今どきの若者の願いを知ってジェネレーションギャップを感じた件
我はコウメ。
とある事情であの世に来て、
この先の旅路のパートナーを待つ間、
保険会社の事務バイトで時間を潰しつつ
路銀を稼いでいる。
仕事は、営業日報のデジタル化。
さっそく一件目に手をつけた。
⸻
「願い事 1億円欲しい」
契約に至らず。
願い事としては定番なのかな。
過ぎたお金は、逆に不幸を呼ぶ気がするけど。
そういえば、あの人もお金のことは気にしていた。
気にしすぎて、よく溜息をつくから――
「洗った服を着てる。
ご飯も食べてる。
寝る場所もある。
これが安定してるなら、それで十分!」
そんなふうに、喝を入れたことがあった。
するとあの人は、
「それもそうだね。じゃあ、頑張って仕事する」
なんて、苦笑いしていた。
……でも一般的には、
お金はあった方がいいのかもしれない。
とりあえず、
データのインプットはエラーなく完了した。
⸻
次の日報を手に取る。
「願い事 ハーレム欲しい」
契約に至らず。
ハーレム?
聞き慣れない言葉だったので、ググってみた。
「……なんてハレンチな!」
でも、若い男の子なら普通なのかな。
そういえば恋愛ドラマを観ていたとき、
あの人に
「浮気は許さないからね」
と言ったことがある。
すると彼は、
「奥さん一人でも大変なのに、
二人も三人も相手するなんて無理だよ。
精神的にも、時間的にも、
もちろん金銭的にも」
そう言っていた。
そのときは笑って終わったけれど、
精神的、時間的、金銭的に余裕があれば、
浮気するのかしら?
今度会ったら、聞いてみなくちゃ。
とりあえず、
データのインプットはエラーなく完了した。
⸻
次の日報を手に取る。
「願い事 世界一の頭脳」
契約に至らず。
……あら。
これは、どうして契約しなかったの?
ああ、なるほど。
限界を超えると、上書きされるのね。
それは、ちょっと不便だわ。
そういえば、あの人も言っていた。
三十年以上、同じ会社で働いていると、
転勤のたびに同僚が増えていく。
「久しぶり」なんて声を掛けられても、
顔は分かるのに名前が出てこない。
名前を聞いても、
どこで一緒に仕事をしたのか思い出せない。
脳みそにも、限界ってあるんだよね。
そう言って、
あの人は苦笑いしていた。
その顔は、
昨日のことみたいに思い出せる。
とりあえず、
データのインプットはエラーなく完了した。
⸻
今日の仕事は、これで終了。
賃金は定額プラス歩合制。
前借りしたバイト代を差し引くと、
ちょっと悲しくなる金額だった。
でも、我にはたっぷり時間がある。
しっかり働いて、
路銀を稼ごう。




