④虎王パラングの襲来
④虎王パラングの襲来
むかしむかし、あるところにスーガン国という国があり、そこには×××という王子様がいました。
王子様は、生前王と約束したことがありました。
『 いいか、×××。
このように''音階''は7つある。
今教えた''音階''のことは、
お前に全てを委ねよう。
他人に教えてもよし、
自分でさらに改良してもよしだ』
『 わかりました!父上』
『 だがな、この術式が世界にもたらす影響を常に考え続けてくれ。
約束だぞ。』
『 はい!約束します!父上』
そして時はアル王没後100年後。
×××という名だった王子様は、今はクオンと名乗っていました。
「クオン、
私は聖剣騎士団から、古代術式調査団のメンバーとして招集があったといいましたよね。
記譜式の3つ以外にも7つほど存在が確認され、それは無から有を生み出せる術式ではないかと言われていると。」
「わかってるぞイリア。
だがな、俺はアル王没後100年記念展覧会を見るのもいいと思ったんだ」
「そうなんですね。
でも、私が調査団に行こうした時は、古代術式よりも見なければいけない重要な物がある、と深刻そうに言ってましたよね」
「だって行方知らずだったアル王最高傑作プートル人形の三体が、遂に発見され一般公開されるんだぞ!!
これは歴史に残る貴重な出来事だ!
目に焼き付けなければ」
「私はあの時あなたの言葉を信じ、調査団行きを断った自分に後悔しています」
「そんなぁ……だってこないだ、今の俺のこともっと知りたい、ってイリアが言ってたから……」
「うぅ……それを言うのはズルいです」
クオンはイリアと若干険悪なムードになっていました。
2人は今、スーガンで開催中のアル王没後100年記念展覧会に来ています。
この展覧会は、アル王の遺品や彼が成したこと、彼の譜面式に対しての考え、そして彼の仲間たちを解説・展示した貴重な展覧会でした。
ちなみにアル王最高傑作プートル人形三体一般公開は一部コアなファンが喜んでるだけで、全体でみればそこまで目玉な展示ではありません。
初めはイリアも、クオンの故郷であるスーガンに行くことは、彼に少し寄り添えたと喜んでいたのですが、
今はクオンのプートル人形好きに若干ひきはじめていました。
(私が人間だった時は、プートル人形が好きだなんて言ってなかったのに……
よりにもよって、なんであんな可愛くないものをクオンは好きなんでしょう……)
イリアは今、完全に夫の趣味が理解できない妻の心境に陥っていました。
「クオン……
アル王最高傑作プートル人形三体のお披露目の時間まで、このプートル人形展示部屋にずっといるつもりですか……」
「え……だめか……?」
「もうプートル人形はお腹いっぱいです……」
「わ、わかった!
屋台がさっきいっぱいあったから、そこに行こう!休憩スペースもあったぞ」
「そこに行きたいです……」
疲れ果てたイリヤの手をクオンは優しく握り、移動しました。
(屋台……そういえば展覧会開催前にやたら食堂や小料理屋でバイトしてたのも、散財のための資金を稼いでたんですね……)
イリアが苦々しい気持ちでいる中、移動先にはクオンが言っていた通り、屋台や休憩スペースがありました。ご飯時はとっくに過ぎているせいか、人はさほどいなく、混雑していませんでした。
「イリア、甘いものでいいか?」
「はい……お願いします……」
聖剣使いは食事や睡眠をとらなくても問題ありませんが、娯楽や精神的な意味で行う時があります。
今がまさにそれでした。
クオンが屋台から買ってきたものをイリアに渡しました。
アル王が愛したというデザートというものらしく、イリアはそれを食べ始めました。
「甘くて美味しいです。クオン、これをもう10個買ってきてくれませんか?」
「わかった、10個だな」
クオンはすぐに10個買ってくると、イリアは無我夢中でかぶりつきました。
甘い物で心を癒すイリアを、クオンは申し訳なさそうに見つめました。
するとそんなクオンに声をかける人物がいました。
「あなたはもしや、プートル人形コレクターで有名な、聖剣使い・赤火鳥のクオン様ではありませんか?」
「……どちら様だ?」
「失礼しました。私はサヴァールといいます。
このアル王没後100年記念展覧会企画者です。 」
困惑気味なクオンに、刈り上げ気味の髪型のサヴァールという青年が、話し続けます。
「あなた様は国外に流出してしまった貴重なアル人形を保護すると、すぐにスーガン国に返還するという偉業を何度もしていただいた、とスーガン国に記録が残っています。
今回の展覧会でも、貴方様が保護して返却いただいた数多くの遺品が展示されてます!
