カズサからのお願い
まぁ失敗フラグは立った気がするが(実はこれ本家はほぼ失敗していないんだけど)、聞いて損があるわけはないのでコメント欄に注視していい案のコメント主の発言を見逃さないように目をこらす。まぁ見逃しても皆のコメント見れば発言があったのはわかるので、遡ればいいんだけど。
俺が待ち状態に入ったのを感じ取ったかコメント欄の他のリスナーも「おうはやくしろよ」とかそんな先ほどの発言主をせかすコメントがガリガリ流れている。
これむしろ発言しにくいのでは? と思って眺めていたら、ちゃんと先ほどのコメント主が発言しているのが目に入った。
『カメラだよ』
すっごい簡潔だった。
と思ったらほんの少し間をおいて、長文コメントが投稿される。
『今こうやってカズサちゃんを映しているカメラって基本的にカズサちゃんを追随しているけど、場所に固定できるだろ? ほら、トイレに行くときみたいにさ。だからカメラを固定して監視すればいいんじゃないかな? 相手が魔術を感知できても、このカメラは感知できないんじゃないかな?』
──。
最初の発言でフラグを立てていたのであまり期待はしなかったのだが、思ったよりもまともな意見だった。そしてこれは、一考の価値があるかもしれない。
……なんかこっちに来てからこのカメラは当然身の回りにある物で、基本的に自分を映すものとして扱ってたから発想としてでてこなかったんだけど。
魔術を使用しているという事の感知は、そういった魔術を使わなくてもその使われている場所に居れば熟練の術者ならわかるらしい。ってのは図書館の本に書いてあった。
だが、このカメラは誰にも気づかれたことがない。相手に直接あたっても全く反応されないのだ。(ちなみにぶつかった場合押しのけられるようにカメラが移動する。相手を貫通しなくてよかったと思う。体の中とか映しちゃったらグロ画像だ)
そして何も考えずに使ってたけど、最近頻繁に俺の側にいるテイルさんやそれなりの術者であるハズのストラダ夫妻、そして明らかに実力者であろうアキラさんもカメラには一切反応しなかった。
という事はこの謎カメラ、こっちの魔術による物とは全く別物である可能性が高い。実際ずっと出しっぱなしにしても別に体力消費している感じがしないし。
そして直接的な気配に関しても、当然ないだろう。
これ、割とありな案じゃないか……?
『だがその手段には重大な欠陥があるぞ、同志よ』
俺の頭がカメラ使用案を採用に傾いていると、そんなコメントが流れた。
え。欠陥? しかも重大って……一体何が、
『監視中カズサちゃんが見れないんだぞ。しかも今の時間帯のままだとちょうど大抵の人間の帰宅時間だ』
……
えっ、それだけ?
『うわああああああああ死ぬぅ!』
『帰宅してカズサちゃんにただいまを言うのだけを心の支えにして仕事してるのにぃぃぃ』
『5時間くらい延々と路地が映されてるっての割と謎映像だよね。定点カメラかな?』
『初見とか何もしらずに見に来た奴困惑しそう』
あーいや、確かに問題か。ウチの配信の一番の売りが"大体どの時間に見に来ても俺が映っている"だからなー。トイレとか風呂とかの時以外は概ね映っているか何かしら喋ってるし、寝る時も映しているから席を外したとしても最長は1時間くらいだろう。
今回は対象が姿を現さなければ最長で6時間あまり、しかも他の人たちがいるからコメント欄にも反応できない。カメラはレンズを固定しても操作できる端末?のようなものは俺の手元にあるから音声とかは入るけど勿論常時喋ってるわけじゃないしリスナー向けに喋れるわけじゃないので、その結果数時間黒い路地の映像に偶に雑談の声が入るという謎映像が流れ続ける事になる。
うん、完全に初見バイバイだよね。
そう考えれば、確かに選びにくい選択肢ではあるんだけど……
「カメラ案、採用しようか」
そう皆に告げると、コメント欄が『えーっ?』というコメント欄で溢れかえる。まぁ先ほどの流れだと否定的な方向に向かっていたので当然だ。だけど、
「今の状態をだらだら続けるよりも、一度試してみた方がいいと思うんだ」
カメラ案、グウェンさん達にどう説明するかという問題はあるけど、それ以外には大きなデメリットがない。何か物を用意する必要もないし、例え結局標的が現れなかったとしても特に問題があるわけじゃない。出現するまで毎日やる、というわけにはいかないが、少なくとも一度チャレンジした方がいいだろう。皆は俺が映ってるだけでもいいっていってくれてるけど、そういうのはコア層のリスナーだけでライト層のリスナーや初見勢だとほぼ固定で部屋内を映しているだけで何の反応もしめさない配信者は微妙過ぎるだろう。一度引き受けた以上途中離脱はできないし、打てる手は打った方がいい。
「ただ、そうするにあたって皆にお願いがあるんだよね」
『お願い?』
『任せて! 何すればいいのかな?』
『なんや、おじちゃんにいうてみい(すっとクレカを取り出す)』
いや、スパチャが欲しいわけじゃなくて。欲しくないわけじゃないけど、今求めているのはそれじゃない。
「申し訳ないんだけど、映像のチェックを頼みたいんだよね。多分俺一人じゃ見落とすから」
感知魔法は対象が範囲に入ると術者は即気づけるらしいんだけど、目視の監視だと一人で見てたら確実に見落とす自信がある。
今この時間帯は視聴者は少なめだけど(しばらくは今の状態と伝えてはあるので)それでも数千の視聴者がいる。その中の数十分の一だけでも見ていてくれれば、見落とす可能性はかなり減るハズ。
「どう、かな? 協力してくれたら、お礼に後で出来る範囲でお願いは聞こうと思ってるけど」
カメラを掴むとちょっとこちらに引き寄せて、最近RPでやってて覚えた(というか覚えてしまった)あざとい仕草の上目遣いでそうお願いしてみる。
尚出来る範囲で聞くお願いは別に普段からやってるので特にリスナーにはメリットがないが、こういうのは言われると違うだろう。うん、大分俺も適応して擦れてきたな?
えてして、反応は?
『ヂュッ』
『任せて!』
『有給取って対応します』
『カズサちゃんも俺達の手玉の取り方をどんどん理解してきて嬉しいよ』
『あざとい、実にあざとい』
うん、一部の人には完全に感づかれてますね? まぁ協力してもらえるのは助かる。あとリアル生活には影響しない程度で大丈夫だかんね? 俺もちゃんと見るので。
『しかしこれは楽しみだぜ』
『お願いするの考えておかないと』
『カズサちゃんが何でもしてくれるって、これはもうワクワクが止まらない!』
いや何でもするとは一言もいってないからな?




