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冷たい肌  作者: OKUTO
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第五話 躾

いつもご訪問いただき、ありがとうございます。

本日は第五話「躾」をお届けします。


物語も折り返し地点。

どうか、この先の二人の行く末を最後まで見届けてください。

今にも泣き出しそうな、鈍色(にびいろ)の空。

かつて甘く希望に満ちた二人の暮らしは、空の色のように重く濁っていた。


「ハナコ!また皿を割ったな!」


怒声が調理場に響く。ハナコはしばらく動けなかった。

「皿を落としたのは、この手か」

掴んだ手の甲を、硬い木のヘラで何度も打ち据える。

罵声が続き、白い肌が赤く染まっていく。


「……っあぁ!痛い……許してタロウさん……」


大粒の涙が頬を伝う。その顔を見て、怒りに満ちた表情はやがて哀れみへと変わった。赤く腫れた手をさすり、落ち着かせると、タロウは乱暴に彼女を寝室へと連れていき、慰めるように身体を重ねた。


“躾”と称した折檻が繰り返される日々。

ハナコの心は、テーブルクロスにこぼれたワインのように、ゆっくりとしかし確実に(むしば)んでいく。

それでも彼女は逃げも抗いもせず、献身的にタロウを支えた。


やがて折檻の理由は、「もっと労え」「食事が遅い」といった小言から、「肖像画の目が気持ち悪い」「誰かに見られている気がする」といった、ハナコに関係のない事でさえ折檻をするための理由にした。

毎日繰り返されるその仕打ちは、まるで終わりのない拷問だった。


* * *


鼻にまとわりつく埃の匂いと、湿った空気が肌にまとわりつく──地下室。

かすかな灯りの中、麻縄で縛られ、裸のまま横たわるハナコ。

動くたび、白い肌に縄が食い込み、かすかな声が漏れる。


「……お願い、お願いします……許してください……」


泣きながら懇願する彼女を、タロウは冷たい視線で見下ろす。

無言で革製のベルトを外し、風を切るように振り下ろした。しなった革の乾いた音と同時に悲鳴が響く。


「っ……ぎゃあああああ!」


容姿に似つかわしくない獣のような雄叫びをあげるハナコ。

打たれるたびに汗が噴き出し、その肌に光沢という色気を(まと)わせる。タロウが気の済むまで続けられ、やがて彼女の視界は闇に沈んだ。


目を覚ますと、見慣れた寝室の天井。赤く滲む細い傷は包帯で覆われている。それを見て、ハナコは複雑な想いで涙をこぼした。


優しかった頃のタロウに思いを馳せ、

小棚の引き出しに忍ばせた擬甲の櫛を、そっと指先でなぞるたび、胸の奥が締めつけられる。


「……わたしは、タロウさんを愛しているのよ……そう誓ったもの……」


限界が近いことは、わかっていた。

そしてタロウもまた、漆黒の闇へと堕ちていく感覚に、快楽を覚えていた。

昔のようには戻れない──その事実だけが、二人の間に静かに棲みついていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


物語はさらに重く、息苦しい陰鬱な空気へと沈み込んでいきます。

二人が辿り着くのは、破滅なのか──それとも…。


次回【第六話 偽り】は、【8月15日(金)18時頃】に投稿予定です。

引き続き、見守っていただけたら嬉しいです。


※この作品は、第9回アース・スターノベル大賞応募作品です。

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