②クオンとイリア
ここから妻のイリアとともにクオンは旅することになります。たまにクオンとイリアのイチャイチャシーンは入ります。 ただアルとの思い出も入ってます。
「久しいな、クオン。」
「ああ。久しぶりだな、レーヤ」
あるところに、クオンという聖剣使いがいました。
昔、アルと兄弟の契りを交わした時につけた左手の手のひらの傷は、今も残っています。
今はアルが死んでから100年経っていました。
今日はクオンと同時期の聖剣使い、''翠雷猫''レーヤに
「用があって会いたいから聖剣騎士団支部に来てほしい」
と、レーヤが使う翠色の猫に言われて会いに来たのでした。
昔から変わらない、ハンサムショートに前髪がある翠黒の髪型のレーヤが、クオンを待ってました。
「レーヤ、先に言っておくが聖剣騎士団にはもう二度と入団するつもりはないぞ」
「それはわかっている。今日クオンに来てもらったのは別の要件だ。
……入ってくれ。」
レーヤが扉に向かって声をかけると、扉がガチャリと開きました。
そして入ってきたのは、
50年前に死別したクオンの妻、
美しい金髪をポニーテールにしたイリアでした。
「お久しぶりです、クオン」
「なっ……?!」
驚きのあまり、クオンは椅子から立ち上がりました。
幻術の類とも思いましたが、目に見える人物は、たしかに死んだはずの妻でした。
死んだ時の20代後半の姿のままです。
「クオン、俺も知ったのは先日なんだ。驚くのも無理もない」
レーヤの言葉にイリアが続きます。
「クオン……えっと、初めから説明しますね!」
そして警戒するクオンをよそに、イリアは話し始めました。
「50年前、私はあなたに看取られ、そのまま死んだ……と自分でも思ってました。
でも、心の中ではあなたを残して死にたくない……とも思ってました。
そんな時に、声が聞こえたのです」
「……妖精か」
クオンは少し意地悪く言いました。
「……そうです。」
「妖精は、死にたくないなら力を与えましょう、と言いました。
私はその言葉を朦朧とする意識の中聞いていると、身体に力が湧いてくるのを感じたんです。
そして、目を覚ますと私は聖剣使いになっていました」
「……君の遺体は葬儀の後、土葬したのだが」
「私が目を覚ましたのは埋められる前です。その……悪いとは思ったのですが、棺にはダミーを入れ、脱出しました」
「……」
「その後は、契約した妖精の言葉に従って''虹魅龍''ローラ先生とともに旅をしました。
ローラ先生も最初は驚いていましたが、すぐに私に、聖剣使いとしての戦い方を教えてくれました」
「初対面の君に付き合ってくれるほど、ローラ殿はお人好しじゃない。
契約した妖精は、以前も人に力を与えたものだったのではないか?」
少しキツすぎる物言いだと自分でも自覚しつつ、クオンはイリアに問いました。
『 そんなにイリアをいじめないでくださいまし〜。クオン。
ハヅキが聞いたらきっと怒りますよ〜』
その声の主はイリアではありませんでした。
いつの間にかイリアの肩にちょこんと座っている狐が、声の主でした。
クオンはその狐の姿を、師であるハヅキが使っていたことを思い出しました。
「かつて師匠と契約していた妖精か……!」
『 当たり〜『』
「なぜイリアを巻き込んだ!」
『 巻き込む〜?利害の一致と言ってほしいですね〜。
イリアは前から目をつけてたんですよ〜。
あなたを通して聖剣使いとは何たるかを知ってるし、
魔物に特別恨みがあるわけでもないからめんどくさくない〜。
それに、ハヅキみたいに途中から身体が妖精の力に耐えきれなくなって壊れるなんてことはなさそうでしたし〜。
むかつく魔物を狩ってもらうには適任だったんですよ〜』
「この……これだから妖精は!」
クオンは憤りました。
聖剣使いになった人間が死んだり身体が壊れた場合、契約した妖精は自由になります。
1度人間に力を与えた妖精は、自分達が住む場所を荒らす魔物を狩ってもらうことに味をしめて、
別の人間と契約することは珍しいことではありませんでした。
怒るクオンをよそに、イリアは言いました。
「クオン、私を想って怒ってくれてありがとうございます」
「あ……いや、その」
イリアの言葉を聞いて、どもるクオンを見た狐の妖精は、すぐに姿を消しました。
「私も最初は何が起こったのかわかりませんでした。だからこそ、1人前の聖剣使いになってから、もう一度あなたに会いたいと思ったのです。
私は今はフォカルア国の姫ではなく、
聖剣使い''白風狐''イリアです。」
「イリア……」
「私がどんな聖剣使いになったか、お見せします。だからクオン、私と専門譜面士試験を受けましょう!」
「?!……待て待て待て、なぜその話になる」
「クオン、俺がイリア殿とお前を会わせるためだけにお前を呼びつけたかと思うか?」
クオンは顔がひきつりました。
譜面士とは、譜面式を使うもののことです。
譜面式とは、魔物や妖精、聖剣使いに有効な力を行使できる術式です。
大昔からあり、ある程度は使われていましたが、80年ほど前からレーヤにより便利に効率よく使えるように解明され、
多くの人間や魔物、妖精、聖剣使いが使えるようになりました。
そのため譜面士試験は40年ほど前にできました。
「専門譜面士の資格を持っていないのは、聖剣使いでお前とイリア殿だけだ。
最近は無資格で譜面式を使う者の事件が増えている。
ただでさえ数が少なくなった聖剣使いには、自衛のためにも持っていてほしいんだ。」
汗をダラダラたらすクオンに、レーヤは続けました。
「専門譜面士の試験勉強は続けてるんだろ?
