頼れよ、俺達を
あー、なんで気づいちゃったかなー、もー!
気づかなければ、ただ逃げまどう一般市民の一人でいられたのに。
この術を覚えれば、この場を何とかできちゃうじゃないか。そう思って俺はその習得に必要なMPを確認し……一気に力が抜けるのを感じた。
200000MP。
に、にじゅうまん……
自分の現在MPを確認する。ここ最近で結構な額を投げて貰えたけど、エリクサー症候群患者の傾向がある俺はなかなか術の取得に踏ん切りがつかず、いまだ新しい能力を取得せずにもらったMPは生活費以外は使わずに残していた。そのお陰でがっつりMPは残っているけど、それでも11万ちょっと……全然足りない。
一瞬もしかしたら目の前の惨状をなんとかできるのではないか、そんな事を考えてしまったからこそどっと体が重くなる。
世界を救えと神様辺りに言われたわけでもない俺には、この状況を解決する義務はない。
俺に英雄になりたいなんていう願望はない。
だけど。
もしかしたら助けれるかもしれない力が取得出来ていたかもしれない。
もう少し頑張って配信してスパチャを集めていれば、20万に届いていたかもしれない。
かもしれない、かもしれないだ。
別に自分に責任がないのなんてのはわかってる。そこまでうぬぼれてなんていない。それでも、なんとかできる可能性が存在していたことに俺は気づいてしまった。
これが普通の怪物だったらむしろ俺は真っ先に逃げ出している。この世界の住人歴がようやく二桁日数に達した程度の俺よりも、上手く対処ができる人間は他にいるだろうから。
でも、今のこの状況は、もしかしたらこの街でなんとかできるのは俺だけしかしない可能性があった。
──俺は小市民だ、
もっと明らかに無理な数字だったらそんなことは思わなかった。現実的に届き得たかもしれない数値が俺の心をグサリと突き刺す。何とかできた可能性があったかもしれないのに。これまでの行動が理由で、もっとうまく立ち回っていたら──
『【50000円】』
「え?」
視界の端。コメント欄に赤いものが流れて、無意味な思考の溝にはまりかけていた意識が浮上する。
視線をあげれば、赤い何かはスパチャだった。50000円──設定できる最高額の投げ銭が急に投入されたのだ。
「え、なんで、このタイミングで」
『すげぇ、石油王か?』
『でも確かにこのタイミングは謎』
『謎でもなんでもない』
思わず漏れる言葉、突然の高額投げ銭に一気に盛り上がるコメント欄。そんな中、先ほど赤スパを投げたユーザーのコメントがある。
『推しがつらそうな顔しているのに、その手助けをしないって選択肢はないだろ』
「手助け、って……」
『そのスキル、覚えてなんとかしたいんだろ? 頼ってよ、俺達リスナーを』
「頼る……」
そのコメントを最後に、コメント欄が静まり帰る。俺はそのコメント欄をじっと見つめる。
リスナーには、今までだってずっと頼っている。
彼らにとっては、命の危険も何もない。この世界の住人を守る必要なんかどこにもない。
必要なのは金銭の負担だけ。だけどお金だ、されどお金だ。これまでだって結構長くを投げて貰っている。安易に投げてくれなんて頼めない、だけど。
俺はごくりと息をのむと、少し震える声で、でも精いっぱいの気持ちを込めて言った。
「今は、頼らせて、欲しいっ! 能力を取得して、この状況をなんとかするために20万MPがいるんだっ」
街を守らなきゃとか、そんな思いからの理由ではない。自分の心を守るためのエゴイズム。それを理解した上で、俺はカメラに向けて頭を下げた。
その瞬間、コメント欄が爆発した。
「任せろ!」や「よし来た!」という言葉。サムズアップや力こぶの絵文字。様々なAA。まとまりのないが意思の伝わるコメントと合わせて、10000や5000、3000とスパチャが乱れ飛ぶ。
瞬く間にMPは増加してゆき、そして<<ピュリファイ・スピリット>>のアイコンが有効になった瞬間、俺は習得ボタンを押していた。
前回残MP:112070
今回増減:
スパチャ +118000
<<ピュリファイ・スピリット>> -200000
残MP:30070




