怒声
当然スカートの裾は浮き上がる訳で。俺はそれに気づいた瞬間慌てて両手でスカートを抑えつけた。そしてその体勢のまま、前傾姿勢になってしまったので結果として上目遣いでカメラに視線を向ける。
「見えたか?」
『大丈夫、見えてない!』
『セーフだったよー』
『かがやく ふともも まででした』
『通報する?』
太腿は置いておいて、とりあえず下着までは見えなかったようだ。一安心して、安堵のため息を吐く。
『やっぱり、下着とか見られるの恥ずかしいんだ?』
「ん?」
『反応早かったもんな。やっぱり本当は元から女の子なんでしょ?』
「いやいや、今のは映ってBANされたらヤバいと思ったから咄嗟に隠しただけだよ」
まぁ以前の話で下着くらいならそうそうBANされることはないって話は聞いたけど。
それに咄嗟に反応が出来たのも、以前AOT達に恥じらいを持てって言われたから、出来るだけ普段からそういったことを意識しているからだ。別段本当に恥ずかしくて隠したわけじゃぁ……
……
あれ?
『どしたの?』
「いや……」
なんか改めて意識したら、普通に恥ずかしくなってきたような……
いやいや、冷静に考えたらパンツ見られたら誰だって恥ずかしいよな。なにせ今だって俺は900人近い人間に見られているわけで。
見られているわけで──
ああああああああああああああああああ!
900人に見られてるって意識しなおしたら、本格的に恥ずかしくなってきたんだが!?
「もう着替えていい!?」
『まだはやい』
『駄目に決まってますねぇ』
『今更恥ずかしくなっちゃったのかなぁ? 可愛いねぇ!』
うるせぇなぁ、そうだよ!
いや落ち着け、落ち着け。
思わず口にしてしまったが、せっかく作ったのにこれで着替えるのは確かにありえない。なんというか、とにかく好評なんだからこの格好は継続しないと。ただいつものロングスカートとは違うんだから、行動には気を付けて、と。
「すぅー……はぁー……」
落ち着くために、一つ深呼吸。コンセントレーション、コンセントレーション。
……よし!
落ち着いた。なんかコメント欄から顔も見えないのにニヤニヤしている波動を感じるけど、それは無視して雑談再開だ!
そう思った瞬間の事だった。
怒声が響いたのは。
声が響いたのは、窓の外からだった。すぐ側ではない、やや離れた位置から怒声と、それに悲鳴が聞こえている。
俺は雑談に移ろうとベッドに降ろそうとしていた腰を再び上げて、窓へと駆け寄った。
──外には、声の原因となるような光景は見えない。ただ、同じように声を聞きつけたであろう何人かの町人たちが、宿併設の食堂から飛び出してくるのが見えた。
何事だ?
よく聞き取れないが、怒声や悲鳴は最初の一回だけではなかった。今も断続的に聞こえてきている──これは街の入り口の方から聞こえてきてるのか?
俺の泊まっているこの宿は、街の入り口から近い位置にある。となると、街の入り口の辺りで何かトラブルが起きたのか?
最初は酔っ払いでも騒いでるのかと思ったが、聞こえてくる声はもっと切羽詰まった声に聞こえる。なんだろう、すでに10日程この街に滞在しているがこんな事はこれまで一度もなかった。
『何が起きてるの?』
「わからん……何かトラブルが起きているのは間違いないんだろうけど」
様子を見に行くのだろう、何人かが街の門の方へ向かっていくのが見える。俺もちょっと様子を見に行こうかとも思ったが、やめた。態々トラブルに巻き込まれにいく必要がない。
ただ、声が聞こえてくるのが入口の方で、更に悲鳴混じりというのがひどく気になった。街の入り口からこの宿までは100mちょっとしかない。これだけの騒ぎになっていると考えた時、浮かんできたのが魔物の襲撃だった。この近辺ではほぼ魔物は見られないらしいが、ゼロではない。逸れ魔物が襲撃して来た可能性がある。
……だったら、猶更ここでじっとしているべきだよな。




