ぐぇ」
「ひぇぇ」
「ぐああぁ」
「えーん」
イリアは魔物の大群を斬り続けるのと同時並行で、
上空を飛ぶ魔物達を風のドリルで圧死させ、
レーヤの周りにいる魔物をフラット(捕縛)し、
それらをナチュラル(防御)で隠蔽を行っていました。
(も〜イリア、ハヅキみたいに風の兵士達を作って動かせるようになってくださいよ〜効率悪いです〜!)
(善処します!!)
文句を言う内なる妖精に半ギレしつつも、同時にいくつものことをするのは大変でした。
しかし早く事態を収束させるためにイリアは頑張りました。
(これで魔物はだいぶ減りましたよね?フラット(捕縛)の譜面式にも大勢の魔物の反応はしない……)
(待ってくださいイリア!後方に手練がいます〜!)
内なる妖精の叫びにイリアは咄嗟に振り返ると、剣士のような格好をした魔物が斬りかかってきました。
「我が名は魔物''剣狂''シャムシャ。
そこの聖剣使い、なかなか剣の扱いができてると見た。
しかも作り出す聖剣は日本刀か……久しぶりに見たぞ。名を名乗れ」
「……白風狐、イリアです!」
イリアの返答を聞くと、シャムシャは自己紹介のように激しい剣撃をぶつけました。
イリアはそれを必死に返します。
(こいつ、結構できる魔物ですね〜長引けばこちらが不利です〜。
一撃でしとめないと〜!イリア、抜刀術です〜)
(はい!)
内なる妖精の指示に、さすがにイリアは従いました。
しかし内なる妖精が言った抜刀術は、イリアはまだ使いこなせていません。
そのため使うには小細工が必要でした。
イリアはナチュラル(防御)の譜面式を展開し始めます。
譜面式が動き出したため、次第に周囲は風につつまれ、いつの間にかイリアの姿は風とともにいなくなっていました。
「幻術か……?''白幻狐''の真似事だとしてもお粗末すぎるぞ」
シャムシャはそう軽口を叩きながらも、イリアの次なる一手を警戒していました。
(最近になって''白幻狐''ハヅキに似た戦いをする聖剣使いが現れたと噂で聞いていたが……こいつか?)
不自然なほど気配がなくなり、まるで先ほどの喧騒が嘘のように辺りは静寂に包まれました。
そして、イリアはシャムシャに向かって一撃入れようとすると、
「そこだ!」
「くっ」
逆に一撃打ち込まれました。
なんとかナチュラル(防御)で防ぎましたが、あと1秒遅かったらイリアは即死でした。
「我をひそかにフラット(捕縛)で縛り、そしてナチュラル(防御)で外界から隔絶した空間を作り出したのは褒めてやろう。
しかし……圧倒的力の前では全てが無意味」
「どうでしょうね。ですがこの空間は、私の独壇場です」
イリアがそういうと、シャムシャを暴力的な風のドリルが襲います。
それを避けようとすると、フラット(捕縛)が動き出し、鎖状の譜面式がシャムシャを縛り付けます。
シャムシャはこれを剣で軽く一閃すると、風も鎖もぶち壊しました。
しかしその頃には、四角いナチュラル(防御)がシャムシャを今度は両側から襲い、さらには上空から無慈悲な風が叩きつけられます。
イリアの攻撃をシャムシャが壊しては、
また攻撃され壊しては攻撃されを繰り返しました。
そんな中でも時折、風の聖剣から放たれる強烈な一撃が飛んできます。
「距離をとって一撃を浴びせてくるか……」
シャムシャはイリアの攻撃を全て防いでいます。しかし、攻撃があらゆるところから来るため、意識があちこちに分散され集中力が途切れてきます。
ですが、シャムシャは魔物の中ではそこそこの剣士でした。
「ちょこまかと、小賢しい!我と正々堂々勝負しろ!」
「あっ……!」
シャムシャはイリアの位置を割り出し、的確に一撃を叩き込みました。
イリアは防ぐことはできましたが、今の一撃で譜面式を全て壊され、遮る障壁を全て失ってしまいました。
(この魔物、どんな譜面式も力でねじ伏せるタイプなんだ……ああ、クオンくらいの剣術があればすぐに狩りも終わったのに……)
イリアがそんなことを考えているうちに、シャムシャから嵐のような剣撃の猛攻撃を受けます。
さばくだけで精一杯で、完全に相手の流れとなってしまいました。
「ふふ、これほど剣のぶつかり合いをしたのは、''白幻狐''と''赤火鳥''だけだったぞ。
なかなか我は楽しめた。
もう終いにしよう」
(大技来ますよ〜!)
