プロローグ
突然だが、俺は配信者である。
といっても、登録者10万以上だったり同時視聴者が1万を超えるような有名配信者ではない。むしろ零細という言葉が似合うだろう。
なにせ今の登録者数は600人ちょっと。その中でもアクティブなリスナーは極わずかで、同時視聴者数が3桁を超えたなど過去に一度もない。大体普段のリスナーは20~30人前後、少ない時は1桁の時もある。
ま、特に突出した所のない男の配信者なんてこんなもんでしょ。
配信内容も別段上手くもないゲームのだらだらプレイと、VRConnect……通称VRCと呼ばれるVRSNS内に構築されたワールド散策しつつ、紹介をだらだら流しているだけだからな。ある程度モデリングが出来るのでそこで使ってるアバターが自作のものってだけが特色かな?
ようするにあれだ、特に収益化を目指してない趣味配信者という奴である。一応俺が使用している配信プラットフォームOurTube(通称あわつべ)の収益化条件に関しては登録者500人や総再生時間などなんとか条件は達成しているので収益化はしているが、まぁ入ってくる収入は雀の涙だ。
だもんで、配信自体は気楽なもんである。今日はそんな中でも特に気楽なVRCぶらり配信だった。単純に新着ワールド一覧からよさげなワールドを見つけ、そこにJOIN(ワールドに入る事)してコメント欄のリスナーと雑談しながらそのワールド内をぶらつくだけである。
今日もすでにいくつかのワールドを巡り、次で最後にしようかと話しつつワールドを検索していると一つのワールドが目に入った。
「なんだこれ?」
ワールドのサムネは平原のような場所を映し出していた。まぁそれ自体は特に目立つところもなく普通。だがワールド名がない。
「ワールド名無しって設定できたっけ?」
『スペースか何か設定してんじゃない?』
俺のつぶやきに、コメント欄でリスナーがそう伝えてくる。成程、確かに。だけどそれ以外もちょっとおかしい。名前の欄もやはりブランクだし、キャプションの所は……なんだろこの文字? 英語でもアラビア語でもハングルでもない言葉で書かれている。
怪しさ満点のワールドだった……が。
「……覗いてみる?」
俺は、リスナーに聞いてみる。果たしてどんなワールドなのか興味が引かれたのだ。
『胡散臭すぎるし、やめておいた方が良くない?』
『おもしろそーだし行ってみようぜ』
『別段ヤバい事にはならないっしょ』
他にもいくつかのコメントが返って来たが、概ね賛成の意見だった。
「よし、じゃあ行ってみるわ」
コメントに思いっきり背中を押されたので、俺はワールドを開くとJOINボタンを押す。それだけでVRCではワールドが移動できるのだ。
これまでいたワールドの景色が視界から消え、淡い緑色に視界が染まる。ワールドロード中になる画面だ。さて容量はどれくらいだろ……?
「あれ、1kb?」
表示された容量はごく小さいものだった。VRCの通常のワールドサイズは大体50MB~200MB程度。多いものなら500MBを越す。そんな中たったの1KBである。
「こりゃサムネだけの釣りワールドかなぁ」
こんな容量じゃ、中身はほぼ何も存在しないだろう。大外れだったかと思いつつ、俺は読み込み終了により表示されたJOINボタンを改めておす。そして。
次の瞬間、俺の意識は闇に落ちた。