投げ銭
次々とコメントが増えだした。表示されている名前を見る限り、みんな常連だ。数十人くらいしかいないから、全員覚えてる。
しかし何の周知もしてない配信なのによく集まってくるな。昨日土曜日だから今日は大体みんな休みなんだと思うけど……いや、あまり掘り下げるのはやめよう。大事なリスナーさんだからね。
とりあえずコメントに目を通す。
『VRC配信の続きすんの?』
「いや、正直自分自身状況が分かってないんだわ」
『どゆこと?』
「なんというかVRCっぽいけど、いろいろおかしいんだよな。そもそもHMDつけてる感触もないし、アバター自身になってる感じがある」
そう答えると、コメントが止まった。反応に困ってるんだろうなーと思いつつこちらからする事もないのでしばらく待っていると、再びコメントが流れ出す。
『あー、そういう設定で配信すんの?』
「いや、設定じゃなくてマジでそうなってるんだよ。わけわからんと思うけど俺もわけわからん」
『そういやアバターがリアル調にちょっと寄っている気が……』
それは俺も思った。自分で作ったアバターのハズなのになんか違和感あるのよな。俺の性癖ぶっこんでるアバターだから可愛いのかはかわんないけど。
『え、マジ? 冗談じゃなく?』
「マジマジ中の大マジよ」
『HMDで操作しているってわけじゃなくてその姿になってんの?』
「うん。理由は聞くなよ、俺もわからんのだ」
『だったら口の中見せてよ』
口の中?
『VRCの機能だと、口の中で舌を自在に動かしたりはできないでしょ? だからそれが出来れば、半信半疑なりにカズサさんの話信じられるし』
成程、確かにな。
俺はカメラを手に取って顔に近づけると、口を大きく開いた。そして口の中で舌を上下左右に動かしてみる。
「ほうら?」
『エロい』
『あー、これはいけませんねぇ』
『朝からセンシティブ過ぎない?』
「お前ら……!」
一瞬配信切ってやろうかと思ったが、今はこいつらは重要な情報入手手段だ、踏みとどまる。
『まぁエロさはおいておいて信じる信じる』
『今の技術であの舌の動きをリアルタイムで操作はできないっしょ』
『少なくともVRCじゃ無理だな』
『で、結局どういうことだってばよ?』
それは俺が聞きたいんだっつーの。
いや本当になんなんだ今の状況。舌もそうだけど、全身が自分の思い通りに動く。それだけじゃない、触れた感触もあるのだ。ぶっちゃけ動きだけなら俺も知らない超高性能のモーションキャプチャーがあればいけるのかもしれないが、全身で感じるこの感触は無理だろう。
そう、全身に感触が……
……
「っつ」
『え、なんで突然胸揉んだの?』
『エロ配信開始ですか?』
「しねぇよ」
あー、でもマジ柔らかい。一応元のアバターも下着付けてたから今の俺も付けてるみたいだけど、下着の上からもまれるとこんな感触なんだな……
『いや揉み続けんなや』
『【200円】朝からいいもの見せてもらいました』
手で感じる感触から手を離せないでいると、コメント欄に色付きのメッセージが流れた。誰かがスーパーチャット──スパチャを投げてくれたらしい。てかこの絵面でスパチャ投げられたらマジでエロ配信やんけ。急速に冷静になって俺は胸から手を離す。
『あれ止めちゃうの?』
「エロ配信枠じゃないんでー。……ん?」
自分の体から意識を外してメニューを見直してみると、メニューの表示内容に変化が見えた。暗くなっていたアイコンが有効になっているのと、後下の方にある数字がなんか変わってる。さっきまで確か0だった気がするけど……140って数字になってる。
『どしたの?』
「なんかメニューの表示がちょっと変わった。ちょっと待って」