聖剣騎士団 譜面式取締役の俺からの頼み、聞いてほしいのだが。」
(いやでも俺、試験20回も落ちてるし……譜面式は''音階''と違いすぎて未だになれない……
さすがにこれで落ちたら立ち直れない……)
クオンの弱気な心情をよそに、イリアは元気よく話しかけます。
「クオン、一緒に頑張りましょうね!」
それはキラキラした笑顔でした。
クオンの大好きな、イリアの笑顔でした。
「うん……」
その笑顔を見たら、クオンは首を縦に振る以外できませんでした。
「な、なんとか合格できてよかった……!」
「本当におめでとうございますクオン。私も受かってよかったです!」
「ありがとう、イリア。それにしても、イリアはやっぱり凄いな。
人間だった時から俺よりも譜面式の扱いが上手だったが……」
「ありがとうございます、クオン。
クオンも攻撃と防御の使い方上手でしたね!」
「その2つは昔から使ってたし……最近の主流は捕縛とは聞いていたが、結構難しくなったものだな……」
今二人がいるのは専門譜面士最終試験の試験会場「バベル」でした。
ここは、魔物や妖精、人間が好き勝手に譜面式を置いておき、いつしか人間にとって害のある場所になってしまった塔です。
この場所の攻撃力ある譜面式を多く解除するのが最終合格条件でした。
今まで筆記試験かチームプレイ試験で落ちていたクオンにとっては、最終試験はかなり緊張しました。
今はクオンとイリアを含めた合格者達が、試験終了後に現れた聖剣騎士団団員の警備の元、「バベル」に捨てられた思い思いの譜面式を見ていました。
「頑張った甲斐はありましたね。バベルの中にはこんな美しい譜面式もあるなんて。」
「そうだな悪い譜面式ばかりではない……
な……」
クオンの目がとらえたのは、六角形の形をとった譜面式でした。
そこはスーガンの様々な景色を映し出すものでした。
イリアはクオンと視線を同じくします。
「わぁ、綺麗な夕焼けですね。」
「あれは……俺の故郷のスーガンの景色だな。」
このスーガンの夕焼けは、父も、アルも好きだったな、とクオンは思い出していました。
「そうなんですね……初めて、故郷の話をしてくれましたね」
クオンはハッとしました。
まだイリアが人間だった時に一緒にいた頃は、クオンは自分のことをほとんど話さなかったのです。
ここ30年くらいで、カーディンから渡されたアルの制作ノートをきっかけに、
やっと人間だったころの自分のことや、その後のアルとのことを受け入れられるようになったのでした。
「イリア……」
申し訳ない気持ちになっているクオンに、イリアはクオンの方へ顔を向けて言いました。
「私、突然聖剣使いになった時、最初はあなたにもう一度会いたい一心でローラ先生の厳しい修行を受けてました。
でも、どうしても剣術がうまくできなくて……悔しくて、情けなくて。
そんな時、苦手な譜面式に四苦八苦しながらも頑張って勉強するあなたを思い出して、クオンも頑張ってるんだから私も頑張らなきゃ!って思って頑張れたんです。」
クオンは昔から譜面式が苦手で、
イリアが人間だった頃は、
時にはイリアにも譜面式を教えてもらっていました。
イリアは続けます。
「私、まだまだ剣術も上手くなくて、聖剣使いとしてもまだまだですけど……
今のクオンのこと、もっと知りたいんです。愛してるんです。
だから……またあなたの隣にいるつもりです。
よろしくお願いします。」
改めてそう宣言し、ぺこりとお辞儀をするイリアに、クオンは胸が熱くなりました。
「ありがとう、イリア。
俺も譜面式はまだまだだから、また昔のように教えてくれ。
それから……俺は、今までもこれからも、ずっとイリアを愛してる。
これからもよろしくな。」
照れくさそうに言ってお辞儀をするクオンに、イリアは顔が赤くなりました。
そうして赤面した二人は、顔を見合わせ笑いました。
そんな二人を、
スーガン国の景色を映し出す六角形は祝福するかのように、
美しい景色を写し続けました。
あくまでこのシリーズのお話の主軸は、もうこの世にはいないアルと、アルからもらったものを大事にしているクオンの話です。
ただ、クオンはイリアよりアルの比重多くね?とならないよう努力していきたいです。




