ひとまずの安堵
「あー、すっきりした」
汗で結構べたべたになっていた体を濡れた布で拭った俺は、ジャケット以外を身に着けなおすとベッドに身を投げ出した。正直ちょっと固いけど、それでも疲れた体をきちんと受け止めてくれる。
本当は服……いや、最低限下着は変えたいんだけど、今の俺は着替えは一切持っていないので仕方ない。
今日はもう外に出ないから下着はつけなくてもいいかな、とも思ったけどまだ配信続けてるからな……へんな事故が怖いので一応つけておくことにした。
「よっ……と」
体を拭いている最中自分の姿が映らないように窓の外に向けていたカメラを、固定を解除して自分の方へ向けなおす。
『あ、よーやくカズサさん映った』
『どうしてカメラを他所に向けたんですか?』
「体拭くからだよ」
『なんで拭く姿を映さないんですか?』
がっつり脱いでたからだよ。
『というか、映像無しで衣擦れの音だけとか聞こえていると逆にドキドキしてくるんですが』
「冷静になれ。中身は俺だぞ? アバターの時にそんな反応見せなかっただろ、お前ら」
『あー、それだけど、カズサさんの見た目が変わった影響が大きいかも』
『わかるわかる』
「ん? どういうこと?」
俺の外見は確かに現実よりにちょっと変わっているものの、元のアバターがリアル傾向だったのもあって、そこまで大きく印象変わった感じはしてないんだけど。
『なんというかさ、自然な感じというか』
『アバターの時にはなかった自然な動きや表情の変化があるよな』
『後肉感というか、血が巡っているって感じがすごい。わかる?』
「……要約して言うと?」
『エロい』
「おい待てこら」
『冗談です。生きている感じがするってのが正しいかな』
『ああ、わかるわかる。そんな感じ』
『生命を感じるよな』
「成程?」
確かに。そう思い俺は自分の顔の前に手のひらを翳した。
アバターの無機質ではない、息づいている事を感じる肌。皮膚の向こう側にはうっすらと血管も見える。今の俺の体は間違いなく生きているものだ。ご飯も食べれるし、汗もかくし、排泄もするしな。データで構築されただけのアバターだったこの体がなんで生身になってるなんていうのは謎もいいところだけども、それを言い出したら今俺がこんな場所で寝ていること自体が謎だ。
『きれいなおてて』
『おい、おてて民がいるぞ』
おてて民とは?
まぁ謎の発言はおいておいて
「んで、その変化のせいで俺の事を見る目が変わっていると」
『Exactly』
『ぶっちゃけ生きた女の子にしか見えんしね』
『声も可愛くなっちゃったしなぁ。もはや男要素が無い』
『カズサさん顔出し配信もしてなかったしな』
あー、それも大きいか。配信は基本音声だけかアバター使ってたからな。
それで今は外見も音声も女そのものなんだから、そういう見方になるのもしょうがないか。
──どう見られていても、さして気にすることでもないけどな。
これで連中が目の前にいるんだったらいろいろ身の危険やらセクハラを感じたかもしれないが、よくも悪くも俺たちは配信でしかつながってないので。どうあがいたって直接何かすることはできない。まぁこの連中そもそもそんな奴等でもないと思うけど。
コメントで言われるくらいなら、別にどうだっていい……と思う。多分。言われてみないとわからないところもあるけど。ただ、
「あー、まー、好きに見てくれ。変に女らしくしろとか押し付けてこなきゃどう見られたってかまわないし」
配信者をどう見るかは視聴者の自由だ。自分のイメージをこっちに押し付けてこなければな。
『つまりカズサちゃんと呼んでもいいってこと?』
「ちゃん……好きにしてくれ」
『こういう事して欲しいとかは駄目って事?(クレカを取り出しながら)』
「ぐっ……内容による」
『くくく……楽しくなってきたずぇ』
『悪い笑い方をしておる』
『生活費のために身売りするカズサさんカワイソス』
「身売り扱いするな」