護衛予約
「あー、信じてないねー?」
そんな明らかに疑っているととれる反応を見せてしまった俺に対して、テイルさんは頬を膨らませ──と思ったら、その表情はすぐに苦笑いに変わり、同時に肩を竦めた。
「なーんてね。ま、よく言われるんだけどね、それ」
いいながら彼女は軽くジャブを打つような動きを見せた。
「でも本当なんだなー」
「えっと……ごめんなさい。というか格闘系なの?」
「そだよ。近接系でーす」
言われて俺は彼女の体を見る。
今は肌を隠す寝間着を着ているが、風呂場で見た──いやだからそこは具体的に思い出すな! とにかく格闘家のような体ではなかった……などと思ったところで、俺は思い出す。
そうだわ、ここファンタジー世界だったわ。
外見に関わらない力がそこらで飛び交っている世界ではある。ということは、だ。
「もしかして、身体強化系?」
「そそ、そっち系の魔術が得意分野なんだよボク」
成程、と納得する。
自分も<<ハイスピード>>を覚えているが、初歩的な身体強化魔術と言えるあの術一つとっても普通の自分の体なら明らかに無理な速度が出せたし、強化呪文は当然攻撃力や防御力を上げるような術もある。そういった力を駆使すれば、彼女のような体躯でも充分格闘戦は可能になるのだろう。
……しかしこの若さで、そういった術を実戦形式で使えてるってことは、彼女滅茶苦茶優秀なのでは? それとも、こっちの世界ではこれくらいの年齢で術を使いこなすのはそう珍しくないのだろうか? チンピラあっさり駆逐しちゃったアキラさんも全然若かったしな……
俺の表情が疑念から感心に変わった事に、気づいたのだろう。テイルさんの表情が自慢げなものに変わっていた。
『ドヤ顔かわいいね……』
そうだね。
彼女は表情がころっころ変わるのでとても可愛らしい。元の姿でこうして一緒にベッドに座ってたらドキドキどころじゃすまなかったろうなぁ……さすがにこの姿になってこれだけたっていれば、風呂場みたいな格好ならともかく今みたいに露出の少ない格好ならそういった感情は湧いてこない。当然そういう空気にもならないしね。
それにしても、ダンジョン潜ってるのかぁ。
『彼女の実力がどれほどかわからないけど、ダンジョン行くときパーティとか組んでくれたりしないかね』
『カズサちゃん一人で行くのは危なすぎるしねぇ』
確かに。
俺がダンジョンに行くのは<<ポイントテレポート>>と<<ディスインテグレイト>>を覚えた後にするから緊急避難はできるけど、なにせ俺は謎チート能力で様々な能力を使えるものの、それを除けば平和な日本で危険にさらされることなく生きて来たただの人間だ。突然襲われたりなんかしたら絶対に反応しきれない自信がある。なので考えてみれば確かに同行者は欲しいところだ。
とはいえ、戦力として余りあてにならない、むしろ足手まといになる可能性が高い俺とパーティを組む、とは行かないだろう。
──あー、でも。
俺は一つ思い立ち、ぽりぽりと焼き菓子をかじっているテイルさんに聞いてみた。
「テイルさんてさ、依頼とかも受けてたりするの?」
「うん? まぁたまにだけど受けてるかな?」
「そしたら、私がダンジョン行くときに護衛頼んだりしたら受けて貰えたりする?」
「? ダンジョン行きたいの?」
彼女の問いに頷く。
パーティ組んでくれは正直彼女に対してメリットがなさ過ぎて言い出せないけど、護衛なら? と思ったのだ。<<ディスインテグレイト>>と<<テレポート>><<ポイントテレポート>>でどこまでやれるかわからないので、毎回は無理にしても初回……できれば数回は護衛をしてくれる相手が欲しい。
そしてその護衛だけど、正直今は男ばかりのパーティは避けたい。その点テイルさんは女の子だし、しかも同じアパートメントの住人だ。現状こっちの世界の人間関係が薄い俺にとっては、かなり信用できる部類の相手になるだろう。実力の面は今の所どの程度かはわからないけど……
そんな思いもあって、ダメ元で言ってみた俺の言葉に彼女はしばし考え込んで、
「目的聞いていい? ダンジョンって、基本的には探索者ギルド登録者じゃないと連れていけないんだけど……」
「あ、探索者ギルドは登録してあります」
「!! そうなんだ! って事はカズサちゃんも戦えるんだ?」
「あ、いえ……」
それから俺は彼女に対してもろもろを説明した。現状のギルド登録は身分証明の為、だがいくつかの魔術は使えて今は<<ディスインテグレイト>>を習得に向けて学習中(ポイント貯めてるとはいえないので……)等だ。
その話を聞いて、彼女からは
「うん、そう言う事ならいいよ!」
とまさかのOKが出た。
「てか、<<ディスインテグレイト>>に<<ピュリファイ・スピリット>>の適性両方持ってるってすごいね、どっちも超レア適性じゃん!」
「あはは、なんかめちゃくちゃ引きが良かったようで……」
続けて放たれたテイルさんの言葉に対しては、思わずカラ笑いを含んだ答えになってしまった。すべての能力が獲得可能ですなんて間違ってもいえないよなぁ……話広まったら変な組織とかに目を付けられそうだし。
『これでパーティメンバーゲットだぜ!』
『臨時だし有料の護衛だけどな』
『美少女二人のダンジョン探索配信。これはバズる』
『薄暗いダンジョン、美少女二人、数々のピンチを超えた後に野営で焚火に照らされる二人、何も起きないわけもなく……』
いや何も起きねえよ。そういう観点で見てないし、何より何千人に見られているのわかってて事は起こさないっつーの。当チャンネルは下ネタとかが出るけど基本的には清廉潔白な配信チャンネルです。
「あー、でも一応相方には確認取らせてね。面倒見のいい人だから多分駄目とはいわないと思うけど」
「あ、相方いるんですね?」
「うん」
『まさかの美少女3人パーティー?』
『いや、二人とは限らん』
『これは俺達まさかのハーレムパーティー気分が味わえるのでは?』
「……相方さんは女性なんですか?」
「ううん、男だよー。えっと、30過ぎのおじさんなんだけど大丈夫?」
「あ、大丈夫です」
言い方からして、相方はその一人だけか。俺としては。男女比率がすごく男性に偏るとかじゃなければ問題ないけど……
『まさかの彼氏持ちー!』
『しかもおっさん趣味かよ!』
『夢が……俺たちの夢が』
『こんな可愛い子を男がほっとくわけないだろ。大体彼氏無しとか言ってる女性配信者も大部分は』
『おいやめろ』
いやお前ら彼女は配信者でもないし、ある意味単なる通りすがり的な女の子ですよ? そんな相手に何求めてるの? そもそも相方が男性だって言っただけで彼氏扱いするのはさすがに先走りすぎだろう。
『嘆くな皆の衆、俺らにはカズサちゃんがいるじゃないか』
『そうだぞ、カズサちゃんは永遠のフリーだぞ』
『一生カズサちゃん推すね……』
彼氏無しは当然だからいいけど永遠のフリーという言い方はやめろ。俺を生涯独り者確定させるんじゃない。元の姿に戻って彼女出来る可能性はあるだろ。
その後、引き続き荒ぶるコメント欄は無視してテイルさんと詰めた結果、こちらとしても急ぎではないし今度相方さんと話して依頼料とか決めておいてくれるとのことだった。ありがたい。
後はその分の予算も稼いでおかなくちゃなー。




