旅の途中の立ち寄り
そんなこんなで日が過ぎて。
浄霊可能な術士も到着し、俺の不労所得生活も終了。当初の予定通り、この世界に来てからずっと生活していたグリッドの街から俺は旅立つ事になった。
期間にして大体3週間くらいか? 結構な期間の滞在になったものだと思う。
出発の前日には宿の女将さん主催でお別れ会をしてくれたりもして、情けない事に少しほろりとした。女将さんにはいろいろ世話にもなったからね。またこの街に来ることがあればこの宿に泊まりたいと思う。安いし。
そして俺は、グリッドの街から旅立ったのだ。
まぁ以前もお話しした通り、この世界の街道沿いはさして危険がない。怪物等がいないわけではないらしいが、出現すればきちんと討伐されており街道の近くでは見かける事すら殆どないのだ。
実際その行程はのどかなものだった。馬車から見る光景はのどかな景色とすれ違う旅人達だけ。たまに遠くの方でのんびり過ごしている生き物が見えたけど。こっちの世界、馬とか牛とか良く知っている動物の他にまるっきり見たこともない動物がいるから、魔物なのか普通の動物なのか判断しづらいんだよな。まぁ御者とか相乗りになった他の客とかは特に気にしていないようだったので害のない生物なのは間違いないだろう。
異世界ファンタジーの旅なのに、本当にトラブルもなくのんびりしたものだ。問題があったとしたら、尻と腰が痛いくらい? 街道はきちんと整備されてるもののアスファルトほどきっちり凹凸が整備されているわけでもないし、乗っているのは馬車だ。当然自動車ほど乗り心地がいいわけないので、ダメージがきました。若い体だからすぐ回復しましたけどね?
しかしここまで穏やかだと、ちょっとしたイベントが起きないかな? なんて悪い考えももたげて来ちゃうな。なにせ今も4桁の視聴者がいるわけで。ちょっと申し訳ないというか。
まぁそんな思いが理由ではないけど。旅を始めて4日目の事。俺はこれまでの移動だけの日程とはちょっと異なる予定を立てていた。
ここまでの三日間は街と街の間の距離があったのでずっと馬車を使ってきたけど、この辺りからは街と街の間が近くなる。なので今日は前半は馬車で、後半の移動は徒歩と決めていた。
そして、今俺は目的地目指して歩いていた。街道ではないところを。
『カズサちゃん、やっぱりやめた方が良くない?』
「危なそうなら即逃げるから大丈夫だって」
流れるコメントにそう返しながら、俺は主街道ほどは整備されていない道を進んでいく。
周囲には、疎らに並び立つ背の高い樹木。道のすぐ横には穏やかなせせらぎの音を奏でる底の浅い川が流れている。
今俺が目指しているのは、次の街ではない。いや今日の最終目的地は次の街で間違いないんだけど、今はちょっとだけ寄り道中。
というのも、前の街で街道沿いからちょっと離れたところに、あるものがあると聞いたからである。
そのあるものというのは──温泉だ。
そう、温泉である!
今移動中の場所は少し北の方に山岳地帯があり、その中には火山もあるらしい。その影響だろう、この地域は幾つか温泉が湧いている所があるらしい。
そして今回の移動中の所に、誰でも利用可能な露店風呂があるそうなのだ!
更に北の方に行けば温泉を観光資源にしている街があるらしいが……金銭的な事情で風呂ありの高級宿を避けている俺にそこまでの余裕はない。今は確かに現金の手持ちが結構あるけど、パストラの街でいろいろ生活の為の準備するのにいろいろ出費が見込まれるので、無駄遣いする余裕はないのだ。
そこに温泉の話である。街道のすぐ側というわけでもないが、逸れて30分程かからない所にあるとの事。となるとせいぜい2km前後なわけで、その程度の距離ならもし何かに遭遇してしまっても、<<テレポート>>+<<ハイスピード>>ですぐに主街道まで逃げれるハズだ。そして主街道に行けばそこそこの交通量があるので助けを求められる。完全露天だから風呂入っててもすぐに<<テレポート>>で離脱できるしな。
勿論全裸で逃げる訳じゃないぞ。こっちの世界では露天の風呂に入る時は湯着を切るのが基本らしいので、逃げる時もある程度ならそのまま逃げれる。まぁあまり人前に出る恰好じゃないけど、破廉恥という格好でもないので大丈夫だろう。というかそういうの着なきゃさすがに俺も混浴の露天に入る気はしないよ。思いっきりみられるだろうし。
そもそも、現地に辿り着いて入っているのが男だけだったらさすがに諦めて引き上げるつもりである。心が男とはいえ体は女なので、獣がたむろっている中に入って行くほど身の程知らずではない。
でもなー! そうでなければ風呂に、入りたいんだよ、俺は!
だって、こっちに来てからもう少しで一か月だよ? その間風呂に入ってないんだよ? 毎日風呂に入るのが当然となっている日本人の俺にとって、これは相当きつい。チャンスがあれば入りたい気持ち、わかってくれるだろう? 皆には危ないって言われたけど、さっき言った通りちゃんと対策も考えているので許して欲しい。
やがて、道の先から更に外れたところに、一つの小屋が見えて来た。そしてその側にはもうもうと上がる湯気。その場には──人影は一つもなかった。
ラッキー!