(はい!)
最大出力のナチュラル(防御)を展開し、予想していたシャムシャの強烈な一撃を防ぎながら、イリアは抜刀術の構えを取りました。
(やるしかない!)
クオンからの抜刀術の稽古を思い出しながら、イリアは足に力を入れ踏み込みます。
展開していたナチュラル(防御)は破壊され、このままでは一撃食らってしまうため、覚悟を持ってシャムシャへと斬り込みます。
「くぁ……っ」
「悪くはない。だが、甘い」
イリアとシャムシャはすれ違いざま同時に抜刀術を放ちましたが、シャムシャの方が斬撃が大きかったのです。
イリアはたまらず崩れ落ちますが、シャムシャは毅然とした状態で立っています。
立っていたのですが、次の瞬間、シャムシャはおかしな現象に襲われました。
「な……?!」
イリアに斬られた傷口から、シャープ(攻撃)とフラット(捕縛)の譜面式が展開してきたのです。
茨のようにシャムシャの体を覆い、体を破壊していきます。
「貴様、剣術に譜面式をのせるとは、剣士の風上にもおけない……赤火鳥でさえ、我には剣術のみで対抗したというのに、この」
そのままシャムシャはこの世から消滅し、イリアの狩りは終わりました。
(イリア、もっともっと強くなって、早くハヅキみたいに剣術のみで魔物を狩れるようになってくださいね〜)
(善処します)
イリアは譜面式で作り上げた空間を解除し、元いた場所へと戻りました。
先ほどの一撃の痛みが激しいため、壁つたいに移動します。
『 イリア、君はハヅキの剣術を完璧に模倣なんてしなくていいんだよ。
ハヅキの剣術大好き妖精が色々言ってくるだろうけど、君は君なんだから』
それは以前、師である''虹魅龍''ローラに言われた言葉でした。
実はイリアがクオンにもう一度会うのに50年もかかったのは、ハヅキの故郷にまで行って剣術を学んでいたのも理由にありました。
とはいえ未だに抜刀術は完全に習得できずにいますが、最近はハヅキの弟子だっまクオンからも剣術の手ほどきを受けているため、日々上達はしています。
(クオンが帰ってきたら、また稽古をつけてもらわなけきゃ……
クオン……信じてます……)
そんなことを思っていると、翠の雷が見えました。
そしてまた翠の雷が見えたのですが、そこには赤い鳥も見えました。
「クオン?!」
イリアは痛みを忘れ、愛する人が使っている見覚えある鳥めがけて、風で狐を作り跨ると、一気に移動しました。
「クオン!」
「イリア!無事だったか!良かった……!」
クオンが無事帰ってきたことを確認し、狐から降りて思わず抱きつこうとしたところ、赤い鳥がクオンに向かって怒っていました。
『 クオン!約束違つ!絶対厳守!絶対厳守ぅ!』
「お前が怒るのもわかるけど、しょうがないだろ。見ての通り、これは''音階''だ」
『 うぐグ……』
「悪いが、お前との絶対厳守の約束は、変更する。
変更するまでちょっと待っててな」
なんとか契約している内なる妖精をなだめると、クオンはレーヤが苦戦していた古代術式に触れました。
「クオン、お前……」
「レーヤ、後で全部話す。今は俺を信じてくれ」
そういうと、クオンは誰も解けなかった古代術式を解除しました。
古代術式が解除され、聖剣騎士団員、アル派の者たちは譜面式を使えるようになり、魔物を一掃しました。
「クオン、今のは一体……」
「イリアにも全部話す。ひとまずは……お互いにお疲れ様。
ただいま。」
「……おかえりなさい!」
そしてクオンは、イリアを力いっぱい抱きしめました。
しばらく抱き合った後、クオンは名残惜しげにイリアから離れました。
そしてサヴァールにアルの遺体を渡し、そして遺品を元の場所に戻すため、話し合っていました。
(さっきのあの古代術式を、なぜクオンは使えたんでしょうか……)
イリアはそんなクオンの背中を見ながら、先ほどの光景を思い出していました。
ですがとりあえずイリアは、クオンが無事だったことに、ホッと胸をなでおろしました。
ハヅキは小柄な少年の姿、ローラは背の高い妙齢の美女の姿です




