目が覚めたら青空
「んあ……?」
瞼の向こう側に光を感じて、意識が浮上する。
ゆっくりと目を開くと、そこには青空が広がっていた。
……青空?
両腕をついて、跳ね起きる。周囲を見回すと、そこは木々の生えた林の中だった。せせらぎの音がしているので、多分近くに川か何かある。
うん、それは解ったけど……
どこだ、ここ?
こんな場所は見たことがないし、何より何でこんな場所で寝ていたのか意味がわからない。
ええと、昨日は確か普通に家にいて、HMDをつけてVRCでの配信をしていたはず……そうだ。思い出した。それでなんか怪しいワールドにJOINしようとして……そこから先の記憶がない。
もしかして、理由はわからないが気を失ったのだろうか?
ただ気を失ったとしてもそこは自分の部屋のハズだ。だけど今俺の居場所は明らかに外。つけていたはずのHMDもどこにもない。
どういうことだと思いもう一度辺りを見回し──そこで一つの事に気づいた。
格好が見慣れた恰好である。ただし、普段の俺の恰好ではない。アバターの格好だ。
ということはまだVRCをプレイ中の状態なのか? だけど顔のあたりを触ってもHMDをつけている感触はない。というかコントローラーを持っている感じもないのに手が動く。なんだこれ?
とりあえず地面に座ったままの尻が冷たいので立ち上がる。そこで、俺は一つの違和感に気づいた。
腕だ。腕に元々の俺のアバターにはついていなかったはずの、腕時計のようなものがついている。
ようなもの、というだけで腕時計ではない。時間の表示がないので。というか何の表示もない。なんだこれ?
じろじろと見まわしてみると、側面にボタンが一つあった。これを押すと何か表示されるのだろうか? 何とはなしに押してみる。
「うおっ!?」
その瞬間、突然目の前に半透明の画面が広がった。いくつものアイコンが並んでいるメニューっぽい画面だ。VRCのメニューっぽいがちょっと違うな……後いくつかはアイコンの色が暗くなっている。
試しにその表示に指を近づけてみたが、暗くなっているところは何も反応がなかった。それならば、と暗くなっていないアイコンを指さすと……変化があった。
アイコンが並んでいる場所の下部分の何も表示されていなかった枠の部分に、日本語が表示されたのだ。そこに表示されているのは……カメラ?
試しに押してみると、目の前に見慣れたデザインのカメラが表示された。
「VRCのカメラじゃん……」
という事はやっぱり俺はVRCをプレイ中なのか?
とりあえずカメラを自分の方に向けるようにすると、カメラのディスプレイ部分に美少女が映った。……なんか、ちょっとデザインが変わっているような気がするが、間違いなく俺が使っている自作アバターだ。
うーん……自分の姿はこれでわかったけど、それ以外はなんもわからんな。
他には何もないかとメニューを確認すると、カメラの隣のボタンも有効になっているようだった。指を向けてみると"配信開始"と表示される。
配信……? VRC内部で配信開始する機能でもアップデートされたのか? と思いつつ押す。
するとメニューが縮小した。代わりにコメント欄らしきものが右側に表示される。……表示されたけど、それだけだな? どうなってんだろ?
何も表示されないコメント欄はおいておいて他のボタンにも指を向けてみるが、何の反応もない。行き詰まってしまい悩んでいると、コメント欄に反応があった。
『あれ、カズサさんゲリラ配信してんの?』
カズサ、というのは俺の配信者としての名前だ。ということはあわつべで配信が始まったのか?
「俺の姿見えてる? おーい?」
『ちゃんと見えてるよー。カズサさんボイチェン使ってるんだ? 珍しいね』
「ボイチェン?」
言われてようやく気付いた。明らかに自分の口から出る声が明らかに高い。
『違うの? 裏声?』
「違うというか、何というか……」
『おはよーカズサさん、昨日どうしたの? 心配したんだけど』
『こんな時間から配信とか珍しいね』