コスプレ衣装と一方その頃
メイド、ナース服、セーラー服、ブレザー、婦警、チャイナ、CA、アオザイ──まぁこの辺はまだオーソドックス。それ以外にも、
レースクイーン……だからそっち系統は素材がないつったべ!
ゴスロリ……制服じゃないし、そもそも複雑なのはやめろといったんだが。
逆バニー……バニーガール……いや逆って何が逆なんだよ?
園児服……ふ・ざ・け・ん・な。
と、突っ込みどころ満載のリクエストも多かった。
これ以外にも、いくつも制服の種類が挙げられたけど……いや制服でもメジャーじゃなきゃ意味がないんだよ、俺が知らないマイナーな奴を上げてくるな! 特定地方にしかないレストランの制服とかしらないよ!
結局数分程討論……というか好きな制服を上げよう大会が続いた後、このまま放っておいても収拾がつかない気がしたので俺は上げられたものの中から一つを選択した。
「わかった、今回はセーラー服にする。いいよな?」
それなりの人数が上げていたし、それ以外にも上げられた中ではメリット……いや、デメリットが少ない衣装だからだ。
まず単純にデザインが楽だ。テクスチャ書きもそれほど難しくない。
それから、夏服にすれば全般的に布の数も少なくて済む。必要とする布の量に応じてMPがかかるので、少なくて済むならそれに越したことにない。
それにセーラー服なら、あまり派手さもない。多分あれを着ていてもそこまで目立たない気がする──ようするに普段着として使える。
以上の理由からそう提案すると、多少ブーブーと言っている奴はいたものの概ね了承が返って来た。
「オーケー。それじゃ、暇見てセーラー服作っておくよ。お披露目は……多分何日か後になるから、それまで待ってな?」
そう伝えると、コメント欄から喝采が飛んできた。お前らそんなにコスプレ好きか。セーラー服で喜ぶとか年齢層が高そうな気がするんだが?
◇◆
(第三者視点)
そんな感じでカズサが自分の新衣装を作り始めている頃。
グリッドの街の近郊……とはいえ徒歩であれば1~2日はゆうにかかる距離の森の中を、一人の女性が歩いていた。
ちゃんとした道があるとは言え、大きな街と街を結ぶ街道ではない。近隣の集落とグリッドの街を繋ぐ道ではあるが、そこを通る交通量はそれほど多くはなかった。
ましてや、娘が一人で歩くような場所ではない。いや、腕に覚えのある傭兵であれば違うだろうが……娘の姿はただの村娘の物だった。
そんな娘が、こんな見通しの悪い森の中の街道を歩くのは自殺行為だ。こんな所で襲われれば助けを求める事も出来ない。更には森の奥底に連れ去られ乱暴された上で殺され、埋められれば証拠も残らないだろう。
この世界、街道沿いの商隊を襲うような強盗団はそれほど存在しない。余程腕利きではない限りは国や街が編成した部隊に討伐されるし、商隊の雇う傭兵に返り討ちにされることもある。街の近くにない更に辺境に近い区域ならまだしも、辺境とはいえそれなりの規模があるグリッドの街の近郊をなわばりにするような"職業"強盗団は存在していなかった。
そう、"職業"にしている連中は、だ。
偶にいる少数の旅人を襲い小銭を稼ぐ、"副業"の強盗は存在している。
彼らは普段は何食わぬ顔で街や集落で暮らし、稀に森など人の目に付きにくい場所で警戒心の薄い旅人を襲う。現代世界ほどには人の所在を追跡しやすくない世界だ、旅の途中で姿を消しても気づかれないことは多い。森の土に返してしまえば証拠も残らない。
今、女を囲っているのは、そんな連中だった。
彼らは森の中で久々の獲物を前に舌なめずりしていた。
格好からして、金銭的な旨味は少ないだろう。だが若い女、快楽的な旨味はありそうだ。
男たちは森の中から姿を現す。前方から、後方から、逃げ道を塞ぐように下卑た笑みを浮かべて。
──きっと女は慌てて逃げようとするか、腰を抜かして座り込むだろう。恐怖に失禁するかもしれない。
男たちはそう考えていたが、女の反応は違った。
女は男たちが森の中から姿を現しても、歩みを止めなかった。
それだけじゃない。良く見ると歩き方も少々おかしかった。少々ふらついているように見える。
もしかして病気持ちか? と男達は舌打ちした。病気持ちでは、下手に犯したりしたら病気を移されるかもしれない。
仕方がない、小銭稼ぎだけにするか。嘆息して、今だ歩みを止めない女の動きを止めようと、一人の男が前に立った、その時だった。
ふらふらと歩いていた女の動きが、突然変わった。突然前の方に倒れこみそうになったかと思うと、次の瞬間には男の目の前に現れ、そして──獣のように喉笛を食いちぎった。
男は、まるで何が起きたかわかっていない驚愕の表情で、首から赤い鮮血を迸らせながら倒れこむ。
その光景を目の前にして……その後ろに立っていた男が武器をとっさに構えられたのは奇跡だっただろう。男たちは歴戦の戦士ではない、普段からひ弱そうな旅人を狙って襲っている只のチンピラだ。そんな戦闘慣れしていない男が、目の前の異常な光景を目にして、咄嗟に武器を構えられたのは奇跡。更には今度は貴様だと向かってきた女に向けて武器を振るえたのは、更に上位の奇跡だったろう。
振り下ろした刃は見事女の頭を捉え、女の頭を叩き割った。崩れ落ちる女。状況がまるで理解できないまま、とりあえず助かった、そう男が思った瞬間──
男の意識は闇の中に落ちた。