全裸エンカウント
これは後から思ったことだが、咄嗟の反応でカメラを背けられたんだからそのまま俺は扉に背を向けておくべきだった。
「あ、ごめん、先客がいたんだ!」
なのに、背後から声を掛けられた事により、俺は思わず反射的に振り返ってしまった。
その結果──
視界に飛び込んできたのは一面の肌色だった。
俺……というかカズサのベースとなったアバターはかなり色白だ。これはVRCの傾向で、3Dアバターって現実に比べると色白が大部分なんだよね。勿論、現実の日本人に近い肌の色や褐色アバターもいるけど。
んで俺の姿はそれがベースになっているので黒髪の日本人らしい風貌に関わらずめっちゃ色白なんだけど、それに対して目の前に現れた肌色は日本人としてよく見る黄色人種系の色だった。そしてその肌色は腕や足の先の方は色濃く、ある場所から薄くなっている。恐らく日焼けだろう。そしてその薄くなっている場所の中心部にはピンク色の、
「うわぁっ!?」
それが何かに気づいた瞬間、俺は慌てて視線を逸らしていた。
てかあぶねぇ! カメラ逸らしてなかったらBAN確定だったじゃねぇか! よく咄嗟に反応した、俺偉い!
『え、なになに』
『突然視界が木目一色に……』
『カズサちゃんどうしたの? 大丈夫?』
『なんかカズサちゃん以外の女の声が聞こえたけど』
『女の子の声……風呂場……カズサちゃんちょっとカメラ前に向けて!』
勘の良い奴が何がおきたか気づいたみたいだけど、見せれるかあほぅ! こっちはギリギリ死亡回避したのと、想定外の状況で胸がばっくばっくしてるというに。
そんな俺の様子に特に気づく様子もなく、肌色の主はあっけらかんとした感じで俺に声を掛けてきた。
「いやぁ、ごめんごめん。この時間にここ使う人いないからさ、誰もいないと思い込んじゃってたよ……ところでなんで顔背けてるの?」
『え、顔背けてるのカズサちゃん』
『ってことはやっぱり今ここにはぱらいその光景が……』
『見せて欲しいけど、見ると二度とカズサちゃんに逢えなくなってしまうジレンマ』
『てかなんで顔背けてんの?』
『自分の体で見慣れてるでしょ、オパーイとか』
『完全に童貞の反応では?』
あー、うるさいうるさい!
確かに、そういったものは比較的見慣れている。下はともかく上は洗ってるとき普通に視界に入るし……この姿になった直後ならともかく、一か月以上視界に入れてるし感触も知っているとなればそこまで裸体で興奮することはない──んだけど。
意識はきっちり男のままだから、見ちゃいけないって感覚が強い! しかもここまではいせ……じゃなくて同性の裸を見る機会なんてなかったから猶更!(温泉のアキラさんは湯着きてたし、着替えは見てない)
なんというか女装して痴漢行為を働いているような罪悪感を感じるんだよ、勿論そんな事はしたことないけど!
しかも、その相手が幼い感じがする子だから猶更!
全裸にタオルだけひっかけて現れた少女(水浴びをするんだろうから当然だけど)は、一度だけ顔を合せた相手だった。ここにいるんだから当たり前なんだけど、このアパートメントの住人。
テイル・リーセ。ちゃんと年齢は聞いてないけど間違いなく年下。多分15歳前後でしかないハズ。その彼女は怪訝そうな感じでこちらを見ている。俺は視線を合わせられない。
確かに、今の俺は同性でしかないのでいくら全裸の少女が正面にたっているからって顔を背けているのは不自然。いや、割り切って正面から見ちゃえばいいんだけど……やっぱだめ、相手は中身が男だって知らないし中学生か高校生くらいの年齢にしかみえないからチラ見ならともかく真正面からがっつり見るのは罪悪感がすごい!
ええっと、何かいい言い訳方法は……そうだ!
「じ、実は私の故郷では同性でもこうやって一糸まとわずの姿を見せるような事はなくて、その、恥ずかしくて……」
『ものすごい口から出まかせで草』
『でも若干どもっちゃってるの可愛い』
『見える、見えるぞ! 顔を赤くしてテレ顔で言っている姿が俺には見える!』
うるせぇ、今いっぱいいっぱいなんだからやめろ!
「へぇ、そうなんだ。それは驚かせちゃってごめんね」
本当に咄嗟に思い付いただけの突拍子もない言い訳だったが、リーセさんは納得してくれたらしい。これで大丈夫かな、と首にかけていたタオルをずらして胸元を隠してくれた。いや、それだと下は丸出しですけどね! 出来るだけ上の方を見るようにしよう……
てかこの言い訳、せっかくだしアパートメントの住人には周知しておいた方がいいな。見ちゃって不味いというより配信事故の防止として。
まぁそれは後でベルダさんにでもお願いしよう。とりあえず今の状況を進めるのが先だ。
彼女はすでに脱いでしまっているし、ここは先を譲るしかないよな……そう思って口を開こうとしたら、その前に先にリーセさんが口を開いた。
「うーん、しかし先客がいたのかー。仕方ない、ボクは出直し……」
頭をポリポリと掻きながら、踵を返そうとしたリーセさん。だがその動きが途中で止まった。その視線を俺の背後に向けて。
えっと……?
『ボクっ娘だと……?』
いや、やかましい。