よろしければ、少しお話できないでしょうか?」
それを聞いてクオンはイリアに視線を向けます。
するとイリアはいつの間にか10個もあったデザートを食べ終えていました。
サヴァールはクオンとイリアを展覧会のスタッフルームへと案内しました。
サヴァールはクオンとイリアに話しました。
今回のアル王没後100年記念展覧会開催のきっかけは、昨今の譜面式普及にスーガン国内で分断が起きていることから起因していること。
アル王が譜面式''ユルディアン''を広めたように、国内で譜面式の研究・開発をもっと強化しようという考えの「アル派」
譜面式に頼らず、これまで通り、魔物は聖剣騎士団や聖剣使いに任せて、もっと軍事力を強化しようというアル王の父王・ドル王のような考えの「ドル派」
「アル王没後100年記念展覧会は、ドル派の連中からの妨害を受けながらも、やっと開催できたものです。
アル王は譜面式は恐れるようなものだけではなく、美しいものもあると考えていた。
この展覧会を通じて、そのことをスーガン国内外の人々に知ってもらいたいと思ったのです」
「それは本当に大変だったな。この展覧会を、開催してくれてありがとう」
「ありがとうございます。しかし……問題が起こりまして。
実は……先ほど、アル王最高傑作プートル人形三体を盗むという予告状が来たのです」
「なんだって?!」
クオンは椅子から立ち上がりました。
「予告状を送った者を調べていますが、まだわかりません。
お願いです、赤火鳥のクオン様。
アル王最高傑作プートル人形三体を守ってください!
ここだけの話、この展覧会を開催する前から、スーガン国の警備を突破し、いくつものアル王の遺品を奪われているんです。
今までの遺品を盗んだ者と同一人物だったら、情けない話ですが、今のスーガン国内の警備では意味がないんです。
守っていただけたら、あなた様に報酬金を。そしてアル王最高傑作プートル人形三体を何時間でもご鑑賞ください」
「おお……ちなみに聖剣騎士団に連絡は?」
「連絡しましたが、急なことだったのでまだ到着していません。」
「なるほど。
では警護を引き受けよう。だが、スーガン国の警備の人間を何人か貸してくれ。
それとイリア、君の力も貸してくれ」
イリアは事が事だけに、すぐさまクオンの言葉に頷きました。
「だがサヴァール。なぜ俺に依頼を?
俺は聖剣使いでもさほど有名な方でも、強い方ではないが。」
疑問に思うクオンに、サヴァールはクオンにしか聞こえない声で、興奮気味に言いました。
「あなた様はかつてアル王とともに戦った聖剣使いでしょう?
伝承から消されても、あなた様は民衆から静かに語り継がれていたんですよ!」
キラキラしながらクオンを見るサヴァールの目元を見て、下手くそな誤魔化しをしました。
「……俺はただプートル人形が好きなだけの聖剣使いだ……」
クオンはその後、スーガン国の警備の人間と、サヴァール、イリアとともに、アル王最高傑作プートル人形三体の守備について話し合いました。
そして、アル王最高傑作プートル人形三体の一般公開の時間になった頃。
「やーぁ。アル王のプートル人形を盗みに来たよ」
そんな声がした瞬間に、警備の人間が倒れ込みました。
しかし、譜面式のナチュラル(防御)のおかげで、大事にはいたりませんでした。
「あれぇ?前よりはスーガン国の警備も頑丈になったのかなぁ」
「お前が予告状を送った犯人か!」
サヴァールの尋問を無視して、その男はクオン目がけて突進してきました。
あまりにも人間離れしています。
確実に人間ではなく、魔物の動きでした。
クオンは妖精の力で作った炎の聖剣をすぐに出現させ、魔物の剣を受けとめました。
そしてアル王最高傑作プートル人形三体が傷つかないように、自分と魔物ごと遠くへ移動しました。
あとは作戦通りに、イリアの加勢が入ります。
クオンの炎の力、イリアの風の力を譜面式で強化し、さらに二人の剣撃で魔物を追撃します。
けれど魔物はどこまでも涼しい顔をしています。
(まずい!この魔物、他に狙いがある!)
クオンは嫌な予感がして、サヴァールに叫びます。
「サヴァール!フラット(捕縛)で何か反応はないか?!」
「ありません……!」
アル派であるサヴァールは、事前にスーガン国内にフラット(捕縛)の譜面式を展開させていて、何か怪しげな譜面式があればすぐ気づくよう対応している、と先ほどの話し合いでクオンは確認していました。
(魔物の狙いはスーガン国への攻撃ではない?!ならば一体……)
「へーぇ。譜面式って今はそんなことできるんだね。
えーと、赤火鳥のクオンだっけ。
僕は魔物の''虎王''パラング。
今日はこれでお別れだけど、次は1人で来てね」
そういうと、魔物の''虎王''パラングは姿を消しました。
「アル王最高傑作プートル人形三体は無事守れた……で大丈夫というわけではないみたいですね……」
念のため追跡や周囲へ譜面式を展開しながらも心配するイリアに、クオンは立ちつくしました。
それはサヴァールも同じようで、無事アル王最高傑作プートル人形三体を守れたものの、安心できないといったようでした。
「サヴァール!大変です!」
そんなサヴァールに、アル派と思われる人達が急いだように現れ、何か白い紙を渡し、そっと耳うちしていました。
サヴァールは見る見るうちに青ざめ、クオンに急いでかけ寄りました。
「赤火鳥のクオン様!申し訳ございません……!」
サヴァールは先ほど仲間から渡されていた白い紙をクオンに見せました。
そこにはこう書かれていました。
「アル王の遺体は預かったよぅ。返してほしければ、赤火鳥のクオン1人で指定の場所に来ぃ」
続きものです。




